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紅い惑星  作者: 姫野里佳
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4 赤い大地 〜 5 ファースト・コンタクト


探査船の打ち上げは何の問題もなく無事に終わり、宇宙ステーションへのドッキングも無事に成功した。

エドワードとヘンリーは宇宙ステーションに残り、そのままフロル達のバックアップを担当する。

そして打ち上げから半年を経て、プロジェクトチームはついに、念願の火星へ降り立つことに成功したのである。

赤い星、火星は赤茶色の大地と、赤い空が広がる惑星だった。

全く大気を持たない水星とは違い、薄いながらも大気を有する火星は、古くから地球の兄弟星とも呼ばれ、その探査には多大な期待が寄せられていた。


プロジェクトチームは衛星の軌道に入り、その軌道を何周かした後に、予定通り砂嵐の収まった穏やかな気候の今を選び、着陸を決行した。


大ヘラス盆地と名づけられた、火星の南半球に位置する、深さ6㎞、直径2000㎞の衝突クレーターが、今回の着陸地点である。

ヘラス盆地は標高マイナス8000mの低地で、高温期の夏でも、大気中の95%を占める二酸化炭素が、その高度差による大気圧と、低地のために上昇しにくい気温とにより、霜となる場所であった。

火星にも地球と同じように、自転軸の傾斜が見られるために四季が存在し、季節によって気温が変化する。夏には、大極冠で氷となっていた二酸化炭素が溶けだし、その影響で気圧がめまぐるしく変動する火星。そのために気圧による高度計での着陸は無意味であり、このことがまだ解明されていなかった過去には、何度も無人探査機を失うという苦渋をなめる結果となっていたのである。

高度計の改良が進み、着陸そのものの危険性は安心できるレベルまでになっていた。とはいえ、このヘラス盆地は調査が難しく、有人でなければ着陸もかなりの困難を極める場所でもあった。

しかも、大規模な砂嵐はこのヘラス盆地から発生することが多く、今回の調査はかなりの危険をはらんでいると予想されていた。

今、火星の季節は冬が終わり、春へ向かうところであった。

砂嵐の発生は圧倒的に夏に多い。そのため夏が来る前には調査を終え、帰還しなければならなかった。

今回の調査にあたる期間が極めて短いのはそのためで、着陸地点と季節的なものの関係との影響が極めて大きかったからである。


北半球と南半球では、全くその様相が異なるユニークな地形を持つ火星。地質学者であるフロルにとっても、大変興味深い大地に他ならなかった。

地表面が比較的新しく、変化に富む北半球と、古い地表面とクレーターばかりが目立つ南半球。同じ惑星で、これだけの変化を見せる星は太陽系では火星が随一であり、その謎もまだほとんど解明されてはいなかった。


今回の有人調査の主な目的は、フロルの父ルナ博士の悲願でもあった、将来の火星移住計画に先立つ、有人基地の建設可能な地域をピックアップすることであった。

そのほかにヘラス盆地よりも更に深いところの地殻の調査、そして人間が生活するために必要な要素を人工的に作り出し、環境を整えるためには、何が必要かも調べる目的もあった。


「とうとう来ちゃいましたね~!」

探査船のコントロール室内で、着陸の緊張も解けきったラスがはしゃいでいる。

「こらっ遊んでないでお前も仕事しろ!」

エンジニア達は探査用のロボの最終チェックでおおわらわとなっている。ちょろちょろしているラスは邪魔者扱いされていた。

「ラス、こっちのコンソールパネルでラスの持ってるデータを使えるように入力しといて。」

フロルはラスに指示を与える。

教授もエリオットも機器のチェックで、ばたばたしていた。

「ラス、遊ぶのは後だぞ!やることやってからにしろ。」

エリオットにもクギを刺され、仕方なく仕事に取り掛かるラス。

「…みんな子ども扱いして~僕だってちゃんと役に立ってるっていうのに~」

ラスが浮き足立つ気持ちはクルー全員が感じていることであった。だが、何が起こるかわからない未開の地では気を引き締めなければいけないことも、また事実であった。

そして、何が起こるかわからないという予感めいたものは、やがて現実となって彼らに降りかかって来ることとなった。


科学者達は、赤い大地に降り立つとまず、無人の探査用ロボットを地表に降ろし、観測を始めた。

だがどうしたことか、次々に探査ロボットは異常をきたし、修理をしようにも全くの回収不能となってしまったのである。

そして、調査そのものも続行できなくなったのである。


探査船のコントロール室内、コンソールパネルの前に、立体ホログラムが立ち上げられている。

そのホログラムは火星の地形と、望みをかけた最後の探査ロボットがいる位置の座標を指し示していた。

地形は白をベースに陰影が起伏を表し、赤い点と数値で探査ロボットの位置や向きなどを表示していた。

「!まただわ。」

探査ロボットを表す赤い点が、点滅する。制御不能に陥ったのだ。

機能停止を示すアラームが鳴り響く。

フロルは探査ロボットの詳細な位置を確認するために、ホログラムに表示されているタッチパネルを操作する。

「…前回と同じ場所ね。教授、これは一体…あ、反応が…!」

そのとき探査ロボットの位置を示すランプがフッと消えた。同時に鳴り響いていたアラームも停止する。

しんと静まりかえる探査船のコントロール室。

コンソールに向かっているフロルの背後から、他のメンバーもホログラムが指し示すデータを読み取り、がっくりとみな肩を落とす。

「くそっ!なんでなんだ?」

エリオットは苛立ちを隠しきれずに、拳を自分の手のひらで受ける。

エリオットが苛立つのも無理はない。3機あったロボットの3機ともが、全く同じ地点で消息を絶っているのである。

「これが最後の探査ロボなのに…」

ラスも困惑を隠せない。

「仕方があるまい。こうなれば実際に降りて、現場を見に行くしかないな…」

教授もため息をついて、データに見入っていた。 


こうして、その原因を調べるべくエンジニアが地表へと降りて行った。


…そして、彼らも次々と消息を絶ってしまったのである。しかも驚くべきことに、彼らが消息を絶った地点でほんのわずかな時間だが、彼ら以外の生体反応が確認されたのである。

火星で、自分達以外の生体反応を発見できるとは夢にも思っていなかった科学者達は色めきたった。

なかでも教授の興奮ぶりは大変なものであった。

だが、今何よりも優先させなければならないのは、消息を絶ってしまったエンジニア二人の安否の確認であった。

科学者達は宇宙ステーションとの緊急会議を開き、行方不明者の捜索と今後の調査について話し合っていた。

[その何者かによって拉致されたと考えるのが妥当だろうな]

と少しの間を置いて、宇宙ステーション側のエドワード。

 膨大な距離を隔てているため、若干の時差が生じているのである。

 さらに火星の磁気による影響で、映像と音声にかなりのノイズが入る。パネルに映しだされたエドワードとヘンリーの姿は、時折大きくぶれたりして見づらいものであった。

[殺害の可能性も…]

