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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 一年目
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準決勝戦です

ブックマーク・評価などありがとうございます。10000ptもの数字に震えております。


「決めたわ!明日の試合、私は一切動かない、無抵抗に終わる」


 準決勝へ駒を進めたその夜、夕食時に観戦に来ていた両親に誉めちぎられた私は自室でそう宣言した。


「でも、それでは明らかにわざと負けたと思われるのではないでしょうか?」


 私の宣言に、異を唱えてくるテュッテを見ると、私は瞳を潤ませベッドに寝転び、ゴロゴロと転がり始める。


「だぁって、だって!何かすると勝っちゃうもの!じゃあ、もう何もしない!絶対何もしないのぉッ!」


 手足をばたばた動かし、駄々っ子のように振る舞う私を、ため息混じりに眺めるテュッテは、それ以上何も言わずに、私の気が済むまで待っていた。


(そう!明日の試合は何もしない!ぜぇぇぇったい、何もしないんだからぁぁぁっ!)


 私は半ばやけくそ気味の決意を心の中で誓い、しばらくして私が暴れ疲れるとテュッテは就寝の用意をしてくれる。

そうして、大会最終日が訪れるのであった。


――――――――――


 大会最終日とあってか、昨日より観客の数が増えていた。私はこれから行われるザッハとサフィナの大勝負をなぜか観客席で見ている。ちょっとでも自分が選手であるという事から逃避したかったからだ。


「メアリィ様、こんな所にいて大丈夫なのですか?」


「うん、大丈夫よ」


 私の隣で心配そうに声をかけるマギルカに、私は極上の笑顔を向けて言ってあげると、彼女は苦笑いをこぼし、私がここにいることについて言及することを諦めてくれた。


「この試合は見物だね。どちらが勝つのかな?見当もつかないよ」


「もちろん、ザッハくんですよ、殿下」


「もちろん、サフィナさんですわ、殿下」


 少し興奮気味に王子が試合の行方を口にすると、近くにいたカーリス先輩と、マギルカがほとんど被り気味に進言してきた。言い終わると、二人は、ん?とお互いの顔を見やる。


「おや?マギルカ嬢はサフィナ嬢推しだったのかい。残念だけど、決勝でメアリィ嬢と戦うのはザッハくんだからね」


「いえいえ、決勝でメアリィ様と戦うのはサフィナさんですわよ」


 二人は確かに笑顔なんだが、そこに明るい空気はない。あるとしたら得体の知れないプレッシャーだけだった。


(そういえば、特訓時、カーリス先輩はザッハにいろいろ教えていたし、マギルカもサフィナと一緒にいる時が多かったわね。まぁ、お互い力になった相手が勝って欲しいって思うのは当然なことなんだけど)


「だから、何であなた達は私が決勝戦にいる前提で話をするのかしら?」


 二人の間に立って私がツッコミをいれると、相変わらず、えっ?という顔をされてしまう。


「まぁまぁ。ほら、始まるみたいだよ」


 私がさらに抗議しようとした時、王子がそれを止めるように会場を指さすと、ちょうど試合が始まろうとしていた。会場に立つ審判を挟んで、お互いが対峙した状態でザッハとサフィナが会場に入ってくる。


(ハッ!私はどっちを応援すればいいの?ザッハも頑張ってほしいし、サフィナだって頑張ってほしいのよ!)


 周りの歓声につられて、私も応援しようと声を出そうとしたが、ここにきて初めて、私は板挟み状態だということに気づかされて、言葉を詰まらせてしまう。


「ここは二人を応援すればいいのではないでしょうか?」


 私がモゴモゴと言い淀んでいると、控えていたテュッテが私の心を見透かしたようにそっと小さな声で私に助言してくれた。


「テュッテ…あなた、人の心が読めるの?」


「お嬢様、限定ですけど」


 私は心底恐ろしいといった顔で彼女を見ると、テュッテは澄ました顔でそう答えてくる。そうこうしている内に、審判が開始宣言をして、試合が始まった。

 会場が一斉に静まり返り、二人の動向を見守ると、サフィナはその場で抜刀体勢になり、ザッハは剣を中段に構えてジリジリと距離を詰めつつ、左右へ移動を繰り返す。サフィナはその都度、その場で体を動かし彼と対峙するようにしていた。


