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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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歌と会話


 静かな大海原に浮かぶ船が一隻。その甲板に両手をつき頽れている私の周りで、皆が私を励ましていた。


「なるほど、よろしくね。メアリィちゃん」

「…………はい……」

「す、凄いです、メアリィ様。いきなり振られて歌いながら自己紹介するなんて、私ならどうして良いのか分からずに立ち尽くすだけでした」

「そ、そうですよ。まるでこういった行為を知っていたというか、随分と手慣れているように思いましたわ」


 サフィナやマギルカが一生懸命私をフォローしてくれるが、なぜか歌の評価がぼかされている。

 羞恥という炎がメラメラと燃え上がる私は穴があったら入りたい気分である。

 というのも、フレデリカさんに振られた即興ソングの結果が、自分的にはなんとも微妙な結果に終わったからだ。

 歌に自信があるわけではないけど、下手くそって訳じゃないし、映画やアニメでミュージカル系を観たことがあるので、行けると思っていた時が私にもありました。

 が、私は教えられたモノを歌えるだけで、即興というのはまた別のベクトルであるということをこの時思い知らされるのであった。

 しかも、豆腐メンタルな私にいきなり自分で歌える自信もなく、変な音の外し方をする始末。

 結果どうなったかというと、すごく上手いというわけでもなく、さりとてすごく下手というわけでもない。でも、なんか音やリズムがずれているような? というなんとも心にモヤモヤとした釈然としない歌を披露したのだった。

(こんなことなら、いっそ音痴レベルに下手くそでありたかった。どうフォローして良いのか分からない中途半端が一番キツいのよぉぉぉっ!)

 甲板に膝をつき私は心の中で絶叫する。


「うんっ、いきなり振られてそれだけ歌える度胸があれば合格よっ!」


 聞いていたフレデリカさんの評価は喜んで良いのか悲しんで良いのかよく分からん評価だった。(ぶっちゃけ、それって上手い下手関係なくない?)

 なにを試されたのか分からないが、もうこれっきりにして欲しいところだ。まさかとは思うが事あるごとにミュージカルモードに突入するんじゃなかろうかと私は内心ヒヤヒヤする。

 初手人身事故をかましたときはあっ、終わったと思ったが、とりあえず、精霊海の領域に通ずる人魚と仲良く出来たことは僥倖としておこう。

 私が打ちひしがれていると、ミュージカルの流れが打ち切られベルトーチカ様がその間にパパッと皆の紹介をしていた。

(解せぬ……)


「フフッ、メアリィちゃんならフレデリカと上手く交流できると信じていましたから。さすがは白銀の聖女ですね」

「いや、そこ、白銀の聖女関係ないかと……」


 私が恨みがましくベルトーチカ様を見つめると、彼女はいつものほんわか笑顔で返してくる。

 要するにベルトーチカ様以外の人とのファーストコンタクトを任されたというわけだろう。


「ところでフレデリカ、あなたに色々聞きたいことがあるのですが」

「そうっ、そ~れ~は♪」

「あ、あのぉ……そ、そろそろ下ろして良いでしょうか? 要人を抱っこし続けて飛び続けるのはちょっとぉ~」


 ベルトーチカ様の振りで待ってましたと再び歌い始めるフレデリカさんを支えてる船員さんの情けない声が遮ってきた。


「今大事な話をしようとしとるのだっ! 黙って抱えておれっ」

「そ、そんなぁ~」


 エミリアの言いように屈強なマッチョ船員が情けない声を出す。

(まぁ、要人を抱っこし続けるなんて、落っことしたらどうしようと緊張に緊張を重ねて私なら本当に落っことしそうでやりたくはないわね)


