え?大会?
ブックマーク、評価などありがとうございます。
「どうして、この世界は私に優しくないのよぉぉぉお…」
学園が終わり、私は家に戻ってベッドに突っ伏すとそんな愚痴を吐きながら悶えていた。
「剣の方は折れていないですね…上手くいって良かったじゃないですか」
枕に顔を埋めてふてくされる私を気遣いながら、テュッテは今日一日で良かった事を例として上げてくれた。
「そりゃあ、良かったわよ…私が強めに握ってもヒビ一つ入らなかったし、魔力吸われているっていっても全然気にならなかったし…でもね…」
チラッと枕に埋めていた顔を横に向け、机に置いてあった自前の剣を見る。
まず、帯刀できるように鞘とベルトを作って貰った、そこまでは良かった。
だが、刀身から柄まで全て真っ白な剣というのは目立つだろうし、白色鉱を使っていると気付かれると後々不味いような気がしたので、レガリヤ家お抱えの画家に頼んで、そう簡単にはがれ落ちない塗装をしてもらうことにした、そこまでは良かった。
念のため、変に凝られるといけないので期間を短くし、3日で受け取るようにした、完璧だと思った。
(思ったわよ…まさかその画家が剣の作りの細かさに芸術魂を燃え上がらせて、3日完徹で没頭するとは思ってなかったわよ)
私の視界にある模造剣は白色鉱でできているとは思えないほど完璧に普通の剣に見えていた。見えるのが不味かった。
(だって、元々のデザインが伝説の剣っぽいのよ…そこに違和感なく着色したらそれはもう、まごうことなく伝説の剣もどきになっちゃうじゃない…っとはいえ、あのやりきったぁぁぁっていう満足そうな顔で渡してきた画家さんにリテイクなんて私にはできないわよ、もぉ~!)
そして今日、それを持っていった時のクラスメイト達の反応といったらこっぱずかしかった。皆、私のことを気遣ってか、笑いを堪えていてくれたが、隠しきれていなかった。
最悪なのは、私の相手をしていたザッハだ。私の剣を見るなり「なんだその無駄に豪華な剣は?あれか、お前は勇者か?どこかで聖剣でも抜いてきたのか?お前今年でいくつになるんだよぉ!」などと、大爆笑しやがったあいつは、その後、怒りの突きでぶっ飛ばしてやったが、それでも私の気が晴れることはなかったので、しばらく口を聞いてあげないの刑を執行したら、数分で平謝りしてきたので許してあげた。
ちなみに、皆にはその実力を高く評価されているザッハが私にあえなくぶっ飛ばされたので、その評価は下方修正されるのかと思いきや、皆が思ってても口に出さなかった言葉を勇気を持って代弁し、そして相手の怒りの攻撃を謝罪の代わりにあえて無抵抗で受けとめたんだ、とその潔さに評価が上方修正された事は、まぁ、私にはどうでも良いことだが、伝えておこう。
「人の噂なんて、最初だけですよ…そのうち興味もなくなって、普通になりますから、それまでの辛抱ですよ、お嬢様」
ファイトっとジェスチャーを見せて、テュッテが私を励ましてくれるので、私は体を起こし、気持ちを切り替えることにした。
「そうよね!ありがとう、テュッテ。私、頑張るわ!」
そう言って、机に置いていた伝説の剣(笑)を抜いて、掲げてみせる。
「その勢いでっ、ブフッ!」
相槌を打とうとしてしゃべったテュッテが途中で我慢できなくなって吹き出した。
「ちょっとぉぉぉっ!今のは何よぉぉぉっ!この裏切り者ぉぉぉっ!」
私は切れないその伝説の剣(笑)を振り回して、部屋中を逃げ回るテュッテを追いかけるのであった。
―――――――――
それから、我慢の数ヶ月が過ぎた頃…
「えっ?今なんて言ったの?」
「す、すみませんッ!すみませんッ!ですから、もうすぐ、試験ですね~っと…」
「あっ、怒ってないから、泣きそうにならないでサフィナ…それよりもその後の話」
「え?えっとぉ…試験で武術大会が行われて、試合しないといけないから私はイヤだな~って」
「そこよッ!」
「ヒッ!ごめんなさい、ごめんなさい!」
それは、勉学に励んだ後の昼下がりに、談話室でサフィナと一緒におしゃべりしていた時の会話だった。私が鬼気迫る勢いで問い詰めるものだからサフィナは半泣き状態で平謝りしている。
「試合ですって…」
「今年入ってきた生徒の実力を見比べるなら手っ取り早い方法だよなッ!くぅ!楽しみだぜ!」
私が唸っていると、いつにも増してテンションあげてしゃべるザッハがいる。
(くっ…この戦闘民族め…)
「しかもトーナメント形式で、勝ち上がった上位の者が今年の成績優秀者になるんだぜ!燃える展開だろ?」
私に迫ってくる暑苦しい男をシッシッと手で追い払い、座らせる。
(成績優秀者か…レガリヤ家の令嬢としては是非、欲しいところだけど…う~ん、目立つのはイヤだし…とりあえず一回くらいは勝っておいて、それから負けちゃおうかしら…多く試合しているとボロが出そうで怖いし…)
