他のクラスへ訪問です
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今、私はサフィナと一緒にとある場所へと向かっている。どこかというと、『ラライオス』の談話室だ。
(目的は簡単、王子に会いに行くからよ…この前の話に出た剣の話、やはりどうなったのか知りたいの!そしてあわよくば手に入れるか、作ってもらうか、とにかく何か進展がないと、私の試験に未来はないわ)
私は姿勢を正し、覚悟を決めて目的地に向かっていた。ついでに言うと、サフィナは全然関係ないのに、私が談話室の場所が分からないというとついて来てくれた。
(あぁ、私って友達に恵まれているわね…でも、誰に会うのかサフィナには言ってないから、王子に会ったら彼女、卒倒するかも…)
なぜ、王子に会うという緊張で胃が痛くなるような行為に出たかというと、剣が王族がらみなら王族に聞けばいいっということだけだ、幸いにも私はその王族にツテがある。
(このカードは最終手段にしたかったけど…あまり時間をかけたくなかったし…仕方ないわよね)
廊下を歩いていると、私達とは少々身なりが違う、どちらかというと庶民的な格好の人達が多くなってきた。
ちなみに私の格好は、以前から専属の仕立屋に頼んで、前世の日本にあった制服を作ってもらっている。やはり学校に来たのだから日本人として制服を着るのは私にとってある種、憧れでもあったからだ。
布地に白と黒を織り交ぜた、ブレザータイプの制服にはアルトリア学園の校章とソルオスの紋章をワッペンにして付けているので、端から見ても「私はアルトリア学園の生徒でソルオスに所属しております」っと体言している。なので、私の身なりから私がソルオスの人間だと分かると、ラライオスの人達は距離を置き、様子を窺うようになっていた。
だが、私はこの制服を着て浮かれながら学校へ来て思い知らされたことが一つある。それは、制服というのは皆が着てなんぼっという事実だった。私だけが着ていては、それは制服ではなくただの一ファッションなのだ。
(これじゃあ、制服着て学校へ来たっていう実感が沸かないのよね)
とりあえず、横にいるサフィナがとても興味津々だったので、後日お揃いの制服を用意することになっている。
(フフフッ…いつしかソルオス全員に蔓延するようにしてくれようぞ)
などと、ソルオス制服化計画を画策しながら、程なくして、彼らが多くいる部屋へとたどり着くことができ、談話室に着いた私の緊張も上がっていく。
(きっと日本だったら…初めて他のクラスに入っていくみたいな緊張なんだろうな、これは…っで、ドア付近の席にいる生徒が取り次ぎ係りで
「お~い、○○さんが××に用だってさ!」
「お、何だよ××、この人気者め、ヒューヒュー」
「やめろよ、恥ずかしい!○○さん、廊下で話そうか?」
みたいな展開になったりするのね…キャ~♪)
前世、そんな甘酸っぱい気持ちを味わうことが出来なかった私にとっては嬉しい反面、その××が王子であるという緊張で胃が痛くなってくる。私がそんな状態なので、もちろん私よりメンタル弱のサフィナといったら、緊張のあまり、今にも吐きそうな顔になっていた。
「無理しなくてもいいのよ、ここからは私だけで行くわ」
余りの蒼白っぷりに私は助け船を出すが、彼女はブンブンと首を横に振る。
「こ、ここで一人になる方が…つらいです…」
(ですよね~…私もこんなアウェーで一人にされたら泣くわ)
一度深呼吸をし、私は談話室の中を覗くと、そこは私達が利用している談話室とほとんど同じ構造で、たいして驚きもなかった。部屋の中にいた人達も入り口で立っている私達に一度興味を示して、こちらを見てくるが、私の身なりでソルオスの人間だと分かると、そのまま放置されてしまう。
(しまったぁ…自分の席なんてないから、取り次ぎ係りなんているわけないじゃない。くっ、自分で探すしかないという事ね…うう、緊張する…王子はどこにいるのかしら?)
さっさと用件を済ませてここから離れようと、私は王子を目で捜し、意外と早く彼を見つけることが出来た。
(なぜかって?特に令嬢が多い人集りがあったからよ)
数人の男女に囲まれたそのテーブルに近づいていくと、その中心に温厚な王子が何やら楽しそうに話をしている最中だった。
(授業の事かしら…政治の事やら、なんやら難しい単語が飛び交っていて、私には何が何やら分かんないけど)
王子は一方的に話すだけではなく、周りの者の意見も聞きだし、そして、それを吸収し、さらに話を盛り上げている。彼らもまた相手が王子だというのにあまり遠慮していない様子で話しているが、その表情は明らかに彼を尊敬している顔だった。そして、王子はとても凛々しく楽しそうだった。見ている令嬢達なんて、ものすごくうっとりしているくらいだ。
(何か…邪魔しちゃ悪いわね…)
私は話が終わるまで待とうとその場に立っていると、ふと王子が私達の存在に気がつく。というより、時折周りを見る彼の視線に私の視線が合ってしまったのだ。
「すまない。大事な友人が訪ねてきたみたいだ、話はここまでにさせてもらうよ」
そう言った彼の屈託のない笑顔に、誰一人あらがうことができず、何かを言おうとしていた生徒達ですら黙り込み、各々が席を立って、この場から離れ始める。
(あの、ちょっと…ご令嬢達の視線が怖いんですけど…)
離れていくご令嬢達がキィッとこちらを睨んでくるのがあからさまに分かるのだが、私はあえてそちらを見ないようにする。
(そういえば、さっきからサフィナが何も言ってこないけどどうしちゃったのかしら?)
