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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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突入じゃぁぁぁい

「こぉの、お馬鹿ぁぁぁっ! 何食わぬ顔でそそくさと侵入するって言ったでしょうがぁぁぁっ!」

 奥に向かって走る私のすぐ後ろからマリアの非難の声が聞こえてくる。

「私じゃないわよっ! 文句があるならスノーに言ってぇぇぇっ!」

『ぶぁはははっ! 殴り込みじゃ、殴り込みよぉぉぉっ! すぅぅぅべて、破壊してやるぅぅぅっ!』

 などとテンションぶち上げて、至る所にハウリング・ブラストをぶちまけている殿の駄豹に、私とマリアはドン引きしていた。

「そもそも、マリアの何食わぬ顔でって言うのが無理あったじゃん。確かに聖女は入れたかもしれないけど、それ以外はダメって揉めたじゃんかぁっ」

「うぐっ、そこは私の交渉術で……」

「交渉術って、あーだこーだと言われて論破されそうになった相手に『あっ、あれは?』とか指差してそっち見た隙に強行突破した手腕かしら?」

 スノーもスノーなら、マリアもマリアである。

 で、強行突破するもんだから、警備の騎士に止められそうになって、それを皮切りにスノーが反撃したというわけである。

「お姉ちゃん達、言い争っている場合じゃないよ。予定通り、私はテュッテを探しに行くわっ。お姉ちゃん達はそれまで上手くやっていてね」

 私とマリア、その後ろから隠れるように付いてきていたノアとリリィが声を掛けてきて、リリィを先頭にノアが私達から離れていき、あっという間に姿が見えなくなった。こういうなにかを探す行為はスノーよりリリィの方が早いらしく、その足取りに迷いがない。本来なら、何食わぬ顔で潜入し皆でテュッテを探し、救助する手筈だったが、最悪それができない場合は、私達が囮になるという計画であった。まさか、入り口で早々、プランBになるとは、いやはやさすがは大神殿の警備、上手いこといきませんなぁ。

(にしても、なんてできた妹達なんでしょう。頼もしすぎるわっ)

「なんてできた妹さんなのかしらね。お姉さんと違って頼もしすぎるわっ」

 私が思っていたことをそのまま口にしたマリアにうんうんと頷いてから、その内容の一部に納得いかず言い返そうと思ったが、現状を鑑みると私もスノーもなにも言い返すことができなくなっていた。

『まぁ、コソコソと動くのが苦手でどんちゃん騒ぎが得意なお姉さん組に任せなさいってことねっ!』

「やめて、なんか情けなくなってくるから」

 私が足を止め、がっくりと肩を落としていると私達が来た方から鎧のガシャガシャ音が聞こえてくる。

 一旦、ここで足止めするかと覚悟を決めると、私達の後ろ、神殿の奥の方からゆっくりとだが、誰かの足音が近づいてきていた。

「やれやれ、揺さぶりのために動かした所為で一時的に手薄になった所を突いてくるとは予想外でした。しかも、このような騒ぎまで起こして、教皇様にまでこの失態を伝え、私の顔に泥を塗るとは……貴女といい、貴女のメイドといい、腹立たしいことこの上ないですね」

 いつもの冷静さが少し欠けているように見えるカインが神殿の奥からゆっくりと姿を現した。

「アルハザード卿っ!」

「まさか貴女がこんなに早くに器を連れてくるとは予想外でした。良心の呵責に苛まれてしばらくは身動き取れなくなっているかと予想していましたが」

「私をそこいらの軟弱精神と一緒にしないでくれるっ! 私は貴方と教皇の罪を裁くために来たのよっ!」

「フッ、罪……ですか。私だけならいざ知らず、教皇様に対してその無礼な物言い、万死に値しますよっ。神獣の魂が消え、聖女クラスには遠く及ばなくなった役立たずの欠陥部品風情が」

 言い終わると同時にカインの手が動く。

 私は警戒していたのでマリアの前に出て、空間から出現した杭を剣で薙ぎ払った。

 これを合図に私は一気にカインとの距離を詰める。

 もう、手加減などしない。

「おっと、私を攻撃したら貴女のメイドがどうなることやら」

 だが、私の決心はカインの言葉であっけなく瓦解した。

 こうなることは予想の範囲内だった。できればテュッテをこの場に連れてきて人質のようにしてくれていれば、取り返すことも容易だったかもしれないが、そこは相手も私の能力を考慮していたのだろう。どこかにテュッテを隠し、こちらを監視しているに違いない。

