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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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学園祭初日です。

 いよいよ学園祭が始まった。とはいえ、初日は武術大会の予選が行われるくらいなので、訪問客は例年通りの数と大差ないらしい。


(くっ、当たり前なことだけど警備は初日からきっちり仕事しないといけないのよね)


 私は警備本部を抜け、今はブラブラと散歩している最中である。


(別にサボっているわけじゃないわよ。今はサフィナと交代して休憩しているんだから)


 私は誰に言うわけでもないのに、心の中で言い訳する。校舎内はいろいろな物で華やかに飾られ、今なお、準備に動き回っている生徒達の声が響きわたっていた。基本的には生徒が皆で準備をするのだが、大がかりな部分や専門的な部分、備品などは商家の人達が送ってきた大人達の手を借りている。まぁ、貴族の方もいるので、怪我をするような力仕事は避けるべきだし、学生だけで行うには限界なこともあるのだ。

 で、その商家の人々だが、雇われたわけではない。所謂ボランティア活動である。一銭の得にもならないことをよくもまぁ、商人が引き受けたものだと思ったが、学園への宣伝、後に繋がるコネクション作りの一環でもあるのだそうな。加えて、今回は王子主催だ、上手くいけば王家の覚えが良くなるやもしれない。まぁ、先行投資といった感じなのだろう。

 私は慌ただしい校舎内を眺める。皆楽しそうに、あれやこれやと言い動き回って準備していた。その雰囲気は私が思い描いた文化祭の準備中風景にとてもマッチしており、何だか念願叶った気分で、私の心も高揚してくる。


(あぁ、これが夢にまで見た学園祭なのね。私も皆と一緒にメイド喫茶とかお化け屋敷とかしてみたかったな。まぁ、残念ながらそんなことする人達はここにはいないけどね)


 私はちょっぴりがっかりしながら校舎を出て大通りに出ると、そこでは通りに沿って露店がいくつか並んでいた。準備中のものもあれば、営業中のものもある。武術大会の予選会場近くではほとんどが開店しており、観に来た訪問客の数人が興味深げに露店前を散策していた。その一つからとても美味しそうな匂いが私の鼻に届いてくる。


(あぁ、甘いお菓子の焼ける匂い。クッキーか何かかしら)


 フラフラと匂いにつられて私はその露店の前に行くと、女生徒達が楽しそうにお菓子を作っている。もちろん、後ろには専門の大人が見守っているが。


「いらっしゃいませ、あっ、メアリィ様」


 私に気がつき、一人の少女が声をかけてきた。


「あら、フィーネルさんじゃないですか、こんな所でお店を出していたのですか」


 私に微笑みかけてきた少女フィーネルは、マギルカが作った魔草薬学研究の会の一人で、マンドレイク事件の時に協力してくれた子だ。


「はい、魔草を使った飲み物やお菓子などどうかしらっとメアリィ様に助言を頂いて、皆でいろいろ試行錯誤して作ってみました」


 フィーネルは嬉しそうにできたばかりのクッキーを私に見せてくる。そういえば、そんな無責任な発言してたわねと私はクッキーを見る。ほんのりと甘い匂いに誘われて、私のお腹が空腹を訴えだしてきた。


「お嬢様、お腹が空かれたのですか?」


 私のお財布がわりのテュッテが前に出て、聞いてくる。勘の良いテュッテの言葉が何だか食い意地張ったご令嬢みたいで、私は恥ずかしくなり思わず顔を赤らめて虚勢を張ってしまう。


「ち、違うわよ。お腹が空いたんじゃなくて、警備責任者として、衛生と品質チェックをしようと思って買おうとしたのよ」


「それはお嬢様の仕事ではないと思いますが」


 私が咄嗟に口にしたガバガバな言い訳に半眼になって即座に切り捨てる優秀な私のメイド。その見事なバッサリ感に私はうぐっと押し黙ってしまった。何だか、フィーネル達も私を微笑ましいものでも眺めるように生温かい目でこちらを見ているではないか。


(うぐぐ、このメアリィ・レガリヤ。腹ぺこキャラのポジションに収まる気なんてないわよ。ええ、断じて)


