怪物の正体
「なにが起こったの?」
旧校舎から聞こえてきた爆発音に慌てて学内から外に出るノアは、その方角を見て絶句する。
遠くからでも分かるそれは旧校舎付近に浮いていた。
それ程に巨大ななにか。
全長にして三十~四十メートルくらいはある巨体。龍を彷彿とするうねった細長い体躯。その頭の部分が大きな獣の口のように四つに裂かれ、その横に鳥や獣の頭が枝分かれのように生え出ている。龍の鱗に覆われた身体の所々から伸びる他の種族の手足も別の意志を持ったかのように蠢き続けていた。合成獣と呼ぶにはバランスもなにもない、只々混ぜ合わせたような痛ましい造形もさることながら、それ以上に驚くことがあった。
「嘘……あれは……」
ノアの隣で見ていたマリアとルーシアが驚愕とも恐怖とも取れる声色で呟いている。
無理もない。
その巨大な生命体は彼女達を襲ったあの怪物にそっくりだったからだ。
装置を止めに行ったメアリィ達がいる旧校舎方面に突如現れた巨大な生命体。
なにがあったのかは分からないが、おそらくあれは道具にされた神獣達なのではとノアは直感的に判断する。
と、ノアに両腕で抱えられていたリリィがモゾモゾと暴れ出し、彼女の腕の中から飛び出す。
「あっ、リリィッ! どこへ行くの?」
まっすぐ旧校舎の方へ走り出すリリィを追うノアに釣られてマリア達も走り出していた。
さすがに学園内はパニックとなり、運営や騎士団の人達の大声による先導と、訪問者や学生の驚きと困惑の声がそこかしこから聞こえてきた。
逃げる皆とは反対方向へ走っていくリリィ。
てっきりあの巨大な神獣達の元に駆けつけるのかと思っていたが、途中で少し方向を変えていった
そこでリリィが神獣達ではなく、別のなにかを追いかけているとノアは気が付く。
そして、リリィが人気の無くなった場所で足を止め、小さな身体で威嚇する先にいた男達にノアの緊張が高まる。
リリィが向かい合った男達の数は二人。一人はフードで顔を隠していて誰だが分からない。
だが、もう一人は顔を隠しておらず、ノアもつい最近顔を見ていた男だったので覚えていた。
「カムラン爺っ、こんな所でなにをしているの?」
最初に声を掛けたのはマリアだった。
「マリア団長……」
戸惑うマリアと同じく、向こうのカムランも驚き、どうして良いのか分からずフードの男にチラチラと視線を送っている。
「やれやれ、こちらは想定外の出来事で観察を続けたいと思っているのにままなりませんね」
その声にノアの鼓動が跳ね上がり、緊張のあまり溜まった唾液を飲み干す。
「想定した規模の被害が出ておりませんね……ギリギリで白銀の聖女と接触したのが見えましたがそれが原因でしょうか? こうなってくると、邪魔者達がちゃんと始末できたか些か疑問です」
フードを下ろし、思慮深げに遠くに浮かぶ神獣達を眺める男。
それは右席卿と呼ばれた聖教国の枢機卿、その人だった。
「お姉ちゃん達になにをしたのっ!」
「カムラン爺っ! どうしてアルハザード卿と一緒にいるのっ!」
ノアとマリアが同時に声を荒げる。
「お姉ちゃん? ああ、彼女達がいた旧校舎は見事に吹っ飛びましたよ。後、暁の聖女。貴女がここに来ることもこの男を連れてくることも想定済みだったので利用させて頂きました」
二人の勢いに気圧されるカムランとは違って全く動じていないカインはどこか別の所を見ているかのように二人とは一切視線を合わせず、淡々と答えてくる。
「利用って……どうしてっ!」
カインの言葉が信じられなくてマリアはカムランを見て叫ぶと、彼は申し訳なさそうに視線を外した。
「魔力増幅の儀、ですよ」
カインの返答にノアには聞き慣れない言葉だったが、マリア達は知っているようであまり驚いている様子はなかった。
