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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 一年目
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ショックです

ブックマークありがとうございます。


 学園に通い始めて、はや一週間(この世界でも7日で一週間という概念のようだ)になる頃には、私も学園生活に慣れてきた。そして、安心した事と不安になる事が見えてくる。まず、不安だった学力の方だが、日本での学力水準の方が遙かに高い事が分かった。小学生レベルで事足りてしまう程で、元々暗記するという行為に抵抗のない私にはその覚える情報量の少なさに拍子抜けしてしまうくらいだ。

 だが、私が所属する『ソルオス』は、それが主流ではない。むしろ、体を動かす方に重点が置かれている。そして、安心だった実技の方が今は不安になっていた。


「はぁ~」


 私は午前の授業を終えて、談話室に戻り、空いた席に座った途端、深いため息をついて打ちひしがれる。


「あの、大丈夫…ですか…」


 アワアワと慌てながら、それでも私の隣に座って気遣うサフィナ。彼女は入学早々起こした模擬戦騒動の後からずっと私の側にくっつくようになった。まぁ、彼女がいるおかげで私もパニックを起こさずにいられるし、何より、彼女は地理に詳しいので、道に迷うという心配がなくなった。正に願ったり叶ったりである。


「そうヘコむなよ。まさか、あのメアリィ様があんなに剣技が苦手だったとは意外だぜ」


 向かいの席に座って大げさに驚くザッハを一度見て、私は再び深いため息をついて打ちひしがれる。

 そう、私の目下の不安要素、私は剣技が苦手だというのが発覚したのだ。


(言い訳させてもらうと、別に剣技を覚えられない訳じゃないの、それ以前の問題なのよね…私、剣がうまく握れないのよ)


テーブルの上にのの字を書きながら、私は心の中で愚痴る。


(なぜ握れないのかって?理由は簡単、壊すからよ…)


剣を握って、振る。簡単に見えてその実、私にはものすごく難易度が高かった。まず、柄を破壊しないように軽く握った後、思いっきり振れっというのだ、そんな状態で振ったら剣が手からすっぽ抜けて当然だろう。そして、思いっきり振ったら振ったで、受けた相手が洒落にならなくなるのでこれも抑える必要がある。結果、私はめちゃくちゃぎこちない動きに、時折、剣が手からすっぽ抜けるという、大変お間抜けな醜態を晒すはめになっていたのだ。これが落ち込まずにいられるか。


(すっぽ抜けた後の皆のあのほんわかした生温かい目で見守る顔…私には耐えられないわ)


 思い出しただけで、キ~~っと叫んで地団駄を踏みたくなってくる。思えばクラウス卿の鍛錬は徒手空拳だったので、この問題に直面しなかったのだ。


(自分のコントロールもままならないのに、そこに武器を気にしなくちゃいけないし、さらに剣術の型にそって動いて、相手の動きを……あぁぁあ、もどかしい!)


 一人頭を抱えて悶える私にオロオロしながら、それでも見守ることしかできないサフィナがザッハを見ると、彼もヤレヤレと言った顔で両手を軽く上げ、お手上げのポーズをとっている。


「そういえば、午後の授業は何をとってたっけ?」


 私が負のオーラを醸し出しながら、テーブルに突っ伏していると、話題を変えるようにザッハが聞いてくる。まぁ、私に答える気はないが…


「え、えっとぉ…この後は、その、モンスターの生態学を皆でとったはずですが」


 私の代わりに、サフィナが答えてくれた。この学園は受けたい授業を自分たちで選択し、受講するのが基本システムなのだが、何を受けるのか3人で相談しながら選んだので、結果3人共ほとんど同じ授業を受けることになってしまっている。


「生態学ッ!!」


 私はサフィナの言葉に反応して、ガバッと頭を起こす。先程までの憂鬱な気分はどこかに飛んでいって、ワクワクした気分で瞳を輝かせていた。


「メアリィ様は、生態学がお好きですよね…」


「だって、モンスターよ、モンスター!空想でしか会えなかった存在を本気で勉強し、あわよくば実物を見せてくれるんだからテンション上がるわよ!」


「空想?」


「ああ、うん…何でもないわ、こっちの話…」


 興奮気味に言った私のとある言葉にサフィナが?マークを浮かべて聞き返してきたので、私は何もなかったかのように受け流す。


「でも…私…今日の授業は正直出たくありません…」


「あら、どうして?」


 今にも泣きそうになるサフィナをなだめながら、私は問い返した。


「だって…今日は、グリフォンに直に会うんですよ…私、怖くて、怖くて」


「でも、将来軍に入るなら、グリフォンは早めに慣れておいた方がいいぜ、もしかしたら空中騎士団の才能があるかもしれないしさ」


 カタカタと震えるサフィナにザッハは現実的な意見を述べた。この国ではグリフォンは恐ろしいモンスターというより、馬などと同様に身近な生物の一つとして認識されている。鷲の上半身に獅子の下半身、大きな翼を持ったそのモンスターは知性も高く、王国の空を守る騎士の相棒として一役かっているのが現状であった。


(グリフォンライダーかぁ…くぅぅ…カッコいいッ)


 グリフォンに跨がり、空を駆けめぐる自分を想像して、勝手に私は歓喜に打ち震えてしまう。


「よし!いくわよ」


 握り拳を作って、私は先程の鬱々したテンションなど感じさせない意気込みで立ち上がった。


「あの…やっぱり…その、私は…遠慮っ」


「ほらほら行くわよ、サフィナ」


「えェェェェエッ」


 マゴマゴしているサフィナの腕に自分の腕を絡ませ、強引に立ち上がらせると、私は彼女を引きずりながら現地へと向かった。正直な話、どこでその授業が行われるのか分からなかったので、サフィナを強制連行したところもある。


