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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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いよいよ試合です

 闘技場についた私達は観客席の最上階、特別観覧席、所謂VIP席に王妃様を案内する。ここは個室になっており、他のむき出しの観覧席とはある意味隔離されている状態といっても良い。

 部屋の入り口、廊下には私とマギルカ、そして王子がいる。ここで私のお役目も交代なのだ。


「二人とも、ご苦労様。といっても、これからキミ達には試合をして貰うから、まだ終わりじゃないけどね」


「殿下のご期待に添えるよう、尽力いたします」


 労う王子にマギルカが礼をするので、私も鎧姿のまま続いて淑女の礼をしてしまう。

 そんな私の姿を見て、王子は微笑みながら踵を返し、個室へと入っていった。

 ふ~と、息を吐き、ようやく今まで張りつめていた緊張を解くことができた。


「さて、私も準備に戻りますわ」


 マギルカはそう言うと私から離れていく。


「あ、ありがとうね、マギルカ。ほとんど任せっきりになっちゃって。あ、後で何かお礼するよ、何が良い?」


 私の感謝の言葉にマギルカは足を止め、こちらを見ると、スッと目を細めた。


「いえ、お気になさらず。でも、お願いできるのなら、一つだけ」


「なになに? 何でもするよ、言って言って♪」


 嬉しそうに聞く私に一歩近づき、マギルカは私の耳元に顔を寄せてくる。周りに聞かれたくないのだろうか。


「次の試合、手を抜かないで下さいね」


「え?」


 私はドキリとして、マギルカの顔を見ようとするが、彼女はすぐに私から離れて背中を向けてしまった。マギルカがどんな表情で今の言葉を伝えたのか私には知る術がなかった。


「それでは、よろしくお願いしますわ、メアリィ様」


 振り返ることもなくマギルカは私から離れていく。私は今の彼女の言葉が理解し難く、固まったままマギルカが見えなくなるまで眺めてしまう。


「お嬢様?」


 少し離れて控えていたテュッテが不思議そうに声をかけてきて、私は現実に引き戻された。


「え、あ、ううん、何でもないわ。私達も戻ってサフィナと合流しよう」


 私は慌てながらも苦笑を漏らし、マギルカと逆の方へと足を進める。


(さっきの言葉、どういう意味なの、マギルカ。手を抜くなって、何でそんなことを……)


 マギルカの真意をはかりかねる私は、歩きながらも先ほどの彼女の言葉が耳から離れないでいた。




 私達に割り当てられている待機室へ行くと、そこにはすでにサフィナが準備に入っていた。頑丈そうな手甲をはめ、胸にはプレートを着けている。


「サフィナ、もう準備しているの?」


「あっ、メアリィ様。えっと、お、落ち着かなくって」


 私が声をかけるまでサフィナは私の存在に気がつかなかったのか、慌てて作業を止め、こちらを見てきた。


(勝敗は関係ないといっても、やっぱり緊張するわよね。しかも、王子と王妃様が見ているのだもん。無様な戦いなんてできないわ。特にサフィナは立派な家名があるし)


 そういう自分も随分と立派な家名を持っていることに気がつき、今から緊張し始めてしまう。


「「…………」」


(あぁぁ、本番前の待機ってどうしてこんなに蛇の生殺し状態なのよ。うぅ、緊張しすぎて吐きそう)


「サ、サフィナがそんなに重装備になるの、初めて見たわ」


「重装備って。メアリィ様ほどではありませんよ」


「あ、そっか。私、全身鎧だもんね」


 しゃべっていないと何だか気が重くなりそうだったので、無理矢理話題をふり、サフィナと一緒に苦笑いをこぼしあう。ちょっとは空気が和んできたみたいなので、私はこのまま話を進めることにした。


「そういえば、警備の方は大丈夫かしら?」


「えっと、指揮官代理に交代して、警備を継続してもらっています。とはいえ、もうこの闘技場のイベントが最後なので、皆こちらに集まり、園内の方は片づけに入っているところもあるそうですよ」


