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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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もうすぐ学園祭です。


「ふぬぬぬぬ」


 私は席に着き、テーブルの前に前屈みになって息を止め、緊張した面もちで眼前の物体を凝視している。ここはいつもの旧校舎の談話室、隣は学園祭の執行本部として使われていた。

 私はテュッテと二人でくつろいでいるわけではなく、今、特訓の真っ最中である。


「あっ」


 私は緊張の糸を切るように声を漏らすと、体の力を抜いてしまう。私の前にはカードが散乱していた。


「うまくできないわね、カードピラミッド」


 座ったままぐはぁと四肢を投げ出し、ちょっとお行儀が悪いが天を仰ぐように私は天井を眺めながら一人愚痴る。

 私は集中力を鍛える為、カードを合わせてピラミッドを作ろうとしていたのだ。だが、これがまた難しい。持続的な集中力を有するのは勿論だが、緊張しすぎて力んだ私の圧倒的パワーがカードをビリッとまっぷたつに破いてしまうのだ。


「でも、集中力を鍛えられてパワーセーブの練習にもなりますし、良いことずくめではありませんか。頑張りましょう、お嬢様」


 テュッテは私を励ましながら散乱したカードを集め、破れそうな物を新しいのに変えていく。


「そうね、よぉし、頑張ろう!」


 ぐでっていた私は姿勢を正すと、カードを手に取り再び集中するのであった。


 それから一時間、私は集中し、集中を重ねて、やっとこピラミッドの土台を作るのに成功する。ここから上に積んでいくのだが、細かい作業に私のハラハラとした緊張感とイライラするもどかしさがマックスになっていく。


(集中、集中……しゅうちゅうぅぅぅ)


 コン、コンッ!


 その時、控えめなノックの音で私の集中力はブッツリと切れてしまい、ビクッと肩を震わせてしまった。

 持っていたカードをまっぷたつに引き裂き、バサァッと今まで積み上げた苦労という名のカードが無惨に崩れ落ちていく。


「~~~ッ」


 私はそれを哀愁漂う表情で見つめた後、ばったりと机に突っ伏すのであった。私を苦笑混じりに眺めていたテュッテが応対に出て、訪問相手を確認する。


「お嬢様、マギルカ様です」


「あぁ、うん、大丈夫、入ってきて」


 大丈夫ではない私は突っ伏したまま手をひらひらとさせる。


「どうしたのです、メアリィ様。随分とお行儀が悪いですわね」


 入ってきたマギルカが私の姿を見て、怪訝な面もちのまま近づいてきた。


「気にしないで、ちょっと集中力を鍛えるのに疲れちゃっただけだから」


「集中力を鍛えるのですか? また、どうして」


「それはね、あたらッ……おっと、危ない。これは秘密よ」


 私は対戦相手であるマギルカに手の内を教えるような発言をしていることに気がつき、思わず体を起こして口をつぐんだ。


「あら、そうなのですか。私に言えないということはタッグ戦に関わることなのでしょうね」


「ノーコメント」


 探るように目を細め、笑いかけてくるマギルカに私は両手をクロスして拒否した。そんな私をクスクスと笑いながら、マギルカは私の前の席に座る。


「そういえば、カーリス先輩がメアリィ様達が何やら必殺技なるものを開発しているとかなんとか、言っていましたね」


「もう、あの先輩は。おしゃべりなんだから」


 予想通りついうっかり話してしまったのだろうカーリス先輩を想像してため息をつく。


「タッグ戦と言えば、そっちはどうなの? 上手くできてる?」


「ええ、あのバカもだいぶ様になってきましたわ。カーリス先輩達の助力も大変助かっております」


 話ついでに相手の情報を手に入れようとしたけど上手くはぐらかされてしまった。さすがマギルカ、私と違ってとても冷静だ。

 私は感心した目でマギルカを眺めると、一つ違和感に気がついた。

彼女の手首に白い包帯が巻かれていたのだ。


「マギルカ、怪我してるの?」


「え? あぁ、これは、大丈夫ですわ。練習中にちょっと手首を痛めただけです。回復魔法をかけてもらう程のものではないですし、すぐに治りますわ」


(荒事に首を突っ込まないエレガントなマギルカが怪我するなんて珍しいわね。 というか、魔術師がなんで手首を痛めるのかしら? 剣士じゃあるまいし)


「剣と魔法……改めてメアリィ様の凄さを痛感しましたわ」


「へ? どういうこと?」


「……こちらの話です、気になさらないでください。それよりも、王妃様の件ですが」


 私が考え事をしている中、ポロッとこぼしたマギルカの言葉が気になり、聞き返す。だが、彼女はそれを受け流して、本題へと話を切り替えてきた。


「三日目にご訪問なさるということなので、どこを回るか私なりに計画をたてましたの」


「ふむふむ」


 私は差し出された紙を受け取り、眺めていく。


「あまり奥まった場所や、混雑するような場所は避け、数箇所、王妃様にご見学していただいた後、最後に闘技場での大会観戦をしていただく予定ですわ」


「闘技場の際、私達はそっちに行かないといけないけど、その時はどうするの?」


「その時は殿下が代わりにエスコート役をしていただくことになっておりますのでご安心ください。メアリィ様は道順を参考に警備の方達を上手く配置して、訪問客達の制限、誘導をしていただけますか?」


