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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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竜とエルフの狭間……


 私達の目の前に驚きの光景が広がっている。

 というか、ここまでずっと驚かされっぱなしのような気がするが、これはその集大成のような感じだった。

 オルトアギナ達の話を聞いていた誰しもが、目の前で眠る少女が「普通」ではないということを察し、どうすれば良いのか戸惑っている始末。

 ここは、年長者のオルトアギナにどうすれば良いのか聞いた方が賢明かと思ったが、どうも一番衝撃を受けているのか、ずっと無言である。


『イーリア……いや、違う。あの子はもう……』

「オルトアギナ様……」

『ニケ……貴様は、貴様はどこまであの子を利用すれば気が済むのだ……』


 驚き戸惑うオルトアギナの書を心配そうにギュッと包み込むシータ。瞳を閉じて俯くその姿が、一瞬目の前で眠る少女とダブった。

 気のせいかもしれないが、私は少女がどことなくシータに似ているなぁと思い、再び培養器を見る。


「レイチェルさん、イーリアって誰か知ってる?」


 シータ達に聞くのは忍びないので、他に知っていそうなレイチェルさんにそっと聞いてみた。


「……初代の司書長がそのような名前だったと……」


 レイチェルさんも私がなにを確認しようとしているのか分かったらしく、二人に遠慮するように小声で返してくれる。


「……ニケの、妹だよ」


 私達の会話が聞こえていたのか、シータがポソッとさらに情報を追加してきた。

 その表情は虚無に見えて、その実、大きな感情を抑え込んでいるようにも見える。

 少なくともシータがオルトアギナの記憶からなにを見たのか、それを気軽に聞けるような雰囲気ではないことだけは確かなようだ。


 イーリア。

 シータのご先祖様で初代司書長にして、最初の管理者。

 そして、オルトアギナが最初に心許した女性であり、ニケの妹だという。

 この三人にはなにかいろいろ物語があるようだが、当人からは他人に話し回れるような雰囲気はなさそうだ。本人が語れるようになるまでは、深く聞かないでおこう。

 それが分かると、確かに少女はシータの面影があるなぁと思えてくる。まぁ、実際は逆なのだろうが……。

 だが、イーリア本人がここで生き続けていたということはおそらくないだろう。なにせ、シータより若くなっているのだから。

 だとしたら、目の前の少女は何者か。

 私の知識で考えると、ホムンクルスがまず最初に思い浮かぶ。

 人を作り替えることに成功したニケなら、生物の構造を理解し、細胞から複製するという考えに至れるのではないだろうか。そして、それを土台に合成する人造人間。それが、目の前の少女なのかもしれない。

 考えただけで私はそのおぞましき所業にゾッとし、鳥肌が立つ腕を摩った。

 当時から、周辺の人々を巻き込むことがなかったからこそ、ここの存在が公にならず、噂話すらなかったのだろう。

 そこまで考えてニケは動いたのか、それとも単純にイーリアの肉体が自分の実験にとても適していたのか。なんにしても、自分の妹にすることでは断じてない。

 私はニケというエルフにただならぬ嫌悪感を抱き始めていた。


「詮索はしませんが、とりあえずシータさんがしでかしたこちらの状況をどういたしましょうか?」

「うっ、そ、それは……」


 重苦しい雰囲気の中、マギルカが皆を現実に引き戻してくると、気まずそうにシータが周りを見てきた。


「どうするって言われても……見なかったことにしてそっ閉じするか、出してあげるかの二択だよね」


 マギルカの言わんとしていることを汲み取って、私は皆に二択を提案する。皆も同意見なのか、頷き私を見てきた。


『妖精が我らを中へ招いたのは、ここの実態を伝えたいというより、彼女を託したかったのかもしれないな』

「だとするなら、出してあげようかしら……シータ、できる?」

「それがぁ……なんかこれ、保管というより、封印、う~ん、どっちかというと閉じこもっているって感じで、外部の干渉を拒絶してくるのよね」


 さくっといくかと思いきや、ここに来て問題発生のようだ。

 ならば、ドォーンとパンチ一発、器を砕いて出すというダイナミック方式でいくか。いや、ないない、それはない。そんなことをした暁には大パニック必至であり、問題を大きくするような気がしてならない。主に、私がなにかやらかしそうだ。

