今度こそ……
時は少し巻き戻る。
テュッテが見守る中、メアリィがニケの腹に渾身の一撃を加え、彼が彼方に飛んでいった後、自身を襲っていた金縛りのようなモノが解け、テュッテは思わず膝を突いていた。
周囲から安堵する声が聞こえ、ああ、終わったんだとテュッテも胸を撫で下ろす。
安心したらしたで、今度は自分の失態によってメアリィや他の人達に多大なる迷惑をかけたことを思い出し、申し訳ない気持ちで一杯になっていった。
誠心誠意謝罪した所で許されることではないかもしれないが、自分なりに精一杯償おうとテュッテは決意する。許されるのなら、今後もメアリィのために働きたいがどうなるのやら……それはレガリヤ家の判断に委ねられるだろう。
そっとメアリィを見てみると、彼女はちょうど空を見上げている所だった。
神様にお祈りでもしているのだろうかとメアリィから視線を少し外したとき、テュッテの目が驚きのあまり見開く。
ニケが落ちていった場所。そこになにか動くモノが見えたのだ。
ニケが生きていた? だが、たとえそうだとしても彼にはもうメアリィをどうこうすることは出来ないはずだ。そう思った時、テュッテの中で釈然としない感情が渦巻き、そして、一瞬だけキラリと輝く小さな光を見て、それが確信に変わった。
ニケはまだなにかを持っている。
だが、ニケだって馬鹿ではない。これ程までにメアリィの能力を見せつけられたら自身の能力で彼女をどうかすることなんてできないことくらい分かるはずだ。なのに、この胸のざわめきはなんだろうとテュッテは考える。
小さな光り……針。
この騒ぎが始まる前に見たあの装置から取り出した未知なる物質。この世界にはない存在なら、もしかしたらメアリィの能力の適応外かもしれない。ましてや、あれは神の領域に存在する代物なのだから……。
そう思ったときには駆け出していた。
今度こそ、お守りする。
テュッテには忘れられない、忘れてはいけない後悔があった。
幼少の頃、初めてメアリィに会ったあの日の、あの事件。
テュッテは恐ろしさのあまり足がすくんで守るべき主人をただ見ているだけだった。
あの時の後悔が今なおテュッテの奥底に燻り続けていたのだ。
だからこそ、自分は走らなくてはならない。今度こそ、主を守るために。
「お嬢様っ!」
声をかけてみればメアリィは安堵の表情でこちらを見てくる。誰もニケの存在に気が付いていなかった。
よしんば気が付いた者がいたとしても、メアリィを傷つけることなどできはしないと踏んでいるのだろう。あの存在をテュッテ以外は知らないのだから無理はない。
メアリィが自分に向かって言葉をかけてきているがそれを聞かずにそのまま彼女を通過し、ニケとの間に割り込んだ。
次の瞬間、肉体と言うよりも精神と言うのか、よく分からない部分に衝撃を受ける。
そこに痛みはなかった。
だが、意識が、自分がバラバラになって霧散するような感覚にとらわれていく。
ああ、自分は今度こそ、主人を守ることが出来たんだ。
そう思い、満足げなテュッテの意識は完全に失われるのであった。




