思案中です。
「さて、今日も特訓の開始よ」
「はい、メアリィ様」
日課になりつつある私とサフィナの訓練は順調である。今日は二人で伝達魔法を使い一緒に動く練習をしようと思っていた。
伝達魔法は二人の間でしか成立せず、契約のようなモノを交わさなくてはならない。さらに、その契約も一日経てば効力を無くしてしまうという面倒極まりない仕様なのだ。もちろん、互いに伝達魔法を習得していなくてはならない。幸いにもサフィナはそういった魔法系統も受講していたので問題はなかった。
私とサフィナは契約の言葉を交わして、伝達魔法を完成させる。
(何だか携帯電話でアドレス交換している気分だわ。実際にやったことなかったからちょっと嬉しい♪)
「さて、それじゃあ一回伝達魔法で交信しあって動いてみましょうか」
「あの、メアリィ様。私は魔力があまりなく、戦闘中に強化魔法を唱えて伝達魔法も使用するとあっという間に底が尽きてしまいそうなんですが」
「ふむ、一理あるわね。それじゃあ、基本的に私から交信するというスタンスでいってみましょう」
「はいッ!」
とりあえずやってみようと私とサフィナは敵を想定して構えた。ちなみに相手役の先輩達はマギルカ達の方へ行く日なのでいない。
『右斜め前に移動』
私が魔法の言葉を飛ばすと、すぐさまサフィナが右斜めに移動した。
『左に移動』
すると、サフィナが右に移動するをやめ、左に移動する。言葉を発していないのに目の前の少女が黙々と動くさまに何だか楽しくなってきてしまった。
『クルッと回って』
私の合図でサフィナが疑うことなく可愛らしく回転する。
『ワンと鳴く』
「わんッ!」
何の疑いもなく犬の鳴き真似をするサフィナに私は愛らしいモノを眺めながら、頬が緩む。
「お嬢様、サフィナ様で遊ばないでください」
「ハッ!思い通りに動かせるモノだからつい。ご、ごめんね、サフィ、ナ?」
勘の良いテュッテに指摘され、悪のりしてしまった自分に反省しつつ、サフィナの方を見て謝る最低な私だったが、彼女の様子に言葉が疑問形になってしまった。
「はぁぁぁ♪ 今、私、メアリィ様に動かされてますぅぅぅ♪」
とうのご本人が何だか頬を紅潮させ、キラキラと瞳を輝かせながらうっとりと空を見上げていたからだ。
「ごめんね、サフィナ。いろんな意味で戻っておいでぇ」
冷や汗と一緒に私はチョイチョイとサフィナを手招きすると、彼女も正気に戻ったのか、こちらにトテトテと走って戻ってきた。恥ずかしかったのか頬がまだ赤いところがまた可愛らしい。
「よぉしよぉし、いい子ね」
私はテレビで見ていた飼い犬が言うことをきいて戻ってきた時に撫でてあげるシーンを思い出して、ついついサフィナのゆるふわヘアーを優しく撫でてしまう。
「オホンッ! お嬢様」
「ハッ!」
うっかり私がサフィナの顎に指をやってこちょこちょと撫でてしまいそうになったところをテュッテの咳払いで我に返ることができた。
(サフィナの無抵抗っぷりに私が暴走するところだったわ。危ない危ない)
「コホン……さて、これで私達の行動がちぐはぐになることは避けられるわね。とはいえ、マギルカ達もこの方法をとってくるだろうからこれで有利になるということはないんだけど」
私は一度咳払いをし、仕切り直すとサフィナも名残惜しそうに頷く。
「ちなみにザッハさんは伝達魔法を習得していないとか?」
私はふと思い立った希望を聞いてみる。
「そうですね、俺には必要ないと習得していませんでしたけど、先日怖い顔をしたマギルカさんに個人的に猛勉強させられ何とか習得したみたいですよ」
「あぁ……そう……」
その光景を思い出したのかサフィナが苦笑いを浮かべるので、何と言っていいのやら言葉が浮かんでこず、私は曖昧に受け答えてしまった。
「よ、よぉし! それじゃあ、本格的に特訓といきましょう」
「はい。それで何をするんですか?」
微妙な空気になってしまったので強引に話を進める私に、サフィナもついてきてくれる。
「う~ん、やっぱり必殺技が欲しいところね。せっかくタッグを組むのだから合体コンボの必殺技がいいわ。RPGでの二キャラの合体コンボは格好良かったし!」
「アールピージー?」
私の興奮についてこれず、サフィナがとあるワードに首を傾げていた。
「えっとね、一キャラがこう、敵をバシバシィと攻撃して動きが止まったところで間髪入れずもう一キャラがズガーンドカーンと攻撃を加えていくのッ! 二十コンボ以上入ったときはもう爽快よねぇ」
私は興奮しすぎて身振り手振りの完全な説明下手になっていることに気がつかず、サフィナが益々首を傾げてしまっていた。
「お嬢様、曖昧すぎて全然伝わっておりませんよ」
「ハッ!」
本日何度目かのテュッテの指摘に私は我に返る。
「コホンッ……と、とにかく、二人がかりで一人を絶対倒す必殺技を作りましょう」
「はい。それで、具体的には」
「えっとね、一キャラがこう、敵をバシバシィと攻撃して動きが止まったところで間髪入れずもう一キャラがズガーンドカーンと……」
「お嬢様、話が戻ってます」
学習しない私に、しばらく静寂が続くのであった。