「来て頂いたのは大変喜ばしいことですが、少々予定より早すぎましてね。こちらの準備が整うまでもう少々お待ち頂けると助かります」

「テュッテはどこ?」

「さぁ、どこかで貴女の勇姿を見学しているのではないですか?」

 テュッテが確認できない以上、下手なことはできないということで、私は歯噛みしながらなにもせずマリア達がいる所まで一足飛びで戻った。

(ノア、貴女だけが頼りよ。お願い、テュッテを助け出して)

 

 □■□■□■

 

 一方その頃、ノアはリリィを先頭に大神殿内を走っていた。神殿内の地理など詳しくもなく、只闇雲に走り回るのも効率が悪い。だからこそ、リリィの勘が頼りというかなり博打めいた行動だが、ノアはリリィならやってくれると信じていた。

 幸いなことにメアリィ達が目立ったおかげか、それとも他の要因か、自分達の周辺に警備の者が見当たらないので好き勝手に走り回れている。

「ねぇ、リリィ。なんだかもの凄く奥へ入り込んでない? 大丈夫かしら」

 神殿の奥へと進んでいく内にノアは言い知れぬ不安というか、圧を感じ、なにかやばいモノに近づこうとしているのではと怖じ気づき始めていた。

 すると、それを感じ取ったかリリィは足を止め、励ますようにノアの足に擦り寄り鳴く。

「そうだよね、私達がテュッテを助けなきゃ、お姉ちゃんが動けないものね。怖がってる場合じゃないわ、頑張らなきゃ」

 リリィがいるとはいえ、実質一人っきりのような状態に不安が募ってついつい弱気になった自分を叱咤するようにノアは頬を両手で軽く叩く。

「よし、行こうっ!」

 そうして、ノアとリリィは走り出す。

 大神殿の最奥、あの大掛かりな装置がある所へ。それは同時に、あの男との邂逅になることも知らずに。

 

 程なくして、それは現実となる。

 神殿を抜け、火口付近まで来てしまったノアはその巨大な装置を目の当たりにして思わず呆けてしまった。

「なるほど……あれが器か。確かに尋常ではない速さだな。カインでさえ目で追うのがやっとか」

 静かな空間にその声がはっきりとノアの耳に届き、心拍数が上がる。

 装置に続く大きな橋。隠れることも出来ないそこをノアはこっそりと渡っていこうとし、リリィもそれに合わせるように忍び足になった。目指すはニケではなく、その少し離れた場所に佇むテュッテだった。

 なにやら映像のようなモノに釘付けのニケを放っておいてテュッテだけをこっそり連れ出すというのが理想だった。

 テュッテもノアの存在に気が付いたのかチラチラと心配そうにこちらを見てきた。

「転生者は等しく人知を超えているな。なぜそんなことになるのか、考えたことはあるか、白銀の鎧よ?」

 こちらを見ていないニケがノアに語りかけてきて、彼女の足が止まり、冷や汗がドッと溢れ出す。

「テュッテ、こっちへっ!」

 即時離脱。ノアは言い知れぬ恐怖に負けてテュッテを呼び、ここから離れようとした。

 だが、テュッテの動きが鈍い。

「変に連れ出そうとするな。その女は私から一定の距離離れると地獄を見ることになる」

 相変わらず空間に浮かぶ映像を見ているニケの言葉を聞き、真偽を確かめるべくノアはテュッテを見ると、彼女はそっと自分の首輪に手を添えた。

 ならば、次の手は決まった。その首輪を破壊するのだ。幸いなことにノアのパワーはメアリィには遠く及ばないが人を超えている部類だ。頑張れば首輪の一つくらい破壊できると踏む。

