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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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木を隠すなら森へ


「武術大会をわたッ……レイフォース様達が取り仕切るのですか」


(あぶなッ、うっかり私たちとか言いそうだったわ)


 内心冷や冷やしながら、私はクラスマスター二人に確認する。すると、二人は私を見てからおもむろに頷いた。


「武術大会は毎年先生方が主体で行われていたんだけど、年々運営の人員不足が目立ち始め、おまけに集客数も落ちていって、先生方も頭を悩ませていたんだそうだ」


「集客数……とはどういう事でしょうか?」


 王子の説明に少しひっかかる言葉を聞いたので、私は素直にそれを質問する。


「まぁ、平たく言うと学園の運営資金を集めるための客だね。王立とはいえ国からの資金だけではいろいろと立ち行かないのが現状らしい。故に武術大会への運営寄付や、家族たちの入場料、席代、学園内の飲食料などなどで運営資金の補填を計っていたんだけど、これも年々減少しているらしい」


「要するに、武術大会を開催するにあたってのいろいろな問題が先送りになって膨れ上がり、ついにはこれを全て私たちに丸投げしたということですわ」


 王子が苦笑混じりに説明してくれると、締めくくりにマギルカが苦虫を噛み潰すような顔でうなだれながら言ってきた。


(まぁ、あのヘタレ学園長ならありえそうね。先生方に今年はどうするんだっといろいろ追求されて、挙げ句ふてくされて駄々をこねたってところかしら)


 私は学園長があの時計塔の学園長室で三人のグランドマスターにお小言を言われて駄々っ子になっている情景を簡単に想像できて、深く溜め息をついてしまう。


「それでなぜレイフォース様の所にこの問題が回ってきたのでしょうか?」


「常々、僕が生徒主体の物事は生徒達が主体で行うべきだと言っていろいろと管理しているのを学園長が思い出したみたいでね。だったら、武術大会も生徒主体でやってみようと、言い出したんだ」


 アハハッと何とも言えない笑顔で王子が言う。王子の生徒主体の物事は生徒主体で行うという発言も裏を返せば、私が前世の記憶からポロッと口にしてしまった言葉なので、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「いきなり大きな行事を任されてしまいましたね」


「うん。でも、やりがいはあるよ。上手くいけば来年からも生徒主体になるかもしれない。学園の歴史が大きく変わるかもしれないんだからね」


(学園の歴史を大きく変える、そんな行事の運営に関わって大丈夫かしら。これ以上目立つようなことは避けたいんだけど、でも、皆の役にも立ちたいし)


 私が目立つと役立つの板挟み状態でしばらく思案顔でポ~としていると、後ろに控えていたテュッテがお茶を出すとともに、私に耳打ちしてきた。


「お嬢様、これは好機かと。皆様にお力添えをし、この行事を成功させて歴史を変えるべきです」


 そう言って、まるで無かったかのように後ろに戻るテュッテを横目で追いかけ、私は王子に一言断ってから、席を立ちテュッテをつれて部屋の隅へと行く。


「何言ってるのよ、テュッテ。そんな事したら目立ちまくるじゃない」


「はい、目立つのはあくまで最高責任者の殿下です。しかも、学園史を大きく変える出来事なのですから、今までいろいろやらかしてきたお嬢様の出来事なんて話題の一部にしかならないかもしれません。お嬢様が前に言っていたじゃないですか『木を隠すなら森へ』でしたっけ? 偉業を隠すならより大きな他人の偉業をもってくるのです」


 こそこそと小声で言い合う私はテュッテのその言葉に何か神託を受けたような衝撃を受けた。私は思わずテュッテの両手を握りしめ、自分の胸に寄せる。そして、キラキラした瞳でしっかりと目の前の黒目を見つめた。


「テュッテ。私、あなたがメイドで本当に良かったわ」


「お嬢様……痛い、痛いです。もうちょっと力を抑えて下さい」


「え? あ、ごめんね。興奮してしまってつい。でも、これでも抑えてるのよ。本当なら思いっ切り抱きしめてギュ~ッてしたいくらいだったんだもの」


「そんな事されたら私が死にます」


 私が手の力を緩めて、小首を傾げながら笑顔で言うと、テュッテは半眼になってそんな物騒な事を言ってくる。


「あらッ? 私の抱擁がお気に召さないと?」


 笑顔のまま私は再び手に力を込めていく。先程よりちょっと強めに……。


「い、いえ、滅相もございません。むしろ大好物ですので許して下さい。い、痛いぃ……折れてしまいますぅぅぅ」


 半分涙目でテュッテがひきつった笑顔のまま白旗を上げてきた。私は満足げに手を離すと、テュッテから離れて再び王子達の元へ戻っていく。


「話の腰をおってしまい、申し訳ございませんでした。レイフォース様、このメアリィ・レガリヤ、全力でお力ぞえいたします。この偉業、必ずや成功させましょう」


「助かるよ、キミの発想力は僕らの枠を越えているからね。期待してるよ」


 私がフンスッと鼻息荒く堂々と宣言すると、王子はホッとした表情で私を見てきた。


「お任せを」


 私はそんな王子の前で恭しく淑女の礼をする。私の中ではもうとある案が浮かんでいたので、そんなに慌てることはなかったのだ。




 数分後。

 部屋には私の他に、王子・マギルカ・ザッハ・サフィナといつものメンバーが勢ぞろいしている。そして、席につく皆は一人立っている私を見ていた。


「コホンッ……では、今回の武術大会、これを一新し、私は全生徒が参加する『学園祭』にすることを提案いたします」


 そして、私の宣言が部屋いっぱいに高らかと響き渡るのであった。

私のやらかしを王子の偉業で塗り潰す作戦の開始である。


ここまで読んでいただきありがとうございます。いろいろ立て込んでいて更新が滞っております事、申し訳ございません。

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