「回復魔法はその知識もさることながら、魔力も多くなければなりません。聖女団でその役割をしたいのなら、それ相応の魔力量を内包していなくてはならないのは知っていますよね。事実、貴女方を含め、聖女団の多くがこの儀式を受けた口でしょ?」
カインに話を振られてたじろぐ二人を見て、ノアは彼が言っていることは正解なのだと理解した。
「そ、それがなんだと言うのっ」
「魔力の総量は魂と密接に繋がっていて、成長と共に増えているように見えても、それは単に引き出せていなかったモノを引き出したに過ぎません。魔力の総量は生まれた時点で決まっているのです。これは教皇様の結論であり、神が定めた理。ならば、どうすればその決まった魔力を越えられるのか? 教皇様にとって儀式は体の良い実験場でした」
「じ、実験場?」
「質問ですが、貴女方ならどうしますか? 決められた魔力を増やすなら」
「えっ……ど、どうって……」
「できないでしょっ! 分かるわけ無いですよねっ! 魂すら認識できない愚かな我々にはっ! ですが、教皇様は違いますっ! あの方は魂には魂を持って注ぎ足す。そんな突拍子もないことを可能にしたのですっ! あぁ、しかし、悲しいがな、偉大なる教皇様の理念に被験者である我々が脆弱すぎて満足な結果が得られず、完成には程遠い始末」
「た、魂を注ぎ足す?」
「魂に魂を……その話が本当なら、足す魂とは?」
話に追いついていないマリアとは裏腹にルーシアが疑問を、いや、この話の核心を突いてくる。
その質問に答えるようにカインがゆっくりと空中に浮かぶ巨大な生命体を見る。
「神獣とはとても良いサンプルだったそうです。我々よりも魂という概念をより可視化しやすかったそうで。切り分け、別の場所にくっつける。言うのは簡単なのに、実行するとなるとなんと困難なことか。私など、未だそれが見えず、理解もできないというのに……」
カインの話でノアは自分だけが見えたあの光を思い出す。
「じゃあ、あの光って……」
「ホウ、貴女には見えたのですか、神獣の魂が? 白銀の騎士の成れ果てよ」
迂闊にもボソッと口にした言葉を拾われ、カインがノアを見てくる。
「もしかして、貴女の『お姉ちゃん』とやらも見えていましたか?」
「そ、そんなこと……」
腹の探り合いに疎く、未熟なノアは言葉にしなくてもその態度で受け答えをしてしまう。
「なるほど……アレが見えるのは魂を理解している上位者、転生者に他ならない……とのことですが……」
ブツブツとなにかを思案し始めるカイン。
「だ、だから、その話とカムラン爺となにが関係してるって言うのよっ!」
ここに来てまだ理解できていないのか、それとも理解したくないのか、マリアが怯みながらも虚勢を張るように声を荒げ続けていた。
「ああ、未だ未完成なため、ある日を境に魔力が減退していくのですよ」
マリアの質問に別のことを考え中なのか、興味を失ったカインは酷く投げやりに答えてくる。
「魔力の減退……そういえば、トムも最近魔法の使用回数が減ってきたと言って焦っていたような……」
マリアはハッとなにかに気が付き、カムランを見ると彼は気まずそうに視線を逸らす。
「猊下、もう行きましょう。約束通り本国に戻ったら儀式を再び受けられるように取り計らっていただけるのですよね。儂はまだこの『役割』を手放したくはないのです」
「カムラン爺っ! あなた、儀式の正体を知ってまだそんなことを言ってるのっ! 私達を裏切るだけじゃなくメアリィ達までっ!」
「そんなもの、儂には関係ないっ! 儂は儂の役割を果たすまでだっ! そうしなければあの国にはいられないっ、役立たずは処分されてしまうっ!」
マリアとカムランが口論となるが、ノアには聖教国の内情が分からずちんぷんかんぷんだった。
「――――――ッ!」
と、二人の口論を打ち消すように超音波のような音が神獣から発せられ、学園内の空気が震え、周辺の壁が窓がひび割れていく。
今までなぜか静観していた神獣が動き出したみたいだった。