 テュッテに一気に近づき、その首輪に手を掛けようとしたとき、ノアの背筋にゾワッとしたものが走った瞬間、横からリリィに体当たりされてテュッテから離れる。

「悪いがその女にはまだ使い道があるので、渡すわけにはいかない」

 酷く冷ややかなニケの口調。その手にはいつのまに持っていたのか一振りの黒く輝く剣とそれを持つ右手には手から肩まで包む黒く輝く鎧が着けられていた。

 ハッと気が付いてノアはリリィを探す。

 すると、テュッテの近くで倒れ、身動き一つしない彼女を見つけた。

「リリィッ!」

「その神獣に感謝するんだな。でなければ今頃、お前の腕は切り飛ばされていただろう」

 ニケの言葉にテュッテも現状を理解し、慌ててリリィのもとに駆け寄ると、状態を見る。

「大丈夫です。息はありますが……」

 テュッテの報告にホッとする反面、彼女の言葉のトーンから楽観視は出来ない状態だというのが

ノアにも伝わってきた。

 リリィの神獣としての自己修復能力があったからこそギリなんとかなったといった感じだろう。

 それにしても、複製体、カインと例の道具を使っていたので、てっきりニケもあの道具を使ってくるかと思いきや、剣と鎧を持ち出してくるとは予想外だったとノアは驚く。

「ノア様、彼の能力は魔道具を作ること。この世のあらゆる事象を可能にする道具を作る反面、この世界にない物は作れません」

 テュッテがノアに仕入れた情報を提供する。

「おしゃべりが過ぎるぞ」

 そう言ってニケがテュッテに向かって手を動かすと、彼女は頽れ、体を震わせ苦しみ出す。

「ぁ……が……」

 声にならない声を絞り出すテュッテの首輪が淡く光っていることから軽くなにかをされていることにノアは気が付き、飛び出した。

「やめろぉぉぉっ!」

 自分には体当たりしかない。そう思ったノアの渾身の突進はいつの間に出現したのか鎧を着けたニケの左腕によって頭を掴まれ軽々と受け止められていた。

 そして、そのまま持ち上げられる始末。

 掴まれた手を振り解こうと藻掻くが、合成獣であるノアの力を持ってしてもニケの腕はびくともしなかった。

 漆黒の鎧。

 只のエルフであるはすのニケをあのような常人離れにした要因は明らかにあの鎧のせいだ。

 そう、それはまるで『私』を身に纏ったアガードのように……そう思った瞬間ノアは一つの仮定に行き着く。

「ま、さか……白銀の鎧を……」

「あの女も言っていただろう。この世に存在する物なら作れると……色々調べさせてもらえて、お前には感謝しているぞ、白銀の鎧よ。おかげで力だけでは無く、魂の在り方をも確証でき、私の装置の完成に大いに役立ってくれたのだからなっ。だが、今のお前は不要だ」

 その言葉と共に頭を掴んでいたニケに力が入り、ノアの頭に圧迫感が押し寄せてくる。

「ぅ……ぁ……」

 思考が定まらなくなってきて、ノアはひたすらニケの手から逃れようと藻掻き苦しむ。

「……ノ、ア……さ、ま」

 くぐもったテュッテのノアを心配する声が微かに耳に届く。だが、なにもしてあげられない。

 ニケの手で見えなくなった視界がさらに霞んできた。だが、なにも出来ない。

 自分はテュッテすら助け出せないのか。

 自分という存在がニケにここまでの力を与えてしまったのか。

 ノアは悔しくて仕方なかった。

 と同時に、自身の無力さに後悔した。

 

 もっと、力があれば……。

 

 と、その時、見えないはずの視界が揺らぎ一瞬別の風景が見える。

 いつものノアなら本能的にそれを拒否しただろう。だが、今のノアはそれを望んだ。

 気付いていたのだ。自分になにが起きているのかを……。

 だが、怖かった。今の『自分』が『自分』でなくなることを……。

 メアリィのおかげで生きる希望を見出し、新たに歩もうと決めた時、それは夢から始まっていた。

 ここではない、どこか。見慣れた神殿の中で佇む自分。その近くにはあの妖精の巨像がいた。

 これは夢だ。そう夢なんだ。そう言い聞かせて今まで生活してきた。

 だけど、あの時、カインが襲撃してきたとき、力を望んだ自分が見た風景で確信した。

 

 私は、神の鎧、ソウルマテリアなのだ。

 

「……こ、い……」

 痛みに悲鳴を上げたくなるのをグッと堪え、ノアはその身を受け入れようとする。抵抗する力が急に弱まってきてニケは少し訝しむ。

「私の半身よっ!」

 ノアの力ある言葉とともに彼女の頭上、その天高くからキラリと光る一筋の白銀の光が勢い良く降り注いできた。

 予想外の出来事にニケは驚き、ノアを離して後ろに下がる。

「なん、だ?」

 驚くニケの目の前に佇むのは空っぽの全身鎧。

「まさか、それは……」

 太陽に照らされ、光り輝く白銀の装甲。

 

 そう、アルディア王国の英雄、白銀の騎士がそこにいた。

 


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― 新着の感想 ―
あーこいつらがこっそり動けるわけがなかったw
真っ先に脳裏に浮かんだのがUCの「ユニコォォン!」でした
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