ヘンリーに至ってはもうすでに絶望視してしまっていた。

ステーション側は捜索には消極的で、これ以上探査以外のことで時間を費やすことを歓迎しない意見が主流を占めていた。

それでなくても今回の探査は期間が短いのだ。ステーション側の科学者達の意見ももっともであった。

だがフロルには納得できなかった。共に地上での訓練を受け、ここまでやってきた彼らをそう簡単に見捨てることなど、できはしなかったのである。

「ヘンリー!エドワードも!一体何に拉致されたって言うの?何がいるって言うのよ?教授。我々も今すぐ現地へ行くべきです。ここで話し合ってても、なんの解決にもならない!」

フロルは二人のエンジニアが、もうダメなのだと言外に言ってのけるヘンリーとエドワードに、メインパネル越しに食ってかかった。放っておいたらステーション側の科学者が映し出されているメインパネルに噛み付きそうな勢いである。

「おちつけ。フロル。ヘンリーもだ。まだ諦めるのは早い。私が現場を見てこよう。」

教授は興奮するフロルの両肩に手を置くと、なだめるように柔らかい声音で言った。

「だめ!教授はこのプロジェクトの責任者なんだから。私が行きます!」

フロルは語気を荒げて、教授に詰め寄る。

「じゃあ僕も!」

ラスも、はいはいと手を上げる。

[お前は単に外に出たいだけだろーが!]

遠く宇宙ステーションからエドワードにつっ込まれ、ラスは一瞬しゅんとする。

「でもっ僕、役に立つ自信あります!」

[また根拠のない自信を…]

ヘンリーは苦笑いをして、わがままを言う子供を見るような暖かい目でラスを見ている。

「…バギーは一人乗りだ。俺が行きます」

それまで一言も発せずにことの成り行きを見守っていたエリオットが口を開いた。

「……」

フロルは無言でエリオットを見つめる。

エリオットはフロルを見ない。出発前にケンカしてから、二人は必要な事以外、ほとんど口をきいていなかった。

“エリオット…?なにを考えてるの…?”

教授はエリオットを一度は止めたが、エリオットの決意は固く、とうとう彼が降りることに決定してしまった。

会議は終了し、通信も絶たれる。

「私も…っ」

フロルは尚も食い下がろうとしていた。

「フロルは来るな。俺との約束、忘れてないよな?」

エリオットに制され、教授にも他のメンバーにも止められたフロルは、どうすることもできず、ただエリオットが地上へ下りるための準備を手伝うことしかかできなかった。


「…なんて顔してんだよ。」

エリオットは白い宇宙服を着て、エアロックにいる。フロルもエアロックでエリオットが地上で使う機器のチェックをしていた。

「だって…」

フロルは泣きそうな声で、唇をかむ。

エアロックは大人二人が入ると、かなり狭いスペースである。そこで宇宙服を着込めばなおさら狭い。

エリオットは宇宙服のごついグローブでフロルの頭をぐりぐりと混ぜ返す。

「もうっ!髪がくしゃくしゃになるでしょっ?」

エリオットは反撃に出ようとしたフロルを、宇宙服越しにふわりと抱きしめる。

「そうやって笑ってろ。俺は絶対に大丈夫だから。…俺はお前を置いていなくなったりしない。絶対にだ。」

そういって笑うエリオットが、在りし日の父に重なる。

“パパなら大丈夫だ。行ってくるよ、フロル。”

水色の瞳に涙をいっぱいにして、フロルは頷く。

機器のチェックが終わったヘルメットとトランク型の装備を手渡すと、フロルはエリオットを残してエアロックから出た。



「約束…したよ。必ず帰ってきて…」

エアロックの外で、フロルは一人つぶやいた。



5 ファースト・コンタクト


エンジニアの二人が消息を絶った地点までは、四輪のバギーを使って20分ほどの距離だった。

そこには無残に破壊された調査ロボットの残骸がばらばらに散らばり、さすがのエリオットもゾッとするほどであった。

一瞬、二人の無残な姿を想像したが、エンジニアの二人の痕跡は、どこをどう捜しても見つからなかった。

「―どういうことだ?」

エリオットは周囲を丹念に調べてまわる。が、やはりそれらしい痕跡はどうやっても発見することができなかった。

「こちらエリオット。そちらで何か反応は見つかりましたか?」

エリオットは探査船に通信を入れた。


「こちらメイヤーだ。君以外の生態反応は検知できない。映像は送れそうか?」

火星は大気が薄い分、太陽風の影響をもろに受ける。磁気嵐は日常茶飯事であった。

「いえ…電波の状態から見ても音声での通信が精一杯ですね。こちらで確認できているのは機械の残骸だけです。滅茶苦茶に壊れてますね。」

そのときだった。

「―!」

エリオットは遠い地平線に、白く揺らめく影を見た。陽炎のような白い影は、空も大地も赤いこの世界において、そこだけ切り取られたように白く異質な輝きを放っていた。

そのときフロルも、エリオットから500mほど離れた地点にある生体反応らしき点滅を、探査船の計器から読み取っていた。

「教授!」

「教授!」

二人は同時に叫んでいた。

そして一方のエリオットの反応だけが忽然と消えてしまった。


「エリオット!」

フロルはエリオットが画面上から姿を消したことに気づき、悲鳴のような声をあげた。 

同時に席を立とうと腰を浮かせる。

「だめだよ、フロル。」

ラスも異変に気づいて、とっさにフロルを止める。

「でもっエリオットが!」

ラスが怖い顔をして、今にも駆け出しそうなフロルの肩に手を置いていた。教授もフロルを見ている。

「無茶をしようとしてるね。」

教授はとても切ない表情を浮かべてフロルにそう言った。

「行かせて!私をあそこへ!エリオットを助けなきゃ!」

ラスの手を振り払い、立ち上がるとフロルの眼にみるみる涙が浮かぶ。

「フロル…彼が乗っていったバギーが最後の一台なんだよ。彼が消息を絶った以上、一旦は計画を切り上げて、宇宙ステーションへ帰還しないと…我々まで全滅してしまいかねないんだ。このことを地球とステーションへ知らせなければならない。我々にはその義務があるんだよ…」

フロルの肩にそっと手を置き、教授は言葉を詰まらせながら続けた。

「すまない…フロル…わかってくれ…」

「わかりません。それなら私をここに置いて行ってください。」

フロルはあふれる涙を拭おうともせず、教授をまっすぐに見つめて言った。

「フロル?一体何を…」

「彼を置いて帰るなんて私にはできません彼は約束してくれました。絶対に私を置いていなくなったりはしないと。」

両方の拳をぎゅっと握り締め、コンソールパネルに映し出された彼が消えた地点を、食い入るように見つめるフロル。

「フロル…」

教授は決意の固さが窺い知れるフロルの瞳に押され、言葉を続けることができなくなってしまっていた。

「フロル…気持ちはわかるけど、エリオットは消えたんだ。彼を捜すにはそれなりの装備が必要なんだよ。今、ここで君が無茶をしたらもう彼を捜せなくなる。ここは地球じゃないんだから、ムリは絶対に禁物なの、知ってるだろ?」

ラスにさとされ、フロルは返す言葉が見つからずに黙り込む。

“ひとつだけ約束してくれ。…絶対に無理はするな”