「そっかぁ、これが最後か、下手なことできないわね」


 長かったような短かったようなそんな気持ちになって私は天井を眺める。


「そ、そうですね。あ、そういえばメアリィ様は賊を捕まえたとか、凄いですね」


 軽く手を叩き、嬉しそうに話題を振ってきたサフィナには悪いが、それは目下、私の記憶から消去したい出来事なのであまり触れたくなかった。


「あ、ありがとう。偶然なのよ、偶然」


「それにしても、賊ですか。もしかして、私達あのマントの人に振り回された所為で、いろいろ見落としているかもしれませんね」


 サフィナが思案顔で言うと、私も何となく嫌な予感がしてきて無言になってしまった。

空気が益々重くなってきたことにはたと気がつき、私は話題を変えようと思考するが、良い案が浮かんでこず、その重苦しい空気も相まって緊張のレベルがアップしてくる。


「お二人とも、これからの試合について作戦を話し合ってはいかがですか?」


「それよ、テュッテ! 作戦、作戦♪ サフィナ、話し合おう」


 私達の無言っぷりにテュッテが助け船をくれ、私はすぐさまその船に飛び乗った。


「はい。えっと、普通に考えますと、ザッハさんが攻撃一辺倒で、マギルカさんがそれの援護、もしくは遠距離攻撃となるのでしょうか?」


 サフィナもテュッテの船に乗っかる。


「そうなるわよね、あの二人を考えると。となると、ザッハさんの動きを封じつつ、マギルカとの距離を縮めるのが最適かな~」


 私は兜を外した状態で顎に手を当て、考え込むように天井を見た。


「私がザッハさんの相手をして足止めし、メアリィ様がマギルカさんへと直接攻撃をかける。メアリィ様は魔術師であると共に剣士でもあるのですから、そこを上手く使うのが無難かと思いますが。それから、ザッハさんを必殺技で……」


 サフィナは案をあげつつも、何だか釈然としない顔だ。


「その気持ち分かるわ。あのマギルカがそこら辺に気づかない訳ないし。何かしら策を弄じてくると思うのよ。あ~ぁ、もうちょっと二人の情報をカーリス先輩達から収集しておけば良かったわ」


 それから随分と話し合ってみたもののこれといって良い案も浮かばず、とりあえず無難な作戦だけが私達に残り、係りの生徒が私達を呼びにきた。


「いよいよか~。頑張りましょうね、サフィナ!」


 私はサフィナの前に手を差し出す。

いきなりの動作にサフィナは首を傾げ、手の甲を上にしている私の手をどうしていいのか分からずマゴマゴしていた。


(あ、そっか。この世界ではこういうのやらないんだ)


「サフィナ。私の手の上にあなたの手を乗せて。皆で気合い入れるわよ。ほら、テュッテも一緒に」


「へ? 私もですか」


「当たり前じゃない、あなただって一緒に練習してきたチームの一員なんだからね。ほら、二人とも早くッ早く♪」


 手を差し出したまま、私は二人を急かす。すると、二人は一回顔を見合わせた後、クスッと笑いあい、私の手に自分たちの手を添えてくる。

とりあえず、私がファイトと言ったら、オォ~と言ってねと伝えて、皆の手を眺めた。二人もそれに習う。


「よぉぉし、あれだけ練習したんだから、自信を持って思いっきりぶつかっていきましょう。この試合、勝つ……とまでは言わないけど、めいいっぱい楽しみましょうねッ!」


 私は一度、二人を見渡し、そして再び手の方を見た。


「いくわよ!ファイトォォォッ」


「オォォォッ!」


 私のかけ声と共に二人が声をあげる。


(あぁぁぁぁ♪ これ、やってみたかったのよね。夢叶ったわぁぁぁ♪)


 私は高揚した気分のまま二人から離れると、その勢いのまま案内係の待つ廊下へと出るのであった。




 私達は試合会場の出入り口前で待機し、そこで王子がVIP席から姿を見せる。


「会場の皆に伝える!」


 声を大きくし周囲に聞こえる拡声魔法を備えた魔道具を用いた王子の声が周囲に響き、会場が静かになった。


「決勝戦が無事終了し、表彰の前に私から一つ、模擬試合を提供させてもらいたい。これから行われる試合はソルオスとアレイオス、双方にとっても有意義なものだと思っている。皆、観戦してもらえると嬉しい」


