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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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神の降臨

「ハァ……ハァ……やっと、壊れたか……」

 脂汗を滲ませ、お腹を押さえるニケはテュッテを抱きかかえたまま動かなくなったメアリィを見下ろし、呟く。

「貴様ぁぁぁっ!」

 あまりの出来事に思考が停止していたノアがニケの態度で事態を把握し激昂すると、牙を剥きだし殺意を膨れ上がらせた。すると、白銀の鎧が重力を無視するようにガバッと起き上がって襲いかかる。

「動くなっ」

 突き刺そうとした白銀の鎧の剣先がニケの拘束魔道具によって鼻先スレスレで止まる。

「ぐぎぎぎぎっ、許さないっ、許さないっ! 絶対に殺すっ!」

 動けなくなったにもかかわらず、ノアは声を荒らげてニケを睨み付けると、必死に動こうと藻掻き続けた。

「無駄だ……お前のような未熟な精神では抗えないことくらい先のことで分かっているだろう。そこでこれから始まる神の誕生を見ていろ」

 そう言ってニケはゆっくりと白銀の鎧から距離を取る。だが、自分が口に当てていた道具にピシッとヒビが入り始めていたことに気が付いた。

 あまり時間を掛けられないと悟ったニケは自我を失い座り続けるメアリィの元へ早足に歩み寄る。

「お姉ちゃんとテュッテに触るなぁぁぁっ!」

 後ろでノアの絶叫が聞こえ、ギギギッと身体を軋ませながらも白銀の鎧が少しだけ動き出していた。

「神器、起動」

 ニケの言葉に呼応して戦いの舞台だった巨大な装置が音を立てて動き出す。

 中央に浮遊していた巨大なモノリスが動き出し崩れるように小さなキューブ状に分かれていくと、綺麗な円を描いて変わっていった。

「さぁ、神よっ! この器を使ってこの世界に顕現せよっ!」

 ニケはメアリィを乱暴に持ち上げテュッテから引き離すと、中央のモノリスに向かって放り投げる。

 と、その光景を追うノアの目に一瞬メアリィの身体に寄り添うように光るとても小さな光が見えたような気がしたが、すぐに怒りの感情に押し流され自身の身体を動かすことに集中していた。

 一方抜け殻のようなメアリィはというと、見えない力が働いているのか、彼女は空中に留まり、モノリスの円の中央に、まるで十字架の磔にされたようなポーズをとるのであった。周囲の輪っかが激しく回転し始め、モノリスから光が噴き上がると、光の波がメアリィを中心に広がっていく。

