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朧月のその先に  作者: 風華
2/5

視点が変わります

 ラシール国の首都から少し離れたここはレイア村。大昔から大地に恵まれ、未だかつて流行病が流行していない事もあり、また、武神レイア姫の故郷でもあるからと、この村はレイア村と呼ばれるようになった。

 そんなレイア村の森深くまで行くと、小さな湖がある。だが、小さいと言っても、入ったら最後、泳げない者は死ぬ。何せ、底がないのだ。

 何人もの魔法使いが底を調査しようと魔法を使ったが、結果は惨敗。底が見えるどころか、石すら見つからなかったという。噂では海に繋がっているんじゃないかと言う人も居るが、真偽は不明


 そんな湖に釣りをしているのは、俺…セティスくらいなものだろう。とはいえ、今まで釣れた事があるかと言えば…無いが


 下っ端とはいえ軍の一員である俺は、いつもなら鍛錬しているのだが…今日は休みだ。戦時中とはいえ、兵士にも休みはある。そう、ブラックな部隊ではない。ホワイトだ。一点のシミも許さないホワイトである。

 何故そこまでホワイトに拘るかというと、隊長の名前がホワイトであり、その隊長は根っからの生真面目で有名で、我が部隊から過労死は出さない、がモットーだと常に言っているからだ。死ぬなら戦場で死ね、とも言っていた。そう、決して優しいわけではない


「……やっぱ、釣れねぇなぁ」


 釣り糸を垂らして、何時間経っただろう。朝早くからここに居るから、約5時間くらいだろうか。木漏れ日からの太陽光が眩しい


 こうして何もせず、ぼんやりとしている時間が一番好きだ。血なまぐさい戦場なんて好きじゃないし、爆音ももう懲り懲り。

 俺の夢は、小さな家を持ち、可愛い女の子を嫁に貰って、穏やかにのんびりと暮らす事。そんな事を友達に言って笑われたのは、果たしていつだっただろう。

 まぁ、女の子の知り合いが居ないという時点でこの夢は終わっているのだが。いつか戦場で運命的な出会いが…なんて言った時も、盛大に笑われた気がする


 全く釣れない魚を諦めて、鞄からお弁当を出した。蓋を開ければ色とりどりの美味しそうなお弁当だが、これも自分で作った。一人暮らしが長いと、料理も自然と上手くなる


「もうちょい塩気が欲しかったな」


 などと言っても、流石に塩まで持ってきていない


「……お?」


 そんな時だった。釣り糸がピンと張り、竿がしなっているのに気がついたのは


「おおっ! 初のゲットか!?」


 慌てて釣竿を持ち、釣り上げようと力を篭める。が、余程の大物なのか全然釣り上がらない。むしろ、湖に引きずり込まれそうな勢いだ


「んぎぎぎぎ…っ!」


 身体は徐々に湖面へと近づき、竿もミシリと嫌な音を響かせる。不思議な事に魚影は全く見えず、網で掬う事も剣で突く事も不可能そうで


「うぎゃっ!?」


 とうとう体が宙に浮かび、力負けした俺は湖にダイブ


 一体どんな巨大な魚が俺を引っ張ったんだ?

 もしかして、この湖の主か?