エリオットとの約束が脳裏に浮かぶ。


「…少し休んだほうがいいかもしれないね。宇宙ステーションから、必要な物を探してもらう手筈は僕がやっておくから。送ってもらうか取りに行くかは、どちらが早いかコンピュータで計算しないと分からない。それまで若干時間はかかるだろうから、それまでフロルは休んでだほうがいいよ。」

ラスはそう言うと教授を見る。

「そうだな。探査ロボットの交信不能からこっち、ろくに寝てないだろう?ラスの言うとおり、少し休もう。何かいいアイデアが浮かぶかもしれないしな。」

教授もそう言うと、フロルを見る。

「…わかりました。」

フロルはしぶしぶ、教授に従うそぶりを見せた。

浅い眠りを繰り返して、そして起きあがる。

誰もいない隙を見計らって、そっと白い宇宙服を着込み、エアロックを解除する。


赤い大地は、何事もなかったかのように静まり返っていた。

火星はちょうど夜を迎えていた。

断熱効果の高い宇宙服をもってしても、浸透してくる寒さはフロルを震えさせた。だが震えている場合ではなかった。

“彼を捜さなければ”

このとき、フロルの頭にはもうそのことしかなかった。


辺りは墨を流したような真闇で、火星の月、フォボスとダイモスだけが輝いていた。

音のない闇…闇は赤い大地を覆うように広がっている。

 それなのに、その中に異質な輝き。

 それは闇一色の世界で、見るはずのない光だった。

 その光、白銀の影がフロルの視界を一瞬遮り、後方へと流れた。

 「―えっ?」

 フロルは後ろを振り返った。

 そこには三歩の距離をおいて、黒いフード付きので全身を覆った、長身の人物が立っていた。頭からすっぽりと被ったフードからは、見事なプラチナブロンドがこぼれて、フロルの目には白銀の影に見えたのだ。

 “嘘…!さっきまでは誰も、何もいなかったのに…!”

 フロルは突然現れた銀色の影に、驚きのあまり声も出せなかった。


 だがそれは、本当に異様な光景であった。

 紫外線や有害な宇宙線が降り注ぐ火星で、片や完全防備の宇宙服のフロル、片やフードが付いているとはいえ、身を守るのは外套のみの謎の人物。

どうして立っていられるのか、そんな姿でこの地表にいられるはずがないというのに、その人物は当然のようにそこに立ち、じっとフロルを見つめていた。

そしてその人物は、男の声で静かに言った。

「…とうとう来てしまったね。ユーラシア…見つけたよ。」

美しい笑みだった。だがその笑みに反してその声はとても切なくフロルの心に響いた。

薄い大気の中、この状況で声など聞こえるはずもないというのに。

そして、フロルはその声を聞いた直後、意識を失ってしまった。


目がさめた時、フロルは宇宙服を脱がされ、代わりに水色の、神話で見たような一枚布のドレスを着せられて、鉄格子のはめられた小さな部屋にいた。腰にはドレスと同じ生地でできた、水色のひも状の布が、ベルトのように巻かれていた。

 毛布のような物が一枚かけられているだけで床に転がされていた為、体のあちこちが痛む。

「ここ…どこ?それに…」

フロルは一人つぶやく。自分に着せられた見馴れない服を摘み上げてみる。

続いて辺りを見まわす。

部屋には窓は無い。三方を壁に囲まれ、廊下側の壁一面が鉄格子でできており、鉄格子側に面した廊下の照明が光をもたらしているだけである。

そして壁も床も、石でも金属でもない何か滑らかな物質で造られているようであった。

部屋の壁の色は落ち着いたブルーグレーで、廊下は暖かな色味のベージュであった。不思議なことに、その物質が何かは地質学者のフロルにも分からなかった。

「気がついたようだね。」

唐突に空から声が降る。見上げると、鉄格子の外にさっきの男が立っていた。黒い外套はもう着ていないが、そのプラチナブロンドは見間違えようがなかった。

ゆるやかにうねるプラチナブロンドは男の腰の辺りまであり、ピタリと肌に沿うシャツに、長衣のような白い衣を合わせた服を着ていた。その姿はまるで、子供の頃に見たギリシア神話に出てくる神のようであった。

そして、さっきは外套に覆われてみることができなかったが、彼は息を呑むほどに美しい青年だった。

銀の髪とは対照的な、翡翠のような深い深いビリジアンの瞳。端整な顔立ちでいながら、冷たさを感じさせないのは、その身にまとう不思議な雰囲気のせいだろうか。

フロルはしばらくぼんやりと彼に見とれていたが、はっと我に返ると一気にまくし立てた。

「ここはどこ?あなた何者?私をどうするつもり?」

こういうシチュエーションでは強気に出たほうがいい、というのがフロルの持論だった。

その瞬間、風が起こり、フロルの頬を打った。

「いっつ…」

フロルの頬に鈍い痛みが走る。触れると、うっすらと血がにじんでいた。

「我が一族の中でも、最も帝に近いになんという口をきく?この女、無礼にもほどがある!」

そう言ったのは、青年の後ろに控えていた赤い長衣のようなドレスを着た少女だった。  

髪は緋色で瞳もドレスと同じ紅い瞳。

美しいが気の強そうな少女であった。

フロルは負けじと彼女を睨み据える。更にもう一撃をお見舞いしようかという顔をして、赤いドレスの少女がフロルを睨み返す。

「やめないか。。…ユーラシア様のお召し替えを頼んだはずだが、このような部屋にお留めせよとは言っていないぞ。」

白蘭と呼ばれた青年が少女をたしなめるが、紅蘭と呼ばれた少女はそっぽを向いている。

そして彼は紅蘭を一瞥すると、無言で鉄格子に手をかざした。

すると扉とおぼしき所にあった鍵は、蛇に姿を変え、すうっと空気に溶けるように消えた。

鉄格子の扉を開けて、白蘭はフロルがいる部屋の中へ入ってきた。

「手荒な真似をしてすまなかった。」

哀しげに目を伏せると、そう言ってフロルの頬に手を当てる。

「!」

一瞬、身を固くするフロル。だが、その表情が驚きへと変わった。

「…え?」

彼の手が触れたところがゆっくりと温かくなり、すうっと痛みが引いた。その途端、傷がうそのように消えたのだ。

「これでもう大丈夫だよ。」

彼が眼を伏せたままそう言うと、フロルはすぐに自分の頬に触れてみた。驚くべきことに傷どころか、血の後さえも無かったのである。


「…さっきの鍵といい、傷を消したことといい、どう言うことなの?あなた達はいったい…?」

「私は。こちらが。突然の無礼とこの待遇をお許し下さい。我らが女神ユーラシア。我が一族は、あなたの降臨を待ちわびておりました。」

そう言うと白蘭はほとんど表情を動かさず、深々と頭を下げた。紅蘭も仕方なく白蘭にならい、その場にひざまずいて頭を下げている。

「ユーラシア?誰のことを言ってるの?」

フロルには何のことだかさっぱり分からない。

「あなたです。」

白蘭はそのことが当然のように、きっぱりとフロルを見据えて言ってのけた。

「!」

フロルはビックリして眼をまん丸にすると、一呼吸置く。そして、目の前にいる妙なことを言う人物に、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を切りながら続けた。