「や、やめろ……黙れ、黙れぇぇぇっ!」
あまりの大きな音に耳を塞ぐノアだったが、同じく耳を塞ぐカムランが自分とは違う理由で耳を塞いでいることに訝しむ。
耳を塞ぎ、脂汗をにじませ、体を震わせるカムラン。その異常な光景にさすがのマリアも心配そうに彼を見始めていた。
「違う……違う……違う……儂じゃない、儂じゃない……やめろぉ……儂の中に入ってくるなぁぁぁ……」
ついには跪き、地に伏せ耳を塞いで震え出す始末。
「そうだ。言うのを忘れていましたが、素材の元がああなった以上、もう儀式はできません。貴方の願いを叶えられなくて申し訳ありませんね」
本当に申し訳ないといった素振りは全くなく、カインはカムランすら見ていなかった。
「もう聞こえていないと思いますが、最後に。貴方がなぜ減退したか、それはですね、減退じゃないんですよ。貴方が足された神獣の魂に頼りすぎてその魂が浸食していき、貴方の魂を呑み込んでいったから思うように使えないだけです。なのでもう手遅れなのですよ」
とても優しそうな笑顔でカインは苦しむカムランに囁きかけてくる。その作られた笑顔にノアはゾッとした。
「そ、そんぁ%&*+$@――」
カインの言葉が聞こえていたのかカムランが顔を起こし言葉を発したが、途中からなにを言っているのか分からない言語と化し、そして、彼の姿に異変が起こる。
ボコボコと衣服を破き、体が隆起を繰り返すと、おかしな形状に変形していくカムラン。
次第にどこが頭でどこが体か、分からなくなるほど歪になったと思ったら、なにかの形に形成されていった。
「……嘘……こんなことって……」
マリアが信じられないといった顔で呟く。
目の前にいたのは……。
過去、マリア達の村を襲い、あの日クラーク領に現れたあの怪物そのものだった。
何の言葉かもう分からない咆哮をあげ、カムランだった者はその大きな口を開け、マリア達に襲いかかろうとしていた。
私も戦わなきゃとノアは思うが今の自分がどれだけ戦力になるのか些か疑問である。
ああ、力があれば……。
いらないと捨てたはずの力を求めた瞬間、ノアの視界が一瞬グラッときて意識が飛びそうになった。
「なに……今の……光景は?」
意識が飛びそうになった一瞬、自分の視界に別の風景が見えたような気がしてノアは頻りに目をパチパチする。
と、化け物の咆哮とマリア達の声が聞こえてノアはそんなことをしている場合じゃないと相手を見る。
運良く相手はマリアに引き寄せられ、ノアを視界から外していた。
ノアは形振り構わず化け物に向かって飛び出す。
体術とは程遠い、自身の身体能力任せの体当たりが思いのほか功を奏し、無防備だった怪物はまともにそれを受けて遠くの壁へと吹っ飛んでいった。
「やれやれ、知性が微塵も残っていないとは最後まで使えない実験体ですね。ああ、なんと脆弱な魂なのでしょうか。あんなゴミが聖女団にいたなんて嘆かわしいことですね、そう思いませんか、暁の聖女?」
「あんたがそれを言うなぁっ!」
この状況に冷静でいるカインにマリアは怒りをぶつける。それに対してなぜか拍手で応えるカインがいた。
「素晴らしい。アレに引き換え、解放された神獣に浸食されず、自身を保てているとは。さすがは聖女の名を冠しただけのことはあります」
「なにを言っているのか分かんないけど、お前も、教皇も、絶対に許さないっ! 人の、いや、全ての生命をなんだと思っているのよっ! 神もきっとお前達を許さないわっ!」
「そんな温いことを言っているから、我々は神の、教皇様の期待に応えられないのです」
「ど、どういうこと?」
「そんなことより、良いのですか?」
マリアの怒りなどどこ吹く風か、聞き流すカインは顎をくいっと動かして、マリアの後ろを指摘する。
その意味に気が付き、マリアもノアも慌てて振り返った。
そこには苦しそうに蹲り、耳を押さえるルーシアの姿があった。
