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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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じゃんけんでございます

 大きな馬車に揺られて、私達は今、港町を目指していた。

一つの馬車に集められた私、マギルカ、サフィナ、ザッハ、そして、王子が何となく決めた各々の場所に座っている。四人だけかと思っていたがどうも、大人の事情が発動したのか非公式ながらも王子が同席することと相成ったのだ。

 それを大変喜んだのがなんと、ザッハである。


「俺一人、女王様と幹部に囲まれて死の旅を覚悟していたんだよ。ありがとうございます、王子~♪」


 だそうだ。

女の子に囲まれてハーレム状態で旅行できるというのに、何が不満だったのだろう、この男は。

ちなみに、女王様と言われて、私はマギルカを見、他の皆が私を見たのは納得いかなかったが。


「港町に着いたら、宿に泊まり、明日船に乗り込むんだっけ?」


 馬車に揺られて王子が言う。彼の両端には私とマギルカが挟んで座り、向かいにザッハとサフィナが腰掛けるという布陣であった。


「左様です、殿下」


「港町には新鮮な魚貝が豊富で、魚料理が美味しいらしいね」


 マギルカの相づちに王子は楽しみといった顔で答える。すると、ニヒヒッとザッハが意地悪そうな顔をして私を見てきた。


「だってさ、メアリィ様。楽しみだな、料理」


 意味深に言うザッハに私は半眼になってにらみ返す。


(こやつめ、あの話を蒸し返しおって)


「サフィナ、やっておしまい」


 馬車内で立ち上がったり動いたりするのはいただけないので、隣に座っているサフィナに制裁をお願いする。


「へ? あ、えっと」


 私にいきなり指示され、サフィナは戸惑い、私と隣のザッハを交互に見るだけにとどまっていた。


「ほら、メアリィ様の方が女王様じゃありませんか」


 ボソッと言うマギルカの言葉に私はウグッと息を飲んで、そのまま何事もなかったかのように窓の外を見て逃げてしまう。


「まぁ、まぁ。そういえば、その港町でレリレックス側の案内人と合流するんだってね」


 私とマギルカを宥めつつ、王子は話を進めてくる。


(案内人ね……誰が来るのかな? まさか、あの人じゃないよね)


 私は不吉な予感を感じながら再び窓の外を見て、港町への到着を心待ちにするのであった。




「よく来た、歓迎するぞッ!」


 私は今、両手と両膝を地に着け、項垂れたい衝動を抑えていた。

 港町に到着し、予定の宿の前に降り立つ私達を迎えたのはまさかの「あの人」だった。その満面の笑みを乾いた笑いで見ることしかできない私がここにいる。


(いやいやいや、姫殿下。登場が早いでしょ。ここは、早くても島に到着してから出迎えてよね。まだ自国内よ、ここ)


 きっと私と同じことを考えているだろう王子達もしばし固まっている。


「随分と早い出迎えですね。予定では向こうに着いてからと聞いていましたが」


 さすがは王子。すぐに解凍すると焦った様子を見せずに、にこやかと言葉を交わしている。慣れているのだろうか……。


「うむ、その予定じゃったが、待ちきれなくて迎え用の船に乗ってしまったのじゃッ!」


 胸を張って威張るエミリアの後ろでは従者の人だろう方々が深いため息をついていた。


「それでは出航は明日ということで、まずは宿の方へ。明朝、迎えに参ります」


 話を進めようと、本来の案内人であろう方が申し訳なさそうに言ってくるので、王子は爽やかな笑顔で頷くと、一行は宿へと入っていくのであった。




「おおお、こ、これが宿屋。新鮮だわ」


 私はアニメや漫画で見たファンタジーの宿屋風景に少し似たその部屋を見て感慨に耽っていた。

 少しというのは思っていた以上に広く、豪華であったことだ。おそらく一番高い部屋を用意してもらえたのだろう。


「それで、誰がどのベッド使う?」


 私はちょっぴり期待を込めながら、同じく入ってきたマギルカとサフィナの方を見た。一人一部屋というわけにはいかなかったのかというと、実の所、私が皆と一緒に寝泊まりしたいと駄々をこねたのが原因だったりする。


(女子会よ、女子会。夢にまで見たガールズトークよ!)


 私の思惑など露知らず、綺麗で広い部屋を見渡し、感嘆するサフィナ。いつも通りなのか、あまり感激の薄いマギルカは近くのソファーに腰掛けてゆったりする。


「ねぇ、聞いてる? 二人とも」


「あ、はい。えっと、私はお二人の後で構いません」


「私はメアリィ様の後で良いですわ」


 私がテンション空回りになって不服そうに言うと、サフィナ、マギルカと順にテンプレートのような返答をしてきた。


「え~、それじゃあ面白くないわ。そうだ、皆でじゃんけんしましょう」


 場所取りといえばじゃんけんが定番よねっと鼻息荒く私が提案すると、二人は「はて?」と首を傾げてしまう。


「メアリィ様、じゃんけんとは何ですか?」


「え? じゃんけん知らないの?」


 マギルカの返答に私は素で驚いてしまった。世界共通行為と疑っていなかったのだ。


「はい、サフィナさんはご存じなのかしら?」


「いいえ、知りません」


 マギルカの問いにサフィナまでもが首を横に振ってくる。そこで、私は簡単にじゃんけんの概念とルールを説明することにした。

そして、私は知る。異世界へ行ってじゃんけんを教えると必ずといっていいほど聞かれる答えづらい疑問に……。


「だいたい分かりましたけど、なぜ、『ぱぁ』が『ぐぅ』とやらに勝つのですか?」


「だから、さっきも言ったようにグーが石、チョキがハサミ、パーが紙で、石はハサミで切れないからグーの勝ち、ハサミは紙を切るからチョキの勝ち、紙は石を包むからパーの勝ちで、同じ時は……」


「そこですわ。どうして石を包んだくらいで紙が勝つのです?」


 私が当たり前のように説明すると、マギルカがいぶかしげに横やりを入れてきて、私は言葉を詰まらせてしまう。


(あれ? 言われてみるとそうよね、何でだろう?)


