あの頃のリベンジです
メアリィに白銀の鎧を任せ、マギルカは皆と供にゲートを潜る。
予想では、地下森林にモンスター達が潜んでいると思っていたが、その姿はどこにもなく、鎧の嘘だったのだろうかと辺りを確認していた。
「モンスターの気配はないな。サフィナ、どうだ?」
「地面に残った擦り跡……ここに多くのモンスターがいたのは確かですね。皆、出口へ向かったのかもしれません」
マギルカ達よりも前に出て周囲を確認するザッハとサフィナ、王子とマギルカの後ろ、殿を務めるレイチェルという布陣で警戒しながら先を急ぐ。
「急がないと、エネルスの村が危険だ」
モンスターがいないことにホッとするどころか焦りを見せる皆の気持ちを王子は代弁し、皆出口に向かう足取りが速くなった。
特に、王子とザッハ、マギルカにはこの村での苦い思い出がある。勝手な行動で、ジャイアントスネークに襲われるという失態により、護衛に来ていたクラウス卿達に迷惑をかけたことである。
今はあの時とは違う。ジャイアントスネークなら屠れる自信はマギルカにはあった。
その自信を持って、マギルカ達は早急に地下から地上に出る。
「なっ!」
「これは……想定以上の数です」
最初に外へ出たザッハとサフィナが警戒態勢のまま現状を後方に伝える。
それに呼応して、マギルカ達も警戒した状態で地上へ出た。
そして、周囲に群がるモンスターの群れに驚愕する。
マギルカ的にはジャイアントスネークが多くて四匹くらいいるのかなと思っていたが、目の前に広がる光景で自分の甘さを痛感する。
ジャイアントスネークを初めとした大小様々なモンスター達、その数はかつて出会った二体の比ではなかった。
「今見えるだけでもジャイアントスネークに、フォレストボア、それ以外にもなにか潜んでいるようですね」
いにしえの森での訓練の成果か、すぐさまサフィナがモンスターの状況を確認する。
それだけの数のモンスター達が一カ所に移動していたのなら、さすがに村の方も気付いて、警戒態勢を敷いているだろう。幸いなのはあの事件以来、月見草祭りに近づくと警備の兵を増員しているところだった。だからといって、安心というわけではないが……。
それにしても、この数がすでに村の方へ向かっていたり、散り散りになって森を徘徊していないというのは不自然な気がすると、マギルカは疑問に思う。
自分達が早く来たからというわけではないだろう。おそらくだが、モンスター達は自分達が思っているよりも前から解き放たれていたはずだ。でなければ、施設の中に数体くらいは残っていてもおかしくないだろう。
自分達を待ち伏せしていた……のなら、今頃襲ってきても良いところである。
だが、モンスター達はマギルカ達を見ているわけではない。気が付いていないといっても過言ではなかった。
「あれ、見てください」
サフィナの指差す方へマギルカは視線を動かし、モンスター達がにらむ場所に、白く輝くモノを見る。
一瞬「メアリィか?」と思ったが、彼女は地下にいるのでそれはないと、マギルカは首を振った。
「あれは……スノー、か」
「ええ、スノー様がモンスター達を威嚇し、ここに釘付けにしているのですわ」
ザッハの指摘で、マギルカもあの白く輝くなにかが、白の豹だと認識できた。
さらに、数体のモンスターと対峙する雪豹の周囲には、何体かのモンスターの死体が転がっている。どうやらすでに戦闘は始まっているようだ。
「なるほど、メアリィ嬢がスノー殿は後で来ると言っていたけど、もしかして保険をかけていたのかな」
「さすが、メアリィ様です」
続いて、王子とサフィナが感心する。
が、当のメアリィとスノーからしたら、単にずぼらなスノーが、面倒くさがって後から追いつくわよと、惰眠を貪っていたのが原因である。
そんなこと恥ずかしくて言えなかったメアリィが言葉を濁して、先に出かけただけだった。
