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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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そ、そんな、バカな……

 今、私達はあらかじめ決めてあった道を歩いている。


「っと、このように学園で学んだ知識を昇華、研究を重ねた結果を露店、展示会といった形で皆様に見ていただいているというわけです。大人の方からみましたら稚拙なものかと思いますが」


「いいえ、素晴らしい試みです。恥じることはありませんよ」


 マギルカの説明に王妃様は周りを見渡しながら称賛した。私はというと、羞恥に震えている真っ最中で、頭の中は真っ白である。というのも、今、私の周りには正当な騎士の方々が控えているのだ。立派な騎士の鎧を身にまとったカッコいい殿方達の前を歩くちんまりした全身鎧の女の子。パチモン感半端なくて恥ずかしいったらありゃしない。


(あぁ、さっきまで走り回っていたから汗くさいかな……大丈夫よね、た、たぶん)


 なるべく皆から距離をとりたいのだが、そうも言ってられないのが現状であり、ソワソワと落ち着きがなくなってくる。


「それにしても、警備の生徒達は見事に統制がとれていますね、メアリィ」


「ひゃい!」


 急に名前を呼ばれて、ビクッと私は反応し、声が上擦ってしまう。


「……皆さん、本部からの伝達魔法で連絡を取り合い、指示に従って動いてますので」


「まぁ、伝達魔法を? そんなものを利用するなんて考えもしませんでしたわ。メアリィはとても聡明なのですね」


「い、いえ、これは殿下……」


「はい、メアリィ様のおかげで警備だけでなく学園内の連絡手段がとてもスムーズになって私達も助かっております。最高責任者である殿下もいろいろ補佐してくれてとても助かったとおっしゃっておられました」


「あらあら、まぁまぁ♪ あの子が」


 私が必殺、全ては王子の力です戦法を発動しようと思ったら、マギルカが合いの手を入れてきて、私をよいしょしてきてしまった。


(お願いだから、私を持ち上げないで)


 友達や高貴な方に誉められるのは正直嬉しい。とはいえ、今までいろいろやらかしてしまった経験を生かすと、これは私にとって不味いパターンである。後、嬉しいけどこっぱずかしくもあったりするので、なんとか、話題を変えたいのだが……。


「ちょ、ちょっと、行き先の方を確認してきます」


 そう言って、話題を変えることが出来ない私は逃げ出した。だって、気の利いた事なんて私には言えないから。あと、墓穴を掘りそうな気がしたから。

 と、私はとある展示スペースを素通りしようとして、足を止めてしまった。

 理由は簡単。

 そこが墓地だったからだ。

よく見ると、それは張りぼてで作られているらしく、本物ではない。

だが、私が足を止めたのはその風景もさることながら、何となくいや~な予感がしたからだ。


「あ、あの~、アンデッド研究会の展示場に何かご用で」


 全身鎧の人間が展示場の前で仁王立ちしていることに怯えながらも研究会の生徒が声をかけてくる。


(墓地+アンデッド=アリス先輩)


 私は瞬時にこの計算を打ち立ててしまい、いやな予感が倍増する。私は兜を外し、顔を見せるとしまっていた腕章を彼に見せた。


「警備の者です。この展示物はあなた達が作ったのですか?」


 私が警備の者だと知って、生徒から怯えが消える。


「いえ、張りぼてなどは大人の人に作ってもらいました。僕達は研究資料を展示しただけです」


「その展示の中に銀縁眼鏡をかけたお姉さんがいらん世話をしませんでしたか?」


「もしかして、アリス先輩のことですか? あの人には大変感謝していますよ。とても素晴らしい知識をご教授していただき、なんちゃって召喚陣なる物も描いていただきました」


「召喚陣?」


 私は嬉しそうに語る生徒の不穏なワードに反応する。


「はい、実際召喚陣が展開されている方が雰囲気が出るでしょうと先輩が描いて下さいました。とはいえ、アンデッドの召喚陣なんてそう易々と作れるものではないので、なんちゃって召喚陣だと思いますけど」


 楽しそうに笑って言う生徒に私は青くなる。


(いやいやいや、あの人、それに人生かけてるから。なんちゃってどころか本物よ、それッ! あの先輩、とんでもないものを置き土産にしてくれたわね)


 先行してきて良かった。王妃様達が来る前にその危なっかしい召喚陣は消去しなくてはならない。


「その召喚陣はどこです」


「え? 奥の方に……」


 私の質問に少々焦りながら振り返り、後ろを見て生徒は言葉を濁した。そこには全身マントで覆い隠した人が地面に描かれた召喚陣にこそこそと何かをしていたからだ。


「エェェミリアァァァッ!」


 私は生徒を押し退け、マントに向かって怒鳴った。王妃様の指示で現在侍女の服を着せられているはずの少女と似た全身マントに私は、彼女が逃げ出し、また悪戯しようとしているのだと思って、全力で止めようとする。