 そう思ったら最後、私の常識がグラグラと揺れ始めてしまう。


「え、え~と、それはね、えっとぉぉぉ」


 天井を見ながら私は思考をこらすがそもそも、そんなことに疑問を感じなかったので深い理由など知らなかった。


「と、とにかく、そういうルールなの。そういうものなのよ」


 そして、私はごり押しという行為に至るのであった。


「ホホォ~、それは面白いゲームじゃのう」


 予想外の四人目の声に驚き、私達はその方を見やる。そこには当たり前のようにくつろぐエミリアがワクワク顔でこちらを見ているではないか。


「姫殿下。いつのまに」


「ん? いつのまにもなにも、普通にそなた達と一緒に入ってきたであろう」


 あまりの自然体に私は彼女の存在を当たり前のように認識し、意識しなかったみたいだ。


(恐るべきとけ込み能力。この人のコミュニケーション能力って凄すぎない? 当たり前のようにそこにいて、私達もそれをいつの間にか許容しているなんて……あ、もしかして、存在感がない……とか? いやいや、それはないわね)


 かしこまる二人に、必要ないと普段通りの接し方を許しているエミリアを見ながら私はしばらく呆然とそんなことを考えていた。


「姫殿下はなぜここに? 何かお伝えしたいことでもありましたか?」


 かしこまるなと言われても、急にフレンドリーになれるわけもなく、まだまだお堅いマギルカが代表して、皆の疑問を口にする。


「ん、別に? 船での寝泊まりも面白いが、妾も皆と同じ部屋で寝泊まりするのに興味がでたのでな、来てしまった」


 さも、当たり前のように言うお姫様に唖然としながら、私はエミリアという人物の気分屋っぷりを垣間見たような気がした。


「それで、そのじゃんけんとやらをやり、一番に勝った者が最初に選ぶ権利を得るのであろう。 勝負事は妾も好きじゃ。相手になろうではないか、フッフッフッ」


 不適な笑みを見せ、やる気満々のエミリアの前に、どうしたものかと困る私達三人は、とりあえず、じゃんけんをすることにした。




 あれから、数十回のじゃんけんを行ってきた。なのに、私達はじゃんけんをし続けている。


「ぐおぉぉぉ! また、妾が一番に負けてしまったのじゃあぁぁぁ! なぜじゃ、妾の無敵のぐぅがぁぁぁ」


 自分の出したグーの拳を天に振り上げ、悶絶するエミリアに、私達は深くため息を吐く。


「今度こそ、今度こそ勝つのじゃッ! さぁ、もう一勝負ッ!」


 一人テンション高いエミリア。そして、私はまたも知ってしまった。エミリアという人物はとっても、とぉ~ってもじゃんけんに弱いということに……。ちなみに、一度も負けたことがないのが私だったりする。


(神様、こんなところで完全無敵になっても困るんですが……)


 負けず嫌いなのかエミリアは自分が勝つまでこのじゃんけん大会を終了させる気はないらしい。もう、何のためにじゃんけんしているのやら、分からなくなってきた。


「いい、二人とも。今度こそ姫殿下に一人勝ちしてもらって、この不毛なゲームを終わらせるわよ。たとえ、『やらせ』であろうとも」


 三人集まってヒソヒソと相談する私達。


「そうおっしゃられても、姫殿下が何を出すのかまったく読めませんわ。あの方、法則性が全くありませんもの」


「それに、私達が示し合わせて同じものを出しても、嘘のように一人負けしていきますから、もうどうしていいのやら」


 なんやかんやと試行錯誤する私達にことごとく負けていくエミリアの才能にある意味感服しながら、私は諦めないようにと二人に言う。


「諦めないで。諦めたら、そこで試合終了よ」


「終了してもらえるなら、これ幸いなのですが」


 私が前世にあったすばらしいお言葉を投げかけると、華麗にツッコむマギルカに次の言葉が出てこなくなってしまう。


「と~にかく、次こそ負けるわよ。絶対にッ!」


 そして、私達は再びじゃんけん地獄へと突入するのであった。


「よ~し、次こそは勝つぞッ!じゃ~んけ~ん」


 一人テンション高いエミリアのかけ声にあわせて、私達は神に祈りながら腕を出す。


「「「「ぽん」」」」




 そして、私の一人勝ちとなった。




(だから、神様、こんなところまで完全無敵にしないでぇぇぇっ)


 二人の非難の目に耐えられなく、あさっての方向を見ながら私は心の中で絶叫する。

 そして、このじゃんけん勝負は、全く勝てる兆しなしのエミリアがついに涙目になった時、夕食の時間だと訪れたテュッテの言葉でうやむやにできたのであった。


(ほんと、あの時のテュッテが女神様に見えたわ)


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