1、別に望んじゃいない
あなたは選ばれました。
目の前の光からそんな言葉が聞こえてくる。
あなたはこれから新たな世界へと赴き――
世界の平和のために尽力することになるでしょう。
それでは死して歩むことの出来なかったその先に――
良き出会いと少しばかりの幸運を。
我らの祝福が願わくば共にあらんことを――。
目の前の光がその眩さを増していく。
だがそんなことはどうでも良い。
自身にはこの場で言わなければならないことがある。
だが声などどうやって出せばいいのかまるで分からないまま――「いやだよ」という言葉は最後まで発現することはなく――次の瞬間には見知らぬ者達と共に見知らぬ建物の中で立ち尽くしていた。
「……来たか。お前が最後だ。さっさと選べ」
いきなり目の前の者は何かが入った袋をこちらへと手渡すと、続けざまに武器と幾許かの支給品と呼ばれるそれらをいくつか選ぶように言った。
正直何が何やらまるで理解などしていないが、既に受け取り済みであろう者たちからの視線に後押しされる形でスコップと特に選ぶ事も無いままに支給品を袋の中へ放り込んでいく。
「よし。では下がれ」
言われて、周囲の者達が既に居るラインにまで下がると何やら全員に向けての話が始まった。
「お前たちは一度死んだ。だがこうしてここに存在している。それは何故か。この世界の平和という均衡を保ち、またそれに連なる者たちを守るためだ。――戦え。そして魔王を倒せ」
聞いていても良く分からないが何となくまた戦わなければならないであろうことだけは分かった。
その後も話は続いたが話半分、面倒くさくなってその場で横になる。
そう言えば食料があったなと思い出し、そそくさと食べ、水筒の中身を以てして喉を潤す。
自身の記憶に置いては久しぶりのご飯。
美味いとか不味いとかそんなことはどうでも良く、ただ腹が膨れたことに満足した。
「後ろの扉の向こうには馬車が用意してある。行先はモンスターの住処である森だ。死にたくなければ仲間を見つけてパーティーを組め。そうして準備が出来たものから行くと良い。お前等の武運を祈る」
そう言い終えると目の前に広がっていた武器や支給品と呼ばれる諸々と共に音も無く消えた。
辺りには静寂と蝋燭によるとてもじゃないが明るいとは言えない暗さが残るだけだ。
さて……どうするか。
そう考えても最早死んだ身である以上、生きるという事に対してそこまでの執着というものも無い。
腹は膨れた、喉も潤った。
ならばすることは一つ。
寝よう。
そう思い切った決断をしてはちょうどいいと荷物を枕に瞼を閉じた。
目が覚めたとき、誰もいなくてもいい。
いや、誰もいないほうがいい。
そうすれば下手に生きることもなく人生を終えられるだろう。
願わくばこのまま眠り続けたい――
性懲りもなくそう思った。