これが、クラス分けですね
ブックマークありがとうございます。
入学式が終わった後は、自分のクラスの確認に向かう事となった。私は会場の外に控えていたテュッテと合流すると、ザッハも連れて自分のクラスはどこなのか見に行く。場所はすぐに分かった。なぜなら、異様に人が集まっているからだ。
「あそこでクラス分けが張られているのかしら?」
「???」
私はアニメでよく見るクラス表を廊下で眺めるヒロインを想像したが、どうやらそんな大きな紙などこの世界には存在しておらず、係りの者がクラス分けの表を持ち、聞かれたら口答するというシステムのようだった。
「では、私が聞いてきますね」
テュッテが一礼して、係りの者の方へ歩いていく。
「あっ、ついでに俺のも聞いてきてくれ」
その後ろ姿に私の隣にいたザッハがちゃっかりお願いをしてきたので、私はしかめっ面を見せてしまう。
「ちょっと…どさくさに紛れてテュッテを利用しないでくれる」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「減るわよ、私のあなたに対する友達度が…」
「友達度ッ!それは嫌だな…以後、気をつけます」
私が半目になってソソッと少し彼から離れると、ザッハが頭を下げてきたので私は許してやる。
「お嬢様、クラスが分かりました」
私たちがそんな会話をしていると係りの者に聞いてきたのか、テュッテが戻ってきた。
「それで、一年何組なの?」
「は?何ですかそれは?」
私がさも当然のように言った言葉にテュッテが?マークで答えてくる。
(あれ?何組とかそういう表現じゃないの?)
若干固まった空気を戻すため、私はコホンッと一回咳払いをして、仕切り直す。
「それで、クラスはどうなったのかしら?」
「あっ、はい…『ソルオス』でした」
サラッと当たり前のようにテュッテに言われて、今度は私が?マークになる。
(ヤバッ!学校のシステムなんて前世の知識と同じだと決めつけてたから、聞き流してしまってたわ)
「へ~、ソルオスか…意外だな、マギルカは『アレイオス』だと予想していたのに」
ザッハが意外そうに言った言葉に私はさらに?マークを飛ばし続けることになってしまった。
(いかん、このままでは取り残されてしまう…ここは一生の恥より一時の恥よ)
「あの…ソルオスとか、アレイオスとか、何の話?」
恥をしのんで、引きつった笑顔をみせつつ、小首を傾げる私。
「え?ああ、簡単に言いますと、ソルオスは武術を重視したクラスで、アレイオスは魔術を重視したクラスです。後、学術を重視したクラスがラライオスです」
テュッテが私の質問の意図を即座に理解して、答えてくれた。
「へ~、所謂、文系と理系とか、体育会系と文化系みたいなものかしら」
「「???」」
相変わらず、私と二人で会話がかみ合わない。
(いいかげん学習しろッ、私ッ!)
「あっ、ちなみにザッハ様もソルオスでしたよ」
私の会話の外しっぷりに、テュッテは話題を変えて誤魔化してくれた。
「まぁ、エレクシル家の者だからな…当然といえば当然だろう」
「家柄でクラスが決まるっていうことなの?」
私の何気ない質問に、ザッハが驚いた顔でこちらをみてきた。
「いやいやいや、それはないって。入学試験で体力テストとか実技試験を受けただろ?それを目安に決めてるんだよ」
ザッハの返答に、今度は私が驚き、背中からブワッと冷や汗が滴り落ちる。
(やばぁぁい、入学試験なんて受けてないから、そんなこと知らないわよ…でも、さすがにこれは言っちゃダメだよね)
「そ、そう…だったわね」
オホホッと笑う仕草をみせながら、私は二人の視線から顔をそらして逃げていく。
「何だよ、メアリィ様。あっ、さては」
「な、なによ」
したり顔のザッハがこちらを見てくるので、私は裏口入学がバレたのかと視線を泳がせながら、気ばかり焦る。
「武術の実技試験でハッチャケたな!俺の時みたいに試験の相手を盛大にぶっ飛ばしたんだろ、だからソルオスになったのか!まったく、レディのするこっちゃないな」
「っんなことしないわよ!」
ザッハの斜め下っぷりの推理に内心ホッとしながらも、失礼極まりない言葉に私は思わず、ツッコミを入れてしまう。
(でも、試験を受けていない私が何でソルオスなんだろう?あっ、お父様が元帥で若い頃はかなりの武勇伝があるからその娘も…ってな感じなのかしら)
「まぁ、まぁ…っということは、魔術の得意なマギルカ様はアレイオスでしょうか?」
「ええ、そうですわよ」
私たちの不毛な会話にテュッテが割り込んで、話を変えようと持ち出した話題に別の誰かが乗っかってきた。3人とも驚いて、声のする方を見ると、向こうから縦ロールを揺らした令嬢がこちらに近づいてくる。
「えっ!そうなんだ…マギルカ…違うクラスなのね…」
何だか暗い気持ちになってきた。正直な話、テュッテがいない学園生活を切り抜けるために、ダメとは分かっているけれど、私はマギルカに頼ろうと思っていた所もある、っが、それよりも、何より一番仲よしな同性が別のクラスというのは、やはり寂しいものだ。
「な、何ですの、今生の別れじゃあるまいし…あ、会おうと思えばいつでも会えますわよ!空いた時間は、こうして顔を見せに行きますから」
私がとても切ない顔をしていたのか、マギルカがアワアワと私を慰めようと言葉をかけてくれる。
「そ、それに、クラスは毎年変更可能ですし、メアリィ様がその気になれば同じクラスにだってなれますわよ」
「へ~…そうなんだ」
(あぁ、友達っていいよね~…でも、何で顔を赤くして照れてるの?)
私は友情を噛みしめつつ、細かい事は忘れることにした。
「それで、王子は?」
「コホンッ…殿下の希望でラライオスへ行かれますわ。政治、経済、歴史、いろいろと学びたいそうです」
言葉足らずのザッハの質問の意図をくみ取って、マギルカは正確に答えを導き出すと、ザッハはへ~と言葉を漏らしながら納得していた。
(さすがマギルカ…私なら、なんの事を聞いたのかさっぱりだったわ)
彼女がいかに賢い子なのか、再認識しつつ、私は王子の意外な要望に驚きもしていた。剣技を習っている王子なら武術の方へ行くと勝手にイメージしていたからだ。
「レイフォース様とも違うクラスなのね」
「何だよ、寂しいのか?」
性懲りもなく、ニヒヒッといやらしい笑いを含んでからかおうと隣にくるザッハのボディに、私は澄ました顔で肘鉄を食らわせて黙らせる。
「とにかく、談話室で顔合わせするのは、また明日という事ですから、今日はもう、帰りませんこと」
ヤレヤレといった顔でマギルカがこの場のお開きを提案してきたので、私はうずくまる男を放っておいて、帰ることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。