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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 二年目
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さすが、白の姫君?

今年もよろしくお願いいたします。


「どうしましょう?私達も行きましょうか?」


 アリス先輩が一人で地下へ行ってしまってから数分後、心配そうな顔を向けてマギルカが言ってきた。


「行ったところで何の役にも立たないわよ」


「いえ、その、ちょっと後学のために見学したいなぁと思いまして」


 私の答えに、マギルカが自分の知的好奇心を吐露してくる。


「うん、僕もここまで来て、他人任せも何だかなぁと思っていたところだよ。とりあえず、何かの手伝いができるかもしれないから行ってみようか」


 気乗りしない私であったが、王子の言葉とあっては否定することもできず、そうですねと相づちを打って、下に下りることになった。念のためテュッテには先生を呼んできてもらうということでこの場に残しておくことにした。

 ザッハを先頭にマギルカ、王子、サフィナ、しんがりに私といった布陣で私達は地下へ続く石階段を下りていくと、程なくして薄暗い奥から、扉が見えてくる。


「あれ?開かないぞ?」


 先頭のザッハが扉の前で立ち止まり、ガチャガチャと扉を押したり引いたりしながら、そんなことを口にしてきた。


「鍵が掛かっているのかしら?でもなぜ?」


 マギルカもザッハの隣に来て鉄でできた取っ手を眺めていると、つられて後ろの私達ものぞき込むように事態を傍観する。


サワサワ…


 私の後ろから私の髪を触って遊んでいるような感触が伝わってくる。


「ちょっと、テュッテ。私の髪で遊ばないでくれる?」


 私は扉の動向を見守りながら、当たり前のように後ろにいるはずのメイドに注意すると、その声に反応したサフィナが振り返って、ギョッとした顔でこちらを見てきた。


「ん?どうしたの、サフィナ?」


 何も言えない状態で固まっている彼女は振り返ったままでいるので、何事かと私が問うと、後ろのメイドがまたサワサワと私の髪を触ってくる気がした。


「ちょっとテュッテ、いい加減にしなさいよ。大体、あなたは先生を呼びに行く、んじゃなか……たっけ?」


 自分で言って、ハタと気づいてしまう。


(そういえば、テュッテは先生を呼びに行って、今は後ろに控えていなかったわね。じゃあ、私の後ろにいるのって?)


 考えたくないが、私は恐る恐る後ろを振り返ってみると、最悪の想像通り、そこにはいつの間にいたのか、幽霊が私の髪を触ろうと手を差し伸べているところだった。


「うきゃァァァァァッ!」


 驚きの悲鳴を上げて、私は前方へ飛び出し、私の声に驚いた皆が飛び退くように左右へはけてしまい、私は運よくというか、運悪くというか、鍵の掛かった扉の前で悪戦苦闘していたザッハを巻き込んで背中から体当たりをぶちかましてしまう。その手が扉に触れた瞬間、先ほどのように何かの魔法を打ち消した感覚にとらわれると、木製の扉が綺麗にすっぽ抜けていき、私はザッハと一緒に扉の向こうの地面へと倒れ込んでいくのであった。


「お…重い…」


「何ですってッ!」


 私はつぶれた蛙のように私の下敷きになっていたザッハの絞り出すような声に瞬時に反応し、般若のごとく、キッと睨みつける。


「うそです、とっても軽いです」


 その殺気にも似た怒気に当てられ、私を見ることなくザッハはなぜか敬語で訂正すると、私は気を良くして彼から退いてあげる。

 改めて、部屋の中を確認すると、そこは石で作られた地下室になっており、思った以上に天井も高く、広いスペースであった。私が今いる所は扉のすぐ近くで、そこから壁伝いに階段がさらに設けられて、ここからだと部屋を一望できるようになっている。その部屋の中央の床には、何とも怪しさ大爆発の複雑な魔法陣が大きく描かれており、その外周に立っていたアリス先輩が驚いた顔でこちらを見ていた。


(いかんいかん、これははしたないわね)


 私はスカートをパンパンと払い、身なりを正すと何事もなかったかのようにスクリと立ち上がった、爽やかに髪をかきあげるおまけ付きで。


「鍵をかけ、簡易だけど障壁魔法も展開しておいたのに、こうも易々と…まさか、こうなると見越して準備していたということですか?」


「はい?」


 階段から下りてくる私を驚いた顔でそう聞いてきたアリス先輩に私は意味が分からなかったので反射的に疑問系で返してしまう。


「フフフッ、そうですか。上手く立ち回っていたと思っていたのですが、やはり、白の姫君には敵いませんね」


 自嘲めいた笑みを見せ、肩をすくめるアリス先輩。どうやら、私の言葉を肯定の言葉として受け止めてしまったらしい。


「いつから気が付いていたのですか?」


「へ?いつからも何も最初から…」


(最初から、先輩の言っている意味が分からないんですけど?)


