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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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続、二度目の月見草祭り

天の島の名前が王国と似ていたことに今更ながら気が付き、名称を変更させていただきました。(2023/7/7)


 私達は今、月見草の群生地にいた。

 見た感じでは前に見たときと変わらず、枯れ果てているという最悪の事態は避けられているようだ。


「もぉ~、シータが脅かすからびっくりしたけど、大丈夫そうね」

「ん~、ダメかもしんない」

「へ?」


 私がホッと胸を撫で下ろしていると、難しい顔をして花を調べていたシータが無慈悲な言葉を掛けてくる。


「もしかして、下にあるとされているあの研究施設と関係があるのかな?」


 私が再び石化魔法(精神的に)を喰らっていると、代わりに王子がシータに質問してくれ、彼女は頷いてそれに答えた。

 王子に言われて私はようやくシータの危惧していたことに気が付く。


「なるほど、月見草は下からの魔力に影響を受けて群生しているんだっけ。それが無くなったからもしかして枯れ始めているということなのかい?」

「その通り。今回はおそらく開花するだろうけど、このままだといずれ魔力不足で枯れていくと思うわ。もともと、ここで咲くのは難しい環境だったし」

「だ、だだだ、ダメじゃないのよ、それは。つ、月見草はこの村の収入源の一つなんだけどどどどどど」


 私は身体が干上がるんじゃないかと思えるくらい冷や汗を流しながら、なんとか言葉にする。

(やばい、やばい、やばい、やばばばばばば……今世紀最大のやらかしをしちゃったじゃないのよっ! どうしよう、どうすれば良いのぉぉぉっ)


「……私が、目覚めたから」

「それは違うわよ、ノアッ。あなたが気にすることじゃないわっ」


 私の慌てっぷりと、会話のやり取りを見てノアが察したように呟く。それを見て、私は被せ気味に否定した。

 ノアは幼いのに、自分のせいといったところには、敏感に反応する。これはなんとか解決の糸口を見出さなくてはいけないところだが、如何せん、無知な私にはなにも浮かばないのが現実だ。


「どうしたらよ良いの、教えて、オルトエモンッ!」


 もはや、形振り構わず私はしゃべる本に助言を求める。


『オルトエ……もしかしなくても我のことか? 落ち着け、メアリィ。対策はあるぞ』

「さ、さすがオルトエモン。頼りになるわっ!」

『だから、変な呼び名で我を呼ぶなっ』

「そんなことより、どうすれば良いのよ、教えて、プリーズッ」

『……はぁ……まぁ、良いわ。では、解決策として一番簡単な方法は、やはりそこの小娘をあの場所にもど――――』

「却下ぁぁぁぁぁぁっ!」


 期待していたのとは違い、とんでもないことを言ってきたしゃべる本に、私はそれ以上言わせないぞと声を荒げる。


「他の方法でお願いするわ」

『ふむ、そうなるとな~。事が妖精絡みだから、例のクソガ樹に頭下げることになるぞ』

「例のって、もしや……」

『そう、精霊樹だ』


 オルトアギナのクソでか溜息に、私は膝から崩れ落ちる。

 宥めて煽ててなんやかんやで、精霊樹と別れたというのに、運命とは残酷なモノで、自ら彼女に会いに行かなくてはならないとは……。

(絶対、それだけで終わらないわよ。要らぬトラブルまで持ってきそうだわ)


「なぁ、レイチェルさん。オレにはよく分からんが、月見草が枯れるってどのくらいでなんだ?」


 私が地面を見ながら今後の展開をシミュレーションして打ち震えていると、ザッハがコソッと隣にいるレイチェルさんに聞いている。

(なんか、二人の位置が定位置になってきているような……)


「う~ん、私は魔草類いは専門外だけど、そうね~、百年後くらいには確実に枯れてると思うわよ」

「「「へ?」」」


 レイチェルさんの解答に私達一同、綺麗にハモる。


「そうだよね~、百年なんてあっという間だから、今のうちに対策とらないとっ」


 呆ける私達を余所に、シータがうんうんと難しい顔して頷いていた。


「…………」

「エルフと私達の時間感覚の違いでしょうかしらね。メアリィ様、この件、どうします?」

「どうしますって言われても……どうしよう、マギルカ?」

「私に頼られても……ここはメアリィ様の領内ですし」

「一応、オルトアギナのおかげで解決方法の糸口は掴めているけど……精霊樹かぁ~」


 せっかく立ち上がったのもつかの間、再び頽れそうになって私は踏みとどまる。


「と、とりあえず、この件はお家にお持ち帰りと言うことで……」


 そして、絞り出した答えはなんとも頼りないものであった。


『カカカッ、ほんと飽きさせないなぁ、其方は。まぁ、早急ではないにしろ対策は検討しておいた方が良いだ、おっ!』


 オルトアギナの言葉が途切れて、私は何事かとシータが持つ本を見る。


『咲いたな』


 その言葉と供に、私の目の前を一枚の光る花びらが舞う。

 五年前にも見た光景。

 それでも、やっぱり感嘆の声を上げるだけの絶景ではあった。

(百年後くらいとはいえ、問題を先送りするのは良くないよね。う~ん、ノアの件や今後白銀の鎧がまた来るかもしれないし、白銀の騎士とか月見草とか問題がいろいろあって、あぁぁぁぁぁっ!)