「そうよ~。あなたは今人魚界の舞姫で有名な私とスキンシップできているんだから~、ムフッ、嬉しいでしょ?」

「いや~、でも、なんか魚の部分がヌメッてきてなんというかキモ――――」

「ノンデリビンタァッ!」

「おぶぅっ!」


 私が同情の目で見守っていれば、船員はゆうてはならないことを口走り、フレデリカさんの尾ビンタを喰らうのであった。

 そんなことするものだから、甲板の上まで移動していた船員さんの手からフレデリカさんがヌルリ、もとい、スルリと落ちる。


「あらぁぁぁっ!」


 海上ではなくベチッと甲板の上に落ちるのではないかと思ったその時、私達の中で動いた者がいた。

 それは、今の今まで船酔いでダウンしてレイチェルさんのラッキースケベ、じゃなくて、手厚い看病を受けたおかげで、復活したザッハであった。


「ふぅ~、危なかったぜ」

「…………」


 美しい人魚を抱える青年騎士。とても絵になるではあ~りませんか。レイチェルさんが固まったように見えたが気のせいだろう。


「あ、ありが――――」

「いや~、危ない危ない、危うく獲物を逃がすところだったぜ。あれ? ところで人魚ってモンスターの部類か?」

「ノンデリビンタァァァッ!」


 意図せずハーレムルートを築くラノベ主人公のザッハかと思いきや、現状を全く理解していなかったこのエセ主人公は、とんでもない失言でフレデリカさんの強烈な往復尾ビンタを喰らうのであった。



 

「誠に申し訳ございませんでした。この愚か者には後でキツく言い聞かせますのでここはなにとぞ」

「事情を理解しておらず、大変申し訳ない発言でした。申し訳ありません」


 失言男の頭を押さえつけ、頭を下げさせながら私はザッハと一緒にフレデリカさんの前で平謝りする。


「まぁ、良いわ。今回は許してあげる。代わりに~♪ 私の~お願い、聞いてくれるかしら~♪」


 寛大な心で許してくれるフレデリカさんだが、ちょいちょいミュージカルになるのはなんとかならないだろうか。

 そして、そのお願いというのが私に対してだということが視線でなんとなく察する。


「な、なんでしょう?」


  私は心の中で身構えながらも、引きつった笑顔で聞いてみる。

(はい、分かってますよ。今までの流れからしたらここは私も歌うのがベストなんでしょうが、そんなことしている空気じゃないということにしてくれないかな~)

 私はドキドキしながらフレデリカさんの反応を見る。


「う~ん、ちがっ」

「フレデリカ、あなたのお願いとはなんですか? 私達は領域に入るなり、問答無用で精霊に襲われました。しかも、聖域にいるはずのあなたがどうしてこんな場所にいるのです? 他の人魚はどうしたのですか?」


 不穏なワードがフレデリカさんの口から飛び出す前に、ベルトーチカ様が怒濤の勢いで質問責めしていく。


「待って、待って。そんな一遍に聞かれてもどれから歌に乗せるか混乱しちゃうわ」

「いえ、そこは歌わなくて良いから、ささっと答えてください」

「え~ぇぇぇっ、こう大事な場面や盛り上がるところは歌で伝えないとぉ。」


 あくまで笑顔にやんわりとお断りを入れるベルトーチカ様の思いに不満タラタラに答えるフレデリカさん。

(いや、大事な話で歌い回られたら、話が頭の中に入ってこないんですけど……)


「フレデリカ」

「はいはい、分かったわよ。今一盛り上がらないけど、まぁ良いわ。ズバリ、私のお願いは、歌い舞ってもらいたいのよっ!」

「……はい?」


 フレデリカさんとの会話は歌を歌うと集中できずにはてなマークが頭の上に浮かぶが、普通に説明されたらされたで、滅茶苦茶端的になって、これまたはてなマークが飛ぶとは……あぁ、どうしましょう。


「フレデリカ、もうちょっと詳しく話してくれないでしょうか。説明下手すぎなのは相変わらずですね」

「えっ、だ~か~ら~、私の代わりに歌い踊ってもらいたいのぉっ」


 両手をブンブンと振りながら駄々っ子のように説明するフレデリカさんだが、やはりはしょりすぎてよく分からん。だが、歌い踊るという不穏ワードに私はこれ以上話を進めない方が良いのではないだろうかと本能が警報を鳴らしていた。