「私はフロルよ。フローレンス・ルナ。そんな大陸みたいな名前じゃないわ。」

「白蘭。ほんとにこの女、ユーラシアさまの化身なの?確かにフィルそっくりだけど…私には信じられない。」

紅蘭はあきれたようにそう言うと、くるりと背を向け部屋から出ていってしまった。

フロルは白蘭と二人、部屋に取り残される。

「誰かと勘違いしてない?それに私は地球から来た人間なの。ここから時々見えるでしょ?あの隣の青い星よ。ねぇ、あなたはここに住んでるの?ずっと前から?」

フロルは矢継ぎ早に、思いつく限りの質問を彼に浴びせる。

 「勘違いであるはずが無い。あなたはユーラシアの化身、女神の再来だ。」

 フロルの問いには答えず、彼はやはり無表情に、だがきっぱりと言い放った。

 「再来って…まるで会ったことあるみたいに言うのね。」

 フロルがそう言うと、白蘭はまるで心が絞めつけられるような悲しい笑みを浮かべた。

 「―わかりました。ではフロル?」

 彼はやはりフロルの問には答えず、なぜか急に彼女の名を呼んだ。

 「はい。」

 思わずフロルは返事をしてしまっていた。

 「あなたに会っていただきたい人物がいます。我々一族の長であり、帝でもあるに会っていただきたいのです。」

 「ユウ…ギリ?」

 「です。文字で書くとこうなります」

 白蘭はフロルの手を取り、手のひらに指で文字を書いて見せた。

 「漢字…に、似てるわ…」

 「そうですね。恐らくは同じでしょう。私の名はこう書きます。」

 白蘭は続けて自分の名を書いた。

 「…?」

 「白い蘭という意味です。ビャクランと読みます。」

 「みんな変わった名前ね…」

 「我々一族の中でも、文字に意味を持たせた名を持つのは、ごく限られた者になりますがね。夕霧も帝になられる前は、違う名をお持ちでした。そう…とても美しい名前でした…」

 そうつぶやくように言う白蘭は、やはりなぜか淋しそうで…

 フロルはただその横顔を、ぼんやり見つめていた。

 「フロル?」

 「あ…っごめんなさい。あなた、あんまり淋しそうな顔してるから、つい…」

 「私が…淋しそう?」

 白蘭はフロルの言葉に、意外な言葉を聞いたとでも言いたそうに、小首をかしげる。

 「ええ。とても。」

 「……」

 白蘭はフロルの手を取ったまま、無言で立ちあがる。フロルも彼の手を借りて、立ちあがった。少し足元がふらつく。

 「ゆっくりでいいですよ。気をつけて。」

 白蘭はフロルにそう言うと、初めてほんの少しだけ笑った。そして彼女の手を引いて歩き出した。


 “不思議な人…こんなに感情を表に出さない人って初めて…だけど、どうしてかしら…?だからといって酷薄なふうでもない…むしろなんだか…そう…切ない感じ…”


 フロルはこのとき、自分の手を引いて前を歩く銀髪の青年に対して、そんな感情を抱いていた。


 彼はフロルと共に、長い廊下を歩いて行く。窓はやはりどこにも無いが、灯りは充分にあった。

 電灯らしいものは見当たらないが、天井部分に長さ30cm、幅15cmほどのプレート状の発光体が二列、レールのように平行に取り付けられていて、柔らかな明かりを放っていた。

 どちらかといえば、青味の勝った明かりで、白蘭の銀色の髪は時折ブルーがかって見える。

 そのとき唐突にフロルの頭に『?』が浮かんだ。そして、どうしても聞かずにはいられなかった。

 「―ねぇ。あなた、火星人なの?」

 白蘭は振り帰り、目をまん丸にすると、くすりと笑った。

 「ここはどこだと思います?」

 逆に質問されて、フロルは一瞬たじろいだ。だが、学者魂も手伝って思いつく限りの持論を彼にぶちまけた。

 

 「そうね。ここは火星よね。今までの観測データや、火星の気候、大気の状態から考えても地表にこれだけの施設を、観測衛星に発見もされずに作るのは無理だわ。だから今、私は火星の地下にいると思ってるの。どう?当たってる?」

 挑むように一息で言い終わると、フロルは得意げに胸を張る。

 そんな彼女を、微妙な笑みを浮かべて見つめている白蘭。

 「―そう。当たってますよ。この星は一歩外へ出れば死の星だ。だから、ここは地下です。それもかなりの深さのね。あなたがた普通の人間には表へ出ることは不可能でしょう。」

 白蘭がさらりと言ってのけた言葉の中に、フロルは何か引っかかりを覚え、思わず立ち止まる。そして、すぐにそれが何なのか思い当たった。

 「待って。今、あなたがた…って?ここに私のほかにも誰かいるの? まさか…?」

 立ち止まってしまったフロルに気づき、白蘭も立ち止まり、振り返る。

 「そう。あなたのお仲間ですよ。」

 フロルのまさかの問いに、当然と言うようにあっさりと答える白蘭。

 「―じゃあ、探査用のロボットを壊したのは?あなた達のうちの誰かってワケ?」

 フロルの声のトーンがすうっと低くなる。

 「あれは…すみません。たまたま夕霧の機嫌が悪い時に地表をウロウロしていたので…」

 白蘭は悪びれた様子もなく、ただ詫びた。

 「機嫌?夕霧って人は機嫌の良い悪いでそーゆーことする人なの?…まさか私の仲間も…?」

 更にフロルの声のトーンが下がる。

 「お仲間には危害は加えてません。全員無事でいらっしゃいます。」

 怒りのバロメータが、加速度的に上昇しているフロルを尻目に、白蘭はごく事務的に更に引っかかる言葉を告げた。

 「ちょっと待って。―全員って…いったい何人ここに連れてきてるの?」

 フロルは思わず立ち止まる。

 「全員ですよ。あなたを除いて5名。」

 白蘭も立ち止まり、フロルを無表情に振り返る。

 「全員って…数は合ってるわね。でもどうして?探査船の中にいた人間まで捕らえないといけないの?彼らは火星の地表には降りてもいないのに!」

 そう叫ぶフロルは、怒りからか、表から血の気が引いている。

 「あの青い星へ戻ってもらっては困るからです。我々の存在を知られてはまずいですからね。」

 白蘭はかまわず再び前を向き、歩き出した。

 「ちょっ…待ってよ!」

フロルもほうって行かれては困るため、仕方なく後に続く。だがまだ話は終わってない。前を歩く彼に更に言い募るフロル。

 「私達をどうするつもりなの?」

 すると突然白蘭は立ち止まった。

 「?何?どうしたの?」

 そのとき二人は、豪奢なつくりの大きな一枚ドアの前まで来ていた。

 ドアには二匹のドラゴンの紋様が描かれ、躍動する水もレリーフとして見事に掘り込まれていた。ドラゴンは水竜のようであった。

 白蘭はドアの横につけられたドラゴンの彫刻の顔の部分に手をかざした。

 ドアは音も無く、横へスライドして開いた。

 「それはあなた次第です。さあこちらへ」

 白蘭はフロルを中へと促す。

 その部屋は天井が高く、そして色とりどりのたくさんの布が天井からふわりと掛けられている。部屋の奥行きはその布のせいでまったく分からないが、かなりの広さがあることだけは伺い知れた。

