これは罠ですか?
「「「「学園祭?」」」」
私の発言を聞いて四人が綺麗にハモった。私は前世の記憶にある『文化祭』について皆に話す。といっても、実際私も参加した事がなかったので、完全に知識と想像の範囲内となり、結構アバウトになってしまった。
「え~と、つまり生徒達だけでお祭りを開催するということなのかな?」
私のアバウトな説明を何とか噛み砕いて理解した王子が私に問いかけてくる。
「はい、全生徒が参加するので準備や開催中の人員が足りないということにはならないと思います。これで、人員不足は解決できたかと。加えて、全生徒が参加するので、その家族、関係者が当日見学に来ると思われるので、集客数は単純に去年を上回るでしょう」
私の話を聞いて、四人がうんうんと頷く。
「でもさ、武術大会はどうするんだ?」
「もちろん、新入生の華である武術大会は行います。ただ、それを取り仕切るのはソルオスの上の学年の生徒達です」
ザッハの素朴な疑問に私は間髪入れずに答える。
「皆さん一度は経験していることですから進行の仕方とか何となく分かるし、自分たちの時の不便だった部分を修正できますから、適材でしょうね」
私の言葉に賛同するようにサフィナが利便性を皆に伝えてきた。
「後、学園祭中の警備、見回り、準備中の力仕事なども残ったソルオスの人間にやって貰えると助かりますわね」
「まぁ、騎士を目指している連中が多いから、そういった警備系は皆やりたがるだろうよ。会場準備の力仕事とかも得意そうな奴いるしな」
サフィナの言葉を皮切りに、マギルカが話を進め、ザッハが補足し始める。話が良い感じに流れていって私はご満悦であった。
「予算、運営費などの財務関係は僕らラライオスの中で文官などを目指している者達に任せればいいね」
「そうですね、殿下。詳しくは去年まで担当していた先生から生徒達に指導していただければ何とかなりますかと」
王子も話に加わり、マギルカがメモを取りながら事を円滑に進める準備をし始めた。
「それで、運営側ではない残った生徒達が行うのはどういったモノになるのかな?」
「漠然としていますが、何か出し物、催し物を提供するというのはどうでしょう。アレイオスなら魔法の披露や魔法研究の発表、ラライオスならば売店や学術研究の発表など、日頃の学業の成果を皆様にお見せするといった感じです」
「なるほど……とりあえず、それは皆さんで話し合って決めてもらうという事にしてもらい、決まったらこちらに申請書を提出していただく形にしましょうか」
王子の質問に私が答え、マギルカがさらに付け加えていく。
(皆、頭の回転が速くて助かるわ。私がきっかけを与えただけで話がポンポンと進んじゃってるもの)
「うん、細かい所は後で修正していくとして、今はおおまかな所を形にし学園長に提出するとしよう」
「では、提出書の草案を準備いたします」
王子の言葉にマギルカは準備をするため席を立ち、提出用の紙を用意すると再び席に戻って会議が再開された。
(今更なんだけど、誰からも反対意見が出てこなかった事に驚いているわ。何かかえって不安になってくるわね、大丈夫かしら)
私は内心そんな不安を抱えつつ、皆から一歩引いて静観することにした。役職のないサフィナも同様のようで、何か自分もしなくてはとキョロキョロしながら落ち着きがなくなっている。
「サフィナ、あっちでお茶にしましょう。私たちの出番はもうちょっと後になりそうだしね」
「は、はい。メアリィ様」
サフィナを別のテーブルに誘いながら、私はテュッテに新しいお茶の準備をしてもらう。
「えっと、サフィナ。今いるソルオスの生徒って何人だっけ?使えそうな奴ってどのくらいいそうだろう?」
サフィナと一緒に移動しようとした矢先に、ザッハが頭を起こしてこちらに声をかけてきた。
「え、え~とですね……」
声をかけられサフィナが立ち止まり、どうしようかと私とザッハを交互に見ながら言い淀んでしまっている。
「ザッハさんの力になってらっしゃい。というか、あの男に管理なんて無理そうだから補佐してあげて」
「は、はい」
私は溜め息まじりにザッハを見、サフィナに彼の元へ行くよう勧めると彼女は嬉しそうに会議の中へと混じっていく。
(あれ? ちょっとまって、これって私だけ仲間外れ?)
そして、ポツ~ンと一人で座る私は気づいてはいけないことに気がついてしまい、内心オロオロし始めた。
(いやいやいや、目立っちゃダメなのよ。変にしゃしゃりでちゃったら、またやらかしてしまうじゃない。我慢、我慢よ、メアリィ)
ちょっとした心細さをぐっと堪えながら、動揺を隠すように冷静な自分を装うと紅茶をいただく。だが、カップが久し振りにめちゃくちゃ震えていて、破壊しそうになっているところをテュッテに無言で回収されるのであった。
翌日。
提出書を学園長に渡すついでに、説明に行った王子とマギルカを待つ私と、サフィナ、ザッハ。だが、二人はこれからについての話をしており、実質、蚊帳の外状態なのは私だけであった。
(いかん、焦ってきたわ。何、この感情。自分だけ仕事してないから申し訳ない気持ちになるとかじゃないし、自分だけ楽ちんでラッキーとかじゃないわ。混ざりたい、とにかく皆の輪の中に入りたくてウズウズするぅぅぅ)
一人窓の外を見ながら、気ばかり焦る私がいる。
(だめよ、メアリィ! これは罠よ。ここで加わったら取り返しがつかなくなるわ。塗りつぶし作戦に私自身が先頭に立ってたら意味ないでしょ)
私は窓の外に頭を向けながらチラッと横目で二人を見る。
(……で、でもぉ……)
何かに集中する友人達を見ると、再び混ざりたい衝動が強くなる。とはいえ、今更「私もま~ぜてッ♪」と言うにはタイミングを逃した感が半端なかった。もう誰かに呼んで貰うしか私には道がなく、油断すると私は立ち上がり、彼らの後ろをウロウロと熊が徘徊するような感じになりそうでテュッテに「ここは辛抱です」と抑えられるのであった。
そうやって、一人悶絶する私を尻目に王子とマギルカが帰ってきて、学園祭計画は採用される運びになった。意気込む四人にますます焦る私。
「それでは、細かい修正を入れ、形にしていきましょう」
席についたマギルカが持っていた紙を持ち、こちらを見る。
「お待たせしました、メアリィ様。具体的な計画を作成いたしますので再びお力添えぇぇぇえええッ!」
当たり前のように私に助力を求めてきたマギルカを有無もいわさず私はヒシッと抱きしめる。
「もぉ~、しょうがないわね~♪ 手を貸してあげましょう、ええ、あげましょうとも♪」
「ななな、なぜ抱きつくのですか!」
満面の笑みで応える私と、アワワと顔を赤らめ驚くマギルカ。そんな私をヤレヤレと言った顔で見ているテュッテが視界に入ったが見ないことにした。
(だって、混ざりたかったのよぉぉぉッ! 仲間外れは嫌なのッ!)
こうして私は歴史を変えるような一大イベントに自ら首を突っ込んでいくのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
【ご報告】
この度、第5回ネット小説大賞の最終選考を通過いたしました。ヽ(゜∀゜)ノヒャッハ~ッ!!
ご愛読、応援していただいている皆々様に深く感謝いたします。
今後の動きは活動報告などで話せたらいいなぁと思っておりますので
皆様、今後もよろしくお願いいたします。