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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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白銀の騎士 VS 白銀の聖女


「さぁ、始めましょうかっ!」


 嬉々するような声でニケがフッと目の前から消える。

 急に押してくる力が無くなって、私はつんのめりそうになったがそのまま耐えると、左へ飛んだ。 私がいた場所に剣の横薙ぎが空を切る。

 ニケは消えたのではない。単純に横へ移動したのだ。それでも私含めて周囲には消えたとしか見えなかった。

 なんというスピード。私でも捕らえきれないなんて、あちらも転生者、チート能力の持ち主だけのことはある。


「ホ~、今のを付いてこれるのですか」


 さらにニケは私に斬りかかってきた。

 その一つ一つの斬撃は重く、その風圧だけで周囲に被害が出始める。

(ここにいたら、皆を巻き込んじゃう)

 私は防戦一方のまま、皆と距離を置くため、来た道を戻り出す。

 ニケの方は神殿がどうなろうが、周囲の人達がどうなろうが知ったことではないと言わんがごとく、剣を振って周辺を滅茶苦茶に切り裂いている。

 それはまるで、巨大な力に酔いしれているようにも見えた。


「素晴らしい、素晴らしいですよ。これ程の力、本来なら一撃でも受けたら骨が砕けて終わるのに。よく受け止めていられますね。私とて、マテリアで補助していなければ、振っただけで砕けそうだというのに」


 いや、前言撤回だ。彼は酔いしれてなどいないが、私を見て嬉々しているようである。

 そう考えたら、ゾワッと来て身震いしそうになった。


「メアリィ嬢っ、どうしてここにっ!」

「レイフォース様っ、奥で装置が暴走し、島に影響がっ! このままでは墜落し爆発しますっ!」


 ニケの攻撃をいなしつつ、どれだけ後退したのか分からなかったが、王子の声で自分がそこまで圧されていたのかとびっくりする。

 いや、王子達もまた圧されてここまで後退を余儀なくされていたのだ。

 横目で見ても、四人が相手している魔導兵器の数は「無限か?」と思えるほどに尋常じゃなかった。いずれ数で圧されるのも時間の問題だ。

 なんとかしなければ、気ばかり焦るがどうにも上手くいかなかった。裏をかいた一撃は悉く阻まれている。まるで私の行動が読まれているように先手を取られ続けていた。

 いや、読まれているのだろう。

 確か白銀の騎士はビジョンが見えると言っていた。


「なるほど、これが鎧の能力ですか。素晴らしいですけど、あなたのビジョンがぼやけるのはなぜでしょうね。実に、興味深い」


 兜に包まれ表情が見えないが、その声を聞いて怖気が走る。

 魔導兵器のいくつかを巻き添えにして、私はさらに下がっていき、ついには外へと戻ってくる始末。

 そこでやっと気が付いた。

 雲の位置が来たときよりも上にあり、島が降下を開始したのだ。

 周辺を見れば、地面に亀裂が走り、崩れる場所も見受けられる。

 思った以上に進行が早かった。

 急がなくちゃ。

 その焦りが、先程からの失態だと私は未だに気付けていなかった。

 タイムリミット付きの戦いで、しかも、相手は私と同じ転生者。

 その力は同等、いや、未知数だ。

 私だって手加減しているつもりはない。

 だが、いくら巨大な力でも当たらなければ意味がないのだ。


「ふむ、身体能力的にここまでこの鎧に付いてこれるなんて正直驚きです。ならば、これならどうですっ」


 そう言うと、ニケのスピードがさらに上がる。

 だが、まだ私が見失うほどではないので、迎撃可能だ。


『ファイヤー・ボール』

「えっ?」


 斬撃と完全にリンクして、同時に私の上から火球が飛んでくる。

 ニケの剣をはらうと同時に火球を避けるように横へ飛ぶ。本来ならギリギリダメージを受けているだろうが、私が平然と避けたので当たっていないように見えただろう。危ない、危ない。


『フリーズ・アロー』


 ホッとするのもつかの間、続けてニケの攻撃と同時に死角から魔法が飛んでくる。剣と魔法を同時に行使する。しかも、別の意識の元で。そんなことさすがの私もできなかった。

 白銀の騎士、二人で一人だからこそ成せる技なのだ。

(こんなの反則過ぎるわよ。そりゃあ、あの魔王様だってボコボコにされるわねっ!)