 まるでここが私の領域だと言わんがごとく広がっていき、そこに残されたノア達もなんだか変な感じに捕らわれていた。

 自分という存在がフワフワしたような感じがし、他との境界が曖昧になっていくようなそんな気分である。

「受け皿である器が崩壊しない。成功だっ! 予想以上に素晴らしい生態ユニットを手に入れたぞっ! 今、神はこの世界での自らの領域を拡大し始めているっ!」

 興奮を隠さずニケが歓喜の声を上げると、ノアの怒りが振り切れた。

「ニケェェェッ! 私のようにお姉ちゃんを道具扱いするなぁぁぁっ!」

 その絶叫と共に、白銀の鎧が動き出し、ニケが持つ魔道具が音を立てて砕け散った。

「なっ!」

 ニケがそれに気が付いて驚愕し、警戒しようと振り返ったとき、白銀の鎧は容赦なく彼を袈裟斬りする。

「ま、まだだ……まだ始まったばかりなのだ。神よ、私はまだ死ねない……」

 口から血を吐き蹌踉めいて倒れそうになるニケ。だが、その時奇跡が起こる。

 なんと、ニケの傷がスゥッと無かったかのように消え去ったのだ。

「な、なんでっ!」

「フハハッ、神は私の味方のようだな」

「神様、邪魔しないでっ! 私はこいつを倒すのっ!」

「ゴホッ! バ、バカな……神よ、どうして?」

 ノアが叫ぶと今度はなにもしていないのにニケの傷が戻って、彼は血を吐き倒れた。

「えっ、えっ? なにが起きてるの?」

 事態の不可思議さにノアは困惑を隠せず、助言を求めるように周囲の人を見る。

 だが、ここにいるのはもうマリアとスノー、リリィだけだった。

 マリアと彼女に抱きかかえられているリリィもなにが起きているのか全く付いて来れずに困惑しっぱなしである。

『この事象……もしかして願望器、かしら』

「願望器?」

 スノーだけがなにかに気が付き神妙な声で答えてくる。

『神の顕現が失敗しているんじゃないの』

「顕現が失敗? どうして」

『おそらくメアリィの魂が影響して神の力の使い所を判断する思考がそっちに引っ張られているんじゃないかしら。だから、あんな周囲の願いを考え無しに叶える『お馬鹿な存在』になっちゃったんだと思うの。さすがメアリィ……図らずもニケの計画を食い止めたように見えてその実、厄介さが増したような……』

「お、お姉ちゃんはなにも悪くないわ」

「ガハッ! が、願望器、だと……自我が崩壊したかと思ったが、閉じこもっただけだったのか……だとしても、神の存在に押し潰され溶けて吸収される脆い魂かと思っていたが、意外としぶといのだな。まぁ良い、私は見届けなくてはならないのだ。神よ、今一度私に奇跡をっ、この傷を治してくれっ!」

 倒れていたニケもスノーと同じ結論に至っていたようで、悪態をつきながらも神に祈る。

 これではイタチごっこだ。そう思ったノアだが、予想外にもニケに変化はなかった。

「ど、どうした……神よ。なぜ奇跡が起こらない?」

「もしかして、願いは一度だけ?」

 月並みだがニケの状態を見るにそう思っても仕方がなかった。もしかしたらメアリィの変な拘りが影響しているのかもしれない。

「なにがどうなっているのか分かんないんだけど、とりあえず、あの装置さえ止めてしまえば良いんじゃないの?」

 話に取り残されているマリアはニケやノアの独り言から現状のやばさをなんとなく理解しているようだった。

 マリアの提案を聞いて、すぐ様白銀の鎧が倒れて動かないニケの元に舞い降り、剣を構える。

「ニケ。装置を止めなさいっ! お前の計画は失敗よっ!」

「いや、今は願望器という形になっているが、神と世界は確実に繋がっているのだから、目標は達成されている。見ろっ、今はこの装置周辺までしか光が、神の領域が広がっていないが、それもジワジワと広がりを見せているだろ。器の魂が溶けて混ざろうとしている証拠だ。これが一気に広がったとき神は世界を手中に収め、完全な状態で顕現する。問題なのは時間が少し掛かるということだけだ。私が目指す世界までもう少しだというのに、なぜ私が止めなくてはならないのだ。お前達は精々黙って見守ることだな。あの器の魂が消え去る様を」

 ニケの言葉にノアはカッとなって剣を振り上げる。だが、フルフルと震えるだけで振り下ろすことはなかった。こんなことで考えを変えるニケではないことはノアも理解していたからだ。

「くそっ! こうなったら、力ずくで装置を破壊するわっ!」

 怒りのぶつけ所を探して、ノアはその標的を装置に向ける。

『ダメよ、ノア。神に危害を加えるようなことをしたら神罰が下るかもしれないわよ。それにこれだけのエネルギーが噴き出ている状態で破壊したら、ここ一帯がどうなるか分かったもんじゃないわ』

 強硬手段をとろうとしたノアをスノーが窘める。スノーの言う通り、今ここは神の領域だ。精霊の領域のように変に危害を加えてなにが起こるか分からないし、下手に破壊して大爆発を起こし国が一つ吹っ飛ぶようなことになったらしゃれにならない。

