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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 一年目
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史上最速ッ!

 いよいよ、大会が始まった。

自分の番が近くなった選手は控え室で待機し、それ以外の者は観戦ができるため、私は3人の中で順番が一番早い、ザッハの試合を見に行く。

 さすがエレクシルの秘蔵っ子だけあって、試合会場にはすでに幾人かの観客が集まっており、先輩たちの姿すらちらほら見受けられた。

私はその中に見知った人がいたので挨拶をする。


「ごきげんよう、カーリス先輩」


「やぁ、メアリィ嬢も見に来たのかい?」


 私達が挨拶を交わしていると、会場がどよめき、選手達が現れた。


「それでは、一回戦第3試合を開始します」


 審判を務める先生の合図と共に、ザッハと相手選手が試合会場へ入ってくる。久しぶりに見たかもしれないザッハの真剣な表情に私はちょっと心配になって見守っていると、私に気が付いたのか、ザッハがこちらを見てきて、グッと親指を立てて、自分の意気込みを私にアピールしてくる。


(あはは、大した自信ね。緊張とかしないのかしらあの男は。心配して損しちゃったわ)


 私は呆れた顔でそれに応えてやると、ザッハはハハッと笑って会場の中央へと歩いていく。自分を挟んで、各々間合いから離れた場所に立つのを見届けた審判が試合の開始を合図する。それと、同時にザッハが速攻で相手の間合いに入り込んできた。


「!!」


「ハァァァッ!」


 不意をつかれたように相手選手は少し下がるが、ザッハはそのまま上段に切りかかってくるので、持っていた剣で受け止める。だが、ザッハの斬撃が重く、剣と剣がぶつかる鉄の音と共に相手選手は顔を歪めて、足下がよろける。間髪入れずにザッハが横なぎを繰り出すと、それを何とか剣で受け止め、またよろけてしまう。


「やはり…力の差は歴然だったね」


 試合開始早々に一方的な試合展開へと変わるとカーリス先輩が予想通りかという顔でそう呟いた。


「そうなんですか?」


 私は思わずカーリス先輩の呟きに応えてしまう。


「ん?エレクシルの剣は力で圧すのが主だからね。中でもザッハくんの斬撃の重さは僕でも手が痺れるくらいだよ。将来が非常に楽しみな人材さ」


 本気なのか冗談なのか、カーリス先輩がおどけてみせると、大きな歓声が起きた。会場を見ると、ザッハの斬撃に耐えられなくなった相手選手がザッハの繰り出す攻撃に剣を弾き飛ばされ、攻撃不能になってしまった所だった。


「終わったね…でもまぁ、相手もがんばった方だよ。瞬殺とまではいかなかったからね」


「はぁ…」


 危なげなく試合を終わらせたザッハが、相手と礼を交わすと会場を後にしていった。


(何か、あっという間だったわね。この分じゃ、ザッハは心配する必要がなさそうだわ。よし、サフィナの方はどうか、見に行こう。たぶん控え室にいる頃だろうから)


 私はカーリス先輩に挨拶をし、そのまま控え室へと戻っていく。控え室内は緊張でピリピリした空気が蔓延していて、何とも居心地の悪い状態になっていた。私は、その中で壁際で小さく縮こまり、自分の出番を待っている少女を見つけると、彼女の方へ近寄っていき、私より先に彼女の元に近づいた男に嫌な顔を見せてしまう。


「フンッ!性懲りもなく俺と戦おうって言うのか?身の程知らずも良いところだな、お前は一度も俺に勝ったことがないくせに」


 サフィナの前に立ち、不敵な笑みで見下ろすアレンにサフィナは上目使いで見上げ、身を縮こませているだけだった。私は彼が次に何かをいう前に二人の間に割って入ると、アレンを無言で睨みつける。


「チッ…またレガリヤかッ」


 アレンも心底嫌そうな顔を見せると、サフィナから離れる。


「サフィナもそうだが、お前もだな。ろくに実力もないくせに、親の権力を笠に着て、良い気になりやがって!虫唾が走るぜ、無能どもが」


「!!!」


 いい加減私の介入に嫌気がさしたのか、アレンは私にも悪態をついて立ち去ろうとした。


「てっ!訂正してくださいッ!」


 その後ろ姿に私の後ろからまだ小さくはあるが、彼女としては大きな声が発せられると、アレンの足が止まり、首だけこちらを向けてくる。


「あ?何だって?」


 サフィナは自分の刀を両手でギュッと握りしめながら、私の前に出ると、キッと頭を上げて、アレンを見た。


「私のことなら何を言ってもいいです。でも、メアリィ様を侮辱するような言葉は訂正してください。メアリィ様はあなたが思っているような人間ではありませんッ」


「ハッ!俺に勝ったら、考えてやるよ。まぁ、そんな事、絶対に起こらないけどな」


 時折、声が小さくはなるが、それでもはっきりとした物言いでサフィナが抗議すると、アレンは鼻で笑って言い返し、そのまま控え室の外へと向かう。


「サ、サフィナ…」


 私は前に立つ小さな少女に驚いていた。


(あのサフィナが、言い返した)


「メアリィ様は…そんな人じゃない…あなたなんかに何が分かるの…」


 俯き小さな声だが、そう言った彼女の顔は珍しく怒っていた。

自分ではない、他人を侮辱されて怒りをみせる…それが、彼女の緊張と恐怖を凌駕し、一歩前へ踏み出させたということなのだろうか。


(私もあの時、テュッテを守ろうと、他人のために勇気を振り絞ったわ。サフィナもまた、自分ではなく、他人のために怒り、勇気を出したってことなの?)