 心の中で悪態をつきつつ、それでも私は防戦一方である。


「どうしたのです? このままじゃ島が落ちてしまいますよ。そんなんではオレ達の絆、最強の英雄、白銀の騎士は倒せないよ、なぁ、そうだろ?」

『えぇ、あがぁどのいうとおり』


 ニケが優しく鎧に語りかけ、壊れた鎧が答えてくる。

 やっぱり私はお子様なのだろう。この緊迫状態でそんなやっすい挑発に乗ってカッとなったのだ。


「あなたが白銀の騎士を語るなぁぁぁっ!」


 それでも許せなかった。

 私達の憧れを、あの子の存在を、穢されたようで……。


『サウザンド・クリスタル・エッジ』


 飛び上がり上段の構えで斬りかかる私に向かって迎撃態勢を取るのと同時に無数の氷棘が私を襲う。

 だが、それは計算の内だった。

 私も出し惜しみはしない。持てる能力は使う。

 だから、私に触れた棘がなにもしていないのに消え去った。

 魔法無効のスキルだ。

 さらに、私に向かって突き上げてくる剣の切っ先がまるで硬質ななにかにぶつかって軌道がズレる。

 物理無効のスキルだ。

 そして、私は白銀の鎧の兜に向かってその一撃を振り下ろす。

 

 

 




 地面の揺れが大きくなる中、ノアは痛む身体を引き摺って白銀の鎧が捨てたモノへと縋るように近づいていった。

 アガードの遺骨。

 その現実がノアの心を蝕み、破壊しようとしてくる。

 こんなことなら思い出さなければ良かったと思えるくらいに苦しい思い。

 だが、その苦しみが深ければ深いほど、その愛もまた比例して深いことをノアは思い出していた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、アガード」


 遺骨を抱きしめ、涙を零しノアは何度も何度も謝罪する。

 自分が犯した罪に対して、こんな形になってしまったが、やっと謝れた。そんなことで許されるとはノアも思っていなかったが、それでも一つの区切りにはなったと思っている。


「ど、どうしよう、どうしたら良いの、オルトアギナ様っ!」


 シータの叫びにノアは顔を起こし、近くに垂れ下がっていたベールを取って遺骨を包もうとしたが、身体が痛くて上手くいかない。

 と、マギルカの手がノアに代わってベールを取り、それをサフィナが受け取って遺骨を大切に包んでいく。


『このままなにもしなければそう遠くない時間に島は落ちる。その被害を無視してこのまま逃げるか、装置の暴走を止めるしかない』


 オルトアギナの提案は二つだったが、ノアも皆も一択だった。


「止めるにはどうしたら良いのですか?」

『単純に装置を破壊するという行為は爆発を誘発するだけなのでできない。ニケのことだ、あれだけのことをして緊急停止装置など作ってはいないだろう。ならば、内部へアクセスし指令を書き換えるしかない』

「どうやって?」

 オルトアギナが示唆していることにノアは気付けず首を傾げ見守るだけだが、皆はなにかに気付いたのかシータを見ていた。

「わ、私しかできない……」

『そうだ、ここにシータがいたのは僥倖だった。悔しいがニケの装置を弄れるのはニケだけだ。そういった血のプロテクトが施されている。そして、シータよ。その血を受け継いできたお前もまたその権限があるのだよ』


 そこでノアは冒険中、シータと話をして彼女の出生のことを聞いていたことを思い出す。

 イーリアというニケの妹を先祖に持つシータ。

 だからこそ、シータはニケが造った装置の数々に干渉できたのだ。

 ノアは知らなかったが、カイロメイアの装置の数々もニケが担っており、だからこそ、シータの一族が管理者となったのは必然というわけだった。


「だったら、オルトアギナ様が私を操って、装置に干渉できるね」

『ダメだ。そこは巨大な魔力の渦によって遠隔する我への干渉が酷い。そんな状況では危険すぎて我は手を出せぬ』

「えっ、じゃあ、どうやって」

『其方がやるのだ。その切っ掛けはすでにメアリィによって与えられていただろう。彼奴め、シータが単独で操作する状況を見越して我らを導いていたのか……くっくっくっ、末恐ろしい聖女だな』


 オルトアギナの感服した言葉にノアも驚く。がしかし、当の本人であるメアリィがいたら、そんな意図はなかった。偶然だと全力否定していたところだろう。残念ながらまたしても本人はそこにいなかったのである。

