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ああ、楽しい!

今回は格闘回です。格闘表現は難しいものだと痛感しました。ブックマークありがとうございます。

「どうも、初めまして、ザッハ様、私はメアリィと申します」


 私は格好が格好だったので軽く会釈すると自己紹介を簡単に済ませる。ついでに、とびきりのスマイルをくれてやる。


「ふ、ふん…」


 すると彼は、少し頬を赤くしてそっぽ向いた。

幼い男の子の恥ずかしいけど意地を張っちゃう感じがまた何とも微笑ましい。

っと、見ていたら、ザッハの頭にチョップという名の鉄拳が振り下ろされた。


(今、ゴッて凄い音したけどマジ殴りですか…あなた手甲はめてますよね、こ、怖い…)


「何照れてるんだ、このませガキがっ!メアリィ様もこんな奴に様付けはいりませんよ、呼び捨てで結構」


 その場で頭を押さえてうずくまるザッハ。マジで痛そう…


「あ、あの…伯爵様。私は武術を教えてもらうはずなのですが?なぜザッハ…さんを紹介されるのですか?」


 いきなり呼び捨てもあれだったのでさん付けにしておいた。


「クラウスで結構です。伯爵呼ばわりなんて柄じゃありませんから」


「はぁ…」


「こいつは今日からお嬢様の組み手の相手をさせるつもりで連れてきました。同じ背格好の方がいいと思いましてね」


「なっ!父上!俺にこんな弱そうな女の相手をしろというのですか!」


(おっと、やっとしゃべったかと思ったら「こんな」呼ばわりですか、いい度胸ね)


 起きあがって文句をいうザッハにまた鉄拳が贈られた。


「勘違いするな、お前は練習の為の人形だ、お嬢様の為に一方的に殴り飛ばされていろ」


「なっ!」


「お前は少々、自分の力に自惚れ過ぎだ。いい機会だし、少しは相手の痛みを知れ」


(ちょっと、クラウス様、息子の教育に私を巻き込まないでくれますか)


 どうやらザッハはその歳では考えられない程の武に対する才能と力を持っているようだ、同世代、もしくはそれより少し上の人間すら太刀打ちできないほどの腕前だとクラウス卿は私に補足してくれる。所謂、向かうところ敵なしで天狗になっているといった状態なのだろう。

 理不尽な要求だが、ザッハは父の言うことに逆らえないのか渋々と言った感じで一歩引く。他の家族を見ると、自分がいかに甘やかされていたのかがよく分かってくる。


(甘々な生活をありがとう、お父様、お母様!今度、お父様には大好きって言っておきましょう)


「さて、時間もありませんし、さっそく、基本から始めましょうか」


――――――――――


 それから数時間、クラウス卿は私に体術の構え、力の入れ所、呼吸の仕方を、それはもう懇切丁寧に優しく教えてくれた、顔は怖いけど。

とても教え方が上手かったので私はすぐに型を覚え、踏ん張って拳を繰り出すのに、体勢を崩すことが無くなっていた。これなら体術の教師でもやっていけるのではないかと思うくらいの優秀っぷりだ、まぁ、顔は怖いけど。


「なかなかのみこみが速いですね、お嬢様は。ザッハなんてこれを覚えるのに3日は掛かりましたよ」


「へ~、そうなんですか」


「あ、あれは5つの時だったから。今なら、数分でできます」


 私に感心するクラウス卿が面白くないのか、私に対抗心を燃やすように訂正をいれるザッハ。なんだかんだ言っても、ザッハは父を尊敬しているみたいだ。


(それにしても、5歳で相手を殴る体術を修得するか。なんて戦闘バカなのだろう、私のお父様みたいだわ。まさか、岩とか持ち上げてないでしょうね)


「では、ちょっと組み手も練習してみますか、ザッハ、相手をしろっ」


「はい…」


 諦めたのかあっさり従うと、ザッハは私の前に立った。

いや、あっさり従っていない、その気迫といったら震え上がるほどだ。


(あのザッハさん、目で威嚇しないでくれます、怖い、怖いからやめて)