「じゃあ、どうするの?」

『フッフッフッ、ここは一つ、神様にお願いして自分で解決してもらいましょう。というわけで、神よっ! その装置を止めてっ!』

「神様が自ら装置を止めたりするかしら。それこそ自分で自分を追いやる行為じゃない?」

『だぁ~いじょうぶよ。だって思考に影響しているのはあのメアリィよ。あの子がそんな深く考えて行動するわけ無いじゃない』

「…………」

 スノーの言い分に釈然としない所はあったが言い返せないノアはなにも言わず装置を見る。すると、装置は光の強さが増した後、何事もなく強さが戻っていった。

『あ、あれ? なにも変わらないんだけど』

「もしかして、思考の土台がお姉ちゃんだから、装置の止め方が分からなかった、とか?」

『そ、そんなこと……ありそうね』

 いや、もしかしたらメアリィ自身がこの現実に戻ることを拒否したせいなのかもしれないとノアは思ったが、それを認めるのが怖くて口に出すことはなかった。

『ねぇ、もしかして私のお願いチャンス、今ので終わりとかないわよね?』

 疑問に思ってスノーがノアを見てみれば、違うと言い切れず、ソッと視線を外すのであった。

『ちょっとメアリィッ! もう少し融通効かせなさいよねっ! お馬鹿にも程があるでしょうがっ!』

「お姉ちゃんに文句言っても仕方ないでしょっ」

『どうすんの? この状況を打破するチャンスがあるのはもう聖女さんしかいないわよ』

「そっか。私もスノーも不本意だけど願いを叶えられているから」

「え? 私だけ?」

 ノアに言われてマリアは自分を指差し周りを見回すと、事の重大さに気が付いて冷や汗が流れ落ちた。

「な、ななな、なんてお願いしたら良いの?」

 マリアの懇願にノアとスノーは首を振って答える。

「そうだわ、私以外にもまだリリィが」

 そう言ってマリアは自分が抱きかかえるリリィを見てみれば、現状がよく分かっていないような無垢な瞳を輝かせて見つめ返してくるだけだった。

「あなた、そう言うときだけ無知な振りするんじゃないわよっ!」

 リリィのことをよく知らないマリアだが、それでも八つ当たりのように彼女をブンブンと上下に揺さぶり抗議する。

「マリアさんっ、もうあなただけが頼りなのっ。この現状を打破できる願いをしてっ」

「うぐぐ、そんなこと急に言われても……」

 揺さぶられたリリィはマリアの腕から逃げるように地面に降りると、マリアはそのまま空いた両手で頭を抱える。そんなマリアをノアは固唾を飲んで見守ることしか出来なかった。

「え? 話す?」

 と、急にマリアは頭を上げ、キョロキョロと辺りを見回し始める。

「確かに話し合いは重要だってルーシアも言っていたけど、私一人じゃ……」

 マリアはまるで誰かと話をしているような素振りで独り言を呟き続けていた。それはまるで神獣と会話する自分達とそっくりだったが、神獣達との会話ならノアも聞こえるはずなのに声は聞こえない。なら、マリアはいったい誰と会話しているのだろうか。自分にはないマリア特有の力なのかもしれないと考えると『聖女』というワードがノアの中に思い浮かんだ。

 一説によれば聖女は神の声を聞くとも語られているとノアはルーシアから聞いていたのを思い出す。

 今までマリアは神獣達の魂が混ざって異質な存在になっていたため純粋な人族として認識されていなかった。それが今このタイミングで神獣達の魂が全て溶け消え、本来の聖女として覚醒したのだろうか。

 いや、そんな都合の良いことがあるのか? もしかして神はこの状況を是としておらず、どう導こうかと思ったところ、良い感じに聖女(通信役)になれそうな人がいて、急遽覚醒させた……とか。無理があるような考えだが相手は神だ。自分の想像など容易く越えてくるだろう。だとするなら、会話の相手は神なのかもしれないとノアは判断する。

 だが、ここで一つノアの中で疑問が生じた。神の意志がメアリィの中にあるとしたらメアリィの魂が消えたことになるということだ。慌ててノアは周囲を確認するが今のところ光の範囲は急速に拡大していないのでそれはなかった。では、相手は神では無くそれに近い存在……つまりは魂と話している、とか。その結論に至ったノアはハッとしてメアリィを見る。もしかして、彼女自身が……いや、そうだったらメアリィは目覚めて動いているはずだ。

 そして、凝視したおかげでノアはやっと気付くことが出来た。

 磔にされたメアリィから放たれるまばゆいばかりの光に掻き消されそうになっていても、必死に寄り添い離れない小さな光の存在に。

「……分かったわ。そうお願いしてみるよ……テュッテ」

 マリアの言葉にノアは確信を得て、自然と涙が零れ落ちてくるのを抑えることが出来なかった。


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テュッテ、かむばーっく!!!(マジで) あ、ニケなら生け贄にしてもいいや。
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