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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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数の暴力ですね


 私は今、スノーと一緒に上空で待機している。

 舞台に被害が出ないようにと結構離れて迎撃態勢を取っているため、舞台でなにが起きているのかよく分かってない。

 だが、なんか海がめっちゃ荒れているのは分かるので精霊が荒ぶっているのだけは確かなようだ。

(どうせ、エミリアかオルトアギナ辺りが煽って精霊を怒らせてるんじゃないかしらね~)


『目視できるくらいには近づいてきたわよ、どうするの、メアリィ』


 私から見たらまだ点に見えるのだが、スノーの視力では近くにいるらしい。

 まぁ、空の上って地上と違って障害物がないから思いのほか早く距離を詰められかねないので警戒はしておこう。


「とはいえ、例の白銀の鎧でしょ。あの速さと力と魔法が厄介なのよね。ホント、チートよチート」

『ちぃとってのはよく分かんないけど、まるで誰かさんみたいね』


 白銀の鎧への私の素直な評価と愚痴がまさかのブーメランで私の心にクリーンヒットする。


「わ、私としてはてっきり舞台の上空から舞い降りるような感じで来るのかと思っていたけど、違うみたいね」

『そうね、どうも近くの海域に待機していたのがこちらに飛んできたって感じかしらねぇ~』

「一人ってことはないのかしら? フレデリカさんは鎧達って言ってたんだけど」

『まぁ、見た感じ一人じゃなさそうね。見た感じ、一、二、三……まぁ、結構いるわよ。で、まさかこのまま大人しく来るのを待つって言うんじゃないでしょうね』


 スノーの意味ありげな発言に、私もニヤリと口角を上げて応える。


「フッフッフッ、そんな良い子ちゃんなわけないでしょっ! ここは一発、五階級魔法をぶっ放して、一気に殲滅よっ! そのために皆から距離をとったんだからねっ」

『まぁ、そのぶっ放した魔法で舞台が崩壊したらたまったもんじゃないものね』

「そ、そうとも言うけど、まぁ気を取り直して。さぁ、反則ごめんっ! ヴァーミリオン・ノヴァ!」


 私はまだ目視できるには微妙に遠すぎる相手に向かって巨大な火球を解き放つ。

(勝ったっ!)

 私が勝利を確信したその時、それは起こった。


『……綺麗に避けたわね』

「…………」


 スノーの指摘通り、私が放った強大な火球は破裂することなく水平線の彼方へと消えていった。

 そして、明らかに人影が私達を捕捉して、こちらに向かって急速に近づいてきた。


『もしかして、メアリィさん。本気であの馬鹿でかくてのろまな火球があたるとお思いでしたか?』

「…………」

『ねぇねぇ、今、どんな気持ち?』

「うるさい、うるさぁ~いっ! シミュレーションゲームではこういうまだ移動フェーズでのマップ攻撃はあたるモノなのよっ!」


 スノーの煽りに私は顔真っ赤で、意味不明な理論を用いて言い返してみる。


『しゅみ、なんだって?』

「な、なんでもないわ。戦闘に集中しよう」


 苦しい言い訳に自分をさらに苦しめ、私は強引に話を切り替える。

 と、向こうから同じく巨大な火球が飛んできたので、スノーがヒラリと躱していった。


『ぶわはははっ、なに、向こうもメアリィレベルなわけぇ? 学習って、おいおいおいっ』


 躱した後で余裕をかましていたら、同じく火球が三個ほど飛んできた。


「ちょっとぉっ、今のギリ危なかったじゃないって、また来たぁぁぁっ!」


 私の横をスレスレで火球が横切り、私はスノーに文句を言うが、当の本人はそれどころではない。

ひっきりなしに巨大な火球が飛んでくるのだ。

 その数三個とか四個とか、そんな生易しいものではなかった。


「一体全体、何人いるのよ」

『まっずっ、囲まれてるわよ。メアリィ』


 スノーの緊迫した声で、私はようやく周囲の状況を理解した。

 白銀の鎧が三、四人とか、そんなものではない。

 単純に数えて二十人はいるんじゃないかと思える数が私達の周辺を飛んでいた。


『バッカじゃないの? 人魚達や精霊を押し退け、あの儀式場を破壊したのよ。一人二人なわけないじゃない』


 そして、最近聞き慣れた女性の声が聞こえてくる。

 白銀の騎士の片割れの声。

 なのだが、二十程ある鎧のどれから発しているのか皆目見当もつかなかった。

(全員で一斉にしゃべり出したら、大音量で大変なことになりそうだったから良かったかな……)