 では、どうしたものかとシータを見て、その入ろうとして弾かれる様はなんだか「パスワードを入力してください」で悪戦苦闘している人を彷彿させてきた。

 他に考えなくてはならないものがあるのだが、現実逃避に私はついついなにか適したワードはないものかと、少女を見ながら考えてみる。

 そして、すぐに浮かんだのが、


「……アガード……」


 ポソリとだが、私は先程得たワードを口にする。

 すると、少女の瞼がピクッと動いたように見えた。

 次の瞬間、ブシューと大きな音が鳴り、培養器が動き出す。


「な、ななな、なにごと?」

「シータさんが、動かしたのではないのですか?」

「ううん、私じゃないわよ、急に動き出して。あっ、メアリィ様がなにかを呟いて」


 マギルカの指摘にシータは慌てて弁明すると、事もあろうかその矛先を私に向けるようなことを言ってきて、マギルカが私を見てきた。


「メアリィ様……」

「わ、私じゃないわよっ! 私はなにもしてないわ。た、たぶん……」


 なにも触っていませんと万歳して、私は無実を主張するが、思い当たる節があって強くは出れないのがもの悲しかったりする。

 そうこうしている間も装置はどんどん解放のシークエンスを進めていき、入っていた容器の液体が抜けていった。

 液体が無くなると同時に容器がスライドして、中にいた少女が外気に触れると、そのまま崩れるように倒れ込む。

 私とシータはやらかした組として、慌てて彼女の介護に走っていた。

 マギルカ達は少女が全裸なので、男性諸君の壁になってもらっている。

 レイチェルさんは周囲に変化はないか確認しているみたいだ。これ以上、なにか起こるのはほんと、マジ勘弁してもらいたい。

 っで、私はというと、近づいたはいいけどどうして良いのか分からず、抱き起こしながらアワアワする始末。

 結局のところ、後ろから付いてきたテュッテに拭くものや着替えなど用意を任せるといった結末を迎えたのは言うまでもなかった。しかも、それは私の指示ではなく、テュッテが自発的に行動した結果である。

 少女の方はこれといって抵抗する様子もなく、うっすらと瞼が開かれていった。

 瞳の色は予想通りシータ達と一緒で赤かったが、黒目の部分が縦線になっており、爬虫類のような感じだった。

 こういうときってなんて声を掛ければ良いのか、私は自分が観たアニメなどを思い出すが、映像はあっても肝心な台詞が頭に浮かばない。

(くっ、肝心なときに役に立たない私の記憶だこと)

 なので、私はジッと少女を見つめ続けるという状態が続いていた。


「……アガード……」


 私が困っていると、少女はポソリと身近にいた私とシータがギリ聞こえるくらいの声を発する。

(やっぱり、あのワードに反応したのね。もしかして、彼女がアガードなのかしら……)


「気が付いたのねっ」


 一旦思考を巡らすのをやめ、私は目の前の少女に集中する。シータの声を聞き、定まっていなかった視線がこちらに向いた。だが、反応が鈍いところを見るに意識はまだ混濁しているのだろう。

 それは仕方のないことだ。一体何年眠っていたのやら……。


「ねぇ、大丈夫?」

「…………わ……」

「わ?」


 シータの呼びかけに反応するがやはりそれは鈍く、私は固唾を飲んで少女の次のアクションを見守る。なにか、とんでもないことを発するのか、それとも急に暴れだしたりしないよね。


「……わ、たし……だれ? ここ……どこ?」


 緊張の中、私の中でよく聞くお決まりの台詞集の一つを、まさかここで聞けるとは驚きであった。

(ほ、本当に言う人いるんだ……って、感動している場合じゃないわよ。これって、つまり彼女は記憶喪失ってコトォ?)

 長年眠っていると、いろいろ忘れるといったケースがあるみたいだが、時間が経てば思い出してくるのだろうか。

 少女の様子をもう一度確認する。

 外傷などはなく、なにか異常があるようには見えないのだが、酷くぐったりしている。

 今の今まで眠っていたのだ。無理もない。


「ここは、えっと、なんて言えば良いのかしら? エネルスの村の近くって言えば分かるかな?」


 とりあえず、ここはどこと聞かれたので、答えようと思ったが、彼女が今の地理を理解しているのか甚だ疑問である。


「……お……」

「お?」

「お腹……減ったぁ……」

「…………」


 上半身を抱き起こされながら、少女はそんなことをのたまい、ぐったりとする。

(いやいやいや、普通この状態でいきなり空腹を訴えるなんて……あるのかしら? 私とは身体の構造が違うのかも。あっ、もしかしたら、魔力を原動力にするスノー達と一緒かもしれないわね。そういえば、スノーも案外食いしん坊よね)

 あまりの予想外の言葉に、私の思考は脱線していった。

 特に問題がなさそうなので、私はテュッテに後を任せることにし、彼女は持ってきた私の替えの服を利用して少女に着せていく。


「一旦、村に戻ろうと思うんだけど、どうかな?」


 状況が落ち着いたところを見計らって王子が提案してくる。私も異論はなく、実際のところ、情報過多で、そろそろ整理したいと思っていたのでとても助かっていた。

 私が頷くと皆も続いて頷き、次なる行動が決まると、各々動き出す。


「じゃあ、この子はオレが運ぶぜ」


 未だ意識が朦朧としているのか、それともまた眠ってしまったのか、少女は自分で起き上がる気配はなく、ザッハが運ぼうと抱き上げる準備をした。

 まさかと思うけど、お腹がすいて動く気がないとかじゃないよね。

 ザッハと少女に問題がなさそうなので、私は気が抜けた感じで来た道を戻ることにする。

 そして、例の地下森林へ続くゲートに近づくとゲートに異変が起こった。

 これはゲートが作動して、なにかが潜ってくるのだと私は先に見ていたので、ああ、あの巨像が「終わったぁ~?」ってな感じで顔を出すのかなと思っていた。

 

 だが、実際は違う。

 

 そこに現れたのは七色に光る巨像ではなく、一体の白銀の全身鎧。

 しかも、その腕には、あの巨像の首が握られていた。


(え? え? どゆことぉ?)


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[気になる点] やっぱり記憶はなかったか [一言] 拠点に帰るまでがダンジョンです
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