二人からしたら、呆れられるのならいざ知らず、感心されるのは想定外である。
さらに、スノーはメアリィ達の魔力を追って、ここへ来てみれば、とんでもないモンスターの数に「はぁ? どゆこと、どゆことぉぉぉ? メアリィ、あんた、またなんかやらかしたでしょぉぉぉっ!」と現状を把握できず、とりあえず威嚇して相手を釘付けにし、それでも喧嘩を売ってきた奴を沈めているところだったのだ。
「よく分からんがメアリィ様達の機転で、後はここの連中を全部ぶっ倒せば良いってことだなっ」
状況を一部だけでも理解したザッハが、笑みを零して剣を抜く。
そんな頼もしいザッハを見ながらマギルカは、かつてはジャイアントスネーク一体でも、逃げなくてはならないと思っていた自分達が、それ以上の数を前に立ち向かおうとしている。そんな自分達の成長に気分が上がってきていた。
なにせ、あの時は二人とも戦力とされずに離脱し、メアリィとクラウス達に任せっきりになってしまっていたのだから。
「そこ、油断しない」
「分かってるよっ」
とはいえ、余裕で倒せる相手ではないので、慎重に事を進めなくてはいけないと、マギルカはザッハに注意しつつ気を引き締めるのであった。
自分達が先陣をきれば、スノーも戦闘を開始してくれるとマギルカは踏んでいる。スノーとは意思の疎通はできないが、彼女が周囲を見て状況を理解してくれることは今までの付き合いでなんとなく分かっていた。
「数が数なので単独行動はなるべく避けましょう」
「レイチェルさんの言う通りですね。殿下を中心に組を二つに分けます。サフィナさんは魔法と連携するのに慣れていますから、私と。レイチェルさんはザッハのサポートを。殿下は都度、どちらかのサポートを」
「オーケー、行くぜ、レイチェルさん」
「は、はい」
無難と言えば無難だが、レイチェルさんをザッハと組ませて大丈夫かなとマギルカは心配になる。が、一瞬戸惑いを見せたレイチェルだが、これから戦闘だということで、すぐにいつもの冷静な彼女に戻っていた。まぁ、受け答えがちょっと乙女になっていたのは愛嬌ということで。
「よっしゃあぁぁぁっ、プロボーグッ」
開幕、ザッハがいつものようにターゲットを自分に向けさせる。
その声を聞いたのか、スノーが威嚇を解除し、モンスター達の意識がスノーからザッハへと移った。さらに、スノーはマギルカ達の布陣を見て、彼女がしようとしていることを理解したようで、ザッハ達の方に近いモンスターは任せ、自分に近いモンスターだけ受け持つような素振りを見せる。
見たところ、マギルカ達にスネーク二、ボア二が近づき、残りをスノーが受け持つ形になっている。
それを確認したマギルカは、会話が成立しなくとも、意思の疎通は可能な関係になるほど、自分達の付き合いも長くなったのかなと感慨深くなる。
「なにをやっているんですか、ザッハさん。あなたはこの数のモンスターを全て受け持つつもりですか?」
「そんなつもりはねえが、この中で守りが固いのはオレだからな。なるべくオレが引きつけて踏ん張ってれば、皆が倒してくれるだろ。なっ」
レイチェルの心配を余所に、笑顔を見せるザッハ。それは、自分が集中攻撃を受ける覚悟と、周りを信頼するところから来る笑顔だった。
それを見て、レイチェルが一瞬呆けてるところを見て、マギルカは本当に大丈夫だろうかとやっぱり心配になってくる。
レイチェルはレイチェルで、自分の気持ちに戸惑っていた。
かつて、シータが司書長としての役目を果たせないでいた頃、彼女は周りから一歩距離を取っていた。言ってしまえば、周りを信頼していなかったということだ。
シータを守れるのは自分だけだと、前のめりになり、自分を律し、一人彼女のために奔走していた……つもりだった。
シータの覚醒のためならばと、汚名覚悟で秘密組織に潜り込み、それなりの地位にまで上り詰めていたこともある。