 私の声に驚き何かしていた作業を中断する目標に向かって低空に飛ぶと私は一気に距離を縮めた。


「ッ!」


 驚いたマントの人が私に向かって何かを引き出して横薙きしてきた。私は腕を出し、それを鎧で受け止めると何かが砕ける音が響く。

だが、そんなこと私は気にしない。

またこのお姫様にいらぬ騒ぎを起こさせないためにも、ここでキッツいの一発ぶちかましてやる一心だった。


「メテオ・ストライクッ(物理)!」


 私は持っていた兜をそのままボウリングを投げるように振りかぶり、目標のボディに向かって思いっきり投げつける。至近距離からの私の兜投げをもろに受け、マントの人は物凄い勢いで後ろへ飛んでいき地面へと転がっていった。


「ハァ、ハァ、全く、アリス先輩といい、エミリア姫といい、騒ぎをおこさ」


「妾がどうしたのじゃ?」


 息を整え、悪態をつく私の後ろから聞き覚えのある声がして、私は言葉を失った。


「えッ! あれ? エミリア姫!」


 私は後ろを振り返り、そこに立つ侍女服に身を包んだ女の子と、地面にノビているマントの人を交互に見てしまう。


「あれ? ここに姫がいるってことは、こっちのマントの人は?」


 私はフラフラとエミリアに近づこうとして、彼女はバッと後ろに下がっていった。


「ち、ちちち、近寄るでないわ、白銀!」


 エミリアの顔が青い。顔が見え、中身が私だと分かっていてもいまだこの鎧への恐怖が拭えていないらしい。


(いや、そんなことはどうでもいいわ。それよりも、私が天誅してしまった人はどちら様?)


 私はもう一度ノビている人の方を見ると、すでにそちらにはクラウス卿が立っていた。私は屈み込んでマントを捲り上げる彼に近づき、一緒にのぞき込む。すると、中から小柄の男が気を失っている姿が見えた。


「こいつ、武器を所持してますな。おそらくはどこかの……」


 クラウス卿の言葉通り、その男は折れたダガーを持ち、腰にも数本のダガーとナイフを所持している。


「武器なんて、この学園には持ち込めないはず」


 当たり前だが、訪問客が学園内に武器を持ち込むことは禁止されている。こればかりは先生方が目を光らせ、今日は近衛騎士様達も加わっているから見落としはないはずだ。


「おそらく、学園祭が始まる日より前に侵入し、隠していたのでしょうな」


 私の疑問にクラウス卿が推測を言ってくれ、ピンときた。


(そういえば、学園祭が始まる日の前に怪しい人を見失ったって報告が……あれはエミリア姫じゃなかったんだ。それに、昨日もチラッと見たような気がする)


「狙いは王妃様か……はたまたお姫様か……」


 立ち上がったクラウス卿の呟きは近くに寄っていた私にしか聞こえず、私は不安そうに彼を見上げてしまう。

それに気がついたのか、クラウス卿はニカッと笑うと私の肩に手を置いた。


「にしても、さすがお嬢様だ。事前に察知して間者を捕らえるなんてお手柄もお手柄ですなッ、さすがは白銀の騎士様だ」


「へ?」


 クラウス卿の言葉が一瞬分からず、間抜けな声を出してしまう私。


「あ、いや、私はただ、恥ずかしかったから先に行って、何か怪しい展示物を見つけてその中にアリス先輩の置き土産があることを知って、それを消そうとしたら、マントの人がいて、てっきりエミリア姫だと思って、天誅を」


 ノーブレスでそこまでまくし立てた私はゼ~ハ~と荒い呼吸をする。そんな私にクラウス卿は再び笑顔で肩を叩く。


「なんにしても、お手柄ですな」


「ほんとうにお手柄ですよ、メアリィ。これは褒美を与えませんといけませんね」


 さらに私を追い込む王妃様の声に私は慌ててそちらを向いた。


「い、いえ、滅相もございません。褒美だなんてそんなつもりは。学園祭の治安を守る警備の責任者として、当然のことをしたまでです。そ、それに、公爵家の令嬢として王家のお役に立てることはこの上ない幸せ、ですので褒美など」


 我ながら良い感じの言い訳に私はこれで逃げきれると確信する。


「その謙虚さ、その忠義、気に入りました。ますますあなたの働きに応えなくてはならないですね、この件はまた後日に」


(やめてぇぇぇッ! 王妃様から褒美を貰うなんてことになったら、私、学園祭という森から出てきちゃう、隠れられなくなるよぉぉぉっ! 何か、何か良い言い訳を)


 気ばかり焦る私は口をパクパクさせ、目を泳がせてばかりで、そんな私を微笑ましく見続ける王妃様。


(ダメだァァァッ! 良い案が浮かばないよぉぉぉ)


「王妃様、こちらの処理は我々に任せて。少し早いですが先に闘技場へお入り下さい。あそこの特別観覧席は警備も厳重ですので」


「そうですね。では、メアリィ、マギルカ、案内を」


「はい、王妃様。では、参りましょう、メアリィ様」


「え、あ、あの、ちょっと待って。私の話を」


 皆がこの話は終わったかのように作業を開始する。私はそのままマギルカに腕をからめられ、ズルズルと現場を後にするのであった。


【宣伝】8月30日(水)GCノベルズ様より「どうやら私の身体は完全無敵のようですね」書籍版、発売予定です。よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほとぼりが冷めるまで無人島暮らしをした方が良いレベルで失敗しまくってる・・・合掌。
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