「珍しいわね、あのザッハさんが相手を警戒して近づいていくなんて」


 今までの彼は問答無用に距離を詰め、一方的に攻撃を繰り出すスタンスだったので、単細胞なのかと思っていたが、意外と考えて戦っているのだと分かると私は素直に驚いてしまった。


「それだけザッハにとって、サフィナさんが脅威なのですわよ、メアリィ様」


 私の呟きにドヤ顔で答えてくるマギルカ。


「どうかな?実はプレッシャーを受けてるのはサフィナ嬢の方かもしれないよ?彼女のメンタルで果たしてあの均衡状態を何分保つことができるかな。そのうちプレッシャーに負けて隙が生じちゃうかもしれないぞ」


 マギルカの言葉に横やりを入れるようにカーリス先輩が含み笑いを見せてくる。


「あっ!ザッハに変な入れ知恵したのは先輩ですわね!あの男があんな頭を使うような戦法を取るなんておかしいと思ってましたわ」


「ハハハッ、僕は良き先輩としてアドバイスしたまでだよ」


 詰め寄るマギルカに爽やか笑顔で答えるカーリス先輩。何だか会場外でも変な戦いが始まってしまったが、私は二人から少し距離を取り、とばっちりを受けないようにする。

 その時、歓声が上がり、私は会場外の戦いから会場内の戦いに意識を戻した。


「なっ!」


 ザッハの驚愕の声と共に、サフィナが抜刀の構えのまま、彼に向かって低く跳躍して、距離を詰めてきたのだ。ザッハは無意識に近い状態で後ろに飛ぶと、彼が先ほどまでいた場所に刀が空を斬る。

ザッハと同じようにカーリス先輩が驚き、その顔をフフンといった顔で見るマギルカがいる。


「移動しながらの抜刀術なんて…あっ、さてはキミの入れ知恵かい」


 今度はカーリス先輩がマギルカに詰め寄り、彼女はオホホと笑ってみせる。


「対メアリィ様用に考案しましたけど、今見せるのは痛いですが、致し方ございませんわね」


「対メアリィって。私はどこぞのモンスターじゃないんだからね」


 見ない振りをしていた私なのだが、聞き捨てならない言葉だったので、ツッコまずにはいられなかった。歓声がさらに大きくなると、サフィナの攻撃が優勢になっていた。ザッハが距離を取って様子を窺うと、その瞬発力を活かして距離を一気に詰めて抜刀をする。彼が攻撃に転じれば、それこそ一撃必殺の抜刀体勢に入る、完璧な布陣だった。サフィナより行動がワンテンポ遅いザッハはもはや防戦一方になっている。


(ちょっと見ない間に、サフィナったらすごい成長っぷりね。末恐ろしいわ)


 私はとんでもない剣士を生み出してしまったのではないかと、称賛半分不安半分で会場内の彼女を見る。

攻防が一端止まり、呼吸を整えるように、お互いが距離を取って、次の動きを警戒しあっていた。


(どうするの、ザッハ?サフィナはあなたが思っている以上に強いわよ)


 珍しく追いつめられている彼を見て、私は二人を凝視しながら固唾を飲んでしまう。

 すると、彼は何を思ったのか、上段の構えを取ったではないか。私はこれから上段から攻撃しますっと言わんがごとくの構えに会場がどよめき、対峙するサフィナは警戒して、抜刀体勢を立て直す。

 数瞬のにらみ合い。

一度、深呼吸をしたザッハは掛け声と共に上段の構えのまま、突進していった。

 無謀な突進だ…そう誰もが思っただろう。

だが、ザッハがサフィナの間合いに入った時、私は見た。

ザッハがまったく諦めていない顔だということを。

そして、彼の呟きに。


「ボディ・プロテクト」


 サフィナの抜刀と同時に呟かれた彼の言葉に呼応して、ザッハの体が一瞬光に包まれる。

 私はこれに似たモノを以前に見た事がある。そう、入学当時、カーリス先輩と戦ったときに彼が使った魔法に似ていたのだ。


パキィィィンッ!