 美しい布のドレープがドレスのように幾重にも重なり、古代史で見たどこかの宮殿の王の間のようで、それだけでもこの部屋の主の位の高さが伺えた。

 そして部屋を進み、大きなクッションのような、椅子のようなゆったりとした布地に身を静めた、小柄な人物が目に写った。

 「来たね。ユーラシア。」

 その声は変声期を迎えるかというくらいの少年の声だった。

 その声の主は、布地の海から立ちあがると、微笑した。

 「?」

 フロルは猛烈な違和感にとらわれた。

 長く伸ばしたまっすぐな髪は目が醒めるようなビリジアン。その髪を、古代の日本の神話で見た巫女のように、前髪だけを後ろへ結い上げている。

 額には目を模した刺青が施されていて、その下にある二つの瞳はフロルと同じ水色をしていた。

 そして何より異質だったのは、その外見にそぐわない雰囲気であった。

 外見は、姿はどうあれ15、6歳の少年に見えた。それなのに、その表情やしぐさは成熟した大人を連想させる。

 妙にちぐはぐな雰囲気を持つ少年であった。

 

 「私は。であり、一族のだ。…もっとも帝国と呼べたのはもう昔のことだから、帝というのもおかしな話かもしれないね。私のことは夕霧と呼ぶがいい。」

 ゆったりとした動作で、大きな布張りのソファのような椅子に座る夕霧。布地の海に見えるその椅子は、三人がけほどの大きさはあるが、それはどうやら彼専用の、一人がけのソファのようであった。

 「じゃあ訊くわ。夕霧?私の仲間と私を一体どうするつもりなの?」

 フロルはここで睨みを利かせるつもりで、精一杯凄んで見せた。

 「―君次第だよ。ユーラシア。」

 夕霧はフロルの視線に、構うそぶりも見せずに、余裕の笑みを浮かべている。

 「…どういう意味?」

 少年らしさの無い夕霧のそぶりに、薄ら寒いものを感じて、フロルはひるみそうになる心を叱咤する。

 「君がここに留まるのなら、彼らを帰してやってもいい、という意味だ。」

 「私が?ここに?」

 「もちろん、我々のことは口外できないように忘れてもらうけどね。」

 夕霧は白蘭を見る。それが合図のように今までそこで膝を折り、控えていた白蘭が立ちあがる。一礼するとそのまま部屋を辞してしまった。

 「白蘭?」

 フロルは不安そうに後ろを振り返る。

 「心配ないよ。彼なら部屋の外で控えてる。

さて、話の続きだが、君にはここに残ってやってもらいたいことがあるんだよ。」

 「私に?私に何をやれっていうの?」

 「私の妃を、ね…」

 余裕の笑みはそのままに、夕霧は言う。

 その言葉を全部聞き終らないうちに、フロルはたまらず彼の言葉を遮った。

 「ば…っばっかじゃないの?あなた、私の何を知ってるの?今初めて会ったのよ?その初対面の相手にプロポーズ?信じらんない。おかしいんじゃないの?」

 フロルは驚きのあまり、自分の置かれた状況をすっかり忘れてわめきたててしまった。

 だがそんな様子のフロルを、怒るでもなく、柔らかな笑みを浮かべて見つめている夕霧。

 「―私は君を知ってるよ。ずーっと前からね。」

 そう言って静かに笑む夕霧は、やはりフロルにとっては不気味なものにしか映らなかった。

 「じょっ冗談じゃないわよ!なんで私があんたなんかと!」

 背筋に寒いものを感じて、数歩後ずさるフロル。

 「いいだろう。では、君の仲間の命はないということになるよ。」

 このときを待っていたように、満面の笑みでヒヤリと言い放つ夕霧。

 「!」

 フロルは思わず絶句していた。夕霧の切り札に反抗する術を、今の彼女は何も持ってはいなかったのだ。

 「そうだよ。君には、いや君達には選択肢はないんだ。君には私の妃となるしか道はないんだよ。」

 大人びた笑みで、フロルを追い詰めようとする夕霧。

 「そんな…!」

 フロルの表情におびえの色が浮かぶ。

 「そんなに悲観することもあるまい?私はずっと君だけを待っていたんだ。悪いようにはしないよ。大切にすると約束する。君がうんと言えば、君の仲間は何事も無く故郷へ帰れるんだ。あの青い星へね。」

 「―待って。どうして青い星って知ってるの?私はまだ白蘭にしか言ってないのに。どうして?」

 青い星と言うキーワードが、怯えにより止まりかけていたフロルの思考を揺り起こす。

 「我々も、元はあの星にいたからだよ。我々にとってもあの青い星は故郷だ。」

 いつのまにか夕霧の表情から笑みが消えていた。彼もまた、あの青い星を故郷と呼んでいるのだ。

 「私達と同じ…?地球人…なの?」

 フロルは驚きを隠せない。

 「…そうだ。」

 頷く夕霧からは感情は読み取れない。

 「…教えて。どうして地球を離れたの?それはいつ頃のことなの?あなた達は一体…?」

 フロルはさっきまでの怯えも忘れ、学者としての好奇心に駆られて質問していた。

 「そこまでだ。その質問には答えたくはない。」

 夕霧は、そう言うとそのまま口を閉ざしてしまった。

 部屋に沈黙が流れる。フロルは気まずくなり、何か言おうと言葉を捜している。

 