 私は皆の視線から背を向け何か良い案がないかと思考する。購入を止め、露店から離れればいいものを、私は何とかあの美味しそうな甘味達を手に入れたい一心で言い訳を考えていた。まぁ、その時点で、もうアウトなのだが。


「そう、これでも学園祭の発案者の一人だから、いろいろチェックッ」


「ここに、正直者しか食すことが許されないモノがございます」


 私が光明を見いだす新たな言い訳をしようと振り返ると、いつの間にか購入したクッキーの袋をこちらに見せるテュッテ。


「お腹が空きました。食べたかっただけです」


 私は一瞬にして正直者へとジョブチェンジするのであった。




「あ~ん♪」


 ほくほく顔で私はテュッテから受け取ったクッキーを一枚頬張る。


「うん、いつも食べるクッキーとはなんか食感とか味が異なっていて、なんか新鮮ね。これは何か入っているの?」


「はい、マンドレイクの汁です」


「ブホッ!」


 笑顔でサラッというフィーネルに私は食べていたクッキーで咽せかえってしまう。私にとってマンドレイクのいうキーワードは禁句に近い。ある意味恐怖の対象といっても過言ではなかった。それを口にしてしまったという事実と共に、あの皆に追っかけ回された恐怖がプレイバックする。


「あ、でも大丈夫ですよ。亜種の汁ではないので、魅了効果もないですしとっても体にいいんですよ、それ」


「大丈夫ですか、お嬢様。これを飲んでください」


 咽せる私の背を撫でながら、テュッテが買ったばかりの飲み物を渡してくれた。


「あ、ありがとう、テュッテ」


 私は確認することなく渡された飲み物を飲む。そして、味覚を刺激するとんでもない苦みに私は顔をゆがめてしまった。


「にっがぁぁぁッ!」


 私が体験したことのない、およそ人類が飲むべきではないと思えるようなくそまっずいモノに私は思わず叫ぶ。吐き出さなかっただけでも令嬢として褒め称えて欲しいくらいだった。


「そちらは魔草の中でもとっても体にいいと言われているモノを全てすり潰して混ぜ合わせた自慢の一品です。まぁ、死ぬほど不味いのが難点ですけど。体にはとても良くって、結構癖になりますよ」


 自信たっぷりにフィーネルがつらつらと説明してくる。私はぜ~は~と荒い息を吐きながら、持っていたカップをテュッテに突き出した。


「ちょっと、テュッテさん。さっきからまるでコントのような展開なんだけど、もしかしてわざと? ねぇ、わざとなの?」


「こんとっというのが何なのか分かりませんが、そ、そんなことありませんよ。偶然です、偶然。だから、ね、お嬢様。カップを持ってじりじり近づいてこないでください」


 鬼気迫る私の迫力にテュッテが苦笑いをしながら後ずさっていく。


「テュッテ。私達は主人とメイドを越えた運命共同体よね。だったら、運命を共有しましょッ♪」


 満面の笑みで私はオドロオドロしい色の液体が入ったカップをテュッテに向ける。


「ご勘弁を、お嬢様ァァァッ」


「あっ、待ちなさい、テュッテェェェッ!大丈夫よ、死にはしないわ、悶絶するくらい超まっずい味が胃の中を駆け回るだけよォォォッ!」


 逃げ出すテュッテを私は意地悪な顔で追いかけるのであった。




 数分後、青い顔をして時折り嘔吐くテュッテを連れ、私はホクホク顔で露店が並ぶ通りを歩いていた。


「あぁ、良いな、露店。これで、焼きそばとたこ焼きとお好み焼きとかき氷とリンゴ飴とチョコバナナと綿菓子があれば最高なんだけど」


「うっぷ……お嬢様が求める物全て、私には全くわからないものなんですけど。それは全て食べ物なのでしょうか?」


 もう開き直って食いしん坊キャラと化した私に、復活し始めたテュッテが不思議そうな顔で聞いてくる。


「そうね、前世の記憶にある食べ物よ。お祭りとかで食べるものだけど、私食べたことなくって憧れてたの」


「そうですか、それとなく探してみますので詳しく……」


 テュッテが詳細を聞こうとすると、それに被さるように前方からざわめきが聞こえてくる。私はテュッテを見るのを止めて、その騒ぎへと視線を向けた。

 そこには何かを露店の生徒に言っている全身をローブで包み、フードを目深に被った怪しさ大爆発の者がいた。内容は分からないが声からして若い女性のようだ。一応休憩中なのだが、見て見ぬ振りをすることはできない。私は意を決して騒ぎの中へと入っていく。


