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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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どうしてこうなったのですか

 私がいや~な顔をしている中、テュッテがいつも通り応対に出て、扉の前で何かを話している。


「お嬢様、クラスマスターの方々にご用の方がおみえですけど」


「…そう、今外にいるから、入って待ってもらって。後、レイフォース様達を呼んできてちょうだい」


「かしこまりました」


 恭しくお辞儀すると、テュッテは廊下にいた客人を中に勧め、王子付きの侍女が入れ替わるように外へと出て行った。


(何か自然と指示しちゃったけど、王子の侍女を私が使って大丈夫だったかしら?でも何かあったら呼びに来させろって王子が言っていたから大丈夫よね)


 相手もあまりに自然に対応していたので、私は彼女がいなくなってからその事に気が付き、ちょっと不安になってしまう。


「し、失礼します」


 かなり緊張した声が発せられ、私は現実に戻されるとその声の方へと視線を向けた。そこには貴族の人間ではなく、平民の女生徒が拘束魔法でもかけられたようにガチガチになって直立不動になっている。


「どうぞ」


 テュッテのエスコートに従って、女生徒は私がいるテーブルまで案内されると、彼女に言われるがまま、座らされた。


「そんなに緊張なさらなくてもよろしいですよ。それとも、私はそんなに怖い人間なのかしら?」


「そ、そんなッ!と、とんでもありませんッ!あのメアリィ様とお話しできて緊張してしまっているだけです。怖いだなんてとんでもありませんッ!ついつい見惚れてしまっていただけですからッ!」


「そ、そう…」


 ちょっとでも緊張をほぐそうと冗談を言ったつもりだったが、ものすごい勢いで否定され、その気迫にちょっと圧される私。すると、ドアがノックされ、おそらく王子達が戻ってきたのだろうと返事をすると王子が部屋に入ってきた。


「やぁ、待たせてしまったかな」


「いえ、そのようなことはございません」


 緊張しまくって声も出ない女生徒に代わって、私が返事をすると王子は優しそうな笑顔を向けて、その女生徒に近づいてくる。


「は、初めまして、殿下。きょ、今日はその、クラスマスターの方々に、ご、ご相談がございましてうかがいました」


 ガバッと立ち上がると、侍女がするような綺麗なお辞儀をする彼女を見て、後ろに控えていたマギルカが何かに気が付いた。


「あら?フィーネルさんじゃありませんか」


「ん?マギルカ、知り合いなのかい?彼女、ラライオスの人間だけど」


「はい、彼女は今年設立した【魔草薬学研究の会】の会員ですわ、殿下」


 先にも述べた部活もどきの一つ、マギルカが設立したその会は本来、アレイオスの人間だけが学ぶ魔草に関する知識を生徒間で議論、研究をする会である。なので、彼女のような平民でラライオスの人間がマギルカと顔見知りであってもおかしくなかった。


「では、話を聞こう。あちらの部屋に移動しようか。ザッハとマギルカもお願いするよ」


「「「はい」」」


 恭しくお辞儀をするザッハとマギルカ、それに対照的に慌てて頭を下げるフィーネルを連れて、王子は隣のクラスマスター達が集う仕事部屋へと入っていった。それを見送った私は置かれたカップを取り、紅茶を頂く。


(願わくば、問題が発生しませんように、問題が発生しませんように!)


 私は心の中で神様にお願いしつつ、その時を待っていた。




 そして、数十分後、話が終わったのか、3人がこちらの部屋へと入ってくる、どうやらフィーネルは向こうの部屋から出ていったらしい。


「問題発生ですわ」


 そして、聞きたくない言葉をマギルカの口から聞かされ、私はこの場からどう逃げようかと本気で考え始めていた。そんな私の心境など知る由もなく、マギルカは当たり前のように私の前に座ると、先ほどフィーネルから聞かされたことを話し始める。


