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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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事後処理

「殿下っ、ご無事でっ」

 村に戻ってみれば、なにやら騒ぎがあったらしく、用意されていた建物内では騎士団の方々が慌ただしくなっていた。

「なにがあったんだい?」

「急に雨が強くなってきて、再び災害が発生する所が出ており、さらにそこから民の不安を煽り、被害を拡大させ、騒ぎを大きくする輩が出没しました……」

 そこでクラウスさんが言い辛そうにマリアを見た。

「……私達の団員がその騒ぎを起こしたのね?」

「団員というべきでしょうか……あの身のこなしは一般人ではありません。戦闘に特化もしていました。思いのほか人数も少なくなんとか鎮圧し何名かは捕縛しましたが……」

「そちらにお任せいたします」

 クラウスさんが再び話を止め、マリア達を見るとルーシアさんは自分達の主張もなく端的に返答するのであった。

 戻る途中で話を聞いていたが、この災害は聖教国側のとんでもない自作自演だったらしく、過去にもあった疑惑が浮上している。

 それに、枢機卿と共にいた団員もまたマリアが知らない人で、その身のこなしも非戦闘員とは違っていたらしかった。おそらくは枢機卿の息のかかった人間なのだろう。

(災害、か……)

 私はそのカラクリの正体を聞かされてショックを受けたことを思い出し、今一度スノーを見る。

 いつものように気怠そうに欠伸をして慌ただしく動く皆様の邪魔になるのではと心配になるほど、ふてぶてしく丸くなっている様はいつものことなのだが、今回は無理をしていつも通りに振る舞っているようなそんな気がしてならない。

「それと、枢機卿ですが」

「分かってる。彼ならすでにここを離れてるだろうね」

「警戒していたのですが、まさかあれほど長く精密な幻影魔法の使い手とは……それに我々の動きをどこかから見ていたかのような手際でした」

「使い手と言うよりはたぶんニケの魔道具だろうね。今思えば、彼はボク達が自分だけを強く警戒させるようにあえて目立つよう振る舞っていた節があったね。周りの者を動きやすくするために……」

 話が枢機卿になり、ニケという名を聞いて私はノアから聞かされた驚くべき事実を思い出す。

(ニケが……生きている)

 しかも、聖教国の教皇だというのだから二度驚きであった。ちなみに、この情報はマリアのうっかり暴露から来たらしいのだが、大丈夫なのだろうか聖女様は……。

「ボクらは明日にでもここを発ち、枢機卿を追って王都へ戻るよ」

「王都、ですか?」

「うん。杞憂なら良いんだけど、ノアの話を聞くともっと大きな舞台を作りたがってるらしいから、このまま聖教国へ戻ることはないだろうね。ちょうど学園祭があるから、入り込むなら今が丁度良いくらいだ。枢機卿ならそれを利用するに違いない。仮に今から中止に持っていっても、規模が大きく、時間が掛かりすぎてもう彼らは内部に潜入しているだろう。今回の件を見ても向こうの方が迅速且つ用意周到だ」

「分かりました。こちらの件が片付き次第、去年同様我らも一部学園祭警備に参加させていただきます」

「ああ、頼むよ」

「ではっ」

「あっ、私も混乱する団に指示を出し、諸々確認をいたします」

 クラウスさんが踵を返し部屋を後にすると、ルーシアさんも慌てて付いていく。

「あれ? マリア。貴女は行かないの?」

「それはルーシアに任せて、私は今後について話しあいたいわ」

「今後の救援について?」

「違うわ、アルハザード卿よ。彼が本国に帰らず、まだ王国に居ると言うのなら、私達も同行したいの」

 私と会話していたマリアは最後に王子の方へと顔を向けた。

「その目的は?」

「色々あるけれど、一番はアルハザード卿の言う通り、今まであんなモノであんなことをしてきたと言うのなら、私は聖女として、ううん、聖教国の人間として止めなくちゃいけないと思ってる。まぁ、万が一の時、彼に何かあっても全て私が被れば、そっちはやりやすいんじゃない?」

 探りを入れてきた王子にマリアは自嘲気味に返してきた。

「レイフォース様?」

「……分かった。だが、少数で貴女が信頼できる者を選んで欲しい。残りはこちらで騎士団と共に救済を続けてもらうけど、良いかな?」

「ええ、感謝するわ」

 話は淡々としているが、お互い言葉の向こうで色々と思惑が交差しているようで私は固唾を呑むことしかできなかった。

 これでマリアとの話は終わったのか、彼女は一歩下がり、王子は私達を見る。

「さて、枢機卿だが……おそらく狙いは白銀の聖女だ」

「やはり危惧していた白銀の聖女という名が周辺に広まり、意図しない聖女の存在が邪魔になったと?」

「どうだろう。仮にそうだとしても、わざわざ単身、枢機卿が国家間問題スレスレで乗り込んでくるとはとても思えない。白銀の聖女を探してはいたがそれ以上になにかを確認したい感じだったしね」