 「君にとっては急な話で驚いただろうが、私は真剣だ。部屋を用意させるから、少し考えてみてくれ。頼む。」

 夕霧はしばらく押し黙ったあと、そう言って立ち上がり、部屋の外までフロルを送った。

 部屋の外には白蘭が待っていた。

 白蘭はフロルを伴って再び歩き出した。

 二人はしばらく黙って廊下を歩いていた。

 「…ねえ、白蘭…」

 フロルは遠慮がちに彼に声をかけた。

 「はい。」

 白蘭はごく事務的に返事をする。

 「お願い、仲間に会わせて。」

 「―それは…」

 白蘭はフロルの懇願に、しばしの沈黙の後、口ごもる。

 「彼らが無事なのか心配なのよ。ひとめだけでもいいの。会わせて。」

 フロルは食い下がってみる。

 今のところ彼らはこちらに危害を加えるつもりはないようだが、やはり皆の無事な姿を見るまでは、心の底から安心はできなかったのだ。

 「…わかりました。こちらです。」

 白蘭は立ち止まり、一瞬複雑な表情をした後、無表情にそう言った。


 そこはフロルがいたのよりも、少し広い部屋であった。鉄格子は同じだが広いだけで、何もない部屋だった。

 そして5人全員がそこに入れられていた。

 「フロル!」

 最初にフロルに気づいたのはラスだった。

 「みんな!無事だったのね!博士も、エリオットも…良かった…!」

 思わず涙ぐむフロル。


 「フロルこそ無事でよかった。今までどこに?」

 教授は鉄格子に隔てられながらも、フロルの手を取り、泣きながら笑っている。

 そんな中、エリオットだけがフロルを連れてきた白蘭とにらみ合っていた。

 「私はさっき、ここの長だという人に会ったの。」

 「長?ここには他にも人がいるのか?」

 エンジニアの一人が驚きの声を上げた。教授も、新しい生命の発見に繋がるとでも思っているのか、白蘭をまじまじと見ている。

「白蘭。このスペースに5人はあんまりだと思うんだけど…」

 フロルがそう言うと、白蘭はそれまでにらみ合っていたエリオットから初めて目線を外し、フロルを見た。

 「―そうですね。では手配させましょう。ここはもうよろしいか?先にあなたを部屋へ案内しなければなりませんので。」

 「わかったわ。そのかわり、私はいつでも彼らと面会できるようにしておいてほしいの。」

 「承知しました。」

 無表情に応じる白蘭。

 「フロル。」

 そのとき初めてエリオットが口を開いた。

 「エリオット。大丈夫よ。また後でね。」

 いつになく鋭い視線は、白蘭にずっと向けられている。

 「この方は我々にとっても大切な方です。手荒なことは決して。」

 白蘭はエリオットにそう言うと踵を返した。

 フロルもその後に続く。


 “なんだ?あの男は?”

 白蘭とエリオット、このとき初めて対峙した二人は、それぞれに全く同じ印象をお互いに感じていた。


 フロルは白蘭と再び長い廊下を歩いていた。

 「夕霧も我々一族を守るために必死なんです。待ち焦がれた女神がやってきてくれたのだから。」

 「でも私はただの人間よ。あなた方がどうして女神なんて言うのか、さっぱり分からないわ。」

 険を含んだフロルの言葉に、白蘭は苦笑いする。

 「あなたは本当にそっくりですよ。瞳の色が若干薄いことを除けば…何から何まで、なたは本当にあの方にそっくりです。」

 白蘭は遠い眼をしてからフロルに視線を戻すと、何かを懐かしむようにほんの少し笑む。

 「…お見せしたい場所があります。もう少し歩けますか?」

 「ええもちろん。」

 フロルはもう肝を据えるしかないと思っていた。

 幸いこの白蘭という人物も、先ほどの夕霧という人物も紳士的で、自分には危害を加えないだろうということは、なんとなくだが理解していた。

 白蘭はどんどん廊下を進んで行く。

 「―?」

 同じ屋内なのになぜだろう?この辺りは空気がひんやりしていて気持ちいい。

 廊下はどんどん広くなり、最後は少し広いホールのように、ドーム状に天井が高くなっていた。そしてその奥に、両開きのかなりの大きな扉があった。

 夕霧がいた部屋にあったのと同じような造りの豪奢な扉は、美しい百合のレリーフが掘り込まれ、色とりどりの輝石がはめ込まれていた。高さは3mはあろうか、その扉は見上げるほどの大きさであった。

 その扉は白蘭が前に立つと、まるで彼を招き入れるがごとくに、静かに内側へ開いて見せた。

 「さあ、どうぞ。この奥です。」

 白蘭はフロルを促す。フロルは一歩、中へ入る。

 「―嘘…っ」

 そこには白い石の砂浜と、青い水があった。

 白く発光する壁に囲まれて、広い空間に白いギリシアのコリント様式のような石の柱の建物が水に浮かぶように建っていた。

 その建物へは桟橋があり、こちら側と向こう岸を一本の線となって繋いでいた。

 そしてその後方には、巨大な樹が建物の背後を護るようにそびえていた。

 「あれが我々の神を奉るユーラシア神殿です。」

 「神殿なの…?やっぱり…」

 ここが地下だということを、忘れさせるほどの広さと荘厳な建物。そして…この満々とたたえられた水。

 “ユーラシア…ユーラシア…ついに帰ってきたわ…きたわ…我々の神…聖なる力を秘めし娘…我々の声を聞き届けし娘……”

 「えっ?」

 ささやくような声が、フロルのすぐ耳元でこだまするように聞こえる。いや、響くと言ったほうがいいだろうか。

 音のようで音でないような伝わり方で、その声はフロルの耳に直接届いた。

 「…聞こえるんだね。それが精霊の声だよ。彼らの声は、普通の人には聞こえない。やっぱり君がユーラシアだ。」

 白蘭は、じっとフロルの目を見据えて言った。その声は気のせいか、少し震えているように思えた。

 「白蘭?どうかしたの?」

 フロルは小首をかしげ、白蘭を覗き込む。

 「え?何でしょうか?」

 白蘭は不意をつかれ、戸惑いの表情を見せた。

 「…だって今、泣きそうな眼をしてたから…」

 白蘭はほんの少し、目を見張った。だがすぐにその顔はもとの表情へと戻ってしまった。

 「我が一族の希望である女神が戻ってきたのです。嬉しくてつい顔が緩んだようです」

 どこか遠い眼をして言う白蘭からは、その感情は全く読み取ることができなかった。

 「―まるでみたいに言うのね。」

 フロルは何とかして彼の感情を読み取ろうと、をした彼の瞳の奥をじっと見つめている。

 「?いいえ。私自身として女神降臨を喜んで…」

 白蘭は言われたことの意味が理解できないという風に一瞬きょとんとした後、ごく事務的に言葉を続けた。が、フロルはその彼の言葉を、歯がゆげに途中で遮る。

 「違うわ。自分の感情を他人のことみたいに言うって言ってるのよ。」

 「!」

 フロルは白蘭に詰め寄る。白蘭は気圧されて数歩、後退さる。

 「あなた自身の感情はどこにあるの?どこかに押しこめてるみたいに感じるのよ…私の気のせいならいいけど…」

 白蘭はフロルに言われ、押し黙る。

 自分をまっすぐに見つめる水色の瞳に、思わず彼は、遠い昔にいた懐かしい少女を重ね合わせる。

 「私は…」

 白蘭が口を開きかけたとき、水面から声がした。

 「ユーラシア」

 見れば神殿へと続く桟橋のすぐ左の水面に水色の少女が立っていた。

 「。君か。彼女は、水の精霊だよ。精霊のなかでも高位で、ああして人の姿を現すことができるんだ。」

 白蘭はフロルにそう説明し、水色の少女青泪を紹介した。

 「!!」

 フロルは驚きのあまり声がでなかった。なぜならフロルにはその水色の少女に見覚えがあったからである。

 そんなフロルをよそに、青泪は白蘭に話しかける。

 「お久しぶり。白蘭。は?元気にしてる?」

 青泪と呼ばれた少女は優雅に一礼すると、美しい笑みを浮かべて言った。

 不思議な姿をした少女だった。青い髪はウェーブを描きながら彼女の足元まで伸びている。瞳も髪と同じ濃い青で、肌も薄い水色をしていた。

 青い衣をまとい、文字通り、全身水色の少女であった。

 「―ああ。」

 無表情に答える白蘭。

 「相変わらずつれない返事だこと。せっかくフィルが帰って来たって言うのに。」

 青泪からすると、白蘭の無表情は今に始まったことではないらしい。 

 「青泪。彼女はフロルだ。フィルじゃない。

それに、あの頃と今とでは何もかもが違いすぎる。そう何でも諸手を挙げて喜んでいられる歳でもなくなってるだろう?」

 肩をすくめて大げさにため息をついてみせる。

 「何、辛気臭いこと言ってんのよ。あなたが歳食っちゃってるなんてことはわかってるわよ。でも状況は変わってない。ここで何とかできそうなのは分かってんでしょ?風が来てるのよ。フィルはにはならなかった。でもここにいるフロルは?フロルはどうなのかしら。」