『この数を一人で操ってるの? なんて魔力量なのかしら。これが神の鎧、ソウルマテリアってことぉ?』


 私も神様の御贔屓でやばい魔力量なので、ずるいとかなんとか言えた義理ではなかったが、あっちもあっちで神様からの御贔屓を受けているらしい。

 改めて、あの鎧のやばさを認識する。


『はぁ~、もう使わないと思って近くの海域に放置してたのも起こすの面倒くさかったわ。たくっ、ニケのやつ、全部出せとか……』

「ニケ? 彼がここにいるの?」


 白銀の鎧がボソッと零した愚痴に、スルーできないワードがあったので、私は耳聡く聞き返す。


『ええ、いるわよ。なんだったら、今、舞台の方に行ってるんじゃない?』


 この旅の最初の方からちらほらと出ていた件のエルフが、なんかラスボス感もなくサラッと登場してきて私は今一実感が湧かずにポカ~ンとしていた。実際問題、目の前に現れていないので仕方ないということで……。


『まぁ、今回はニケがあなたを見てみたいというから着いてきただけだけどね』

「わ、私?」


 なぜニケが私に興味を持ったのだろうか。

 そういう素朴な疑問が浮かんだが、よくよく考えると思い当たる節がいろいろあって考えたくはない。

(いや、たまたまよ、たまたま。私は目立っていないわ、目立っていないのよっ)

 などと、鈍感な振りをして心の安寧を図る姑息な私。


『でも見当違いだったわ。空中戦になるからこっちには魔族連中が来るんじゃないかと思ってたのに。エミリアとベルトーチカ、魔王の娘と妻だっけ。そいつらをボコボコにしたら、魔王との戦いのムカつきもスカッとしただろうに、残念だわ。まさか、あなたが単独で来るなんて』

「単独じゃないわよ、ここにスノーだっているんだからね」

『そんな細かいこと聞いてるんじゃないわよっ。まぁ、一人か二人かなんてこの際些末なことだし。フフフッ、この数を相手にできると思っているのかしら?』


 勝ち誇ったかのように全員がふんぞり返った。その動作だけでも白銀の鎧がここにおらず、全てを同時に操っている証拠だった。

 なんたる力、なんたるダブルタスクというか、この場合なんタスク? とにかく羨ましいことこの上ない。

(ということは、ここにいる司令塔の一人を破壊したら他が動かなくなるということはなさそうね。これは骨が折れそう)


『どうする、メアリィ。各個撃破していくしかなさそうかしら?』

「それも良いんだけど、あまり時間をかけるとこっちが不利になりそうな予感がするわ。それに皆いるから大丈夫だと思うけど、向こうにニケが行ったのは心配ね。ノア、大丈夫かしら。パニックを起こしてなければ良いんだけど」

『だとすると、一カ所に集めて一網打尽戦法でいく? メアリィの高階級魔法でなんとか』

「う~ん、それが簡単だけど、容易にできるような感じしないけどね」


 私は相手の出方を注視しながらスノーと相談しているが、もう慣れっこなので端から見ると延々と独り言を言う痛い子だと思われていることに今更ながら気が付く。

 だが、今はその方が相手にこちらの作戦が聞こえないから良かったりするのだが。

 だから、私はちょっと気になる点を踏まえてスノーの一網打尽戦法を推すことにした。


「まぁ、それしかなさそうだし、それで行くわよ。臨機応変にねっ!」

『お話はここまでよ。今から楽しいショーの始まりねっ! 私を満足させるまで精一杯踊ってちょうだいっ!』


 私達の相談を打ち切るように、独り言を聞いていた白銀の鎧が痺れを切らして攻撃を開始する。

 そう、炎やら氷やらの弾幕が私達に向かって放たれる放たれる。


「うおぉぉぉっ、回避して、スノー!」

『うひゃぁぁぁ、なんだか超大型殲滅魔工兵器の弾幕を思い出すわねっ!』

「あの時は砲台が一カ所だったから良かったけど、今回はいろんな所から飛んでくるわよっ!」


 弾幕もさることながら、なんと接近戦を仕掛けてくる者もいるのは驚きだった。

 それは私が応戦するが、もちろんその鎧に弾幕が当たろうと知ったことではないかのように攻撃の勢いは緩まない。


「多少、数が減っても平気ってことなのかしらねぇ! とんでもない司令塔だことっ!」


 私は悪態をつきながら、それでもチャンスをうかがい続けた。

 とにかく、高階級魔法で一気に殲滅を狙うなら、なるべく一カ所に集めておきたいのだ。

 スノーのスピードと回避能力、私の迎撃を持ってしてなんとか凌いでいるが、こんなモノ、チート能力がない人だったら為す術なく蹂躙されていただろう。

 改めて、あの無残な姿の舞台を思い出す。


『ほらほら、どうしたの? 勢いが落ちてきたんじゃないっ。そんなんじゃ当たっちゃうわよっ! きゃはははっ!』


 とち狂ったように魔法を打ちまくる鎧達。人のこと言えないがお前の魔力は無尽蔵なのか。

 いや、そんなことはないだろう。

 白銀の鎧という神の鎧ならそれもあるが、今私達の目の前にいる者達はパチモンである。

 それが私と同じくらい強大な魔力量であってたまるものか。

 そして、私の読み通り、その兆候が見え始める。

 白銀の鎧達の弾幕が薄くなり、動きが鈍くなってきているのが分かる。

 考えなしに数で圧した向こうの采配ミスだ。

 いや、向こうも私達がここまで規格外なのは予想外だったろう。

(まぁ、こう見えて神獣様とチート野郎ですからね)


