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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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はるばる来ましたよ

「今回の帰国は前回に増して最速だったわね。どう、国境を越えた感想は? メアリィ」

「シィィィッ! バッカ、私の名前を言うんじゃないわよ。何のために偽名にしてると思ってるのっ」

 馬車の中、国境をぬけようとしている最中で気が気でない私にマリアが、今までのことを台無しにするようなことを言ってきたので、慌てて口を塞ぎ黙らせる。

「もが……ふぉうらった、そうだった。で、なんて名前だっけ?」

「えっ? え~と、なんて名前なんだっけ。う~と、え~んと」

 色々あって、自分の心が一杯一杯だった所為か私は肝心な部分が抜け落ちていることに今更気が付くのであった。最悪、ルーシアさんが教えてくれた時、私は上の空でそれを聞いていなかったかもしれない。

 それ程にあの時の私はダメダメで、聖教国に問題なく入国できた今、ようやく落ち着きを取り戻せたといった感じだった。

 いつもなら、ここでテュッテかマギルカがソッと教えてくれるはずだが、今私の仲間はノアとスノー、リリィくらいで、しかも絶賛お空の上だった。

(って、このくだり、前にもやったような気がするけど、もしかして私ってば成長していない?)

 これはいかんと思い、そういえばなんかルーシアさんから一度書類を見せて貰ったことを思い出し、あの頃の記憶を唸りながら引っ張り出す。そして、今の私の名前が判明した。

「あっ、そう、そうよ。私の名前はメリィよ」

「メリーヨ?」

「メリィ。っていうか、メアリィからアを抜いただけって、それ大丈夫なわけ? 安直すぎないかなって思ったことでギリ記憶に残ってたわ」

「あ~、ルーシアは昔っから名前をつけるのが雑というか、センスがちょっとね~……私だったらもうちょっと捻ってメリメリとかにするんだけど」

「いや、貴女の方が悪いわ」

「え? ま、まぁ、その名で公式に呼ばれることなんて滅多にないから気にしなくても良いんじゃない?」

「う~ん、そう、だよね……」

「なによ、まだ不満なの?」

「いや、もしかして、メリィ・レガリヤとかになってないわよねっと思って」

 私はさらに思い出そうと奮闘するがそこまで記憶力が良いわけではないし、もしそうだったらさすがに私もその時点で訂正してもらうはずだ。いや、あの頃の私は信用できないほどダメダメだったから益々心配になってくる。

 そもそも、こういった書類を誰しもが提出する文化など聖教国くらいしか私は知らない。それだけ聖教国はしっかりとした管理運営をし、識字率も高い国なのだと窺える。

「そ、そんな、いくら雑とはいえ、そんなこと……あるわけない、よね?」

 私が不安そうにマリアを見ると、彼女もまた不安そうな表情であさっての方向を見始めた。

 書いた本人に聞けば良いのだが、あいにくルーシアさんは生き残ったもう一人の団員と一緒にアルディア王国に残って、王子と一緒になにやら外交をしているのだった。つまり、今ここにいるのはポンコツ二人組だけなのだ。

「ま、まぁ、仮にそうだったとしても大丈夫よ。なんか国境警備の連中も忙しそうだったし、この国の人間は与えられた仕事だけを淡々とこなす奴ばかりで、変だと思って独自の判断で行動をするなんてことないから」

 マリアに言われ、私は不安な気持ちを誤魔化すためにこれまで馬車の隙間から覗いて見てた聖教国の人達を思い出す。

 ぱっと見は私達とは変わらない、ごく普通の国民っといった感じだったが、その仕事っぷりは実に淡々とし、余計なことをしていなかった。

 そう、こちらの城下町のような世間話を持ちかけたり、笑ったり、心配したり、そういう人間味というか温かみが見当たらなかったのだ。

「確かに、サバサバしてて、他人に興味ない感じが……あっ、えっと」

 考えなしにしゃべっている所為で私は目の前にいる、というか、私以外が全員その国の人達だということを失念していた。

(こ、これは失言ですわん。やっちまったですわん)

