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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 一年目
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特訓中です

 大会が近づき、サフィナの特訓は、授業の合間から、休日まで休む事なく行われることになった。これは、いつでも場所を確保できるこの個室訓練所のおかげでもある。


「刀の方も試作品ではあるけど、何とか形になって、サフィナの抜刀も様になってきたわね」


 私は、ザッハを相手にひたすら抜刀の練習に打ち込むサフィナを見て、うんっうんっと満足げに頷いた。


「刀身の長さ、重さ、柄の形から何もかも、サフィナさんに合わせた特注品だってデオドラ様から聞きましたわよ…いったい、いくらかけているのですか?メアリィ様」


 私の隣でサフィナを見ていたマギルカが呆れた顔でこちらを見てくる。


「ん?な~に?聞きたい?いくらかかったか本当に聞きたいの?」


「いえ…遠慮しておきますわ」


 私が邪悪な笑顔のまま詰め寄ると、マギルカが一歩下がって降参する。


「アイタァァッ!」


 私達がバカをやっていると、ボカッと乾いた音とともに、サフィナの可愛い悲鳴が室内に響きわたった。見ると、サフィナが抜刀する前にザッハの模造剣が脳天を直撃しているところだった。


「ダメですわね、彼女…抜刀術は受け身ながらも反射速度の速いサフィナさんにうってつけかと思いましたけど、まさか、迫り来る相手に怯え、さらに決断力のない性格の所為で剣を抜くのを躊躇ってしまい、結果、剣速が鈍ってしまうなんて…」


 マギルカがため息をつきながら、サフィナのこれまでの成果を分析する。


「…っといってもねぇ…その度胸があったらそもそも、こんな事にはならなかったと思うのよ」


「…ですね」


 今度は二人でため息をつく。


(だからといって諦めるわけにはいかないわ、大会はもうすぐなんだし…何とかしないと)


「う~ん…ちょっと思ったんだけど、サフィナ嬢には、少し甘えがあるんじゃないのかな?相手がザッハだから自分が失敗してもフォローしてくれるって無意識に考えてしまっているのかも…現に、失敗しても、軽く頭を叩かれる程度で終わっているからね」


 私達が頭を悩ませていると、後ろで見ていた王子が何やら手厳しい事を言ってきた。


「甘え、ですか…つまり、サフィナさんにもっと危機感を持っていただければいいと言うことですね」


「え?何?ザッハさんに本気で打ちこめって言うの?大会が近いのに大怪我でもしたら、それこそ本末転倒よ」


 マギルカの提案に私は即座に異を唱える。


「フフッ!大丈夫ですわ、私に考えがあります。ちょっと校舎に戻って準備してきますわ…それでは、後ほど」


 したり顔のマギルカは私達を残して、訓練所を後にしていったので、私はサフィナに休憩を取らせることにした。それから残りの授業を終わらせて、再び訓練所に戻ってきた私達を出迎えたのは言わずもがなマギルカだった。


「お待たせしましたわ、これが秘密兵器です!」


 クルンと一回りし、手に持っていた瓶を高々と掲げる彼女につられて、私とサフィナは口を開けて、その瓶を見つめてしまっていた。


「何?それ?」


「ですから、秘密兵器ですわ」


 栓をしていた瓶のコルクを力一杯引き抜き、私達の前に差し出すので、私とサフィナは顔を近づけ、それを眺めようとして…


「臭いッ!何この臭いッ!」


「あうぅぅぅっ!」


 瓶から漏れでた異臭を嗅いで、私達はものすごい勢いで後ろに下がっていった。


「フフフッ…これは臭いに敏感なモンスターを撃退するために私が開発しました匂い袋の原液ですわ。まぁ、あまりに臭すぎて、持っている本人すらダメージを受ける代物になってしまい、お蔵入りになってしまいましたけど」


 得意げに胸を反らしながら、マギルカは瓶にコルクをねじ込んで、臭いの元を遮断する。それでもあの臭いが嫌すぎるので、私はその場から動かずに彼女に問いかけた。


「また何でそんな物騒な物を持ってきたのよ」


「決まっていますわ!これを使ってサフィナさんの特訓をするのです!」


「ごめん、何言ってるのか、全然わかんないんだけど…ちゃんと説明して…」


 自分の自信作がお蔵入りになって、それが今、ここで役に立つと勝手に思いこみ、興奮しているマギルカには悪いが、私は、後ろで私にしがみついているサフィナが意味も分からず、ひたすら怯えきっているので、彼女に分かるように説明を求めた。


「簡単ですわよ、この原液を大量に染み込ませた布を相手の剣に括り付け、サフィナさんに切りかかってもらいます。もし、ちゃんとやらなければ、この原液がサフィナさんの頭上にビチャ~~っと降りかかり…あの強烈な臭いがサフィナさんの体に…」


「ひぃぃっ!」


「お、恐ろしい…なんて恐ろしいこと考えるのよ、あなたは」


 瓶を私達に向けて、クククッと怪しい笑いを見せながらマギルカは、「あんな異臭を放つ乙女なんてとんでもなくダメでしょ」的な恐ろしい計略を私達に話してきた。あまりの非道っぷりに私は驚愕し、サフィナは小さく悲鳴をあげてしまう。


「あっ、ちなみに、洗い落とさない限りこの臭いは付着し続けますので、気を引き締めて下さいね。さぁ、時間には限りがありますわ、さっそく始めましょう!メアリィ様、剣に液を染み込ませた布を括ってください」


「えぇぇ!何で私が!そういう汚れ役はザッハさんの役目でしょッ」


「彼、まだ授業がありますから来ませんわよ」


 いそいそと準備をし始めるマギルカに私は抗議するが、肝心な汚れ役が来ないのでは話にならなかった。


(ガッデム…いつもは呼ばなくても勝手にいるくせに、肝心なときにいないなんてェェェッ!)