 青泪は歌い、踊るようにキャラキャラと水音を弾かせながらくるりと一回転する。

 「君達は何を言ってる?あのときもそうだった。歴史は繰り返すなと言っておきながら。それだとまた同じ歴史を繰り返すことになる。我々はどうすればいい?私に答えを教えてくれ。」

 白蘭は困ったように青泪に問う。

 「あなたが自分で考えなさい。白蘭。あなたにはその力があるのだから。」

 青泪は腕組みをし、白蘭を見据える。だがその口元には笑みがあった。

 「どう言う意味だ?それは帝の為にならないことではないのか?」

 青泪はふと真顔になると、ピタリと水音を止める。辺りはしんと静まりかえった。

 「―今の状況は誰の為にもならない。」

 青泪と白蘭は、水面と陸とでにらみ合っている。

 気まずい沈黙が流れる。最初に口を開いたのは、沈黙に耐え切れなくなったフロルだった。

 「あの~…?」

こわごわ白蘭と青泪を交互に見ている。

 「あ、あらごめんね。フィルじゃなかったフロル。白蘭が物分かり悪くって。」

 青泪はフロルに向かって艶やかに笑むと、白蘭に向き直り、彼を指差し睨み据える。  

 「…とにかく!白蘭?あなたね、もっと自分を大事にしなさい。あなたのやりたいようにやればいいのよ。私達の望みはそれだけ。」

 

 「精霊たちの望みが…?意味がわからないんだが。」

 白蘭には言われていることの意味が分からず、きょとんとしている。

 「そのうちにわかるわ。そのために、私がしてあげたんじゃないの。」

 今度は腰に手を当て、ふんぞり返る青泪。

 「―…それは結構…」

 ポーカーフェイスの白蘭がわずかに引きつっているように見える。

 「白蘭?すご~く嫌そう…」

 フロルがつっこむ。

 「…えっ?いっいや別に?」

 「馬鹿は放っておいてフィル。こっちへいらっしゃい。」

 青泪はフロルに向き直る。

 「私はフロルよ。フローレンス。…ねえ?私、あなたに会ったことがあるような気がするの。どうしてかしら?」

 青い少女。青泪と名乗るこの少女に、フロルは見覚えがあった。

 「デ・ジャ・ヴ。既視感ってやつかしらね。私はあなたに会うのは一万年ぶりよ。フィリシア。」

 青泪はさらりと言ってのけるが、その年月は尋常ではなかった。

 「い、一万年?…あなた一体なんなの?それと、私はフロルよ。フローレンス。フィルじゃないわ。ユーラシアとかでもないし。違うのよ。」

 青い人物が記憶のなかでフラッシュバックする。

 「私はつい最近あなたを見たような気がするの。……!そう。夢で!私をここへ呼んだのはあなたよ!」

 うんと幼い頃、夢か現実か定かではないが、この少女に出会い、よく一緒に遊んだ。大人になってからは、なぜだかすっかり忘れてしまっていたのだ。夢で見た、青い人を…

 フロルはその青い人、青泪を思わず指差してしまっていた。

 「白蘭が言ってたでしょ?私は精霊。一万年どころか、地球が生まれて水ができた頃から生きてるの。もう自分の歳なんか忘れちゃったわ。……そう。教えてあげるわ。あなたがなんなのかを。私についていらっしゃい。」

 青泪は美しい笑みを浮かべると、くるりと背を向けた。そのまま神殿のほうへ進み始めた。

 フロルは好奇心に駈られ、桟橋に手を掛けて少しずつ橋を渡っていく。

 「フローレンス…素敵な名前ね。音に力があるわ。フィリシアもそうだったけど。精霊が好む音ね。」

 青泪は水の上を滑るように進みながら、フロルにそう話しかけた。

 「そうなの?」

 フロルはきょとんとしている。

 「ええ。ここの住民はみんなそう。だからより良い名前を求めて名前を変えたりするの。夕霧は馬鹿だと思うけどね。前の名前のほうがよっぽどいい名前だったのに、あんなのに変えちゃうんだもん。夕霧なんてセンス無いわ。」

 青泪はフロルの歩く速さに合わせて、神殿のほうへ進んで行く。

 「夕霧の前の名前はなんて言ったの?」

 フロルもそろそろと桟橋の上を歩いて行く。白蘭はそんな二人を波打ち際で見守っている。

 「よ。青い蘭って書くの。素敵でしょ?私ね、彼が帝になってからも、前の名前で呼んでるの。彼は嫌がるけれどね。今の彼には私達精霊に指図なんてできないんだし」

 「じゃここでいちばん偉いのは、あなた達精霊なの?」

 フロルは驚いて眼をまるくする。彼女には夕霧のそぶりでは、彼が一番偉いように見えたのだ。

 「平たく言っちゃうとそうなるわね。」

 青泪はあっさりと肯定する。

 「じゃあお願い。あなたから彼に言って。私達を地球に帰らせてって。」

 フロルは桟橋の手すりにつかまって、身を乗り出す。

 「あら?それはだめよ。」

 青泪もその場で静止し、フロルを振り返る。

 「…どうして?」

 フロルはあからさまにがっかりしている。

 「あなたも気づいたように、あなたをここへ導いたのは私たち精霊だもの。彼は私達の言うことを聞いてるだけ。傀儡よ。今の彼はそのことにすら気づいてないけどね。」

 青泪はどこか遠い目をして、つぶやくようにそう言った。

 「それは一体…?」

 「そうね、順に話すわ。その前にこっちへ来て。」

 白い神殿はもう目の前に迫っていた。

 青泪は白蘭に視線を向ける。

 白蘭はその場から動かずに、青泪にうなずいた。

 青泪に導かれ、フロルは桟橋を渡りきり、神殿の中へ足を踏み入れた。

 「彼は?」

 フロルは初めて白蘭がついてきていないことに気づいた。

 「待っててもらってるわ。彼は入ってはならないのよ。この神殿はね、男子禁制なの。女神の神殿だからね。」

 青泪はくすりと笑うと、フロルの前に立って歩き出した。正確には床の上を滑るように進んでいる。

 ひんやりとした空気と、奥へ続く薄暗い廊下は、整然と並ぶ石のタイルで埋め尽くされていて、どこか地中海文明の古い遺跡を彷彿とさせた。

 両端には、巨大な岩を削りだして作られた、精巧な柱が等間隔で並び、地下とは思えないくらいの奥行きを見せていた。所々にぼんやりと光るこぶしくらいの大きさの石が、壁に備え付けられた小さな皿に置かれている。