「嘘っ、そんなっ、なんでっ! ルーシアッ!」
「顕界した神獣があんな間近にいるのです。その影響力は絶大でしょう。それを撥ね除けるなど貴女ならいざ知らず、そこの凡人では、ねぇ。ああ、そういえばもう一人いましたね。しかし、アレは儀式を受けていないのでしたっけ?」
駆け寄るマリアの背中にカインが疑問を投げかけるが、そんなこと一切耳に入っていないほどマリアは慌てふためいていた。
「マ、マリア……逃げ、なさい……私は……」
「嫌っ、嫌よっ! そんなことできないっ!」
この状況にどうして良いのか分からないノアは悔しそうに只見ているだけだった。
「あの時からずっと一緒にいた姉のような存在のルーシア。大切ですよね。そんな彼女をあんな化け物にしたくはないですよね。暁の聖女」
パニックを起こしているマリアの後ろから悪魔の囁きのごとく優しい声色でカインが言葉を投げかけてくる。
「私は教皇様から様々な知識と技術を与えられております。もちろん、この状況を一人くらいなら打破できる方法も存じ上げていますよ」
あれだけの知識を披露したのだ。あながち嘘ではないだろうと思えてしまうほど、今のカインには説得力があった。いや、これもカインの話術なのだろうか。とにかく、そういった交渉事に疎い、マリアとノアではこれに対抗する知識も技術も未熟であった。
「……なにが望みよ……」
そうしてノアはマリアが口にするだろうその言葉を止めることが出来なかった。
「白銀の聖女。あの少女の能力と正体……貴女ならすでに聞かされているのではありませんか? 人の心に入り込むのが得意な聖女様……」
マリアの人当たりの良さを皮肉るカイン。
その願いはとても簡単で、マリアにとってはなんの痛手でもなかった。
メアリィの秘密をしゃべれば本当にルーシアが助かるかもしれない。メアリィだったらこの状況で話したって責めたりはしない。むしろ、自分から話せと言うに違いないとノアは思った。
「…………言えない……」
マリアの返答に、ノアもカインですら驚いて目を見開く。
「私達は、他国の信頼を裏切らない。それが、聖女団としてのルールであり、誇りなのよっ!」
「裏切らない、か……それを愚直に守っているのは貴女くらいでしょうがね」
そう言ってカインは後方へ飛んでいき、離れた場所で狂ったように周辺を破壊している怪物を眺める。あれはもう、知性もない見るモノ動くモノに只ひたすら攻撃する獣であった。そんなモノにルーシアが今なろうとしているのだ。
「……よく言ったわ……マリア……それでこそ、暁の聖、女よ……」
苦しそうにしているルーシアはそれでもマリアの判断を賞賛する。
だがそれは、ルーシアを見捨てることになることくらい二人が分からないわけがなかった。
二人は最悪の事態を覚悟していたのだ。だが、一人、未熟な少女はその覚悟に耐えられなかった。
「お姉ちゃんは、神様から絶対に誰にも負けない完全無敵な身体を貰っているのよっ! だからどんな攻撃も魔法もお姉ちゃんには効かないのっ!」
「……神から? 誰にも負けない、完全無敵な肉体……なるほど……だから、器、ですか」
「ノアッ!」
「ほら、言ったよっ! ルーシアさんを助けてっ!」
「ふむ、これはすぐにでも教皇様に……ああ、助ける方法でしたね? え~と、そうですね。そんなもの殺せば良いでしょ? 楽になりますよ」
切羽詰まったマリアやノアとは裏腹に至極簡単にしかも投げやりに答えてくるカインに、二人は数瞬呆然とする。
最初から救う気など、いや、救う方法などなかったのだ。
「……そんな……私は……私は……」
それを理解したノアが自分の浅はかさに震える。
「こぉの屑野郎がぁぁぁっ!」
今までにないくらいマリアが品のない言葉でカインを罵倒するのがノアの耳にも聞こえてくる。
やってしまった……自分はまた愚かなことをしてしまった……その罪悪感にノアは苛まれ、思考が上手く纏まらない。
