問題解決を模索中です
ブックマーク、評価などありがとうございます。
一週間の終わりをしめる休日に私は、テュッテと久しぶりに家の庭で優雅な一時を過ごしていた。
「はぁ…剣ですか」
「そうなのよ…どこかに絶対壊れない、素敵な剣はないかしら」
今の話題はもっぱら私の剣術問題である。このままでは中間試験の実技テストでひどい成績を納めそうで、早急に問題解決をしなくてはならない。まぁ、私が力のコントロールを完璧に行えばいいのだが、いかんせん、私はそんなに器用な人間にはできておらず、正直な話、かなりぶきっちょの部類に属しているのが現状だ。
「絶対壊れない…ですか…」
紅茶を注ぎながら、器用に考え込むテュッテは、見てもいないのに私のカップに適量を注ぐとポットを引く。
「そういえば、ありますね、そういった剣のお話」
そして、思い出したように、彼女はそんな期待できる発言をしてくれた。
「えっ!どこにあるの?」
「いえ、さすがに所在は分かりませんし、話に聞いただけでホントにあるかどうかも疑わしいですよ」
「それでもいいのよ。それで、その剣は?」
「はい、お嬢様もよく知る『白銀の騎士』様が持っていたと言われている『エターナルソード』ですね…神の加護を受けたその剣はどんな硬い物とぶつかっても決して折れなかったと言われています…一説によれば竜の鱗すら貫いたとか…まぁ、物語の範疇ですけど」
困った顔をするテュッテにお礼を言って、私は少し物思いに耽る。
(『白銀の騎士』が持っていた剣ね…話の中と言うことは脚色が入っている可能性はあるけど、火のないところに煙はたたない…少なくとも相当な強度の剣を所持していたんじゃないかしら?それなら結構力を込めて握ってもへし折れたりしないはず)
「ちなみにその剣、現存しているならどこにあるか分かってるのかしら?」
「さぁ?分からないから現実味がないのだと思いますけど」
(そっかぁ、分からないのかぁ…うぅう、でも、あるのなら欲しい!是非とも欲しいわ!私の全財産かけても手に入れたい!これ以上あんな醜態を晒すくらいならッ!)
私は心の中で剣術訓練時のすっぽ抜けを思いだし、見悶えしていると、庭先からメイド長がこちらに歩いてきた。
「お嬢様、カルシャナ様がお見えになりました」
「あら、そう、お通しして」
冷静を装い、私はサフィナを迎え入れるように立ち上がると、向こうからゼンマイが切れかかったようなおもちゃのように、ギギギッとぎこちない歩きで小さな少女がやってくる。
「メアリィ様、今日は、お、おま、お招きいただき…ありがとうごじゃいまふ」
カミカミの彼女を微笑ましく眺めながら、礼をするとテュッテに案内させてサフィナを向かいの席へと座らせる。
「そういえばサフィナはテュッテとは初めて会うのよね…彼女は私の侍女であり、子供の頃からの大親友なの…仲良くしてあげてね」
私の紹介にテュッテは綺麗な角度のお辞儀をすると、サフィナも慌てたようにこちらこそっと頭を下げてくれた。
(良かった…彼女も従者を物のように扱わない人で)
学園に通い始めて私が驚いたものの一つが、自分たちの従者を物のように扱う者、存在しないように扱う者がいる事だった。そんな事をするような人間とは知り合いにもなりたくないので、私はホッとしている。
「ところで、サフィナは『白銀の騎士』様の話って知っているのかしら?」
今現在の話題をサフィナに振ってみると、紅茶を注ぎ終わって、恐縮しながら一口いただいているところだった。
「ングッ!は、『白銀の騎士』様、ですかぁ」
いきなりの話題に驚いたのか、ちょっと咽せた彼女はカップを置いて、こちらを見る。その目がマギルカばりにキラキラしていたのは言うまでもない。
(そう、あなたもあっち側の人間なのね…)
フッと乾いた笑いを作り、本題に入る。
「そうそう、彼が持っていたという剣の事、何か知らないかしら?」
「えっと、エターナルソードの事ですか?…子供の頃おとぎ話でよく母から聞かされたものです…あぁ…素敵ですよね~」
あの頃を懐かしむように遠くを見つめるサフィナ。
「ん?素敵ってどういうこと?」
私の質問に未だ現実へ帰還していないサフィナがうっとりとしているので、ちょっと身を乗り出し彼女の目の前で手をヒラヒラさせる。
「へ?あっ、すみません…えっと、素敵というのは…その剣の物語が当時のお姫様が、彼を想い、神に祈り続けた事で、その想いを神が聞き、加護を与えた事で生まれた永遠不滅の剣だっというお話でして、それがまた、お姫様にいろんな試練があって、それでもお姫様は負けず……あぁぁ…素敵です…」
そうして、また別の国へ旅立つサフィナ。
(う~ん…メルヘンチックになって信憑性が乏しくなってきたぞ…いやいや、この世界は私の知らないファンタジー世界なのだから、もしかして、そういうパターンは現実として当たり前なのかもしれないし…う~ん、もっとこう、専門家の意見が聞きたいわね…誰かいないかしら?)