 王子の言葉が終わり、姿が見えなくなると会場がざわめきだし、案内係の生徒が私達を会場内へと誘導してくる。

 さっきまでの高揚感はどこへやら、改まって王子の前振りを聞いていた所為で緊張感がぶり返してしまう豆腐メンタルな私。

 ゴクリと唾を飲み込み、全身鎧をカシャカシャと鳴らして試合会場へと歩き出した。

 どよめきはさらに大きくなり、周りで驚きの声があがってくる。


「あの鎧は、まさか白銀の騎士様? にしては小さいな?」

「あれは、白の姫君……と、隣にいるのはカルシャナ嬢だよな」

「ソルオスとアレイオスの生徒がなぜ?」


 皆の声を目ざとくも耳が拾ってきて、私のドキドキの火に薪をくべてくる。

 そして、前方、私達と対面にある出入り口からもう一組が現れた時、私はヒュッと息を飲んでしまった。

 そこに立つのはザッハとマギルカ。

別に彼らに驚いたわけではない、だが、その出で立ちに私は驚愕させられた。

ザッハはサフィナと似たような装備を手と胸につけている。それは良い、想定内だ。

だが、彼が持っている武器に私は驚いた。


盾。


 そう、ザッハは予想外にも盾と剣を持っていたのだ。

さらに驚くのはその盾の精巧さと太陽の光に反射する輝き。どう見てもそこら辺に置いてあるような盾じゃない。言ってしまえば、勇者の盾みたいな伝説級の代物に見えた。

 そして、マギルカ。

彼女もまた武装していた。何だか曰くありげな精巧な手甲を左腕にはめ、右手にはこれまた豪奢な杖を持っている。その杖も魔法補助に使うには彼女の身長を超えていて長すぎる。さらに、ブレスレットやアミュレット、イヤリングとこれまたお洒落とはほど遠い、何とも曰く付きなものを身につけていた。簡単に言えば、全身マジックアイテムに包まれている状態だったのだ。


「え……二人とも。何、その武装?」


 失礼ながらも私は思わず二人を指差ししてしまう。


「マジックアイテムは使用可能ということでしたので、持ってきました。あ、最初に断っておきますが、これ、全て宝具級ですわよ。お爺様のコレクションからお借りしましたの」


「ほ、宝具級!」


 しれっと凄いこと言ってきたマギルカに私は思わず聞き返す。

宝具級、その響き通りそれはとても価値があり、学園の一生徒が易々と使用していい代物ではないはずだ。それが何でこんな所にぞろぞろと……。

余談ではあるが、マジックアイテムには下級、上級、宝具級、伝説級、神話級、とある。下級、上級は量産がきき広く一般に広まっており、伝説級、神話級はそれこそ神や、それに近い存在が作った代物で数がかなり少なく、宝具級は人が作った代物でその中では最高峰の一品物と言ってしまえばその価値が分かるだろうか。


「ええ。研究のためと称して無駄に集めたお爺様のコレクションをお借りしました。やはり武器は飾っておくより使うものだと私、思いますの」


「……ん~と、ちなみに許可は?」


「お爺様は学園祭を盛り上げられるなら協力を惜しまないと最初に約束していただきましたわ。これも盛り上げるための一環です。お爺様もさぞ喜んでいらっしゃることでしょう」


「つまりは無許可というわけね」


(今頃、あのVIP席で王妃様と一緒に見ていた学園長が泡吹いて倒れてるんじゃないかしらね~。まぁ、全部私達に丸投げした罰だと思うことにしよう)


「あ、あの~、メアリィ様。私も実は宝具級だったりします。このくらいしないとメアリィ様の足を引っ張ると思ったので……」


 私がハハハと乾いた笑いを零していると、申し訳なさそうに隣に立つサフィナが自分の持っているマジックアイテムを見せながら申告してきた。最後の方は小さな声だったのでよく聞き取れなかったが。


「揃いもそろって嘘でしょう……」


 私は深いため息と共にがっくりと肩を落とした。


(キミ達はこの試合、何と戦うつもりなんだい? そんなものを使わないといけない恐ろしい相手でも……)


 そこで私ははたと気がつく。


「ま、まさか、その装備。対メアリィ用とか言わないわよね」


「もちろん、対メアリィ様用に決まってますわ! 白銀の騎士様であらせられるメアリィ様にはこのくらい装備しないと対抗できませんものッ!」


「こんな身なりだけどあの白銀の騎士じゃないもんッ! お願いだから同一視しないでよォォォッ!」


 私の訴えは会場内のどよめきと歓声にかき消され、響き渡ることはなかった。私は全身鎧のまましゃがみ込み、地面にのの字を書き始める。


(もう、帰りたい。泣いちゃうよ、私)


 試合が開始される前から私は思いっきり精神ダメージを受け、いじけてしまうのであった。


活動報告にも書きましたが、GCノベルズ様のサイト内に公式特設ページが公開中です。キャラ紹介などありますので皆様、ぜひご一読を!

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