 私は今後の問題を考え、なにから手をつければ良いのか分からなくなって頭が爆発しそうになる。

(よし、ここは一つ気分を落ち着かせるために、皆と一緒に目の前に広がる美しい光景をしばし堪能することにしよう。決して現実逃避ではございません……ええ、たぶん)

 というわけで、私は今、思考を停止させて目の前の光景を見回す。


「あれからもう五年かぁ……」


 時の流れとは遅いようで早く感じる。


「そうか、もう五年か……ボクはあの誓いに向かって、しっかり歩けているだろうか……」


 私が過去の思い出に浸っていると、横で王子が遠くを見ながら共感してくれるが、後半は独り言のようだった。

 あの誓いとは、ここで皆に言った言葉だろう。

 皆が笑顔でいられる王国。

 少々漠然的ではあるが、王子らしいと言えばらしいなと当時は思っていた。

(そういえば、あの後のことがあまり覚えてないのよね、確か……)

 私はあの後のやり取りを思い起こして、そういえば、王子の言葉を勘違いして逃走した不敬な私、もとい、乙女チックな自分を思い出し、笑みを零す。


「メアリィ嬢?」

「あっ、いえ、なんでもありません。レイフォース様は歩んでいると思いますよっ。そのお心を忘れないでいるのだからっ」


 私の行動に首を傾げた王子が私に話しかけてきて、私は焦って自分に聞いたわけではないだろうに、彼の自問自答に返答する。

(バ、バカァァァッ、なに上から目線で言ってるのっ。要らんこと言うんじゃないわよ、私ぃぃぃっ!)

 心の中で私は、浅はかな自分をビンタする。

 まさか返答がくるとは思わず王子が目をパチクリさせた後、いつものように柔和な表情に戻った。


「そうか……うん、そうだね。フフッ、キミは本当にボクを正してくれる……」


 なんか晴れやかな表情の王子とは裏腹に、冷や汗ダクダクの私は、王子の言葉も禄に聞けず笑顔を引きつらせているだけだった。

(五年経っても不敬な私……あぁ、なにも成長していないのね、私ってば……)

 とりあえず、他に話題はないものかと私は見回してみると、そこで初めてノアの様子が少し変なことに気が付いた。

 目を見開き月見草の美しい光景を眺めているようで、その実、現実いまを見ていないような感じがする。


「ノア?」

「私……この光景、見たことある……」


 ノアがあの施設以外にいたときに月見草祭りを見たのだろうか、それか別の月見草の群生を見たのか、とにかく彼女は忘れた光景を思い起こしているみたいだ。


「それは、どこかしら?」

「……ゼ、オ、ラル……」


 そう言うとノアは頭痛に頭を押さえ、そのまま体勢がグラッと揺れる。私は慌てて支えると彼女は気を失ったようだった。


「ノアは、大丈夫なのかい?」

「はい、気を失っていますが問題ないと思います」

「そうか。でも、心配だから別荘へ戻ろう」


 私達を見て、王子が心配そうに言うと、皆なにも言わず踵を返し始める。ザッハがノアを抱き上げ、そのまま別荘に運んでもらう中、私は彼女の言葉を思い返す。


「……ゼオラル……」


 聞いたことがない新たなワードに私は首を傾げた。


「メアリィ様っ! それってノアが言ったの?」


 私の呟きにシータが瞬時に反応する。只の呟きに対して、その食いつきっぷりに思わず腰が引ける私なのであった。恐るべし、探求の申し子。


「え、ええ。シータはなにか知ってるの?」

「う~ん、知っていると言えば知っているけど、お伽話に出てくる場所の名前くらいかしら」

「場所?」

「ええ、ゼオラル。神話世界に存在したと謂われている天の島。これくらいかなっ」


 そう言うとシータは肩を竦めて、先を歩く皆に合流していく。

(天の島ゼオラル。もしかして白銀の騎士となにか関係があるのかしら……)

 最近ノアに関してすぐ白銀の騎士と結びつけようとする節があり、私はそんなわけないかと自分の考えに苦笑した。

(ははっ、まさか、まさかね。そんなわけないわよ。まさか、次の目的地が神話に出てくる天の島だなんてこと……ありませんよね、神様ぁぁぁっ!)