「アレイオスの生徒達の一部が魔草の不正栽培を行っている可能性がありますわ」


「どういう事?」


 不正と聞かされ、私は思わず聞き返してしまう。


「メアリィ様は【マンドレイク】ってご存じですか?」


「えっと、引っこ抜くと叫びをあげる魔草だったかしら?その叫びを聞くと死ぬとかいう。結構高価な物なんでしょ?」


 私は前世で蓄えた知識にある、ある種お約束のその植物の知識を口にすると、マギルカが驚いた顔をした。


「さすがメアリィ様、魔草の知識もおありとは。でも、叫びを聞いて死ぬっというのは誤解ですわ。魔力が極端に低い方や気の弱い方が意識混濁するくらいです」


「そうなの?それで、そのマンドレイクがどうしたの?」


「マンドレイクはとても希少で、魔術や薬の原料として使われますので扱いは厳しいのです。その能力からも資格がない者だけの栽培を禁止しておりますの」


「まさか、それを生徒だけで栽培していると」


 そこまでの話から私はピンときて話の腰を折ってしまうと、マギルカは気分を悪くする事なく、頷いてくれた。


「フィーネルさん達ラライオスの人たちが近くの畑で他の栽培をしていたところ、今までは気がつかなかったけど、会に入ってマンドレイクの事を学んだおかげで、彼らがそれを栽培している可能性に気がついたそうなのです」


(資格のない生徒がその植物を栽培するのであればこっそりやるはずだけど、周りにまったく知識のない者達を置くことで、怪しまれないようにしていたという事かしら。まさか、ラライオスの人間がアレイオスの人間と共に同じ研究をするなんて今まで考えられなかったからね)


「でも、可能性という事は、確証がないと」


「ええ、実際間近で確認したわけではなかったし、それを指摘しようとするとラライオスの人間がアレイオスの人間のやる事に口を挟むなと追い返されてしまったらしいですわ」


「クラス間の隔たり意識は生徒達の中でまだ払拭されているわけではないからね、残念だよ」


 私とマギルカの話を聞いていた王子がそう呟くと残念そうにうなだれる。


「とにかく、真実を確認するためこれから見に行くとしよう、3クラスのクラスマスターがいる前でクラスがどうこう言わせるつもりはないよ」


 気を取り直した王子は一息ついて、立ち上がるとそれに倣ってザッハとマギルカが立ち上がった。ついでに、サフィナもつられるように立ち上がってしまったため、私だけが椅子に座ったままになってしまい、皆がこちらを不思議そうに見てくる。


(何その、あれ?みたいな顔で見ないでちょうだい。私は部外者でしょ?っと言いたいところだけど聞いてしまった以上、それも無理か)


 私は覚悟を決めて、静かに立ち上がると、ふか~いため息をはく。


(お願いですから、何事もありませんように、何事もありませんように、なぁ~にごぉ~ともぉぉ、あ~りぃませんようにぃぃぃ)


 私は心のなかで念仏を唱えるようにお願いを繰り返しながら、その現場に向かうこととなった。




 現場はこの旧校舎からさほど離れたところになく、かなり広い範囲でいろいろな畑が形成されて、いろんな物が栽培されていた。そこで作業していた生徒達の視線を一身に受け、私たちクラスマスター一行がゾロゾロと現場に移動していく。周りからは似たような制服で揃っているため、見ただけで「ああ、クラスマスターの方々だ」と認識されている事だろう。


(くっ!私とサフィナまで一緒くたにされてないといいけど)


 畑と畑の間に作られたあぜ道を歩き、教えられた現場に近くに来ると、慌てたように動く数人の男子生徒達が私たちをチラチラと見ていた。


(うわ~、怪しさ大爆発ね。あれじゃ、私たちは見せられないことをしていますよって体現しているみたいじゃないのよ)