『全く、ちょこまかちょこまかと鬱陶しいわねっ! あぁっ、ムカついたからもう終わらせてやるっ!』


 それは白銀の鎧も感じ取っていたのだろう。

 強がりを言っているが焦りからか、遠距離攻撃から一転して全員で私達を剣で襲い始める。


『メアリィ、下がまだ手薄だわっ』

「分かったわっ、オーバーライトォッ!」


 スノーの提案に乗り、私は閃光弾よろしく広範囲の光魔法で目くらましをする。

 そのタイミングでスノーは唯一手薄な下へと急降下していった。


『バァ~カッ! なにもかも全部お見通しなのよっ!』


 してやったりの白銀の鎧が嘲笑する。

 ここでまさかの増援が上空に向かって上がってきた。

 おそらく最初からこうなることを予測して数を温存していたのだろう。隠し球のようなものか、はたまた、たまたま舐めプで残していたのか、それは定かではないがとにかく私達は挟撃されてピンチであることには変わりない。


『きゃはははっ、そこの神獣の言葉が聞こえないと思ったの? ざぁ~んねんでしたぁっ! 私には丸聞こえなのよぉっ!』


 ここに来て、衝撃の告白がきた。

 だが、白銀の鎧は神の鎧。一方スノーも神が使わした神獣。区分的には同じようなモノなので会話ができないということはないだろう。

 急降下の勢いが一瞬衰えたスノーに、白銀の鎧達が一気に接近する。


「さぁ、終わりよぉっ!」


 勝ち誇る白銀の鎧。

 だが、先も述べたが神の鎧と神獣の関係はなんとなく気が付いていた。

 なぜなら、スノーとの独り言会話に白銀の鎧がツッコミを入れなかったから。

 だから、私もそれを逆手にとった。彼女が私達の会話を聞いているとふんで……。


「いいえ、終わるのはあなたよっ」


 白銀の鎧達のはるか上空から私は言葉を発する。

 そう、私はスノーが急降下する際、逆方向に飛び上がったのだ。

 そして、スノーの背中にいた私は大きく揺れてかき消えた。

 過去色々問題を起こした発端である幻影魔法がここにきて、私の役に立ったのは皮肉なモノだ。

 と同時にスノーがスピードを落とすどころかさらにその勢いを上げて、上がってくる白銀の鎧達をギリギリ掻い潜っていく。

 その際ダメージを受けたかもしれないが、私がいないおかげで無茶苦茶な回避能力を発揮しただろう。私は彼女があそこを突破すると信じて詠唱を開始する。


「聞けぇっ、罪深き魂よっ! ここに至る道は絶対であり、汝に与えるは慈悲である。今ここに神が与えし煉獄の扉を開こうっ」


 私のこの行動は相談無しの臨機応変の部分だった。だが、スノーは私を信じてなにも言わず動いてくれていたのだ。

 展開された魔法陣にスノーを追っていた鎧達が捕らわれる。

 だが、スノーは間一髪のところで私の魔法範囲から抜け出れた。


「その罪、その穢れ、そのことごとくを許し、全てを浄化の炎で焼き尽くさんっ」

『そのフレーズは、まさか六階級魔法!』


 私の言葉に思う節があるのか白銀の鎧は置いておいて、スノーの信頼と今までの絆を噛みしめ、私は魔法陣から出てきた炎の鎖に捕らわれ身動きが取れない直下の鎧達を見据える。


「フレイム・オブ・ピュリフィケーション・フロム・パーガトリーッ!」

『なんなのよ、あんたはっ! 普通の人間じゃないわねぇぇぇっ!』


 白銀の鎧の絶叫は獄炎に掻き消され、周囲の鎧達は消し炭と化す。


「……終わりよ」


 あれだけの数の白銀の鎧を投入したのだ。

 おそらく、王国含めてこの地上エリアにある白銀の鎧のパチモンは全て消し炭になっただろう。いや、なってないと困るのですが。

 とにかく、これで白銀の鎧は自身以外でもう邪魔をしに来ることはなくなった。

 後は、本体がいるゼオラルへ行くまでである。

(待ってろよ、白銀の鎧。とりあえず、今までの無礼に往復ビンタは確定かな)


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― 新着の感想 ―
[一言] ビンタで首が吹き飛なければいいなあ
[一言] 粉砕!玉砕!大喝采!
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