「へ~、メアリィって白銀の聖女って呼ばれてるんだぁ。私と一緒だね」

 マギルカと王子の話を割ってすっかりこっちサイドになった聖教国の聖女であるマリアが驚きながら私をマジマジと見てくる。

「え? マリアは白銀の聖女の噂とか聞いたことないの?」

「う~ん、聞いたことないわね」

 私の質問にマリアは少し考えた後、答えてきた。

「聖教国は結構閉鎖的な国だからね。外国の話題なんて興味ない人が多いし。いや、そもそも自分の『役割』以外に興味なんて、ね……」

 最後の方は少し哀れんだ感じで呟くマリアに私は訝しむ。

「白銀の聖女の情報が聖教国内にも浸透していない状態で、枢機卿はなぜ今、このような大胆な行動を?」

「分からない。でもあの口振りだと情報はゼオラルにいた複製体からだろうね。そこで、複製体はなにを見て、なにを伝えたのか、だね」

 意味深な問いかけをしながら、王子が私を見てきた。私の胸が緊張で高鳴り、拳に力が入る。

 そう、皆に言わなくてはいけない時が来たのだ。それを物語るように皆の視線が私に集まる。

「え、えっと……あの……」

 マギルカですでに告白済みなのだから、そんなに緊張しないと思っていたが、いざ話を振られると心臓のバクバクが収まらない。

 ふと、心配そうに私を見るマギルカとノア。優しい眼差しで見守るテュッテの顔が見えて、私は少し落ち着きを取り戻す。

「私は……神様から誰にも負けない身体と力をいただいたの」

「誰にも負けない……」

「神様から……」

 やはりと言って良いか、周囲から驚きの声が聞こえてくる。

「……ズルだよね。努力も苦も無くあんな力を神様からもらえて……あんなとんでもない力、怖いよね……」

「いや、そうは思わないよ。それは神様からいただいた個性なのだから。差は出るだろうけど、問題はそこじゃない。それをどう使うかだと思う。キミはその力を今回のように、今まで自分ではなく多くの他人の為に奮ってきた。感謝しているよ」

 地面を見ながら、自虐的なことを言ってみると、王子がマギルカの時に似たような反応をしてきた。

「レイフォース様」

「まぁ、子供の頃から凄げぇなっとは思っていたよ。でもさ、神様がくれた力とかそんなのはどうだって良いさ。メアリィ様がオレの鼻っ柱おってオレを正してくれた。昔も、今も……それだけで十分だ。それに、そんなに強ぇなら目指しがいがあるってもんよ」

「そうですよ。私もメアリィ様に救われました。私はそんなメアリィ様だから一生懸命付いていこうと思っています。神様から頂いたからといって、ズルいとか、怖いとか一切ありません。むしろ、そんなに力を授かったメアリィ様、さすがですとしか言うことはありませんっ」

「ザッハ……サフィナ……皆……ありがとう……今まで黙っててごめんね……」

 もうこんなに泣くような歳じゃないのかもしれない。でも、自然と涙が零れ、止めることが出来なかった。

 私は皆に心配されるくらい子供のように泣きじゃくるのであった。

 

 

 

「――でっ、その力とアルハザード卿の思惑とどう繋がってくるわけ?」

「「「…………」」」

 嬉し恥ずかし、感動のシーンを全くの部外者な聖女様が一気に台無しにしてくる。

(空気が読めるのか読めないのか、分からん聖女様だわね)

 とはいえ、湿っぽい空気が無くなって私の気持ちの切り替えにもなったからありがたいと言えばありがたかった。

「そればっかりは本人に聞かないと分からないね。本人に会えればっの話だけど」

 マリアの容赦ない質問に王子は困った顔で答える。

「じゃあ、決まりねっ! 皆で乗り込みましょうか、がくえんさいとやらにっ!」

「マリア……もしかしてだけど学園祭ってのは場所じゃなくて、学園で行われる催しのことだよ?」

「えっ? わっ、分かってるわよ、そんなことっ! も、催しに乗り込むのよっ!」

 マリアや皆の前で恥ずかしい所を見せてしまったのでその恥ずかしさを誤魔化すように私はマリアにちょっかいを掛け、微笑む皆の空気もいつも通りになっていくのであった


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