 私はぶつけどころのない怒りに震えながらも、マギルカに急かされ、準備に取りかかる。


 そして、数分後。

嫌そうな顔をした私と、もう半泣き状態のサフィナが対峙していた。


「うわッ!臭ッ!ねぇ、この臭い、私の剣にまで移るとかないわよね」


「さぁ?」


「さぁって何よ!さぁって」


 刀身の中間部分に巻いた布から放たれる最悪な臭いに顔をしかめながら言った私の疑問に、マギルカは曖昧な返事をよこしてきたので、私は慌ててそちらを見て声を荒げてしまう。


「ちょっと、むやみに剣を振らないでください。液が飛び散ってこちらにかかるじゃないですか」


 汚いものをみるような目で、マギルカはどんどん後ろに下がっていく。


(おのれ~…全て終わったら、この剣でぶっ叩いてやろうかしら…)


 とりあえず、復讐は後に置いといて、私は対面を見直す。


「さぁて、サフィナ。何かよく分からないけど、そういうわけだから、しっかり私に攻撃される前に、この窮地を脱しなさい。でないとサフィナッ、あなた、レディとして終わるわよッ」


「そ、そんなぁ~」


 私の脅しに怯えまくるサフィナ。


(こんなんで、ほんとに大丈夫なのかしら?でも、怪我とかなさそうで、しかも、何か失敗は許されない変な緊張感はあるわよね。これでサフィナも迷いを捨てて剣を抜く度胸をつけてくれたらと思うと…)


 私は心を鬼にして、剣を構えると、サフィナも覚悟を決めたのか、アワアワしながらも抜刀の構えに入った。


「……いざぁっ!」


 一時の沈黙の後、私は地面を蹴って、サフィナに向かって飛び出していった。







 そして今、私達は学園にある水浴び場所、所謂、シャワー室にいる。

それはなぜか?決まっている、臭いの元を洗い流すためだ。

ソルオスは基本、体を動かす事が多く、汗まみれになるので、体を綺麗さっぱりにできる施設が用意されている、それが私達が今いるシャワー室なのだ。

 あれからある意味、乙女としての何かを賭けた特訓に入って一時間程。サフィナはほんとに必死だった。今まで見たことのないくらい必死で、甘えもなく、本気で何の迷いもなく振り抜いていた、もう、後半なんてヒステリックになっていたかもしれない…が、空回りも多く、何度も何度も私の剣をその身に受ける羽目になってしまっていた事はいうまでもない。


(一番最初なんて、滅茶苦茶焦って、私が到着する前に振り抜いてしまったくらいよ。あの間といったら何とも言えなかったわ。死刑宣告を受けたお姫様に今から死刑を執行する人みたいな心境だったわよ。まぁ、でも、あそこで甘えを見せたら意味ないので、振り下ろしちゃったけど…一回やっちゃうとそれ以降は躊躇いがなくなっちゃうから、人って怖いわね…)


 私はあの悪夢の出来事を振り返りつつ、ブルッと身震いする。ちなみに私も今、体を洗っている。


「フフフフフッ…まさか、あんな事になるなんて想定外でしたわ…でも、大丈夫です!替えの服も用意させましたし、皆さん、洗い終えましたら、再び特訓再開ですわ!ウフッ、ウハハハハハッ!」


 あんな事とは、簡単にいうとこうだ。そのうちサフィナの怨敵が私ではなく私の持つ剣になって、まさか、彼女の抜刀が私の剣めがけて放たれるとは思わなかった。っで、吹っ飛ばされた剣が、正確に言うと括り付けられていた悪臭たっぷりの布が飛び、運悪く、避難していたマギルカの顔面に直撃してしまった。さらに、事態はそこで終わらず、何をトチ狂ったのか、マギルカは持っていた原液の瓶を私達に向かって放り投げてきたのだから、その後はとんでもない地獄絵図になっていたのはいうまでもなかった。

そんなこんなで、なんだか壊れたマギルカが変なテンションになってしまっているのを、私はハハハッと乾いた笑いで眺めていると、


「……無理です…」


 絶望したような、瞳に光を失った顔でサフィナが体を洗い終えて出てきた。


「サ…サフィナ?」


「…無理です…いやです…訳分かりません…特訓で臭くなるってなんですか…剣振って臭くなるって何ですか…だいたい、特訓って臭くなるものですか…何ですかこれは…誰です、こんな訳の分からない事考えたのは…もう無理です…無理です…無理です…無理…無理…無理…」


 光を失った瞳が虚空を見つめたまま、サフィナは感情が抜けた感じでぶつぶつと言葉を並べていく。


(あっ!サフィナも壊れたわ…)


 変なテンションの二人を眺めつつ、もう、私は静かに笑うしかなかった。

 こうして、私達の危険な特訓は男友達に知られることなく、永遠に封印されることとなったのであった。


 翌日、二人は元に戻っており、何だがサフィナの抜刀にも迷いはなくなっていたので、この件は成功…なのだろうか?もっとも、あの時の話をしようとすると、二人とも言動が若干おかしくなるので、もう触れないでおくことにしている。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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匂いがこびりつかなくてよかった(人•͈ᴗ•͈)
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