「うん、サフィナや各班長と相談して上手くスケジュールを組むわ。そういえば、近々クラウス様達も視察にこちらにくるのよね。その時、この計画を伝えても良いかしら?」


「ええ、その為に用意しましたので」


「ありがとう。ほんと、助かるわ」


 私は自分のことでいっぱいいっぱいだったので思いもつかなかったその準備の良さに、心底マギルカを尊敬し、お礼を言う。


「そういえば、タッグ戦でお聞きしたいことがございますの」


「ん、なに?」


 私が紙をテュッテに渡して保管してもらっていると、マギルカが思い出したかのように手を合わせて、言ってくる。


「メアリィ様は当日、あの鎧を使用されますか?」


「あの鎧? あぁ、白銀の鎧のこと?」


 突然の話で、私は一瞬何の事か分からず、思案し、私=鎧といえば白銀の鎧のことだと思い至った。


(ふむ、何かあった時に鎧の所為にできるから、できれば装着したいところよね)


「私達もそれなりに武装して望もうと思っておりますので。どうでしょう、マジックアイテムの使用はいいことにしませんか? あの鎧もある意味マジックアイテムなのでしょ?」


「マジックアイテムねぇ。サフィナにも聞いてみないと」


 あの鎧は白色鉱でできた只の鎧だが、いろいろ誤魔化すのに使ったのでいつのまにやら私にいろいろ付加してくれる魔法の鎧となってしまっている。なので、マギルカがアレをマジックアイテムと呼んでもおかしな話ではなかった。


「その点ならもうお話しておりますわ。サフィナさんはメアリィ様に一任するとおっしゃっていました」


「……仕事が早いわね」


「鎧を使えば、メアリィ様の体への負担が軽減されるのでしょ? 私としては是非、身に纏っていただきたいところです。そうでないと、気になってしまって全力で戦えませんわ」


(そういうことになってるんだっけ? その場しのぎについでまかせ言ってたから、忘れてたわ)


「そうね、そっちに問題がないならマジックアイテムの使用はOKにしよっか」


「ありがとうございます。これで心おきなくいろいろ用意できますわ」


「え、いろいろって、ちょちょ、ちょっとそれ、どういう意味?」


「フフッ、ノーコメントですわ」


 フフッと笑顔でマギルカが先に私がしたように両手をクロスする。といっても、私と違って両方の指で×を作るお上品なやり方だが。


「模擬戦が楽しみですわね。それじゃあ、メアリィ様、私は他にも用がありますので。ごきげんよう」


 私がさらに話を聞き出そうとすると、マギルカはそれを華麗に受け流し、席を立って部屋を後にするのであった。


「ほんと、何を企んでるの、マギルカ」


 私は一抹の不安を覚えながら、彼女が出て行ったドアを凝視してしまっていた。




 翌日。


「メアリィ様! 四連撃できるようになりました」


「はやッ!」


 サフィナが嬉しそうな顔で、とんでもないことを私に報告してきた。いくら努力家のサフィナでも早すぎるだろう。


「あ、といっても、ちょっとズルをしていますけど」


「どういうこと?」


 サフィナは躊躇いがちに私に右腕を見せてくれる。すると、そこには随分と古めかしくも精巧なブレスレットがはめられていた。腕輪にはめられた宝石類がキラキラと怪しい輝きを発している。


(見るからにアンティークで高そう。サフィナの趣味って感じがしないわね)


「これは?」


「カルシャナ家に代々伝わるマジックアイテムです。昨日、お父様に四連撃についてそれとなく相談したら、対戦に王妃様が見学なさると聞いて、これを貸してくださいました。幸い、マジックアイテム使用可能というルールになったので、恐縮ですが使わせてもらおうかなっと」


 サフィナが少し困った顔で私に腕輪を見せるのをやめる。


「そのアイテムの効力は?」


「装着者の素早さを一時的に上げる効果があります。カルシャナ家の剣技は速さと密接です。ご先祖様がそれを最大限生かすためにこのアイテムを探し出し、代々保管していたそうなのです」


「へ~」


「それでですね。これと加速魔法を合わせて何とか四連撃できるようになりました。ただし、この腕輪の効果はほんの数分、しかも一日二回が限度という縛りがあります」


「へ~、すごいわね。マジックアイテムと言うよりはその家に伝わる宝具って感じで、何かかっこいい。それを貸し与えるなんて、サフィナのお父様はあなたに随分と期待しているのね」


「そ、そうでしょうか」


 私の言葉にサフィナは緊張と嬉しさを織り交ぜた表情で一度、腕輪を見てそれをさする。


「いいなぁ、宝具。何か私も欲しくなってきちゃった」


「メアリィ様のお家にはそういった物はないのですか?」


「どうなんだろう? 聞いたことないわね」


(まぁ、お父様のことだから嬉々として洒落にならないほどの伝説級の宝具とか平気で出してきそうで怖いから聞かないけど)


 私は暴走した父の姿を想像し、乾いた笑いをこぼしてしまう。


「あ、でもでも、メアリィ様には白銀の騎士様の鎧がありますし」


 私が乾いた笑いをこぼすものだから、落胆したと誤解してサフィナが私を励ましてくれた。


「うん、そうね。でも、あれは白銀の騎士様の鎧じゃないわよ。便利な只の白銀の鎧よ」


 私はサフィナに念を押す。どうにも皆、あの鎧を白銀の騎士の鎧と呼んでしまうので騎士という単語を省くよう注意している。とはいえ、積極的に否定すると却って怪しまれるので、耳にしたその時だけさりげなく訂正するという方向で進めているが。


(ハッ! ちょっとまって。ということはできてないの私だけじゃない。大変! 何とかしなくちゃ。あ~ぁ、どっかに私のメンタルを完全無敵にしてくれる便利な宝具はないかしらねぇ)


 私は無い物ねだりをしながらも、今日も今日とて集中力を高める練習に励むのであった。


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