 皆の期待の視線に怖じ気づき、一歩後退するシータ。だが、ギュッと持っていた本を握りしめ、決意したようにキッと装置の方を見る。


「やってみる。皆もそれぞれで頑張ってるんだから、私も頑張らなくっちゃっ!」


 そう言って、シータは装置に掛けられていた階段を上り、中枢へと走って行くのであった。

 中枢部分はそれはもう、事故現場のように凄まじかった。

 装置の数々が暴走によって熱をまき散らし、周囲の温度が上がっている。中心の魔力溜まりは凄まじく、近くにいるだけ魔力に当てられ気を失いそうになる。

 ノアはマギルカに頼んでここまで連れてきてもらっていた。マギルカはもちろん拒否したかっただろうが、当事者である自分が蚊帳の外にいるわけにはいかないというノアの言葉に折れた結果である。

 そして、今、瞳に光を失ったシータが懸命に装置との戦いを繰り広げていた。

 侵入、失敗、変更、解析、その言葉が何度も何度もシータの口から漏れ出てくる。

 一見なにもしてなさそうに見えたが、何度も何度もトライしていく中、次第にシータの身体に変化が出始める。

 瞳は赤く充血し、オルトアギナの書を持つ手が小刻みに震え出す。シータの身体が負荷に耐えられなくなっている証拠だった。


『ダメだ。解析対策が想像以上に速すぎる。しかも、暴走する魔力が逆流してきて邪魔だっ』

「ダイジョウブ……ワタシガ、ナントカ……」


 オルトアギナの悪態にシータが抑揚のない言葉で返そうとするが、途中で吐血して言葉を失う。それでも、シータは止めなかった。そして、それを只々見守ることしかできない自分がノアは歯がゆかった。

 まばゆく光る巨大な魔力の光。あれさえなんとか抑え込めば……そう思ったとき、ノアはあることに気が付いた。


「ねぇ、オルトアギナ様」

『どうした、小娘』

「この装置に干渉できるのはシータお姉ちゃんの血筋じゃなきゃダメなんだよね?」

『ああ、その通りだ』

「じゃあ、イーリアをベースに造られた私も、それに当てはまるよね」


 ノアの言葉に、それがなにを意味するのか瞬間的に悟ったオルトアギナは無言になる。


「逆流してくる魔力を私がなんとかすれば、シータお姉ちゃんの作業は楽になるんじゃないかな?」

『……確かに一理あるな』

「オルトアギナ様っ!」


 オルトアギナの決断に異を唱えようとしたマギルカの言葉を遮るように爆発音が鳴り響く。


「マギルカさんっ、殿下達がここまで後退してきましたっ!」


 装置の前で待機していたサフィナが大きな声で様子を伝えてくる。


『警備兵を含め、ここにある全ての施設のエネルギーはこの装置から無尽蔵のように供給されている。こいつを止めさえすれば、全ては解決する。小娘の助力があればなんとかなるのだっ。考えている時間はないっ!』


 オルトアギナの言葉にしっかりと頷くノア。

 ノアの提案に今なおマギルカは押し黙ったままになる。彼女だってノアの言っている有効性は理解できているはずだ。だが、感情がそれを良しとしないのだろう。

 それを感じ取ったノアは、ボロボロの身体に鞭打って笑顔で強がってみせる。


「大丈夫だよ。私は紛い物だけど、一応白銀の騎士の器として造られたんだから。皆よりは丈夫だよ」

「やはりダメですわっ! ノアはすでに衰弱しています。これ以上の負荷は自殺行為ですわ。私はメアリィ様にノアのことを任されました。看過できません」

『これは、お主やメアリィが決めることではないっ。ノア自身が決めることだ』


 オルトアギナに言われて、マギルカは唇を噛む。

 時間はそんなにない。警備兵の大群がここまで押し寄せてきたら、もう装置を止めるとかそんなことを言ってられなくなるのだから。


「わかり、ましたわ……でも、無理はしないでくださいましね」

「うん、分かってる」


 マギルカに念を押され、ノアは苦笑しながら答えた。些か納得いかない顔だったマギルカは、ここに兵が来ないように、自分も王子達の加勢に行くと走って行く。


「……ごめんね、お姉ちゃん」


 それを見送ったノアは、今は離れて戦っているメアリィを思って、謝るのであった。

 