私は紅茶を頂きながら、思考を巡らせていると、
「あら、もうお茶会は始まっていましたのかしら?遅れてごめんなさい」
メイド長に連れられ、金髪縦ロールを揺らす令嬢が登場した。
「っいたぁぁぁぁぁぁっ!」
私は思わず声を上げて、立ち上がり、あっちの世界へ行っていたサフィナはビクッとなってこちらの世界へ帰還し、当のマギルカは一歩後退してしまう。
「え?何ですの?」
「???」
私の行動が理解できず、マギルカは一歩引いたままで固まり、状況が掴めないサフィナは私とマギルカをキョロキョロと見ながら頭の上に?マークを飛ばし続けるのであった。
――――――――――
「なるほど…エターナルソードですか…大変興味深い話題ですわね」
紅茶を頂き、一息つくマギルカは、サフィナとの自己紹介を済ませた後、私の話を聞いて、そう答えてきた。ついでにザッハも到着して、いつものメンバーになっている。
「確かに、この剣に関しては諸説色々ありますが、王家が関わっていたにも関わらず、我が家に保管してある資料を読んでもその事実が曖昧なのですわ」
「どういう事?」
「私の調べでは、その昔、当時の国王陛下が白銀の騎士様の功績を称えて、最高の剣を作らせようと国中の鍛冶師を集めるよう命じた書状があった事実は確認しました」
「それがエターナルソード?」
「いえ、それが…そこから先がどうにも曖昧で…はっきりしないのです」
「めんどくせぇなぁ…分からないのなら、直接聞いてみればいいじゃねえか、当時の人間に?」
「「・・・・・・」」
至極真面目な顔で横槍をいれてきたザッハに、何言ってるんだおまえは?一体いつの話だと思ってるのっ的な冷ややかな表情を見せる、私とマギルカ。
「な、何だよ…この国の鍛冶師を集めたんだろ?だったら、それは人間だけじゃないはずだ…鍛冶師の主流はドワーフなんだし、彼らは寿命が長い。当時、その場にいた奴だっているだろうが?」
私達の冷ややかさを感じ取ってか、やや気後れしながらも意見を述べる彼に、私達は驚かされてしまう。
「え、ほんとに?ドワーフっているの?」
「そ…そうですわ…くっ…何で気が付かなかったのかしら…こんなバカに指摘されるなんて…屈辱ですわ…」
ウキウキと喜ぶ私に反比例して、どんどんテンションが落ちていくマギルカ。
「あの~…そこまで言うのでしたらもしかして…ザッハさんは当時その場にいた人の目星とかあるのですか?」
「フッ!そんなものは、ない!」
「「威張るなァ!」」
ちょっと期待をこめた眼差しでサフィナが質問すると、勝ち誇った顔できっぱり言い切るザッハに私とマギルカのツッコミが被る。
そうして、休日も終え、再び学園生活が始まるのであった。
問題解決の糸口が見えたはずなんだけどな~…
ここまで読んでいただきありがとうございます。