 そんな事が二人の間に行われているとは露知らず、クラウス卿は組み手を教え始めた。


「敵がつかみかかって来たら、まず体を横にずらしつつ、その手を掴み」


 私はクラウス卿が操る人形のように、彼の手取り足取りに合わせて体を動かしていく。


「そのまま奥へ引っ張りつつ、身を屈めて足を左から右へ払う」


 ポスッとザッハの無防備な足に私の足が当たるが、彼は足払いされる気がないのか、微動だにしない。

まぁ、スローで軽くやっているので、転べと言うのが無理な話か。


「よし、では、この一連の動作を覚えてもらいましょうか」


「はい!」


 私は言われたとおりに口で復唱しながら、黙々と一連の動作を続ける。相変わらず私に足払いされる気のないザッハ。

 それから数十分、同じ事を延々と繰り返すうちに、私の動きが速くなっていくのが自分でも分かってきて、何だか楽しくなってきた。

思えば、こんなに体を思いっきり動かしたのは初めてかも知れない、それが楽しくて楽しくて仕方なかった。


「うんうん、なかなかいい線いってますな、お嬢様。才能があるのではないですか」


 なんて、誉めるクラウス卿がいるものだから、ますます調子に乗る私。その言葉が気にくわないのかザッハの掴み掛かってくるスピードが心なしか速くなってきているような気がする。

とはいえ、反応できない速さではなかった。


(このやろう、私が失敗するようにちょっと本気で動き始めやがったわね)


 私も何となく対抗心が燃え上がり、彼のスピードについていこうと体を動かす。


「そろそろ、一回、本気で動いてみましょうか」


 クラウス卿のその言葉に、私とザッハの目が合い、キラリと光合う。

先に動いたのはザッハだ、彼は今までとは比べものにならないスピードで私に掴み掛かろうとしてくる。

私はそれを手で凪ぎ、体をズラしながら屈み、がら空きの彼の足を自分の足で払った。もちろん、ザッハは払われまいと踏ん張っている。


スパァァン!


 いい音が鳴って、ザッハが地面と平行になり、そのまま倒れた。

その顔は何が起こったのか分からずポカ~ンとしている。

ふふ~んという勝ち誇った顔で私は体を起こすと、彼は顔を紅潮させ、勢いよく飛び起きた。


「今のは油断しただけだ、もう一回!」


「あら、いいですわよ」


 それから数十分の間、彼は見事に空中を跳び、地面に叩きつけられ続けた。


(あぁ、楽しい!楽しすぎるわ!体を動かすの楽しすぎるぅぅぅ!)


 思うように体が動く楽しさ、ついでに小生意気な男の子をねじ伏せる高揚感に私ははしゃぎまくっていた。


「ふむ…今日はここまでにしておきましょう、お嬢様。ザッハの方がもちませんから」


「へ、あっ、そうですね」


 クラウス卿に声を掛けられ、私は我に返ると、美少年が台無しなほどに泥だらけになったザッハが寝転がっていた。


「ザッハに少しは攻撃を受ける側の気持ちを教えようと連れてきたのですが、まさか、こいつの鼻っ柱をへし折るとは、さすがフェルディッドの娘ということですかな、ハハハッ」


 荒い息を吐いている彼に対して、私は全く呼吸を乱さず、汗一つかいていなかった。


(これが…レベル差っというやつですか)


 我に返って、自分がやりすぎたことに気がつき、慌てて彼を起こそうとすると、ザッハは私の手を借りずに立ち上がった。


「きょ、今日はたまたま調子が悪かっただけです…でなきゃ、この俺がこんな貧弱な娘に後れをとるなんて」


(強がりもここまでくるとたいしたものね、でも私がおかしいとは思わなかったのは助かったわ)


 正直、自分もそれほど本気で力を出していたわけではないが、もし、もうちょっと本気を出していたら確実に不審がられていたかもしれない。そう思うと、このくらいの力加減がちょうどいいのかと今回の件はいい収穫になった。


「メアリィ!次こそは負けないから、覚悟しておっ!」


「メアリィ様だ、このバカ息子」


 捨て台詞も最後まで言わせてもらえず、ザッハはクラウス卿の鉄拳であえなく沈む。


 こうして、私は、同年代の男の子のお友達を手に入れ…いや、小生意気な練習相手を手に入れたのであった。


(でも、体を動かすのはやっぱりいいわ♪ありがとう、神様!私をこんなすばらしい世界へ連れてってくれて!私、とっても幸せです!)


 私は心の中で神様に手紙を送った。





 そして、数日後、私は不幸のどん底にたたき落とされていた。

私の手には豪奢な手紙が一通握られている。

その手紙の内容は、王子が私に会いたいそうなので、王宮へ来いっという感じのお達しだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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