これではいけないと、私はもうちょっと具体的に想像することにした。
「そうね……たとえば、まず、私が相手の一人を土魔法で地面からせり上げ打ち上げる」
「はい」
私が思案しながら言うと、サフィナも頷きながら返事をする。
「っで、打ち上げられた相手にサフィナが一瞬で近づき、ズバーンと切りつけすぐさま逆へ姿を現しズバーンとクロスするように切りつけ、また逆から現れを繰り返して十コンボくらいを十秒ほど攻撃し続け、相手を空中で釘づけにするの」
「は……はい?」
「それで、サフィナがコンボを繰り出している間に私が大きな魔法で相手を地面にたたき落として連続魔法を打ち込むの。そしてとどめにサフィナがそのまま落ちるように重い一撃を食らわせる!っどう?」
私は完璧だと自信たっぷりにサフィナを見た。
「メアリィ様……それを可能にするには私、人の域を超えなくてはいけません」
今にも泣きそうなサフィナに、私は自分がゲーム基準で無茶を言ったことにやっと気がついた。自分ができそうだったのでサフィナも当然できると勘違いしていた節もある。
(だよねェ。私の周り、優秀な人ばかりだからついつい基準がおかしくなるのよ。いけないことだわ)
「ご、ごめんね。私も言っててできそうにないって気づいたわ」
今気づいたのに前から気がついていたみたいな物言いで私は笑って誤魔化した。
(一旦ゲームから離れよう)
そもそもゲームを基準にするからさっきから私の発想がおかしくなるのだ。
「やぁ、頑張っているね」
私がう~んう~んと唸りながら思案していると、ドアの方から声がした。そちらを振り返ればそこには王子が立っていた。
「こ、これは、レイフォース様」
私達は一斉に礼をする。これに笑顔で応え、王子が部屋に入ってきた。その表情はどことなく気まずそうだった。
「メアリィ嬢、ちょっといいかな?」
「はい、何でございましょう」
私は言い辛そうに頬をかく王子の態度に首を傾げる。
「あ~、その……とても個人的な話なんで、ちょっと場所を変えたいんだけどいいかな?」
「あっ、では私が席を外します。殿下」
「そ、そうですね。失礼いたします」
その言葉に何を思ったのか、サフィナとテュッテが我先に部屋の外に出ていってしまった。その頬が何となく赤かったのはなぜだろう?
私は事態が理解できず、彼女達を見送った後、二人っきりになった状態で王子を見る。
「それで、ご用とは?」
「え、えっと……タッグ戦の練習をしていたんだね。順調そうで何よりだ」
「恐れ入ります」
何だか話をはぐらかされたように見えて私はいぶかしげに王子を見た。そんな私の顔を見て、王子は恥ずかしそうに頬を赤らめ、視線を逸らしてしまう。
「えっと……あの……け、警備の方も順調そうだね。イクス先生が今までにない警備体制でとてもスムーズに事が進んで感心していたよ」
「ありがとうございます。あの、それを伝えにわざわざこちらへ?」
「うっ……いや、そうじゃないんだけど。さっきも言ったようにとても個人的な話なんで、今キミに言うべきか……その……」
王子には珍しく歯切れが悪い。その様子は凛としたいつもの王子ではなくしどろもどろになって年相応の男の子に見えた。私は益々不思議そうに首を傾げてしまう。
しばらくその状態が続き、一回王子は瞳を閉じ、深呼吸すると自分を鼓舞するようによしッと小声で言い、私を見てきた。
「メアリィ嬢」
「はい」
「前からキミに告げようかどうしようかとても迷ってしまい、恥ずかしながら気後れしてしまっていた。けど、それじゃあダメなんだ、前に進むためにもキミに言わなくてはと決心し、ここに来たんだ。聞いて欲しい」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、それでもしっかりとこちらを見ている王子に私はドキッとして、今の状況を想像してしまう。
(何これ、ちょっとまって……二人っきりで私に告げること? 王子が決心し、そんなに恥ずかしがるような個人的なことって、まさか、え?)
私の中に二文字の言葉が一瞬浮かんだ。
『告白』
そう考えると、私は王子の言動を勝手に納得してしまう。
(いや、でも……ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って! 王子がそんなこと)
私の顔が一気に紅潮し熱くなるのが分かった。
どうしていいのか反応に困って、私は石像のように固まってしまう。
「では、勇気を出してキミに告げようと思う」
「…………」
「メアリィ嬢」
「は、はひ……」
真剣な顔で見つめてくる王子に私は硬直し震える声で返事をする。心臓はもう破裂寸前にバクバクいっていた。
「…………」
「…………」
「母上が来るんだ」
「……はい?」
真剣な面もちの王子の言葉が予想外だったので、私は言葉の意味が理解できず、失礼ながらも聞き返してしまう。
その言葉が、再び波乱の幕開けを告げていることに気がつかず……。
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