「あのぉ~、それは今ここで歌い踊って欲しいということでしょうか?」


 私がマゴマゴしていると、マギルカが代わりに話を引き継ぐ。


「ん? 違う違う、聖域でよ」

「どなたが? えっとぉ、流れ的にメアリィ様でしょうか?」


 マギルカが申し訳なさそうに私を見るので、私は高速で首を横に振って異を唱える。


「まぁ、メアリィちゃんは決定かしら。他の子も要相談ってところかな~」


 フレデリカさんの容赦ない言葉に愕然とする反面、希望のある言葉に私の目が光る。


「それは皆でってことよね?」

「えぇ~とぉ、あっ、それよりもなぜ聖域でそのようなことをしなくてはいけないのでしょうか?」


 私の巻き込むぞという決意の眼差しを避けるようにマギルカが話題を逸らしていく。


「精霊を鎮める為よっ!」


 マギルカの誘導のおかげか、なんとなく全容が見えてきた。

 どうやら、あの精霊は今荒ぶっていらっしゃるようで、それを鎮めるべく歌い踊るというある意味アニメ展開あるあるといったところだろうか。

(歌い踊るか~)

 私は先程の羞恥地獄のことを忘れて、自分がアニメで観た巫女のように皆と一緒に舞い踊るシーンを妄想して、その幻想的なシーンにちょっとニヤける。


「待ってください。それは元来、聖域に住む人魚族の役目だと以前おっしゃってませんでしたか? いくら貴方でもそんな勝手なこと皆が許さないのでは」

「フッ、反対なんてしないわよ。だぁってぇ~、皆はもお~ぉ、そこにはいないのだ~か~ら~♪」


 ベルトーチカ様の疑問にフレデリカさんは我慢の限界だったのか、ついに歌い出す。


「どういうことです? 私が白銀の騎士と一緒に訪れたときは皆いましたよね。なにがあったのですか?」

「あぁ~ぁ、あれは、どのくらい前だったかしら。ベルトーチカが~ぁ白銀の騎士様をゼオラルへ~送り届けてから、随分後だったのは確か~♪」

「ふむ、母上がゼオラルを知っていたのは、そのせいじゃったのか」


 ここで二人の会話に平然と割り込むエミリア。そして、母娘揃って、ミュージカルの流れをぶった切っている。

(さすがは魔王の家族、肝っ玉が違うわね)

 だが、そのおかげで私は予てより疑問だったことを聞くチャンスが生まれた。


「あの、どうして白銀の騎士はゼオラルへ行ったのですか?」

「正確に言うと~ぉ、行ったではなく、戻った~ぁの方が正しいわねっ♪」

「戻る……つまり、白銀の鎧は元々ゼオラルに安置されていたんだ」


 歴史の一端が紐解かれ、興味津々に探求の申し子たるシータも会話に混ざってくる。


「なるほど、ベルトーチカ様が最初の島と聞かされたのはそういうことだったのですね」


 そして、もう一人探求の申し子マギルカも加わってきた。


「で、でも、白銀の鎧はエネルスの森の奥で研究されていたはずですが?」


 サフィナも中々良いところに気が付き、話に加わってくる。


「これは想像なんだけど、あの手記とか研究所を考慮すると、ニケが鎧を持ち出したんじゃないかしら」

「うん、ボクもそう思うよ。人魚達が持ち出したなら森は遠すぎるし、聞いた話、ここに住む人魚達はゼオラルに不干渉らしいんだよね?」


 私の意見に王子が賛同してくれ、さらに事前に聞いていただろう情報を確認するようにベルトーチカ様を見る。

 彼女はなにも言わず頷くと、話の続きを促すようにフレデリカさんを見た。


「……なんで皆私に合わせてくれないのよっ! 歌はどうしたっ、歌はっ!」


 と、ここでフレデリカさんが我慢の限界を迎えたのか、不満タラタラに歌を止めて抗議してくる。


「そんなことより私が去った後、何があったのですか?」

「そ、そんなことよりって……フンッだっ! そんなに聞きたかったらその子に聞けば良いんじゃないかしらっ!」


 ベルトーチカ様の容赦ない言葉に、フレデリカさんが臍を曲げる。そして、私達は彼女が言う『その子』を見た。


「えっ、私?」


 皆の視線を受けながら、ノアは自分を指差し驚きの表情を見せている。


「わ……分からないよ……」

「分からない? でもあなた、しばらく経った後、青年と一緒にゼオラルから下りてきたよね?」


 ノアの返答に首を傾げてフレデリカさんが聞く。


「青年? もしかして名前はアガードと言いませんか?」

「ええ、よく知っているわね。でも、これは知らないでしょう。なんと彼は白銀の騎士様だったのよっ……て、あれ、反応薄いわね」


 私の質問にドヤ顔で答えるフレデリカさんだが、ここにいる皆は周知の事実なのであまり驚きはしなかった。フレデリカさんがつまらな~いと言ってまた臍を曲げないと良いのだが。