 焦りすぎて語尾がおかしくなる私。

「大丈夫よ。貴女の言う通りだから」

 馬車に揺られながらマリアは外の景色を眺める。

「私達は、神の名の下、この国のためにそれぞれ『役割』を与えられ、それをこなすために日々生きているわ。そこに私達の意志はなく、所謂、聖教国を円滑に動かす一つのパーツに過ぎないの。だからこそ、その役割をこなせない欠陥品は即座に切り捨てられ、新しいパーツに変えられる。そういう国よ、ここは」

 国が人一人の人生を決めていると言うことだろうか。政治については疎く、よく分からないのでなんとも言えないが、私達とは違うということだけは伝わってきた。

「だからこそ、皆自分の『役割』にしがみつこうと必死なの。欠陥があれば周囲が密告し、その人は連行されチェックを受け、ダメと判断されたらもう戻っては来ないわ。あの国は皆が監視し、監視されているのよ。それでも、あそこの暮らしは快適よ。なにもかもが便利で満たされている。しっかり自分の役割を果たしさえしていればなに不自由なく生きていけるの」

「う~ん、なんか息苦しそうね」

「まぁね、役割を果たすのは当然と思う人ばかりで、私が一生懸命助けても、当たり前だろという顔をされ続けたわ。でもね、私もそれが普通だと思ってた。聖女となって外に出た時までは……」

「マリア……」

「皆、喜んでくれるの。ありがとうって涙ながらに感謝してくれるの。その周囲の温かな感情、それがとても嬉しかった。こんな素晴らしい気持ちを教えてくれた神様に感謝したわっ!」

「っで、この恍惚聖女が出来上がったというわけね」

 話の良い所でマリアの様子がおかしくなって、ついにはうっとりし始めたので私は容赦なく指摘する。

「そこっ、人が良い話してるのに変なチャチャ入れないでよっ」

「ごめん、私のツッコミ魂が抑えられなくてつい……」

「なにその魂、怖っ……まぁ、良いわ。この旅ももう少しで終わりよ。都に着いたらノーストップでそそくさと何食わぬ顔で頂上の大神殿を目指すんだからねっ! 私の権限を使えば楽勝、楽勝っ!」

「貴女が要注意人物に指定されてなきゃ良いんだけど」

「大丈夫よ。国境を越えた時も対応がいつも通りだったから警戒はされていないんじゃない。アルハザード卿ならなにかしら手を打ってくると思っていたから意外だったけど。まぁ、あんな事があったのに私がこんな短期間に戻ってくるなんて思わなかったのかしらね。っていうか、人をお尋ね者みたいに言わないでくれる」

「うっ、これまた失言を」

「フフッ、私が恍惚聖女なら、貴女は失言聖女ね」

「やめてよ、そんな二つ名。まだ白銀の聖女の方がマシよ」

 私はエ~と嫌な顔をして少し引く。そんな私を苛めるのが楽しいのか、それとも、静かになると私が要らぬ思考に陥ると気を遣っているのか、マリアのおしゃべりはしばらく続くのであった。

(さすが聖女。そういう所が聖女なんだろうね。私も見習って、気を遣われないようにしっかりしなきゃ……)

 私は馬車から外を覗き、地平にそびえる大きな山を眺めるのであった。

 私はこの時知らなかった。本来ならあの書類の名前がどうであろうとカインが不審に思わないわけがなかったのだ。その判断をテュッテが図らずも狂わせたことを……。

 

 □■□■□■

 

 あれから数日が過ぎていた。テュッテは相変わらずニケの側に置かれている。そろそろ周囲からひんしゅくを買うのではと思っていたが、意外や意外、皆見て見ぬ振りをし続けていた。

