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もしも『芥川 』に続きがあったら

作者: 青いやつ

「高子ぉぉぉ!!」


(ああ……どうしてもっと早く気付かなかったんだ……。)


この男、在原業平。

愛する女性、藤原高子と駆け落ちし幸せに暮らす事を夢に見、行動に移した結果、愛する女性を鬼に喰われた憐れな男。


「うぅ……どうして……どうしてなんだ……」


高子が鬼に喰われた事に気付いてから1時間余り。

感情のままに暴れているものの頭の中の冷静な部分では、いくら泣き、叫び、戻ってきてくれと懇願しようと意味が無いと分かっている。


だが止められない。

止められるわけがない。

駆け落ちをしてしまうほど愛していた女性が壁一枚隔てた向こう側で亡くなったのだ。

それに耐え、冷静にこれからの事について考えられる者など多くはないだろう。


「白玉か……何ぞと人の問ひしとき……霞と答へて消えなましものを……」


業平はふと、頭に浮かんだ詩をなんとはなしに口に出してみた。


それは高子と駆け落ちしている際の出来事。




「あれは何ですか?」


高子が尋ねたものは結露した露だった。


彼女はとある名家の生まれであり、世間の常識をあまり知らなかった。

けれど道のりはまだまだ遠く、夜も更けてきて焦っていた業平はそれに答える余裕も無く、先を急いだ。




その出来事が頭を過ぎった業平は、こんな気持ちになるくらいならあの時に「あれは露だよ」と答え、自分も露が消えるように死んでしまっていれば良かったのにと思ったのだ。


しかし現実は無情なもの。


いくら考えようと過去は変えられないし、露のように消えてなくなることも出来るわけがない。


とその時までは思っていた。


「今の言葉は真ですか?」


思考が渦巻いていた業平の背後から透き通るような美声が発された。


「誰だ!」


先程までの感情の赴くままに泣き喚いていた男はどこへ行ったのか。

声のした方へ咄嗟に構えを取った業平は誰何した。


「私は……そうですね、神……と言えば分かるでしょうか。」


それに対し小首を傾げ2.3秒ほど何かについて考えた女は神と名乗った。


「神だと?……ふざけるのも大概にしてくれ!今はそんなつまらない冗談に付き合えるほど余裕なんて今の俺には無いんだよ!……チッ。さっきの質問だが答えは『はい』だ。こんなクソみたいな気持ちになるくらいならあの時死んでれば良かった……そしたら高子も鬼に喰われることなんて無かったんだ……」

「ふざけてなど無いのですが……まあ良いでしょう。それでは貴方を過去へお送りします。藤原高子の問いに『あれは露だよ』と答えると貴方は露のように消えてなくなりますが答えなければ貴方は永遠に続く地獄の苦しみに遭うでしょう。では、行きます」

「ま、待ってくれ!それなら……」


高子が死に、不安定な状態だった業平は感情のままに答えたが自称神はさほど気にすることもなく話を続ける。

すると業平の胸中にもしかしたら本当にこの女は神なのでは、という思いが生まれ、それならば願いを変えてもらおうと思ったが時既に遅し。

言葉の途中で業平は意識を失った。




「あれは何ですか?」

「こ、ここは……な、おま……高子」

「あ、あの。どうかなさい……キャッ!」


意識を取り戻した業平は何が起きたのか分からず暫し呆然としていたが、高子の存在を認めると咄嗟に彼女を抱き締め、謝罪の言葉を紡ぎ始めた。


「高子……すまん……すまん……俺のせいで……」

「な、業平様!落ち着いて下さい!」

「あ、ああ……悪い……くっ、こんな時に限って言葉が上手く出てこないな……もうしばらくしたら夜も更けちまうってのに……ふぅ。……高子、俺が消えたら来た道を戻れ。恐らく追っ手はすぐ側まで来ているだろう、その者と合流して家に帰るんだ」

「な、何を仰いますか!私はとうに全てを業平様に捧げた身。家に帰ることなど……」

「良いから帰れ!……大声を出してすまん。だがこれは絶対だ、反論は許さない」

「それほどまで言うということは何かご事情があるのですね……承知しました」

「ああ……高子、愛してる」

「業平様、私もお慕い申しております」

「幸せになれよ……高子、『あれは露だよ』」

どうせ「もしも」の話をするならあの時露みたいに無くなれば、なんて中途半端なこと言わずに鬼が来なかったら、とか違う道を通れば良かった、とかにしたら良かったのに。

それと実際は藤原高子は鬼に喰われたのではなく、兄に連れ戻されたらしいですね。

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