「私がゼオラルから……うっ」


 唯一反応したのは、フレデリカさんの言葉で記憶回復になにかしらの切っ掛けを与えたノアだった。だが、彼女の記憶回復を阻むかのように頭の痛みを訴えている。

(青年がアガードだということは想像の範囲だったけど、驚いたのは、彼がゼオラルに鎧を戻したってことかしら? しかも、ノアを連れてゼオラルから下りてきた……どういうこと? ノアはエネルスの研究所で生まれたんじゃないの?)

 ここに来て、私は勝手な思い込みに気が付く。

 確かにノアはあの研究所に眠っていた。だが、ノアがあそこで生まれたという記述はなかったはずだ。もしかしたら、ノアはゼオラルで生まれ、なにかの理由でエネルスで眠っていたのかもしれない。

(鎧が無くなり、代わりにノアが隣にいる。アガード、あなたは神の鎧をゼオラルに戻して、それが大いなる力の封印ということなのかしら。そんな簡単なことで解決するならわざわざカイロメイアに来ないよね。いや、ゼオラルの存在を調べるためだったのかしら? それも違うような気がする)

 私はこれまで得た情報と、フレデリカさんの発言を照らし合わせて、その齟齬に頭を悩ませる。


「フレデリカさん、ノアは長い時間眠っていたせいか、記憶を失っているんです。彼女の記憶を取り戻す切っ掛けになるかもしれないからゼオラルへと向かっているというのもあります」

「そうなんだ。ごめんね、そうとも知らずに」


 ふて腐れていたフレデリカさんはノアの事情を知って謝罪すると、グテ~ッと投げやりだった姿勢を正して再び会話に参加する。


「ゼオラルで白銀の騎士はなにをしていたのです? なぜ鎧を?」

「いや~、それは分からないわね。私達はゼオラルに関しては不干渉だし、個人的に興味はあったけど聞くのも野暮かなぁと思って……それに、ノアちゃんだっけ。あなたはその時眠っていたし。あっ、でも、私の抑えられない好奇心で単純にこれからどうするのかは聞いたわね」

「アガードはなんて?」

「彼女が目覚めた時、驚かそうと思って故郷に戻りますって。とっても大事そうにあなたを抱えていたわ」


 思うところがあるのか、ノアはまた頭痛に襲われることを恐れずフレデリカさんに聞く。


「それで、その話と現状となにか関係があるのでしょうか?」

「ベルトーチカァ~、あなたねぇ、私がせっかくロマンスを提供してあげてるのに吟遊詩人としてなにも感じないの? フッ、枯れちゃったわね」

「今はそういう私情を挟む時じゃないと思っただけです。枯れたとか言わないでくださいね」


 ふぅ~やれやれといった感じを身体で表現し、フレデリカさんは仕返しとばかりにニヤリと歯を見せる。そんなフレデリカさんに、動揺すること無く笑顔で返すベルトーチカ様だが、私は一瞬彼女のこめかみがピクピクッとしたのを見ていたりする。

(あ~、フレデリカさんってば、そんなことより~とか言われたことまだ根に持ってるのかな? ベルトーチカ様は~、うん、気のせい、気のせい。私はなにも見てません)


「それで、その後なにかあったのですか?」

「そうね、あったわ。あの後から~ぁ、随分経って、それは突然下りてきたのぉ♪ 安置されたはずの白銀の鎧がゼオラルから~♪ しかも、その数は一体じゃなかったわ~♪」


 皆覚悟はしていたが、案の定、肝心な部分で再び歌い出すフレデリカさん。だんだん慣れてきたのか、最初の時より聞き取れるようになってきた自分の順応能力に驚いたあまり、彼女の歌詞に込められた衝撃事実に驚けなかった私がいたのは内緒だよ。



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[一言] 空気を読まない歌狂いw 確かにいちいち歌ってたら会話にならないわなあw
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