 湖の中で目を開けると、俺がダイブした衝撃で見通しがかなり悪い。そんな中でうっすら見えたのは……


「んぶっ!?」


 大きな目でこっちを見てくる、可愛い女の子だった


「お、おおお、女!? 人魚!?」


 慌てて水面に顔を出すと、その女の子も顔を出してきた。

 歳は俺よりも年下だろうか。真っ黒な瞳に真っ黒な髪の毛。俺みたいに茶色くも猫っ毛ではなく、しかもこの国では珍しい格好をしていた


「人魚じゃないです。人間ですよ」

「喋った! え、マジで人間釣っちまったのか!?」


 俺は陸に上がり、女の子を引っ張りあげた。

 ……確かに足はある。魚っぽいところは見当たらないし、確かに人間のようだ


「えっと…釣ってくれて、ありがとうございます?」

「いや、ありがとうとか言われても…うーん、どういたしまして、か?」


 何て言えばいいかわからずそう言えば、女の子は辺りを見回しだした


「あの、ここは一体どこですか?」

「どこって…レイア村の外れの森の中だよ」

「レイア村?」

「知らねぇの? まぁ、首都から離れてるしなぁ」

「えっと…ここは何国でしょう?」

「はぁ? ラシール国だけど」


 いくら首都から離れてるとは言っても、国境境ではない。だから他国の人間が入ってくる事はまず無いし、もし入ってきてたら警備兵がよっぽどマヌケとしか言いようがない


「で、お前名前は?」


 ギュッと服を絞り、プルプルと身体を振る女の子。犬みたいだ


「あ、ごめんなさい。私はサクヤと言います。貴方は?」

「俺はセティス」

「せてぃ…? 変わった名前ですね」

「そうか?」

「言い難いと言いますか……」


 セチ、セチィ…と、俺の名前は余程言い難いらしい。だから「セティでいい」と言うと、ホッとしたようにニコッと微笑んだ


 ……うん。可愛い。

 でも、可愛かったら何でも許すとかそういう理由にもいかない


「何で湖から出てきたんだ? ここは底無しだぜ、危ないだろ」

「湖…と言われても、私、魚を追いかけてたらここまで来たんです」

「はぁ? どこから泳いできたんだ?」

「海からです」

「……海?」

「海」


 海からここまで、少なくとも10キロ以上は離れている。それを泳いできた? しかもそれが本当なら…潜水で?


「嘘つけ」


 バッサリと一刀両断した。当たり前だ。いくら魔法を使ったって、10キロ以上も息継ぎ無しで泳げる筈がない。それとも、そんな魔法があるとか? いやいや、聞いた事ないから


「本当ですよ」

「バーカ。海からここまで何キロ離れてると思ってんだ? 可愛かったら何でも信じるとか、そんな事全くねぇんだからな?」

「……? えっと、本当に泳いで……」


 そこまで女の子…サクヤが言うと、突然バシャァンと大きな音が響いた。地鳴りすらするその音に、湖を見る。

 するとそこには、俺の身体をゆうに超えるくらいの巨大な魚が顔を出していたのだ


「ぴっ、ピラニア!?」


 ピラニアがあんなに育つなんて知らなかった。もしかしなくても、こいつはこの湖の主!


「……美味しいんですか?」

「食う前に食われるだろ! 逃げるぞ!」


 湖から離れ、木の上に登る。流石に木の上には登れないだろう、そう思っていたが、ピラニアもどき? は、ガジガジと鋭い歯を木に齧り始めた。

 ピラニアもどきの目は、血走っている…ように見える。そんなに俺が美味そうってか!?


「お刺身…ううん、ここは焼いた方がいいかな…煮るにもお鍋が無いし……」


 いつの間にか俺より上に登っていたサクヤは、お腹でも空いてるのか、ウンウン唸りながら魚と睨めっこしている


「やめろ、あれを食うのはマジで止めろ! 呪われたらどうすんだ!?」

「今私は、空腹で死にそうだからいいんです」

「何が良いんだ、何が!」


 ボキッと言う音と共に、傾いていく景色。

 仕方なく剣を抜くと、枝を蹴って魚に突撃した。

 魚は大口を開けて俺を迎え撃つが、そう簡単に食われてやるわけにはいかない


「炎よ、我が媒体に宿れ!」


 剣に文字が浮かび、紡いだ言葉の通りに炎が剣に纏う。迸る炎が苦手なようで、魚は途端に怯んだ


「殺さねぇ代わりに、見逃してくれ…って事で!」


 怯んだ隙に、魚を思いっきり蹴り上げて湖へと返す。すると諦めたのか、湖の奥深くまで泳いでいった


「助かった……」


 木は魚の牙で根元から折れ、もしアレに噛みつかれたらと思うとゾッとする


「ああ…せめて一口だけでも……」

「お前な……」


 普通の女の子は、悲鳴をあげるものじゃないのか? どこまで腹を空かせてるんだ、こいつは


 キュルルル…と響くお腹の音に、俺はため息を吐く。しょうがないから、弁当分けてやるか

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