「何事ですか? 騒々しいですよ」


 私は冷静に格好良く、仲裁に入った。


「…………」


 一瞬の沈黙。皆私の登場に驚いているようだ。


「ジャッジメントで……じゃなくて、警備の者です。騒ぎは御法度ですよ」


 私はご令嬢方がせっせと刺繍してくれた警備の者を示す腕章を皆に見せながら、思わず口走りそうになった言葉を呑み込み、軌道修正する。


(ふふ~ん♪ 格好良く登場して腕章も見せて、きまったわ、私)


「お嬢様、一旦その手に持つお菓子やら何やらの食べ物を私に渡してくださいませんか。皆様、引いてらっしゃいますよ」


 いろんな食べ物の箱や袋を抱えながら自分に酔いしれるダメな私に、テュッテが後ろから静かに現状を耳打ちしてきた。


「~~~ッ!」


 私は声にならない声をあげ、耳まで真っ赤になって慌てて抱えていた戦利品をテュッテに渡す。


「ウオッホン! 警備の者です。騒ぎは御法度ですよ」


「「「仕切り直して無かったことにした」」」


 露店周りにいた皆の辛辣なツッコミに私は冷や汗を垂らしながら、それでも強引に話を進めていく。


「そ、それで、一体何の騒ぎですか」


「え、あ、いや、このお客さんが……あれ?」


 露店にいた生徒が誰かを見ようとして、そこに誰もいないと知るとキョロキョロしだす。先程までいた怪しさ大爆発の全身ローブ女性(?)は忽然と姿を消していたのだ。


(そういえば、先日の訓練で見失ったと言ってたのも、全身ローブのフード被った人だったわね。正体を隠してコソコソと何をしているのかしら)


 何だか物語に登場する悪の組織が何かを企み秘密裏に動き回っているように思えて不安になってくる。


「それで、何をもめていたのです?」


「それが……注文されてから串を焼いてたのですが、焼いてるのが待てなかったのか、お客さんが炎魔法を料理に打ち込もうとして……止めてました」


 私の中にあった悪の組織が音を立てて崩れ、ものすごいお子様組織へと変わっていく。何ともはた迷惑な事件に私は頭が痛い思いだった。


(注文した料理を自ら消し炭にする気なの? 誰よ、そんな幼稚な発想をする奴は。あの身長からすると私達と同い年のような気もするんだけど、正体を隠すってことはここの生徒じゃないのかしら。でも、今は一般入場が可能なんだから部外者が入ってきても問題ないんだけど。それでも顔を隠さなければならない人って……)


 私はそこまで考えて、イヤな結論に達する。


(あ~、いたねぇ。ごく最近、私達と同じくらいの背丈で、学園祭に興味あって、正体隠さないといけない人)


 私は王宮で会ったハイテンションなお姫様を思い浮かべて、首を振り、その考えを頭の外へ追いやろうとする。


(いや~、ないない、いくらなんでもそれはないわ。よし決めた。見なかったことにしましょう。触らぬなんとかに祟りなしよ)


 下手にちょっかい出すとろくなことにならないと私は判断し、本部に報告せずこの案件をもみ消すことにする。


(あぁ、今なら厄介事をもみ消そうとする偉い人達の気持ちがちょっぴり分かるような気がするわ)


 こうして、私の学園祭はなんとなくいや~な予感を醸し出しながらスタートするのであった。


 活動報告にも書きましたが、書籍が8月30日に発売予定となりました。皆様、ご予約の方、よろしくお願いいたします。

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