 遠目の彼らを私は半眼になって見つめながら、王子を先頭にその現場に到着する。


「こ、これはこれは殿下。こんな所まで何用でございましょう」


 慌てて私たちの前に駆け寄る男子生徒達。その行動は明らかに私たちを畑に近づけさせないモノだった。


「キミ達は生徒だけで活動しているのかい?先生はいないのかな」


「え、ええ…そうです」


「では、そちらの活動は生徒のみということだね。こちらに申請書は出したのかい?」


 冷や汗まみれの男子生徒達に対して、王子は凛とした態度で応対している。


「し、しておりません。何分、古くから行っていた活動なので失念しておりました」


 後半は消え入りそうな声で答える男子生徒。


「では、早急に申請書の提出を頼むよ。後、せっかくなので活動の方の確認も今、させてもらうね」


「え!」


 にっこりと笑う王子の発言に驚いた男子生徒が頭を上げると、有無もいわさず王子は彼を横切り畑へと向かった。


「そんな、殿下。土で汚れてしまいます」


 慌てて男子生徒達が王子達一行を止めようとしているが、マギルカはそんな事気にすることなく、畑に植えられている草花を確認し始めた。

そして、数分後、険しい顔になる。


「変ですわ、ここにあるのは薬草などの問題のない魔草ばかりです。マンドレイクなどの植物は見受けられません」


 王子に耳打ちする彼女の声が聞こえ、私はどういうことなのか辺りを見渡した。もしかしたらフィーネルの勘違いなのかもしれないと、不安になりながらも男子生徒達の視線を見ると、彼らはチラチラとある方向を見ている事に気がついた。彼らの視線の先は、今いる畑の隣の畑で、そこは耕されてもいない未使用の状態だった。


 いや、未使用に見えるように何か細工されている。


 アリス先輩の一件から、私は幻覚や認識・視認阻害などといった魔法に対して勉強し、自分の視界内にそういった魔法がかかっている物があるとそこはぼやけた感じになることに気がつくことができたのだ。これも偏にもたれ掛かった壁が消えてそのまま落ちるような間抜けなことにならない為だ。そして、その畑はまさにそのぼやけた感じになっている。彼らは慌てたふりをして、こちらの畑、いわゆるダミーに私たちを誘導していたのだ。


(王子達をたばかろうとは笑止千万。これはお灸をすえてやる必要があるわね)


 幸いにも生徒達は3人のクラスマスターに意識がいってしまって私とサフィナには無関心だったので、そのまま下がりソソソッと隣の畑に移動する。そして、何も言わず、疑いもなくついてくるサフィナと私の侍女に感服しながら私はその畑の前に立った。


「お話中、大変恐縮ではありますが、こちらの畑はあなた方とは関係ございませんか?」


 私の言葉にギョッとした顔で振り返る生徒達。


「サフィナ、彼らをこちらに近づけないでね」


「はい」


 隣にいたサフィナに小声で言うと、彼女はそのまま私の前に出る。テュッテは安全の為畑から離して待機させていた。


「な、何のことでしょうか、メアリィ様。そちらの畑は我々とは関係ありません。ささっ、お召し物が汚れますからこちらに」


 何とも言えない不穏なオーラをにじませつつ、引きつった笑顔でこちらに近づこうとする生徒にサフィナがキッと睨んで剣の柄に手をやると、生徒の足が止まってしまった。


「あらあら、関係がないのなら私がこれからすることに問題はございませんね。なんといっても、何もない荒れた畑ですから♪」


「え、あ、はぁ?」


 意味が分からないと言った顔で生徒達がお互いを見やる中、首を少し傾げつつ、前にテュッテが言った氷の微笑、もとい、営業スマイルを見せた私は、スッと右手の平を上にして肩まで上げると囁いた。


「ファ・イ・ヤー・ボー・ル♪」


 ゆっくりとだが、はっきりと聞こえるように言った私の言葉に呼応して、上げた右手の平に火球が浮かび上がる。


「ちょっ!まぁっ!」


 顔面蒼白になった生徒達が畑を飛び越えこちらに駆け出そうとした瞬間、サフィナが抜刀体勢を取ったので、おもわず足が止まってしまい、私は笑顔のままその火球を後ろの畑にポイした。


ゴォォォォォッ!


「「「うわぁぁぁぁぁっ!20年の成果がぁぁぁっ!」」」


 何もないはずの地から炎があがり、何かが燃えていく。すると、そこから幻影が崩れて、その下から火がついた草花達が姿を現していった。


「これは、マンドレイクの花!幻影魔法で隠していたのですね」


 私が何をしたのかいち早く気がついたマギルカが畑に近づき、姿を見せた草花を確認する。


(まぁ、このくらいにしておこうかしら。さてさて、消火ッ消火)