 この流れでそれを認めたくないという、只の現実逃避だったりするのが、またなんとも物悲しかったりする。

 

 

 

『で、次の目的地はゼオラルらしいなっ♪』


 次の日。

 皆で朝食を頂いている中、空気を読めないしゃべる本がウッキウキでしゃべりだし、私は思わずテーブルに突っ伏しそうになった。


「ゼオラルとはなんでしょうか?」

「神話に出てくる天の島ゼオラル。しかして、その実態は誰にも掴めていないのよねっ! 本当に存在するのかすら危ぶまれているわっ!」


 マギルカの素朴な質問に、なぜかハイテンションで答えてくるシータ。

(待って……このテンションは)


「シータ……あなた、また寝ていないわね」

「歴史への探求、紐解くことのときめきに比べたら、徹夜の一つや二つや三つ四つなど些末なことよっ!」


 有言実行というか、ホントに四徹も辞さない勢いのシータが心配になってくるので、私はここらでストッパーの人に頼ることにした。


「レイチェルさん、あんなこと言ってますよ。休ませた方が良いんじゃないですか?」

「そうですね。シータ、徹夜は五日までだからね。それ以上は許しませんっ」


 レイチェルさんがお姉さんらしく、メッとシータを優しく叱る。が、なんか釈然としない私は異質なのだろうか。う~ん、人種の違いということにしておこう。


「それで、結局のところ、そのゼオラルについてはなにも分からないってこと?」

「昨日から大書庫塔の皆で調べ回っているんだけど詳しく書かれた著書は見つからなかったわね。ましてや、そこにソウルマテリア関係の描写もなかったわ」


 私のために大書庫塔の皆様まで動いていただき、誠に恐縮ではあるが、とにかく寝て欲しいと思う今日この頃である。

 シータは今回の件と白銀の鎧との関係性も気になったらしく、そこも調べているようだ。だが、結果的にはなにも得られなかったらしい。


『いや、そうとも言えないようだ』

「オルトアギナ様、なにか分かったの?」

『ふむ、ある著書の中に吟遊詩人がゼオラルについて歌っていたのだが、そこに鎧についても触れていたらしい。ほんの一節だがな』

「ほえ~、吟遊詩人か~」


 異世界あるあるの一つ、旅の吟遊詩人さんとは一度で良いから酒場とかで歌っている姿を見てみたいと夢見る乙女だったので、いいから寝なさいと思ったけど話を聞くことにする。


「つまり、その吟遊詩人さんに会えば、ゼオラルについてなにか分かるのかしら?」

「でも、メアリィ様。その話がいつの時代のことか分かりませんわ。もしかしたらものすごく過去の話でお亡くなりになっていらっしゃるかも」

「あっ、そっか」

「それに、吟遊詩人を探すとなるとなかなか骨が折れそうだね。有名なら良いんだけど……」

「あっ、そっか」


 マギルカと王子に畳み掛けられ、私は「あっ、そっか」BOTに成り下がる。


『まぁ、そこは大丈夫であろう。なにせ、その吟遊詩人は魔族だからな。しかも、かつてはかなり名の知れた者らしいぞ』

「あっ、そっか……じゃなく、本当なの、オルトアギナ。もしそうならそれは誰よ、誰よ?」

永久とこしえの歌姫、ベルトーチカだ』


 仰々しくオルトアギナは言うのだが、如何せん、知らない私にはピンとこない名だった。

 本来なら、おおっ、あの人がとか言って盛り上がる場面なのだろうが、勉強不足が悔やまれるところだ。


「永久の歌姫……どこかで聞いたような……」


 皆もピンときていない中、唯一難しい顔をする王子がいる。王族だから、有名な吟遊詩人と面識があったのだろうか。


「はっ、もしかしてレリレックスの……」

『ふむ、さすが王子。気が付いたか』


 王子がなにかに気が付き、オルトアギナと二人だけで盛り上がっているのが、なんだか置いてけぼりにされてるみたいで不貞腐りそうだ。


「レイフォース様は、その歌姫に会ったのですか?」

「いや、会ったわけじゃなく、母上から聞いたことがあるだけだよ」

「王妃様が?」


 まぁ、あの方はエミリア含めて、魔族とは付き合いがありそうだし、魔族の吟遊詩人の知り合いがいてもおかしくはないのだろう。


「もしかして、王妃様に聞けばその歌姫の特徴くらいは分かるかもしれないかしら……」

「いや、特徴どころか本人に会えると思うよ」


 私が今後について思案していると、意外なことを言ってくる王子だが、なぜ困った顔をしているのか甚だ疑問である。


「どういうことですか?」

「ベルトーチカとレリレックス王国でなにか気が付かないかい?」


 王子の勿体振った物言いに首を傾げて考えてみると、確かになにか聞き覚えのあるような気もしなくもなかったりする。


「メアリィ様、ベルトーチカ様は。エミリア姫のお母様です」


 なんかもう少しで出てきそうなのに、喉に引っかかった気分でモヤモヤしていたところ、マギルカが正解を教えてくれた。とても助かるぅ~。


「へぇ~、そうなんだ。ああ、そういえばエリザベス様に会ったときにその名が……じゃあ、エミリアに頼んで、んっ、ちょっと待って、つまりそれって、歌姫が王妃様ってコトォォォォォォッ!」


 静かな朝食の場に私の声が木霊する。

(なんだか、どんどん話が大きくなっているような気がするのは気のせいかしら? 否、気のせいであってぇぇぇぇぇぇっ!)


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