そんな一人で張り詰めていたレイチェルは、あの事件でトーマス司祭に良いように利用され、挙げ句、シータからの信頼を失いそうになったり、メアリィ達の邪魔をしてしまう失態を見せてしまった。
自分なんて……そんな自暴自棄にかられた時、自分を助けようと傷つきながらも足掻くマギルカ達、特にザッハの姿を間近に眺めていたレイチェルは、彼に合成獣から引き剥がされたときの手の感触を忘れられないでいた。
力強く、そして、温かかった、その感触を……。
それ以来、彼がちょっぴり、そう、ちょっぴり気になっているのは否定しない。
でも、そこまでだ。
彼は人で、私はエルフ。
その二つの隔たりを越えることはできないし、また、迷惑をかけるようなことになることだけは避けたいと思っている。
失敗続きのレイチェルは、カイロメイアの事件以来、少し慎重、いや、臆病になっていた。
それでも、ザッハと共に戦っている自分に高揚しているのは事実である。一人でなにもかも背負っていこうとしていた過去の自分に比べて、今は皆の役に立っているという気持ちが心地よかった。
そんな気持ちに気付かせてくれたのも、自分が生きていた、延いてはカイロメイアを救ってくれた皆、特にメアリィのおかげである。
と、感慨に浸るのはここまでのようだ。
ザッハの挑発に乗ったボアが一頭、彼に向かって鼻息荒く突進してきた。
「いいぜぇ、こいやぁぁぁっ!」
それに気が付いたザッハが盾を構えて、応戦しようとする。
彼が回避して、相手の足が止まったところを横から援護するように刺突で一撃、あわよくば急所に一撃くわえれば。レイチェルがそんなことを考えていたら、なんとザッハに避ける素振りはなく、そのままボアの突進を盾で受け止めようとしていた。
「あ、あぶないぃっ!」
慌ててザッハの横から腕を掴み、レイチェルは自分の方へと引き寄せると、そのまま後ろへ下がっていった。その後すぐに、彼がいた場所をボアがもの凄い勢いで通過していく。
「なにを考えてるの?」
「いや、突進してきたから、押し止めようかなぁって」
「あなたの体躯でボアの突進を止めるのは無理よっ」
「みたいだな。いやぁ、失敗失敗、やってみないと分かんないから助かったぜ。サンキュー、レイチェルさん」
「いえ、そんひゃあっ!」
なんとなくそんな気がしていたが、ザッハは頭で考えるより、身体で覚えるタイプのようだった。その危なっかしい行動にレイチェルは私が守らなきゃと、行き場を失っていた庇護欲が呼び覚まされる。
そして、ザッハの素直で屈託のない笑顔を間近で見せられ、頬が熱くなるのを感じるレイチェルが、なんとか返そうと絞り出した声が上ずった。
別のボアの突進がザッハ達を襲い、彼がレイチェルの腰に手を回して抱えるように移動したからだった。といっても、お姫様抱っこのようなロマンチックな抱え方ではなく、小脇に荷物を抱えるというロマンもクソもない体勢だが……。
こんなことで一々ドキドキするような歳でもないのだが、不意に来るザッハの異性に対する遠慮のなさにどうしてもドギマギしてしまうレイチェルなのであった。
「なんだか、あちらはイチャイチャしておりますわね……」
「まあまぁ、助け合ってて良いじゃないか」
二人の動向を見守っていたマギルカが、釈然としない顔で呟けば、近くに控えていた王子に宥められる。ちなみに、そういうことには些か疎いサフィナは、二人の会話に首を傾げるだけだった。
マギルカは気持ちを切り替え、自分と対峙するジャイアントスネークを見る。
かつては恐怖しかなかったモンスターも、今は成長と共に、頼りになる仲間がいるという気持ちがその感情を打ち消していた。
「殿下は周りの戦況に応じて援護を」
「分かった」
「さぁ、サフィナさん、アレを倒しますわよ」
「はいっ! ナインブレードで行きますか?」
「サフィナさん……気持ちは分かりますが、それは私達も玉砕覚悟の技ですわよ。もうちょっと様子を見ましょう」