 ジャスミンの花の花びらのように形作られた白い小皿が、輝く石を包み込むように支えていて、白い花が明るく輝いているかのようであった。

 そのほのかな明かりは、神殿に神聖で幽玄な雰囲気を醸し出していた。

 「あの石は?」

 それは暖かなクリーム色をした石だった。

 フロルは好奇心を押さえきれずに横を滑るように進む青泪を見た。彼女は床から数㎝浮いたところで停止し、フロルを振り返る。

 「ああ、あれ?あれはね。っていうの。私達が見つけたのよ。この星で取れるんだけど、高エネルギーで再利用できるすごく親切な石。素敵でしょ?人の居住区にもあった物も同じよ。天井につけてる発光パネルがそうよ。あちらのは少し青味がかった物を使ってるけどね。」

 “発光パネル…”

 非科学の具現のような精霊の口から、とんでもなく科学的な単語を聞いて、フロルはめまいがしそうだった。

 「これがあるから、私達はどこへ行っても生きていける。でもこの石の存在を、他の文明の人間には知られたくないの。でも、独り締めしたいわけじゃないのよ。」

 青泪は少し哀しげに、その青い瞳を伏せた。

 「この石は諸刃の剣だから。取り扱いを誤れば、大変なことになるわ。私達が地球というふるさとを捨てないといけなくなったような、あの悲しい過ちをもう誰にも犯してほしくはないの。あの石は、今の私達になら扱えるけれど、今のあなた達にはまだ無理。」 

 青泪はまっすぐな水色の瞳をフロルに向けた。

 「だから青蘭はあなただけではなくあなたの仲間全員を捕らえさせたの。でも大丈夫。記憶は消されるけどちゃんと無事に帰してもらえるから。あなたがここに残るならね。」

 青泪はきっぱりと青蘭(夕霧)のしたこと、しようとしていることを弁護した。

 「待って。私達、石のことなんて知らなかったのよ。わざわざ捕らえなくても放っておいてくれれば…」

 フロルは納得がいかず、思わず口を挟む。青泪はそんなフロルにはかまわず、再び奥へ進み始めた。

 「そう。本来ならやり過ごすところよ。でも、あなたがいた。フロル、あなたがね。」

 青泪は長い廊下が終わり、天井の更に高くなった広間のようなところでピタリと立ち止まった。フロルを振り返り、そう言う。が広間は壁に無数の極光石がはめ込まれていて、さっきまで歩いてきた廊下とは逆に、うって変わって陽光がさしたかのように明るい。青泪のその表情は、逆光に遮られて読み取ることができなかった。

 「私?」

 フロルはどうしていいのか分からず、立ちすくんでいた。

 青泪はフロルに手招きする。フロルの目の前には、床を縦20m、横幅2mほどを細長く、くりぬいたスペースがあった。深さは50㎝ほどであろうか、緩やかな段差の石造りの階段が、段々と深さを増して底部へ続いていた。そしてそこにも水がたたえられてあった。

 フロルにはそれが子供の頃、プールに入る前に入った、あの身体を慣らすための、浅い小さなプールのように見えた。

 その怖いくらい澄んだ青い水の上に、青泪はふわりと浮かび、手招きをする。彼女のドレスがキラキラと光り輝き、裾が揺れるたびシャラシャラと涼やかな音がする。明るい光のコントラストと、美しい水の精霊は、この世のものとは思えぬほど、儚く美しかった。

 そしてその奥には、巨大な女神像が鎮座してあった。座禅を組み、右手には百合のような花を、左手には剣を持つ、美しい女神像であった。

 「あれが、私達の女神。ユーラシア様よ。

フロル、あなたにそっくりだと思わない?」

 青泪の言う通り、女神像の顔はフロルによく似ていた。

 「私?」

 フロルはぼんやりその様子を眺めている。女神像も美しかったが、遠いもののように感じられたのだ。それよりも、目の前の精霊のほうが躍動感に満ち、フロルの目を、心を奪ってしまっていた。

 青泪はしびれを切らして、フロルの目の前へ滑るようにやってきた。

 「ぼーっとしてないで。さあ、ここへ入って。これは清めの水なの。大丈夫だから。」

 フロルの腕を取り半ば強引に一歩、水の中へ足を踏み入れさせる。

 「きゃっ!」

 水しぶきが、フロルの着ているドレスを濡らす。

 フロルは思わず声をあげていた。

 「え…っ?」

 水はフロルを受け入れるかのように、冷たくもなく温くもなく、心地よささえ感じられるものであった。

 青泪に手を引かれるまま、歩みを進めるフロル。その深さは目で見た感じよりも深く、1mと少しほどの深さがあったようで、フロルの胸の辺りまでも包み込んだ。

 水の中をゆっくりと歩くうち、フロルに微妙な変化が現れ始めた。

 ブルーの瞳は更に濃さを増し、美しいコバルトブルーに変化していた。

 そしてその瞳から知らず知らずのうちにあふれた涙は、頬を伝い、顎を伝い、フロルの胸元を濡らした。

 水の通路を渡りきり、上へ昇る階段へたどり着いたころには、そこに満たされた水と自らの涙で、フロルはもうずぶ濡れになっていた。

 「フロル…?」

 青泪はフロルの瞳を覗きこむ。

 そのコバルトブルーの瞳は、彼らがフィリシアと呼ぶ少女にそっくりであった。

 青泪は懐かしさがこみ上げ、思わずあの懐かしい少女の名を呼ぶ。

 「…フィル?フィリシア?」

 違う名で呼ばれたことにも気づく様子もなく、力のない視線を青泪に向けるフロル。

 「青泪?私は……ああ、ごめんなさい…許して、青泪…私…」

 フロルは水から上がると、力なく座り込んでしまった。うわ言のように頼りなげな声で、つぶやく。

ふと心配そうに覗き込んだ青泪に、おぼつかなげな焦点を合わせると、急に子供のようにすがりついた。

 「…彼は?私はあの方の妻にはなれない!なりたくないのよ!私には彼だけ。彼がいればそれでいいの。」

 どこか遠い眼をして、まくしたてるフロルの両肩をつかんで、青泪が強く揺さぶる。

 「フィル?あなたなの?あなたなのね!落ち着いて。わかってるわ。わかってる。私達はあなたの味方よ。…ねえしっかりして!フィル!」

 フロルの遠くを見ていた瞳が、不意に焦点を結ぶ。

 「…私はフロルよ。フローレンス。…っ!やっいやっ!許して!ここから出して!いやああああっ!」

 ぼんやりしたかと思えば、突然もがくように叫び出すフロル。

 青泪はフロルを落ち着かせようと強く抱きしめる。

 しばらく身をよじって泣き叫んだ後、フロルはそのまま気を失ってしまった。

 「かわいそうに…フィル…辛かったのね。思い出したくないなら思い出さなくていいのよ。…大丈夫。私達はなにがあってもあなたの味方だから。今度こそ…護ってみせるわ。あなたは私達の希望なのよ…」

 青泪は気を失ったフロルを抱いたまま、床に膝をついた。幼子にそうするように頬擦りをする。

 そして他の精霊達に呼びかけて、フロルの服に染み込んだ水を取り払い、重さを感じさせない動作で軽々と抱き上げた。

そして青泪は意識のないままのフロルを、神殿の最奥へと連れていった。


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