 

 

 

 

 

 私の渾身の一撃が空を切って地面に刺さる。

 目の前にいるニケがかき消えた。

 幻影魔法。

 普段の私なら見逃さなかった揺らぎを、私はカッとなりすぎて見逃していたのだ。

 私の横から喉元に向かって剣が伸びてくる。


「なにもしていないのに魔法がかき消え、攻撃が弾かれました。しかも、本人にはダメージがないように見られますね……」


 落ち着いたニケの分析が不気味に聞こえ、私の血液が凍るような気分だった。


「すぅばぁらしいぃぃぃっ!」


 そして、今まで見せたことのないくらい興奮した声色でニケは歓喜する。


「神の鎧の全力に付いてこれ、一撃に一撃に難なく耐える強度と速さ、そしてその一撃の攻撃力」


 そう言ってニケは私の前方を見た。私の渾身の斬撃が大地に跡となって残っていたのだ。それは生身の人間で繰り出すには、余りにもあり得ないくらいの爪痕だった。


「すぅばぁらしいぃぃぃっ! これこそ、私が求めた器っ! 是非欲しいですねっ!」


 興奮しながらニケが次の行動を起こそうとしたとき、彼の前にヒラヒラとなにかが舞い降りてきた。


「んっ? なんです、これは?」


 ニケや私に舞い降りてきたモノ。

 それは散り散りになったアガードの手記だった。

 像のところでシータに借りてそのまま自分で持っていたことを思い出す私。

 そしておそらく、先程の特攻で私の身体を擦った剣が服を斬り、持っていた本はその勢いでバラバラに飛び散ったのだろう。元々脆く、丁寧に扱わなくてはいけない代物だったのに私が雑な扱いをするからこんなことになったのであった。

 バラバラに落ちてきた手記の一枚を見て、私は申し訳なくなってくる。

 ニケもまた興が削がれたように舞うページの一枚を手に取って見た。


「これは、文字ですか?」

『もじ? それが?』


 何気ない二人の会話。だが、その違和感に私は気付く。

 白銀の鎧があの文字を文字として認識していなかったのだ。


「どういうこと? それはあなたが彼に自分という存在を残そうとした、二人だけの大切な文字のはずよっ!」


 私は記憶で見た白銀の鎧の思いを口にする。


『わたしが……あがぁどに……』


 白銀の鎧が一瞬ギクシャクし、隙が生まれると、私はそれを見逃さずに距離を取るため後ろへ大きく飛んだ。


『わたし、しらない……』

「チッ、ここに来て余計なことを」


 残念そうにするニケを見て、私は確信した。


「もしかして……ノアは完全に成功していた……」

「ご名答っ! その通りですよ、白銀の聖女。いやぁ、驚きましたよ。白銀の騎士達が島を出た後、これを元に更なる研究をと思っていたら、彼らがいなくなった途端、私に島の使用権がなくなったと、また小うるさい妖精が邪魔をしてきて、迷惑していたのです。これではせっかくの研究が続けられないじゃないですか。だから、私は残った鎧を調べ、そこにあった残留思念と魂の滓をかき集めて魂の再構築を試みたのです」


 さも当たり前のように言うニケだが、そもそもの切っ掛けがおかしいと感じるのは私だけだろうか。


「しかし、それはこの私ですらとても難しいことでした。ですが、あるときほんの小さくですが、魂が再構築されていたのですよ。これぞ、正に奇跡。神の鎧は魂が宿った最高峰の鎧。それが空っぽになって只の鎧に成り下がるなど神が定めた理に反するのでしょう。だから、神は私に助力してくれました。あぁ、原理が全く理解できない所業、全く真似できない力。正に神業っ! すぅばぁらしいぃぃぃっ!」


 私と戦闘中だと言うことを忘れたのか、陶酔したように熱弁するニケ。


「だが、如何せん。せっかくの御業も、その脆弱な魂は維持できず、不安定でした。だから、私は思念の強い部分、感情の高ぶりが強い部分をピックアップし増幅させるため、私の知る限りの資料や記録を伝え刷り込みました。まぁ、感情優先にしたため矛盾まみれになってしまいましたが、それも私達が未熟なだけで、神も許してくれるでしょう」