 教皇のお世話をする。それはとても名誉なことなのかもしれないが、それ以上にのし掛かる恐怖の方が勝っていたようだった。

 最初に見た首輪事件を思い出しても、その扱いは雑であり、しっかりやっていてもなにをされるか分かったものではない。

 今日もまたテュッテは神殿の最奥、不可思議な装置の前でいろんな起動実験をするニケを後ろで静かに眺めていた。

 宙に浮くこの土台を囲んだ大きな輪がいくつも折り重なり、グワングワンと回転し続けている。

 中央にあった巨大なモノリス。それが形を変え、中央がパックリ開いた箱状の物になっていた。

 その空いた空間が歪み、妙な力場を形成している。

 と、突然、バチンッと大きな音と光が発生し、装置が止まる。

「教皇様」

「ふむ、やはり安定しないか。今の私ではこれが限界なのか……」

 テュッテと共に様子を見守っていたカインが心配そうに声を掛けるが、ニケは目の前の結果に集中し、一人ブツブツとなにか言っていた。

 カインはカインでそんなニケを静かに見守っている。

 そのカインだが、テュッテには最近ここを訪れる回数が多いような気がしてならない。敵であり捕虜である自分が教皇になにかすると危惧しているのだろうか。そんな力も手段も無いテュッテにはその思考に至る根拠が分からなかった。

 ではこの装置の行く末が心配で気になっているのだろうか。それはそれで教皇に失礼な気がしてならないし、あれだけ教皇に心酔し、絶対的な信頼を向けている男が、そんな気を起こすようには思えなかった。

 最近では聖騎士団がどうとか、アルディア王国がどうとか、色々忙しそうなのに、まさかそれらをそっちのけで……ということはないだろう。

 まさかね、と視線を外した時、ふと視界の端に一瞬キラッと光る物を見たような気がして、テュッテはそちらを見直した。

 テュッテが見た先、それは装置の中央だった。

「どうした?」

 ニケがちょっとしたテュッテの動きを見逃さず、声を掛けてくる。

「……いえ、なんでもありません」

 テュッテは視線を下げ、静かに答えた。

「貴様……なんですか、その態度は?」

「お前が見ていたのは中央か……」

 カインがなにやら三下のような物言いでテュッテに近づこうとした時、ニケはそんなカインを無視して先程のテュッテの視線を辿って歩き出す。

 そして、中央に浮かぶ巨大なモノリスの下、その床を見て、なにかに気が付いた。

 ニケは自身の能力を使って床に手をかざすとしばらくしてなにかを拾い上げた。

「教皇様、もしかして、それは……」

 信じられないといった顔でカインがニケを見ている。なにが起こっているのか全く分からないテュッテはそれでもその場を動かず、二人を静かに注視していた。

 ニケの手の平に乗せられていたのは裁縫などで使う縫い針のような物だった。

 だが、それは光に反射しているわけでもないのに虹色に光っている。おまけにその存在感というか、圧が強く、テュッテは目が離せなくなっていた。

「神の領域……高次元の産物だ。でかしたぞ、お前が気が付かなければ、すぐ様この次元に固着できず霧散していた所だった」

 ニケに褒められた所でテュッテには別段嬉しくもない事だし、ニケの視界から外れていたカインがこちらを睨み付けているのが不思議でならなかった。

 なにより、あの縫い針のような不可思議な存在、それを眺めていればいるほど、それが恐ろしく思えてならなかった。

「フフフッ、繋がった……我が集大成がこれだけの存在しか引き出せなかったが、それでも確実に繋がった……」

 珍しくニケが人前で興奮している。

「教皇様、これでもしもの場合、あの器に――」

 カインが器というワードを口にして、テュッテがハッと我に返ったその時、ドォォォンと大きな音と地響きが遠くから聞こえてきた。

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破壊しn・・・白銀の聖女さまのおな〜り〜
わー何か来たぞー
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