そんな便利なものが……
っというわけで、私達は元クラスマスター二人組と対戦してみることと相成ったのだ。
結果から言うと、私達の負けである。まぁ、私がすぐに降参してしまったのだが……。
私は終始、サフィナの後ろで二階級魔法を行使しようとそればかりを考えており、サフィナは私を守ることだけに集中しているあまり、意志の疎通が全くできておらず、アリス先輩がサフィナに向かって攻撃魔法を唱え、それをサフィナは右に飛び、私は左に飛んで避けてしまうと、がら空きになった私に向かってカーリス先輩が飛び込んできた。私は魔法を使うということに固執しすぎて彼に対応しきれず、サフィナも私を守ろうとしてアリス先輩の魔法に足止めされてしまう。
結果、私達は何もできずにアワアワしているだけで終わってしまったのだ。
「ふむ……思っていた以上にあっけなかったね」
拍子抜けしたような顔でカーリス先輩は剣を納めた。
(何もできなかったわ。タッグ戦は自分の事だけ考えていてはだめなのね。うまく意志疎通をしなくちゃいけないわ)
私は初めてのタッグ戦をちょっとでも体験し、その難しさに思わず唸ってしまう。
「すみません、メアリィ様。私がしっかり守っていれば、もうちょっとは」
シュンとまるで尻尾と耳を垂れ下げた犬のように、サフィナが私の元に来ると、そう謝ってきた。
「ううん、サフィナのせいじゃないわ。これはタッグなんだから、私にだって責任はあるわよ」
「うん、そうだね。まず、キミ達は上手く連携が取れるようにしなくてはいけないよ」
私がサフィナをフォローしていると、カーリス先輩がアドバイスしてくれる。
「連携ですか。時に先輩達は何も相談している素振りもないのに、上手く立ち回れていましたね。どうしてですか?」
「それはもちろん、僕とアリス嬢が相思相愛だかっ、ぐェッ」
私の質問にカーリス先輩が高らかに妙な事を叫ぼうとして、すこぶる笑顔のアリス先輩が持っているロッドで躊躇なく後ろから脳天を直撃させた。
「冗談はこのくらいにして。サフィナさんがメアリィ様の守りに入りながら動くというのなら、まず、あなた達は意志の疎通、つまりは同調を上手くできるようにしなくてはいけませんね」
やれやれとため息をつき、頭を擦るカーリス先輩を尻目にアリス先輩が私達のそばに寄ってきた。
「意志の疎通、同調ですか」
シンクロ率。そんな言葉が思い浮かんで、私は前世で観た某人型決戦兵器アニメを思い出す。
「分かりました、やってみます」
「そうかい、少しはお役にたったみたいだね。それじゃあ、次に会う時が楽しみだ」
アリス先輩の攻撃などなかったかのようにカーリス先輩が爽やかな笑顔で私達にグッとサムズアップしてくる。
「ありがとうございました、先輩方」
なんやかんやで、力になってくれた先輩方に感謝しつつ、持つべきものは先輩だなっと感心していると、先輩達は帰り支度をしながら、問題発言をしてきた。
「さぁて、次はマギルカ嬢とザッハくんの元にいくぞっ!」
「ちょぉぉぉッ!まっ!えっ、先輩、私達に協力してくれるのでは?」
カーリス先輩が嬉しそうに言った言葉に私は思わず引き止め、聞いてしまう。
「ん?もちろん、協力するよ。不公平がないようにね」
当たり前じゃないかと晴れやかな笑顔でカーリス先輩が答え、私はそりゃそうだと一人納得して、乾いた笑いしか出てこなかった。そんな私を置いて、カーリス先輩達は部屋を後にしていくのであった。
「ところで……カーリス先輩はメアリィ様と警備などの相談をしに来ていたのではなかったのでしょうか?」
「あっ、そうだったわ。何しに来たのよ、あの先輩ッ! 目的見失ってるじゃないのよッ」
取り残された私の後ろからサフィナが思い出したように言って、私は本来の目的を思い出し、声を荒げてしまった。
後日。
私はさっそく、サフィナとのシンクロ率を上げるために特訓しようと意気込んでいた。
(とはいえ、どうやってシンクロ率をあげればいいのかしら?そういえば、某アニメでは某帰国子女と主人公が音楽に合わせて、同じ動きをしたりしていたわね。よしッ!)