この数ヶ月で、実技の面での皆の実力はだいたい把握しているつもりだ。それを踏まえて考えても、私がちょっと本気出してドついても大丈夫なのはザッハくらいだろう。後、サフィナはちゃんと避けてくれるのである意味大丈夫なのだが、当たったら洒落にならないので油断はできない。
「トーナメントって、どうやって決めるのかしら?」
「イクス先生が、公平を期すため、くじ引きで決めるっと言っていましたよ」
(良かった…また貴族社会のパワーバランスに巻き込まれて、とんでもない所に入れられたりしたらたまったものじゃないものね…)
「くじ引きかぁ~…できる事ならメアリィ様とは決勝戦で雌雄を決したいところだぜッ!なっ!」
「やめてよ…何で私があなたのライバルみたいな感じになってるわけ…男の子同士でやりなさい、そういうことは」
今なお暑苦しいザッハをシッシッと邪険にしながら、私は心底嫌な顔をしていると、俯いたまま深刻な顔をしているサフィナに気がつき、彼女の小さな頭を優しく撫でてあげる。
「どうしたの、サフィナ?何か心配事でもあるのかしら?」
「メアリィ様…えっと…なっ…なんでもありません…」
何か言い掛けた彼女はその言葉をのみ込むと、エヘヘッと愛らしく笑ってみせた。
「でも…」
「あっ、そろそろ実技講習ですよ、訓練所に行きましょう」
それでも、納得できず、何か言おうとした私から逃げるようにサフィナがいつもは嫌がる武術訓練の授業へ自分から行こうとして、私はますます彼女が気になってしまったが、今は深く追求しないことにした。
訓練所。そこは校舎外に作られただだっ広い平地で、闘技場と違い、観客席もなければ、屋根も壁もない場所だった。私から言わせれば学校の運動場っといった所だ。
いつものように、集まった者からパートナーを見つけて剣術や体術の訓練を自主的に行い、それを見回っている先生が、何か思ったことがあれば助言する、もしくは、生徒が先生に聞くっといったスタンスの授業である。
私は今、サフィナをパートナーに訓練している最中だった。なぜ、彼女かというと、彼女の回避性能がクラス内ではずば抜けているからだ。
私は剣を振るうことに気を使わずに済んでから、ここの所、前世にあったマンガやアニメの技が自分にもできないか試してしまっている。いや、実際、いくつかできてしまっているので楽しくてしょうがなかった。っで、はしゃぎすぎて、ついうっかり相手にクリーンヒットさせて、大惨事になってしまったら目も当てられないので、回避性能が高いサフィナに相手をお願いしているというわけだ。
「さて、今回は、大会に向けて、何か必殺技でもあみ出してみようかしら」
「ひ、必殺技ぁ!」
私が何気に呟いた言葉に、向かいに立つサフィナが今にも逃げ出しそうな体勢でオロオロし始めた。
「落ち着けよ、サフィナ!いつも言ってるけど、お前の反射速度は群を抜いてる、メアリィ様程度の攻撃くらい簡単にかわせるから、自信持てよ」
私たちから離れて見ているザッハがオロオロしているサフィナに声をかけてきた。
(メアリィ様程度とは言ってくれるわね…またぶっ飛ばしてあげようかしら…いや、でも、私の評価が上方修正されるかもしれないから、やめとこう…)
私はため息をつきつつ、自前の伝説の剣(笑)を抜き、構える。
「プッ!っにしても、何度見てもその豪華すぎる剣はアレだな」
ほくそ笑んだザッハの顔が私の視界の隅にはいると、私のこめかみがピクッとひきつった。
「口利いてあげないの刑に処すわよ」
怨念を込めてボソッといった私の言葉に、ザッハが慌てて口を塞ぐ。そして、私はある事を思い出して、構えを変えてみた。
私は剣を右手だけで持ち、相手を見たまま右足を後ろに下げ、体勢を横向きにすると、少し屈んで、左手をくの字にし、親指と人差し指の間に剣先をそえた。
(確か、マンガで読んだ某幕末志士はこんな構えで突きを繰り出してたかしら?)
現在、私の剣術の主流は突きで構成されている。剣がレイピアだからという理由もあるが、振るよりも突きの方が力をセーブしやすかったからだ。
「何かかっこいい!かっこいいわ、この構え!フフフッ、この一撃必殺の突きで大会を勝ち進んじゃおうかしら♪」
「…大会に…勝つ…」
自分でも何となく様になっていると酔いしれ、私が言った大会に勝つっと言う言葉に沈んでしまったサフィナに気がつかず、私は相手に向かって思いっきり踏み込んでしまっていた。
「サフィナッ!」
そして、彼女が全く反応していない事に気がついた時には、私は彼女に向かって突きを繰り出している最中だった。
「!!!」
私の叫びに彼女もハッと我に返り、咄嗟にかわそうと動いたが、時すでに遅く、私の突きが避けようとして体を横にずらしたサフィナの左肩にクリーンヒットしてしまっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。