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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 一年目
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これは好機です

ブックマーク・評価などありがとうございます。


「あの、どうして私がアレイオスへ編入しなくてはいけないのでしょうか?」


 私は真っ白な頭の中でとりあえず、至極当然な疑問を学園長等にぶつけてみる。


「ふむ…その疑問は至極当然なのじゃが、あれかな、メアリィちゃんはソルオスで勉強し、りっぱな戦士になるのが夢なのかな?」


「いえ、私は平々凡々な日々を謳歌したいだけなので、本格的に目指すつもりはありません」


 質問に質問で返されてしまって何となく釈然としないながらも、私はとりあえず学園長の質問に答えると、私の質問に答えてもらいたく、学園長を見つめていた。その視線に気付いたのか、学園長がバツの悪そうに私から視線を外してくる。


「ホッホッホッ、ソルオスはこれから戦士への道を本格的に歩むべく、訓練もより実戦に近くなるのでな、ご令嬢方にはちと荷が重い面も出てくるのじゃよ。最悪、大怪我などもあり得る話なので生半可な覚悟では大変な事になるやもしれんからのぉ」


 などと、答えになっていない答えを私に投げかけてくる学園長。


(何か私がこのままソルオスにいるのに不都合なことが起こったのかしら?そして、それを私に伝えづらいと)


 私が思案すると部屋内は一時、静寂に包まれてしまい、それを機にテュッテがお茶を各々の前に置き始める。私はテュッテから貰ったカップを取り、紅茶を一口いただいて、心を落ち着かせることにした。そして、落ち着いてくると、この突拍子もない話の原因が何なのか、一つだけ私の頭の中に浮かんでくる。


「…お父様ですか」


「「「!!!」」」


 紅茶を頂いて、カップを持ったまま私の誰に言うでもない呟きに、学園長等先生達がビクッと肩を震わせるのが見て取れて、私は確信する。今回の件に父、フェルディッドが関わっていることに。

 おそらく、例の大会以降、父が私を心配して、学園に対し何かしら圧力をかけてきたのだろう。そんな一家族の戯言に学園が右往左往するわけがないのだが、その一家族が私、レガリヤ公爵家となると、話は別である。

 父は元帥を務める事から、国の軍事関係に非常に密接な状態であり、過去の武勲や現在の強さから将校ら、上層部の人間に非常に尊敬されている。父が国内で暴走しても周りは喜んで追従するだろう。加えて、レガリヤ公爵領の経済効果は国益にこれまた深く関わっているところもあり、貴族間の利権バランスの中心にいてしまう程でもあった。ここアルディア王国は王家による王権政治となってはいるが、実際は貴族達が政治に深く関わってしまい、王家も無視できない状態になってしまっている。特に王家がレガリヤ家に下手にちょっかいを出した日には王家と貴族間で政権戦争が勃発しかねないとまで言われており、これは両親や執事、家庭教師の人に幼い頃から聞かされていたことで、私が家の力を極力使わないように努めるようになった原因でもある。

 その父が先日この学園に押し入ったのだ、私の事で何か釘を差してきたのだろう事は先の皆の反応で窺い知れる。


「今度娘があのような事態に陥ったら、分かってるだろうなっと殺気を込めた笑顔で言ってきおって、ワシ、もうガクブルじゃったよ。ソルオスへ入れた時は何も言わんかったのにのぉ…ソルオスなんじゃから、怪我の一つや二つ当たり前じゃろうに、あの親バカめ」


 誰に言うわけでもない学園長のボヤキに私はそれでもアルトリア学園を治める長かと心の中で落胆しつつ、一つの光明をみて、決心する。


「分かりました、編入のお話、承りました」


 私はカップを皿に戻して、テーブルに置くと、サラッと言ってのけた。


「え?いいの?こちらから振っておいてなんじゃが、もうちょっと考えてもよいのじゃぞ」


「何か問題がありますか?」


「いや、ないのじゃが」


 私の余りのあっさりとした承諾の返事に、学園長が驚きながらこちらに考える余地を与えようと進言し、おそらく説得のために集められたイクス先生とアレイオスのグランドマスターが唖然とした顔でこちらを見ていた。考えるも何も、冷静に考えると私にとって、これは好機なお話だったのだ。


(ソルオスであれだけ盛大にやらかしてしまった私をみかねて、神様がもう一度やり直すチャンスを与えてくれたんだもの。私、アレイオスに行って人生やり直すわ。今度こそ、目立たず平々凡々の学園生活を満喫してみせるッ!)