 私がポカ~ンとした顔でサラッと答えると、アリス先輩は何か衝撃を受けたような様子で、一歩後退した。


「さすが…白の姫君」


 そして、一人で何かを納得してしまう。そうこうしている内に他の面々も私の近くまで下りてきた。皆、事態が把握できておらず、?マークを飛ばして私とアリス先輩を交互に見ている。


「でも、もう遅いですわ!儀式の最終段階を済ませました。これで、悲願達成ですッ!」


 何かに打ちのめされていたアリス先輩が一転して、自信たっぷりに胸を張り、一人盛り上がって高らかに宣言する。


(だから、なんの事だかさっぱりなんですけど)


「なんの事だい?メアリィ嬢」


 さすがにアリス先輩の様子がおかしいことに気が付いた王子がそっと私に聞いてくる。


「ご本人に聞いた方がよろしいかと」


 私もさっぱり分からないので、一人盛り上がっている彼女に聞く方が良いと王子に進言した。


「あら?私に説明する猶予を与えるなんて、余裕ですわね。それとも、これも計算の内なのでしょうか?」


 私の言葉が聞こえたのか、こちらを見るアリス先輩の眼鏡が照明の光に照らされ、怪しく光る。依然、状況がさっぱり分からない私は、傍観者である。


「では、お見せしましょう!召喚魔法を!」


 ローブを翻し、後ろを向いたアリス先輩が淡く輝く魔法陣の前で両手を広げて、何だか大変な事を口走ったような気がする。


(え?あれってアンデッドを閉じこめるような魔法陣じゃなかったの?そういえば、アンデッドなんてここにはいないし、え?どういうこと?)


 まったく状況が掴めず、私達はアリス先輩の動向をただただ、呆然と見守ることしかできなかった。


「初級アンデッド召喚魔法、発動!サモンッ、ゾンビウォーリアァッ!」


 アリス先輩の力ある言葉に呼応して、中央の魔法陣が光り輝き、その輝きの中心からズルズルと何かが這いだしてきた。

 その体躯に皆が絶句する。

 腐敗した肉体を引きずり、傷ついた古めかしい鎧に身を包んだそれは、2メートル以上もある巨体を気怠そうに起こして、立ち上がったのだ。


「フオォォォォッ!」


 口周りの肉がそげ落ち、むき出しの歯を見せると、それは顎が外れるんじゃないかと思うくらい大きく口を開いて、雄叫びのような、そんなおぞましい叫びをあげた。元人間の姿をした腐臭漂う戦士が魔法陣の中央に立つと、持っていた刃こぼれのひどい剣と所々ヒビの入った鉄製の盾を持ち直している。窪んだその目の部分には眼球はなく、代わりに赤く光った何かが瞳の代わりといわんがごとく、私達を見据えてきた。


「あ、アンデッドを召喚ですって!」


 いち早く事態を把握したマギルカが焦った顔を見せながらも王子の前に立ち身構えると、ほとんど同時にザッハも動き出して、王子の前に立っていた。ちなみに王子が私の横で話しかけていた所為もあって、二人は私も守るような形になっている。


「ウフフッ!やりましたわ!やりましたわ、お爺さま!ついに悲願達成ですッ!」


 私達の緊張感をよそに、アリス先輩は心底嬉しそうな顔で叫ぶ。


「アリス先輩!あなたは自分が何をしたのか分かっておりますの!」


「ええ、承知しておりますよ、マギルカさん」


「アンデッドの召喚魔法の儀式場だったのかい、ここは?キミはここにこれがあることを知っていたみたいだね」


「さようです、殿下」


 マギルカの言葉に余裕の笑みを見せ、王子の言葉に礼儀正しく淑女の礼をするアリス先輩は、かなり嬉しそうだった。事態が急展開すぎて、私の頭ではついていけず、とりあえず整理してみようと試みる。


(えっと、つまり、ここはアンデッドを封じ込める場所じゃなくて、アンデッドを召喚する場所だったということなの?えっとぉ…ちょっとまって、そもそも何でこんな場所があるのよ)


 もう何が何だか分からなくなって、考えるのをやめたくなってくる。


(そういえば、アリス先輩、さっき悲願達成とかなんとか言ってたわね、それから…)


「お爺さま…」


 私が考えていることをポロッと口にしてしまうと、嬉しそうなアリス先輩がそれに食いついてきた。


「正解です、さすが白の姫君。あなたは本当に何もかもお見通しなのですね。そう、この場所を私に教えてくれたのも、この場所を作ったのも、私のお爺さま、あなた方からすると、教会から派遣された教師っと言った方がわかるでしょうかね」


 何か、全然そんな事知らなかったのに、ペラペラと勝手に自白していくアリス先輩に、内心驚きつつも、皆が注目している中、みっともない姿を晒すわけにもいかないので冷静な素振りを見せる私がいる。


(うん、ちょっとした見栄っ張りです、はい)


 そうして、事態は私の理解を置いてけぼりにして、どんどん進んでいくのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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