「は、はい、そうですね」
王子が距離を置き、サフィナは相手の力量が分からないからということで、とりあえず全力全開でぶつかろうとする気概に、マギルカは即ツッコミを入れる。
それに、あの技は自分達には成功率がとても低く、その後、生命の危機に陥るので、いくらメアリィが回復できるといっても、それ有りきで考えるのは良くないとマギルカは考えている。
サフィナもそれは分かっているはずだが、それでも自分を極限まで追い込み、成長を促そうと焦っているのだろうか。ちょっとでもメアリィの戦力になろうと思っているのはどちらも一緒だが、焦りは禁物である。
ん? もしかして、サフィナは自分が受け持つ連撃を可能にしており、試したいと思っていたのだろうか……と、ふとマギルカは考え、彼女のポテンシャルの高さに、それはないと否定できない自分に震えるのであった。
「サ、サフィナさん、この程度を相手に、あんな大技使わなくても良いというところを見せて差し上げましょう」
「はいっ!」
ジャイアントスネークにしたら、失礼極まりない発言ではあるが、まぁ、言葉は通じないし、それで激昂するような相手ではないだろう。あちらもマギルカ達のことは餌くらいにしか思っていないのだから。
「行きますっ!」
相手の出方を見るべく、サフィナが抜刀体勢のまま飛び出す。
「フリーズ・アロー」
大蛇への牽制でマギルカが氷矢を飛ばした。
向かってくるサフィナに向かって、グワッと大口を開けて蛇行する大蛇は、魔法が飛んでくるとは思いもしなかったのか、鼻先に思いっきり氷矢を受けて勢いを挫かれる。
「いにしえの森のモンスターとは雲泥ですねっ」
その醜態を横目にサフィナが付与魔法を発動させる。
「風刃裂破ッ!」
動きが止まった大蛇に向かって斬撃が飛んでいく。そんなモノを見たことがなかった大蛇は為す術もなくその首を刈り取られるのであった。
あまりにあっけない最後に、マギルカはポカ~ンとしてしまう。
ジャイアントスネークとはこんなモノだったか? いや、単純にサフィナが強すぎるのではないかとマギルカは思う。
メアリィの力に注目していたが、彼女もまた、想像以上に成長を遂げていたのかもしれない。
もっとも、その成長の切っ掛けを与えたのもまたメアリィなのだが……。
「マギルカ嬢、気をつけて。木の上からなにか来ているようだっ」
一歩下がって全体を見ていた王子の注意に、マギルカは周囲の木々を見上げる。
素早いなにかがサッと木と木の間を飛んでいく。
大きさ的には自分達の半分くらいな感じである。それが、マギルカ達の周囲の木々を素早い動きで移動し続けていた。分かっているだけでもその数は三匹くらいか。
木の上ということで、サフィナも迂闊に動けず、マギルカの近くで抜刀体勢のまま警戒する。
「フリーズ・アロー」
牽制ついでに、相手の行動の先を読んで氷矢を飛ばしてみれば、それに驚いた一匹が木の上から足を滑らせ地に落ちる。
「……猿?」
先程までの動きからなんとなくそんな感じはしていたが、改めて静止した状態のを確認すれば、大きく鋭く発達した牙と爪、長く太い腕と尻尾を持った猿のモンスターがそこにいた。
氷矢程度で混乱し、木から落ちるところを見ると、それほど戦闘能力は長けていないように見える。おそらくはそのすばしっこさを利用しての偵察、撹乱要因で連れてきたのだろう。
「気をつけてください、そいつらは悪戯好きでっ」
ジャイアントスネークに対して冷静だったサフィナが猿モンスターを見て、警戒する。
「どういうことですの?」
サフィナが警戒するような戦力とは思えず、マギルカが首を傾げていると、トリッキーな動きで猿モンスターが彼女の背後に現れる。
その機動力を甘く見ていたマギルカは息を呑み、行動に出ようとした瞬間、バサァッとなにかが捲れる音が自分の近くで聞こえる。
「へ?」