 サフィナの抜刀が無防備なザッハの腹部をとらえた瞬間、薄い光の膜が弾け飛び、彼女の剣速を鈍らせた。


「魔法ッ!」


「ハハッ!これぞ、対メアリィ嬢用の奥の手だよッ!」


 マギルカがいち早く事態を理解し、カーリス先輩が勝ち誇った顔で答えてくる。


(だから、対メアリィって何よ)


 魔法を使うことにこの世界では全く驚くことはない。だが、彼が使った魔法は2階級魔法、生活魔法ではなく、戦闘魔法なのだ。本来、ソルオスの人間は一年目は基礎を叩き込むので精一杯で、二年目で応用と魔法を少々勉強するっといった感じなのだが、まさか、一年目で魔法を使用できる人間がいるなんて誰もが思っていなかったので、会場内は絶句していた。


「もらったぁぁぁっ!」


 勝利宣言を上げ、ザッハがサフィナの抜刀を受けながらも剣を彼女に向かって振り下ろす。ザッハの体格と、魔法の補助がついた所為でサフィナの攻撃力が半分以下にそぎ落とされてしまったのだろう。肋骨の一本ぐらいはヒビが入っているかもしれないが、今のザッハの勢いを止める要素としては弱すぎる。

 誰もがサフィナの敗北を確信した。


「サフィナさん!お使いなさいッ!」


 そんな中、マギルカの叫びがサフィナの耳に届く。


「アクセル・ブースト」


 マギルカの叫びと共に、サフィナもまた、何かを呟くと、彼女を光が包み込んだ。

そして…


 振り下ろされたザッハの剣が空を斬り、地面に叩きつけられる。


「なっ!」


 驚くザッハの目の前で、先程と位置が半歩横にずれたサフィナが刀を鞘に納めて、再び抜刀体勢を作っていた。


「一瞬、彼女の動きが加速した!」


 驚愕するカーリス先輩はマギルカの方を見ると、彼女はオホホと笑う口元を隠して勝ち誇る。


「魔法が使えるのはザッハだけではありませんわよ!」


「クッ!マギルカ嬢がアレイオスの生徒だと言うことを忘れていた!」


「はいはい…これも対私用なんでしょ」


「もちろんですわッ!」


 白熱する場外二人の戦いに私はため息をつきつつツッコむと、背をそらせ弾ける胸を見せつけるように、マギルカがさらに勝ち誇ってきた。

そうこうしていると、サフィナの抜刀が再びザッハを襲う。


「クッ!ボディ・プロテクト」


 回避不能と悟ったザッハが、再び魔法を使ってサフィナの攻撃を左腕で強引に防御する。


「アクセル・ブースト」


 さらに、攻撃に転じたザッハに、サフィナは加速してかわす。


 そして、誰もがこの戦いが長引きそうだと覚悟したその時、終わりは突然やってきた。


ドサッ!


 会場内で誰かが倒れる音がする。

何の前触れもなく、舞台に立っていた二人がまるで気を失うように崩れ落ちてしまったのだ。


「「えっ!!」」


 会場内がシンクロするように、そんな声がいろんな所から聞こえてきた。倒れた二人は未だ起き上がる気配がない。

どう言う事?と私はマギルカとカーリス先輩を見ると、二人は顔面蒼白になって冷や汗まで流しているではないか。


「しまった…教えるの忘れていた…」


「魔力枯渇…ですわ…」


「は?」


 二人の呟きに私は疑問符で応えてしまう。


「魔法の連続使用で、二人の魔力が一時的に枯渇してしまったのですわ。魔力は精神と密接で、魔力が枯渇すると、意識が混濁したり、最悪、気絶するといったケースがありますの」


 私の疑問にご丁寧に答えるマギルカ。


「え~と…つまり、どういうこと?」


 私はいまいち状況が掴めておらず、さらに疑問を口にすると、審判がそれに応えてくれた。


「両者、戦闘不能!よって、この試合、引き分けッ!」


 審判の声に、観客のよく分かっていない歓声が上がるなか、私はポカ~ンとした顔で、気を失っている二人を眺めるのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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