 予想外の展開に私はどうしていいのか戸惑っていると、試合が進んで、彼女の試合が始まるので会場へと行くようにという先生の言葉に、彼女は俯いた顔を上げて、外へと向かっていく。私はその後ろ姿を見守り、一言声をかける事しかできなかった。


「勝つのよ、サフィナ!」


「……」


 私の言葉に一度足を止め、こちらを向くことなく、それでもしっかりと頷き、サフィナは試合会場へと歩いていった。




 私が会場に到着すると、会場周りにはマギルカ、ザッハと王子すら観戦に来ていた。


「こ、これは、レイフォース様」


 私が慌てて礼をしようとすると、彼はそれを手で制止する。


「いよいよだね、サフィナ嬢の試合」


「は、はい」


「さぁて、どうなるか見物だね」


 私と王子が会話していると、カーリス先輩が興味津々に近づいてきた。


「それでは、これより一回戦第8試合を開始します。両者、前へ」


 審判の先生の合図に、各々が会場の中に入ってくる。私は自分の事以上にドキドキしながらサフィナを見守ってしまっていた。


「フンッ!身の程知らずが!すぐに終わらせて、二度と逆らえないように醜態を晒させてやる」


 耳が良いのか、それとも彼の声が大きいのか、二人の会話がなぜか私には聞こえてきた。


「…勇気を持って前へ…勇気を持って…前へ…メアリィ様を侮辱したこと、絶対に許さない…」


 アレンの挑発を無視し、対峙したサフィナは自分を必死に奮い立たせている。


(頑張れ、サフィナ)


 私は拳を握って固唾をのむと、審判の合図で、両者は間合いの外へと歩いて離れ、お互い同じ剣技のはずなのに異なった構えをした。その光景に周りからザワザワとどよめきが起こり始める。


「フンッ!妙な構えをしやがって!何をしたって無駄なんだよ!無駄、無駄ッ!」


「……」


 アレンの余裕から出る悪態に、サフィナは動じることなく、深呼吸をした。


「それでは…はじめッ!!」


 審判の合図が会場に響き、アレンはサフィナに向かって走り出した。







 静寂・・・


 あれだけ騒がしかった会場が今、静まりかえっていた。

観客は言葉をのみ、一方を見つめている。

これから試合をしようとしていた選手達ですら、構えのまま一方を見つめている。


 その視線の先にいたのは一人の少女。


 その美しい刀身が太陽の光に照らされ、光り輝いていた。

そして、振り抜かれた刀身のはるか先にうずくまっている物体は、無様にもその口から泡を吹き出し、白眼を剥いたまま、気絶していた。


・・・一撃・・・


・・・たった一撃・・・


 少女の抜刀が、男の横腹を捕らえ、ゴミ屑のように吹き飛ばしたのがほんの数秒前。

息を吐き、少女は刀を鞘に納めると、キンッと金属音が会場に響き、その音に唖然としていた審判の先生がまず、正気に戻った。


「しょ、勝者!サフィナ・カルシャナッ!」


 審判の声を皮切りに、会場から歓声が沸き起こった。


「か…勝ったの?」


「ええっ!そうですわ、メアリィ様ッ!」


 あまりの出来事に呆然としたまま、私が呟くと、隣にいたマギルカが嬉しそうに私に抱きついてきた。


「驚いた…たった数秒、しかも一撃で試合を終わらせるなんて。僕の記憶ではサフィナ嬢が初めてだよ。これは、とんだダークホースだね」


 驚いていたカーリス先輩がそんな事を呟き、私はサフィナの勝利をやっと認識すると、抱きついていたマギルカの両手を掴んで彼女を離すとヤッタァァッと見合い、喜んだ。


「ヘヘッ…メアリィ様はとんでもない奴を生み出してくれたもんだ」


 喜んでいる私たちを尻目に、ザッハがそういうと、私は彼を見る。


「何?エレクシルともあろう男が、嫌なの?」


「ハハッ!そんな訳ないだろ」


 彼は、私に心底嬉しそうな顔を向けてきた。


(あっそっ…この戦闘民族め。ちょっとは恐れおののいてもバチはあたらないわよ)


 私が嘆息していると、フラフラと歓声の根源が近づいてくる。


「…メ、メアリィ、さま…わた、わた…わたし…勝っ…」


 疑心暗鬼にかかった彼女は自分でも信じられないと言った顔で私に問いかけてきた。


「ええっ!勝ったのよ、サフィナ!あなたが、勝ったのよ!」


 私は彼女の手を握って、彼女が現実を認識できるように、何度も勝利を伝えてあげると、彼女はやっと事態を把握し始め、その瞳が潤み、そして、決壊した。

 張りつめた緊張の糸が今、途切れ、彼女は歓声に紛れて、私の胸で泣きむせる。


 学園史上、最速で勝利した剣士が今、ここに誕生したのだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます、評価もありがとうございます。

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