 冷静な素振りで私は皆を見ながら、心の中で決意を新たに燃え上がる。


「ところで、なぜアレイオスなのでしょうか?ラライオスでも良かったのでは?」


 私は新しい人生に胸を躍らせながらも、その行き先にちょっとした疑問が生じて、思わず聞いてしまった。


「ふむ、試験の成績を見させて貰って、筆記も上々でしかもトップではなかったからのぉ、あれで筆記と実技がトップじゃったら、さすがにソルオスからの編入に周りから疑問が出てくるところじゃったが、安心してラライオスへと薦められると考えておったところ、どこでその話を聞きつけてきたのかそこの孫娘が、ぜひアレイオスへ、と推薦してきたのじゃよ」


 学園長の意外な言葉に私は隣に座るマギルカを思わず見てしまうと、彼女はそんな私にニッコリと笑顔で迎え入れてきた。


「メアリィ嬢は2階級魔法の初級戦闘魔法ではあるものの、魔導書を一読した後、行使したと聞きました。それが本当なら凄いことですよ」


 今まで黙っていたアレイオスのグランドマスターこと、『エリク・フリード』先生がとても嬉しそうに私を見ながら、話しかけてくる。黒色の髪の毛は短めにカットされながらもその毛先はクルッと跳ねていて癖毛だということを主張している。ソルオスにいた時は、周りの男性先生は筋骨隆々の人ばかりだったので、筋肉の少ない華奢なその体躯に私はご飯食べてる?っと心配になってしまうほどだった。その体を包む服は灰色の何となく現代のスーツに似ていてシンプルで、貴族にしては派手さに欠けているのだが、その穏和な表情と優しいトーンの声色にその素朴な姿がマッチしていて、これまたご令嬢達の淡い恋心を鷲掴みしてしまう程のイケメンぶりである。


「いっ」


「はい、フリード先生、事実ですわ。私がこの目でしっかりと見ていたのですから」


 そのイケメン先生がなにやら変な期待の眼差しでこちらを見てくるので、私は何だが嫌な予感がし、その話を今のうちにへし折っておこうと思い否定しようとして、横からマギルカに肯定されてしまった。


(ぐっ…先を越されてしまったわ)


 それでも私は何か否定しようとしたが、彼女の話は紛れもなく事実だし、彼女の目の前でやってしまったので、誤魔化す余地がない事に気が付き、言葉を濁すだけになってしまう。


「ホッホッホッ、孫娘の話を聞いた時は、にわかに信じがたい話じゃったが、もしそれが事実じゃというならその才能を伸ばさずにおくのは非常にもったいないと思ってのぉ、キミの編入先をアレイオスに変更したんじゃよ」


「そ、そうですか」


 何となく編入する前から変な評価が入っていて、少々不安になりながらも私はこの話題は早々に終わらせたく思い、空返事をするだけにとどめておいた。その後、編入手続きやらなんやらの話をフリード先生に簡単に説明され、私はその全てを後ろでうんうんと頷くテュッテに丸投げし、学園長の呼び出しの件は終了した。帰りはマギルカと一緒に帰ることになったのだが、その時、この塔に昇降機なる物が設置されていることを知ることとなった。まぁ、体育会系のイクス先生の事だから、そんな軟弱な機械に頼らず、己を鍛えろ的な精神で、私に使わせなかったのだろうと思うけど。


 こうして、今日の学校は終了し、帰宅途中の馬車の中、私は進行方向とは逆向きの向かいに座るテュッテに向かって話しかける。


「編入の件どう思う、テュッテ?」


「いろいろやらかしてしまったお嬢様にとっては、好機かと」


「だよねッ!神様がくれたこのチャンス!私は今度こそ、しっかり掴んでみせるわ!ノーイベント、グッドライフッ!」


「その意気です、お嬢様ッ!」


 馬車に揺られながら、私は握り拳を作り、意気込みを見せつけるようにうおぉぉぉと、天井に向かって振り上げるのであった。が、その時、運悪く馬車が石を踏み越えた所為でゴトッと大きく上下に揺れ、体がフワッと浮き上がり、私の振り上げた拳は天井にヒットし、ベキッと嫌な音が鳴って、馬車内が幸先不安な嫌な空気に包まれるのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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