だが、以前のノアならここで考えることを諦めるだろう。でも今は違う。失敗したなら修正するんだ。取り返すんだ。でもどうやって、その方法は……とノアは諦めずに考えを巡らす。だが、現実は残酷で白銀の鎧の時のようなビジョンは視えず、答えを投げかけてくれる仲間はいない。
……はずだった。
『……ヒ、リング……オブ……ハ、モニー……』
「えっ?」
とても小さくて外の騒音に負けてしまいそうな聞き取りにくい声がノアの頭に伝わってくる。
無意識にノアは近くにいたリリィを見ると、彼女はマリアとルーシアに向かって駆け出していた。
「マリアさんっ! リリィと一緒にヒーリング・オブ・ハーモニーを使ってぇっ!」
「へ?」
「リリィを抱いて、ルーシアさんに魔力を送ることだけを願って」
「え? え?」
以前、メアリィが話してくれたその魔法のコツをそのまま口にするノア。その説明になっていないような説明に戸惑いながらもマリアは駆けてきたリリィを抱き、そのままルーシアの手を握る。
「『ヒーリング・オブ・ハーモニー』」
力ある言葉と共にマリアとリリィが光を帯び、それに呼応するようにルーシアの体も光に包まれる。
「愚かな……枯渇し浸食されそうになっている魂の魔力を補おうと言うことですか? ですが、そんなもの、その場凌ぎにすぎません。神獣がああなった以上、浸食は止められませんよ。只のせめぎ合いになるだけです」
「それでも、ルーシアを助けられるなら」
「はぁ……本当に馬鹿げてます。大体そんなに魔力を供給したらいずれ限界が訪れ、今度は貴女が浸食されますよ」
「そんっ……だめ、よ……マリア……やめ、なさい」
カインの言葉にルーシアはマリアの手を振りほどこうとする。が、マリアは離さなかった。
「あの日、私は誰一人として助けられなかった。でも、今は違う。私は暁の聖女なのだから」
マリアの笑顔と同時に咆哮が上がり、怪物が彼女の魔力に引き寄せられたかのようにこちらへ一直線に飛んできた。
「させなっ、きゃっ」
飛んでくる怪物をまた体当たりで押し返そうと飛び出したノアの前に見えない壁が生じてぶつかる。
カインの魔道具によるモノだと一瞬理解できず、思考が停止したノアを尻目に、怪物は大きく裂かれた口を開き、マリアを襲うのであった。
「風刃裂破っ!」
少女の声と共に風の刃が怪物を襲う。
飛び出していた怪物が綺麗に両断され、地面へと落ちていった。
「やはり生きていましたか……」
苦々しく言葉にするカインとは裏腹にノアやマリアの表情は安堵に変わっていた。
「皆……」
それもそのはず。
マリアとノアの側に立つ者達。それはメアリィが信頼する仲間であり、かけがえのない友人達なのだから。
「騒ぎを大きくしてくれたおかげでここがすぐに分かったよ、枢機卿」
「ホォ~、此奴がメアリィをしつこく嗅ぎ回る不届き者か」
「殿下はノアとマリア様を。ザッハ、サフィナさん、私達であの怪物を止めます。姫殿下もご助力を」
「任せておけ」
「OK、カイロメイアの時と同じパターンだなこりゃあ」
「あの時みたいな無茶はもうしません。メアリィ様にこれ以上迷惑を掛けられませんから」
「だな……まさか、自分の体で受け止めるなんて……」
「確かに……彼奴の行動と妾の防御魔法がなければ妾達はここへ駆けつけておらんかったじゃろうし、学園もこの程度の被害では済まなかったじゃろうな」
王子達が構える中、真っ二つになっていた怪物が再生し、ユラ~と起き上がってくる。
「無駄なことを……何度倒したってその怪物は再生しますよ。あの神獣達がいる限り」
「ああ、分かってるよ。だからボクらは耐えるだけだ。メアリィ嬢があの神獣達を神のもとへ還すと信じてねっ」
王子に言われ、カインは目を凝らし、それを目撃する。
空中に浮かぶ巨大な異形の生物。
その近くで飛翔する獣に跨がる白銀の少女の姿を。