それって後付けですよね
「レリレックス王国の使者でございますか?」
「はい、さようでございます。とはいえ、これは非公式でございます故、突然のことで申し訳ございません」
呆けてる私達の中で唯一復活を果たしたマギルカが皆を代表して会話し始める。
「立ち話も何だから、とりあえず座ろうか」
未だ呆ける私達に王子がソファーを勧めてきて、私達は言われるままに腰掛けてしまう。
「それで、使者の方が私達にどのようなご用件で?」
全員が座ったのを確かめて、マギルカが話し始めた。
「はい、姫殿下より皆様にこちらの招待状をお渡しするよう申しつかり、参りました」
そう言って、使者は私達四人にそれぞれ封蝋された便箋を渡してくる。
「招待状……ですか。また、なぜ?」
その不穏な響きにマギルカがいぶかしげに便箋を眺めながら呟く。それにつられて私も受け取った便箋を眺め、そしてすがるように王妃様を見てしまう。願わくば、なかったことにできないかと思いながら……。
私と目が合った王妃様は困った顔をしながらも笑みを見せ、話し始める。
「これは公表されていない話ですので、口外しないように」
私達に釘を刺すため、王妃様は一度言葉を切り、私達を見渡した。
(いえ、そんな口外しちゃダメな話、しないでください。とは言えないよねぇ)
「先日起きた襲撃事件について詳しくは省きますが、あの召喚されたモンスターについて、我が国の魔術師と魔族の協力の元、調べた結果、とても微弱でしたがあの場に『リベラルマテリア』が使用された痕跡が見つかりました」
「リベラルマテリア! 我が国最大の禁忌じゃないですか」
王妃様の言葉に驚き、マギルカが思わず口を挟んでしまい、慌てて口を閉じ、非礼を詫びている。
『リベラルマテリア』それは講義で習った禁呪の召喚儀式に使われるマジックアイテムであった。
過去、この禁呪を使用し、大量の人間を死に追いやった歴史的事件が起こった。これは通常の召喚儀式と違って、人を捧げる(魔力を根こそぎ奪う)ことで未知のモンスターを召喚するという『生け贄』で成立する非人道的な召喚儀式だ。
その召喚対象が強大であればあるほど、その『生け贄』の数も膨れ上がり、歴史的事件に発展した時の犠牲者の数のあまりの多さに驚き、講義中に戦慄したので覚えている。
そして、アルディア王国では最大の禁忌としてその取り締まりはとても厳しく、国内で手に入れるのは至難の業であり、その情報が王族の耳に入らないわけがなかった。
(それにしても、あの時、マギルカにそれを使用されていたということなの……)
私はゾッとして思わず隣に座っていたマギルカの手を握ってしまう。その温かな体温を確かめるように……。
マギルカは私の行動に一度驚き、こちらを見てきたが、私が何を思っていたのか察してくれて、柔らかい笑みを見せて、私の手にもう片方の自分の手を添えてくれた。
「これにより、他国の介入が示唆されると同時に、今回、介入してきたのが隣国『エインホルス聖教国』の可能性が高くなりました」
『エインホルス聖教国』我が国アルディア王国の北方に位置する宗教国でその規模は小国ながら、世界への影響力は大きい。なぜなら、この世界に広く布教している宗教の総本山なのだから。もちろん、我々の教会も傘下に入っている。
そして、この聖教国はレリレックス王国をとても敵視している。まぁ、神話を参考にすると光のエインホルス、闇のレリレックスという位置づけになるのだろうから。
アルディア王国は聖教国と暗黒の島のちょうど中間に位置するので、どうしてもこのいざこざに巻き込まれてしまう。
「なぜ聖教国が関与していると思われるのですか」
王妃様の話が終わったことを確認して、マギルカが問う。
「世界的にリベラルマテリアは禁忌とされていますが、それ以前から使用した際、神話に登場する天使のような存在が降臨したことから、聖教国では祭儀として古くから使われておりました。人を犠牲にすることも神にその身を捧げ、天使となるとされ、強い信仰心を持った信者達には抵抗がなかったのでしょう。世界中で禁呪と認定されてもなお、聖教国はその認定を良く思っていませんので、取り締まりも厳しくありませんし、それを内部の一組織が密かに所持しているという話も聞きます」
「つまり、今回の襲撃事件、ターゲットは警護もつけずお一人でこちらへ来た無防備な姫殿下だった可能性が高いということですか?」
マギルカの言葉に王妃様が苦笑しながら頷いた。
「それも可能性としてはありますが、まぁ、聖教国の上の方は私も疎ましく思っていますからね。一石二鳥だったかもしれません」
王妃様は困った顔のままで付け足すと、周囲は微妙な空気に包まれた。というのも、王妃様が『神槍の舞姫』としてその名を世界に轟かせたのは聖教国がらみの事件を解決したからなのだ。
簡単に言うと、聖教国が二度目の聖戦、前世の知識的で言えば十字軍と称してレリレックス王国へと進軍しようとした時、条約に基づきそれを押し返してしまったのが王妃様率いるアルディアとレリレックスの連合軍だったと歴史が語っている。
ちなみに一度目の聖戦は周辺国家を巻き込んでの大規模進軍だったが嘘か誠か白銀の騎士様がたった一人で追い返したと言われている。以来、周辺国家はこの聖戦にあまり乗り気ではない。
「とはいえ、確たる証拠がないので向こうには強く抗議できませんが……まぁ、その話はいいとして、そんなわけであなた達はエミリアを守ったのですっということになっております。あの子の言い分では……ね。なので、姫としてお礼もかねて招待したいそうなのですよ。まぁ、あの子がお忍びで学園祭へ訪れていたということになっておりますので、非公式の招待となります……が」
語尾がだんだん弱くなって、王妃様は深いため息を吐く。
(いや、それ、絶対後付けですよね。何とか私達を招待する為にこじつけただけですよね、王妃様ぁぁぁ)
などと、口にできるわけもなく、私はガックリと項垂れながら心の中で訴えるしかなかった。
「それでは、詳しくはお渡しした手紙をお読みください。後日、迎えを遣わせますので」
そう言って、使者の方が同情めいた視線を私達に向けた後、立ち上がって退出していった。そのそこはかとなく疲れたような背中を見送ると、私も同情心が沸き上がってくる。
(あぁ、きっとこの件でいきなり姫に振り回された人達がいっぱいいるんだろうなぁ。行かないとその人達が報われないか……)
私は手に持った手紙を眺めながら、深くため息を吐くのであった。
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