 神の所業だとか理だとか、彼の言うことは今一つピンとこないが、私でも分かることは、目の前の男に白銀の鎧は、ノアは、良いように利用されたということだろう。


「そんな……そんなくだらない理由であなたは白銀の鎧を無理矢理形成して、ノアと争わせたと言うのっ!」

「あの失敗作には興味なかったのですが、鎧が言うので叶えたまでですよ。くだらないことに巻き込まれてこちらも困っていたのです。さぁて、話もここまでにしましょう。せっかく新しく可能性を見つけたのですからねぇ」


 最後に私をねぶるような視線で見てきたニケは、自分語りに満足し、再び戦闘態勢を取る。

 いや、取ろうとして動けなかった。


「な、なに、どうしたのです?」

『わ、わたし……わたしは……』


 あんな事を言ったら鎧がどうなるか、彼は考えなかったのだろうか。

 研究対象以外他人に興味がないのだから、気付けないのは当たり前か。

 白銀の鎧は自分の正体を教えられ、その現実と自分が見たい虚構の狭間で揺らいでいるのだろう。なにもかも白銀の鎧に頼っているのに、それを自分の力だと勘違いした末路がこれである。

(まさか、アガードの手記がこんな結末を呼ぶなんて……。いや、もしかしたら、アガードはこの終わりを望んでいたのかもしれないわね)

 そう思いながら、私は最初に私のところへ落ちてきた一枚のページを握りしめる。エネルスで調べたときは見当たらなかったが、バラバラになったことで私にも見つけることができたページ。

 それは二人で相談し書いたのだろう、魔法の言葉。

 アガードの要望に応えて、鎧が能力を使って最初に引き出した魔法。

 その詳細をアガードに伝えるべく言葉にした文面は、以後白銀の騎士が魔法を唱える時にいう長くて恥ずかしい文言と似ていた。

 おそらく、後々鎧の力を使わなくてもアガードが一人で魔法をイメージし、唱えられるように鎧が配慮した優しさだったのだろうか。

 そのおかげで、それを知らない私でも、今それを行使できる。


「どうした、くそぅ、動けっ、動けっ!」


 冷静さを失ったニケが悪態をつく中、私は大地に剣を突き立てる。


「母なる大地よ、全ての子らよ。我は望む、汝らの魂をっ」


 剣を中心に魔法陣が大きく広がり、そこから光が噴出するように溢れ出す。さらに、その光の一部が突き立てた剣へと収束していき、私は両手にしっかり持って剣を引き上げた。高々と、自信を持って上段に構える。


「父なる空よ、全ての子らよ。その願い、その全てを抱き、その全てを導こう。父よ、母よ、子らよ、我は約束する、その光の先にある祝福をっ!」


 剣の切っ先からちょうど上に向かって上空に大地同様、大きな陣が展開する。そして、空中の魔法陣から日差しのように光が降り注ぎ、私は上と下で光に包まれた。さらに、その二つの間、私の頭上にも陣が展開し、その三つの魔法陣を繋ぐように光の柱が伸びていく。地震が酷くなり、周囲の地盤に亀裂が入るが、私は踏ん張って上段の構えを維持し続けた。

 大気までもが震え、真ん中の魔法陣が徐々に小さくなって光の柱が濃縮されていき剣へと降り注ぐと、それは大きな光の剣にも見えた。


『……わたしは………………ねむり、たい……』


 ポソッと小さくだが、確かに私の耳にその声が届くと、剣を持つ手に力が入る。


「動けっ、動けよぉ! くそっ、くそっ、この役立たずがぁぁぁぁぁぁっ!」


 私の気迫と目の前の光景に生命の危機と恐怖を感じ、ニケが必死になって動こうとする。

 だが、一ミリも動くことはなかった。


「ライト・オブ・ブレッシング・ツゥ・オールソウルス」


 私の力ある言葉と共に魔法陣が砕け、解放されると先程のように剣を力一杯振り下ろすのであった。

 その後は巨大な光に包まれて中の者が肉塊と共に浄化の光に焼かれ、白銀の鎧が解放されるように関節部からバラバラになって吹き飛んでいくのが見えていた。


「これで……終わりよ……」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 何気に初めてメアリィ様が直接人に手を下しますね。 アレを人と呼ぶのは甚だ疑問ですが。
[気になる点] [県を中心に魔法陣が大きく広がり]ってどういう意味ですか? 県→剣 の間違いじゃないのかな?
[良い点] 光になれぇぇぇぇっ!!!
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