―――――――――


 そして、私はげんなりしている。


 私は今、学舎を出た離れの森にいた。他の生徒達も集まっており、目の前にはあのイクス先生が立っている。


(いや、決してイクス先生がいるからげんなりしているわけじゃないわよ)


 原因は先生のもっと後方にいる物体の所為だ。


「え~、それでは、これよりグリフォンと直に接してもらおうか」


 先生の言葉に私のテンションはさらに落ちる。


(さっきまでのテンションはどこにいったかって?確かに、この森に来て、グリフォンを初めて見たときは興奮しましたさ、でもね、でもね…そいつが…もう…)


 私はもう一度、奥のグリフォンを見つめ、顔を歪める。


(…臭いのよッ!!獣臭が、きつすぎる)


 彼に全く罪はないのだが、前世の頃からそういった動物達と触れた事がなかった私には、獣独特の臭いがあまりにもショックだった。それはもう、先程までのキラキラした私の妄想が音を立てて崩れるくらいに…


「先に言っておくが、ここにいるグリフォンはかつて空中騎士団で活躍し、退役したベテランだ。お前達ひよっこなど下に見ているから怒らせないようにした方がいいぞ。なめてかかると突つかれ、ひっかかれ、大怪我するからな…下手をすると食われてしまうぞ」


 フフッと笑みを見せてイクス先生はそんな物騒な補足をする。それを聞いたサフィナが顔面蒼白だったのは、言うまでもない。


「さぁ、誰から行く?」


 イクス先生の催促に、私達生徒は顔を見合わせるだけで、誰も行こうとはしなかった。


「ザッハくんかサフィナさん…どっちか先に行ってくれないか?」


「は?俺が?」


「ヒッ」


 誰が言ったか分からないが、生徒の一人の台詞に皆がうんうんっと同意し始める。何を隠そう、あの闘技場の騒ぎ以来、二人の実力は皆の中でかなり高い評価になっていたのだ。ちなみに私は、闘技場の件では端から見ると何もしていなかったし、例の剣、すっぽ抜け事件のため、評価は論外である。

 困った顔をしたザッハがこちらを見てくる。正確には私にしがみつくサフィナだが…それに気が付いた彼女はそれはもう、残像になるほどに高速で、首を横に降り続けていた。

 私は一度、ため息をつくと、先生に向かって手を挙げる。


「イクス先生…私とザッハさん、二人で近づいていいでしょうか?」


「ん?かまわないが、エレクシルはそれでいいのか?」


「問題ありません」


 男の子としてそれはどうなの?的な意味合いを含んだ先生の質問にきっぱりと言い切るザッハ。


(くっ、あわよくば、ザッハの男の子としてのプライドを刺激して、それじゃあ、一人でどうぞ的な流れもありかな~っと思ってたのに…この根性なしっ!)


 半目で彼を非難しながら、それでも私は言ってしまった手前、サフィナをその場に置いて、ザッハと共に前に出て行った。

 それに気が付いたのか、なんじゃいっと言わんがごとく、今まで座っていたグリフォンさんがムクリと立ち上がる。


(デカッ!分かってたけど、やっぱりデカッ!それに、近づくにつれて臭いがやばい)


「グリフォンはお前達が考えている以上に知能が高いぞ。だから、人と接するように扱え」


 グリフォンに近づく私達の後ろからイクス先生がアドバイスをいれてきた。


(人と接するか…つまりは言葉の通じない外国人を相手にするみたいな感じなのかしらね。じゃあ、まずはあいさつから…)


 フンスッと胸を張る態度のでかいグリフォンに近づいた私は挨拶するため立ち止まると、ザッハより一歩後ろの位置になってしまった。


「どうも、グリフォンさん」


 スカートの裾を軽く持って、礼をすると、私は臭いがキツくて引きつった笑顔になったまま挨拶する。


(ちょこっと不快なオーラが出てしまったかもしれないけど…大丈夫、大丈夫)


 その声に反応したのか、んっ?と今気が付いたように私を見るグリフォンさんがっ…


 グリフォンさんがっ……





 全力で逃げ出した。


 何かあった時のためだろう首輪と鎖が着いているため、その場からは逃げられないが、それでも私達、いや、正確には私から逃げようとそりゃもう、滑稽なほど全力でバタバタともがきまくっている。


(いやいやいや、そんなに強く引っ張ったら…あぁ、ほら、首周りの肉が上にたまってすんごいブサイクな顔になってるわよ)


 先程までの威厳に満ちた態度はどこへいったのか、グリフォンは必死な形相で逃げ続け、それから数分後、力つきたのか、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれと言わんがごとく、ぐったりと倒れ込んでしまっていた。


(そ、そんなに怖がることないじゃない…そりゃあ、私もちょこっと不快な感じ出しちゃったけど…知能が高いから私の力を察知して、それで不快そうな感じを出したから殺されるとでも思われちゃったのかな~…うぅぅ…ショック……)


 私はショックを受けてスゴスゴと後ろに下がってサフィナと合流し、ザッハは唖然としてしばらくその場に佇んでいる中、威厳も何も失ったグリフォンさんを皆、哀れそうな目で優しく撫でていって、今日の授業が終了するのであった。


 後日、あれはきっとザッハの実力に怯えたからだと勝手に噂が広まり、彼の株が上がって、私は雲隠れに成功したのは不幸中の幸いだったのだが、モンスターに全力で逃げようとされた乙女な私はしばらくショックで打ちひしがれる日々を送っていた…


ここまで読んでいただきありがとうございます。幼少期のメアリィ様を襲った蛇はおバカだったので彼女の力に気がつかず、ああなってしまったのです、合掌

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[良い点] 面白い!小説読みながら顔ニヤニヤしちゃうからマスクが有り難い(笑)
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