「それじゃあ、サフィナ。踊るわよッ!」
「は?」
私の突拍子もない発言に、思わずサフィナが彼女らしからぬ声を漏らしてしまう。
「コホン……。お嬢様、話が飛躍しておりますよ。自分の頭の中だけで完結なさらないでください」
テュッテの指摘を受けて、私はようやく自分が何を言っているのか理解して、コホンと咳払いをして仕切り直した。
「私とサフィナの同調を向上させるため、私達は音楽に合わせて、寸分違わぬ同じ動きをし続けるの、やってみましょう」
「は、はい」
首を傾げながらサフィナは承諾し、私達は個室訓練所の中で二人並んだ。
「とりあえず音楽はないから、テュッテ、手拍子をお願い」
「はい」
「あの、踊るといっても何を踊るのですか?私、授業で受けた社交ダンスしか踊れませんけど」
テュッテが私の提案に承諾し手拍子の準備をすると、サフィナが今更ながらに自分のレパートリーを暴露してくる。
かくいう私も前世では踊るなんてこと一度もしたことなく、今世でも令嬢の嗜みとして社交ダンスしか習っていなかった。
「それで行きましょう」
私とサフィナが二人並んで、ダンスの構えをする。
本来は相手がいるはずの社交ダンスなのだが、そこはエアーという事で……。
「じゃあ、行くわよ。さん、はいッ!」
テュッテの手拍子に合わせて、私とサフィナが二人並んで優雅に舞う。
舞う。
舞う。
舞う。
ま……う……。
「思ってたのと何かちがぁぁぁうッ!」
私は頭を抱えて身悶えた。
「お嬢様、端から見たら只の社交ダンスの練習風景ですよ、これ。こんなのでお二人の同調が向上するなら、授業中にもう向上していらっしゃるのではないでしょうか」
「そうね、途中から私も何か授業の時と大差ないわって気付いていたわ」
(やはり、本質を知らない眉唾知識はダメか)
「こうなったら、二人の同調を向上させる為に四六時中行動を共にするとか」
「あのぉ……クラスが違うので根本的に無理ではないでしょうか?」
サフィナの進言で私の次の案は数秒でお蔵入りとなった。
「もぉ、どうすりゃいいのよッ! ねぇ、どうすりゃいいのよッ!」
「お、お嬢様ッ! 私に、あたら、ないで、くださいィィィッ!」
私は近くにいたテュッテの肩を掴むと思いっきり揺さぶり喚く。
テュッテも頭をカックンカックン揺らしながら、抗議してきた。
「あのぉ……えっと、その、メアリィ様。あの、不躾でなければいいのですが、その……『伝達魔法』でよろしいのではないでしょうか?」
「「へ?」」
恐る恐る進言してきたサフィナの意見を聞いて、私は揺さぶりを止め、テュッテと声を合わせて彼女を見てしまう。
「伝達魔法って、あの二人の間でしかできないけど、どんなに離れていても言葉を伝え合うという魔法の事?」
「はい、そうです」
私の確かめるような発言にサフィナがそうですと嬉しそうに頷いた。
「お嬢様……そんな便利な魔法がある事、忘れていましたね」
私が汗だくになってテュッテを見直すと、頭を揺すられていたテュッテが私の至近距離でジ~と半眼で睨みつけてきた。
(圧が、テュッテからの圧が……前世の知識に捕らわれすぎて、魔法の事をすっかり忘れていたわ)
「そ……そんな……こと、ない……わぁ、よ?」
声がどんどん小さくなり、テュッテの圧に負けて、私は目を逸らしてしまう。
「…………」
「すみません、完全に忘れていました」
テュッテの無言に耐えかねて、私は彼女に聞こえる程度の声で白状し謝る。すると、テュッテは私から離れると、いつもの柔和な彼女に戻ってくれた。
「それにしても、サフィナはそんな事よく知っていたわね。調べたの?」
ホッと一息つきながら、私はサフィナに問いかける。
「いえ、カーリス先輩達が使っていましたし、授業で習いましたから。でも、メアリィ様はすばらしいです。そんな常識に捕らわれず、新しい方法を模索していらっしゃるみたいで。尊敬します」
真実を知らないサフィナがキラキラした瞳を向けてきて、私はまた目を逸らしてしまった。
(でも、これで相手には分からず二人だけで意志疎通できる方法をゲットできたのだから、よしとしよう)
私は前向きに考え、一歩前進したということにして無理矢理テンションをあげていくのであった。
【宣伝】活動報告にて表紙イラストを掲載しました。メアリィ様が可愛すぎて、もう(悶え)詳しくは活動報告へお越しください。