背後にいた猿モンスターは両手を万歳しているだけでこちらに攻撃してきたようには見え、見え、なんか、散ったスカートが邪魔なような……。
「~~~~~~ッ!」
その瞬間、マギルカは理解した。
自分のスカートが後ろからざっくりと切り取られていることに。
加速魔法ばりに、素早くお尻を隠すように、短く簾のようになったスカートを引き下ろすと、猿モンスターがギャギャッと下卑た笑みを見せてくる。
後ろからの攻撃を外したのではない。あえてスカートだけを狙ったのだとマギルカはその下品な表情を見て気が付いた。
無論、後方に下がっていた王子にも、向こうで警戒していたザッハ達にも、もろに見られていただろう。
男性陣がマギルカから故意に視線を外しているのが何よりの証拠である。
「フッ、フリーズ・アロー」
恥ずかしさと、自分の警戒心の甘さに腹を立て、ほぼ八つ当たりのように、あざ笑う猿に向かって氷矢を飛ばすマギルカであった。
絶命する猿なのだが、どこかやりきった満足感を醸し出しているのがマギルカにとっては、なんか腹ただしくて、やるせなかったりする。
「サフィナさんっ、殲滅しますわよっ!」
「は、はひ……」
ちょっと涙目で耳まで真っ赤になったマギルカに、サフィナは及び腰になるが、それ以上なにも言わず彼女に従う。
とはいえ、狡猾な猿達は木の上から動かず、常にマギルカ達の頭上から様子を伺っていた。
さて、どうしたものかと思案するサフィナになにかが投擲される。
石つぶてか、木の実か、サフィナはそれを斬って対処しようとした。
「いけません、サフィナさん! 避けてっ!」
マギルカの悲鳴に似た叫びに、サフィナは反射的に飛び退いてそれを避ける。
そして、彼女はそれが何なのか、理解し、一瞬思考が停止した。
それは、糞だった。
そんなモノを切り捨てようとしていた自分に恐怖すら感じるサフィナは。
「ピアァァァァァァッ!」
甲高い変な声を上げながら、器用にも抜刀体勢を崩さず、スススッと高速でマギルカの所まで下がっていく。
そんな光景を見て、猿モンスター達の下卑た笑いが森に響き渡った。
「マ、マ、マギ、マギ、マギルカさん」
「どこにもかかっていませんよね。ちゃんと避けられましたか?」
心配そうにサフィナを見るマギルカに、サフィナは恐ろしい体験をしたかのように涙目で何度も頷くだけだった。
まぁ、当たったり擦ったりした日には……考えるだけで、恐怖の何物でもないから、仕方のないことだろう。
「殲滅しますぅぅぅっ!」
戦闘になると比較的冷静なサフィナが、珍しく感情むき出しで、相手を見た。
「アクセル・ブーストッ」
加速魔法を唱えたサフィナが、猿モンスター達がいる大木めがけて駆けていく。
文字通り高みの見物を決め込んでいる猿モンスター達はそんなことを気にせず、ギャッギャッと笑っているばかり。
だが、その笑いも次で消え去った。
なんと、サフィナが大木を高速で駆け上がってきたのだ。
カイロメイアの時にも大橋で見せた曲芸を再び披露するサフィナに、猿モンスター達だけではなく、マギルカまで驚きの余り、ポカ~ンと口を開けている。
「見つけました」
大木を駆け上がった時点で、逆光になりその姿が暗く、その翡翠色の瞳だけが輝く光景は猿モンスター達の恐怖を駆り立てるのに十分だった。
慌てたせいで木の幹を踏み外し落ちていく者、サフィナに斬られて肉塊として落ちていく者、別の木へ移る者、目測を誤って飛び移れず落ちていく者、とにかく大混乱となっている。
「逃がしません」
余程の恐怖だったのか、心優しいサフィナにしては逃げた者も容赦なく、追撃を止めない。文字通りの殲滅である。
気持ちは分かるので、マギルカはサフィナを止めようとはせず、落ちてきたモンスター達を黙々と魔法でトドメを刺していくだけだった。
「こ、怖ぇ~……」
その光景を眺めていたザッハの素直な感想に、なにも言わず、只々苦笑で返す王子とレイチェルであった。