自分たちに近づいてくるのが王子だと知って、パニックを起こすかと思っていたがサフィナは私の袖をギュッと掴んだままその場に立ち続けていたのだ。
(いつの間にやらメンタルが強くなったのかしら?うらやましい限り…ね?)
ホッとしたような?何とも言えない気持ちでチラッと彼女を見ると、サフィナは立ったまま気絶しているではないか。
(ごめんッ!全然強くなってなかったわ!むしろ許容量をすでにオーバーしていたのねぇっ!)
「サ、サフィナぁぁぁっ!気を確かにぃぃぃっ!」
彼女の肩を掴み、グワングワンと揺するが、彼女は人形のように力なくされるがままになって、首を揺らすだけの存在に成り下がっていた。
「…貧血かな?それは大変だ、そのままにして、そこのソファに寝かせた方がいいよ」
(いえ、この子は王子に会うという極度の緊張に耐えられず、意識を現実から放り投げてしまっただけです…とはさすがに言えないわよね)
曖昧な返事をしてお茶を濁す私の前に周りにいた男達が我先と王子の手助けに入ってサフィナをソファへと運んでいく。私はちょっと心配になりながらもそれを見守っていると、視線の端で王子がこちらを見て微笑んでいるのが分かった。
「何ですか?レイフォース様?」
「いや、あまり見かけない格好をしているなぁっと思ってね」
私は自分が作らせた日本の学校の制服を見てみる。確かに、周りの者と比べて独創的ではある。
「私がデザインし、作らせました…変でしょうか?」
両腕を少し広げて、私は自分の服を見続けた。こう見えて前世では病室でマンガやアニメの模写などやっていた時期があったので、その時描いた制服をこの世界で可能な限り再現したのだが、やはりアニメ要素が含まれた分、ちょっとファンシー感がでてしまったかな?
「いや、全然。ピシッとして凛々しくもありながら可愛さも混ざったデザインだよ…キミにとっても良く似合ってる、素敵だ」
「レイフォース様…それはまた、国王陛下の受け売りですか?」
「おっといけない。最近、誰も指摘してくれなくてね…ついうっかり…ハハハッ」
冗談半分に半目になって指摘する私に対して、王子はハハハッと笑うその顔は、先程までとは打って変わって、年相応の可愛らしい笑顔を見せていた。と、同時に何やら遠巻きからの負の視線が私の背中に突き刺さってくるような気がしてならない。
笑顔のまま王子がサフィナが寝かされたソファの向かいに座ったので、私はそれを見届けた後、サフィナの隣に腰をかける。
「それで?僕に何か用なのかい?メアリィ嬢がわざわざ来てくれるなんて、余程重要なことなんだろうね」
(…その何か期待するような眼差しが、とても眩しいです、王子…思いっきり私利私欲で来た私には眩しすぎます)
王子の期待を裏切っている後ろめたさから私は彼からそっと視線を外しながら、用件だけを伝えることにした。
――――――――――
「エターナルソード…う~ん…そんな話は聞いた事がないね」
用件を話した後の王子の返答に私は驚かされた。眉唾ではあるが、国王が国を挙げて作らせた説と姫様が神様に作ってもらった説、いろいろあるが結局のところ、王家が関わっているのは確かだった。なのに、聞いたことがないとはどういう事だろう。
「メアリィ嬢やマギルカ、それに他の人たちからの話だと、そんな重大な出来事があったなら、伝承として受け継がれていないのはおかしいね…」
「どういう事でしょう?私が得た話は全て空想だったということでしょうか?」
「どうだろう…国中の鍛冶師を召集させたのは事実らしいから、そこを糸口にすればいいんじゃないかな…確か、王室御用達の鍛冶師がドワーフだったから聞いてみるというのも手かもしれないよ」
(お、王室御用達…すごい肩書きね!しかもドワーフだなんて!すごく会ってみたい)
私がとても目を輝かせて、ワクワクしていたのか、王子は私を見てクスッと笑うと、とんでもないことを言ってきた。
「それじゃあ、今度の休日に一緒に行ってみるかい?王都内だからすぐに着くと思うよ」
一緒っというのはおそらくいつものメンバー皆でという事なのだろうが、その誤解を招くような言い回しに、私に突き刺さる遠巻きからの負のオーラが半端なく膨れ上がって、私は冷や汗をかきつつ、ハハハッと空笑いをしながら、こういった視線の攻撃も無効スキルで無しにしてくれないかな~と切実に思うのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。