 私は水魔法を唱えるべくクルリと振り返って畑を見ると、そこには今までなかった大きな植物が私の視界を遮るように姿を現していた。


「へ?」


「メアリィ様、下がって!」


 私の間抜けな声とマギルカの声が重なったとき、目の前の植物が大きく膨らみ、そして・・・




 盛大に破裂した。



 後に残ったのは破裂した植物の残骸と、頭から思いっきりその汁をかぶってぐしょ濡れになった私だった。


(何これ、最悪だわ)


 ポタポタと髪から滴る液体を眺めながら、私は硬直してしまう。


「大丈夫かい、メアリィ嬢」


 硬直していた私の前に王子が駆け寄ってきたので、私はフリーズした思考を再起動させて、彼に汁がかからないように配慮する。


「だ、大丈夫ですわ、レイフォース様」


「そうか、よかっ・・・」


 アハハッと苦笑いを浮かべる私の手が誰かに捕まれ、グイッと引き寄せられてしまう。ギョッとして目を見開くと、そこには綺麗な顔立ちの王子の顔があった。


(ち、近い、近い)


「なんて事だ、キミの美しい髪がこんな物に汚されるなんて。僕が綺麗に拭って上げよう」


 びっくりしているうちに、王子はいきなり私の腰に手を回してくる。


「へ?あれ?」


(えっ、ちょっ!まってぇぇぇっ!何これぇぇぇっ!)


 気がつくと私は王子に抱きすくめられている形になっており、顔が非常に近い状態になっていたのだ。


「レ、レイフォース様、汚れてしまいます」


「美しいキミの汚れが消えるのなら僕は喜んで汚れよう」


(爽やか笑顔で急にどうした、この男はッ!あぁ、でも、何かドキドキするッ!見た目が良い感じに成長したからってダメよ、私!しっかりしなきゃ!)


 あまりの出来事にパニックを起こした私は、完全に硬直し、なすがままになってしまっていた。チラッと視界の端を見ると、マギルカとサフィナがキャァッと顔を赤らめ手で顔を覆っている。


(ダメだわ、他の女子は頼りにならない)


「レイフォース様…あの、皆が見ておりますので」


「気にしないよ。むしろ、皆にみせつけてあげよう、キミと僕を」


(だから、急に何を言ってるんだこの男は)


「あぁ、その濡れた瞳も素敵だね。僕にもっと見せてくれないかな」


 滴る前髪をスッとすき、私の瞳を見据えてくる碧色の瞳に吸い込まれるように私も彼を見つめてしまう。


(どうしよう、突き飛ばす?王子にそんな事したら不敬罪よね!どうする、どうしたらいいの!)


 どんどん近づいてくるイケメンの顔に、私はパニック状態でどうやって逃げるか冷静に判断できなかった。そして、下した結論は。


「レ・・・」


「れ?」


「レビテーション!」


 それは、飛んで逃げることだった。


 校舎よりも高く浮遊した私は地上からかなり離れたことを確認し、安堵する。


「あ~、びっくりした。ここなら王子も来れないわよね。急にどうしちゃったのかしら、王子は」


 しばらくして、心を落ち着かせた私は下を確認すると、何やら騒ぎになっており、ザッハとサフィナが生徒たちを取り押さえているのが見える。さらに、王子はというと、ここからでも分かるくらい顔を真っ赤にして何やら自己嫌悪に陥っているような悶絶っぷりを見せていた。


「えっと、私、王子に恥をかかせたとかで不敬罪にならないわよね」


 何となく心配になってきて、空中でフヨフヨと移動しながら高度を徐々に落としていくと、人々から離れた場所でテュッテとマギルカがこちらへ来いと手招きしているのが見えてくる。何だろうと思いながらも、私は恐る恐る彼女たちの元へと降りていった。


(ま、まさか、あの程度でほんとに不敬罪になんてならないわよね。そもそも王子がいきなり変な事してきたからであって)


 私はドキドキしながらも、自分に言い訳しながら二人の前に降り立つ。


「確保ぉぉぉっ!」


 マギルカの合図と共に、テュッテがいつのまにやら用意した大きな布で私を覆い隠し、ギュッと包みこんで抱きついてきた。


(なにこれ?私、捕まったの?)


 私は視界が真っ黒の状態で、前世のテレビで見た犯罪者が頭を隠して警察官に連れられていく風景を想像しながらテュッテとマギルカに連れられ、どこかへと歩いていくのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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