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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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私と巨像


 建造物に囲まれた地下に広がる森の中、その異様さに拍車を掛けるかのように佇む一体の巨像。

 この巨像をシータはセキュリティーと呼んだ以上、アレは侵入者を成敗するために存在しているのだろう。

 それは周りに転がるモンスターの死骸や、泉に沈む鎧達が証明している。

 対話という線はないのだろうかと思ったが、不法侵入しているし、あの顔のない頭では会話は不可能に思えた。


「シータさん、あれも妖精が関与しているのならエルフのキミ達で話し合いはできないかな?」

「殿下の案を採用したいところだけど、向こうは話す気はないっぽいのよね。それに、話すなら話すでそれなりの準備が必要なのよ」


 残念、話せば分かる戦法は無理っぽいようだ。


「お嬢様っ、こちらをっ!」


 覚悟を決めて私は戦闘態勢をとると、後ろからテュッテが近づいて剣を渡しに来た。


「ありがとう、テュッ――――」


 振り返りテュッテから剣を受け取ろうとした瞬間、私の視線の先、テュッテの背後に突然と言って良い程のスピードであの巨像が現れる。

 そののっぺらな巨像の顔を見た瞬間、私の全身にゾワァッと悪寒が走っていった。

 もはや反射的に近づくテュッテを掴み、自分の方に引き寄せる。あまりの勢いにテュッテから短い悲鳴があがり、持ってきた剣が落ちた。だが、そんなモノはどうでも良い。テュッテを斬り殺そうとしてくる巨像の剣をテュッテの代わりに私は全身で受け止めようとする。


「風刃裂波ッ!」


 と、私とほぼ同じタイミングで巨像に横槍が入った。

 サフィナの攻撃だ。

 彼女もまた私と同様に巨像のスピードに付いて来れていたみたいだ。

 だが、巨像はミスリル鉱でできているためか、彼女の風魔法付与の斬撃を受けても大したダメージになっておらず、一瞬怯む程度に済んでいる。

 それでも私には十分だったので、サフィナに感謝しつつテュッテを抱きしめながら後ろへ飛んだ。

 その様子を見ていた、目がないので断定はできないが、巨像がなにかを思考するように動きを止める。

 なぜ最初にテュッテを狙ったのか。彼女が最初に動いたからなのか、一番弱そうで確実に殺せそうだったからか、その判断は難しいが、そんなことより私の中はある感情でいっぱいだった。

(こいつは、テュッテを殺そうとしたっ!)

 竜が逆鱗に触れられると怒り狂うと謂われているように、私の逆鱗はテュッテだ。それに触れた相手に私は冷静でなんていられない。

 ダラ~ンと力の入っていない巨像に、私は落ちた剣を拾い上げ、テュッテを解放し迎え撃とうとする。

 だが次の瞬間、やつの姿は消えていた。

 予備動作も重心の移動もない。人体構造、重力などを完全に無視した動きである。

 しかも、そのスピードは常人を遙かに超えていた。

 そして、次に姿を現した時、巨像はまたしてもテュッテの近くで剣を振るおうとしていたのだ。


「テュッテに近づくなぁぁぁっ!」


 私を無視して執拗にテュッテを狙う巨像にカッとなって私は叫び剣を振るう。

 大剣と私の剣がぶつかり、大きな音と供に大剣が弾かれ、巨像の体勢が崩れる。

 しかし、やつは体勢など気にもしないで、剣を持っていない手を伸ばしてきた。

 滅茶苦茶な体勢なのにそれでも力の篭もったその拳がテュッテを襲う。

 私も形振り構わず、テュッテとの間に入り、その拳を両腕をクロスさせて体で受け止める。


「お嬢様ぁっ!」


 私には無効化スキルがあるので、この程度なんともないのは知っているはずなのに、テュッテから悲痛の叫びが上がった。

 巨像は私の行動に驚いたのか、次の行動に出ず一瞬固まっていた。

 それを見逃さず、左右からザッハとレイチェルさんが斬りかかる。

 だが、それは空を切り、いつの間にか巨像は距離をとって佇んでいた。


「お嬢様っ」


 心配そうにテュッテが寄り添い私を見る。


「大丈夫よ、大したことないわっ」


 その言葉にサフィナ達がホッとするのが見える。あんな無茶苦茶な体勢だったから大したダメージになっていなかったのだろうと思ったのだろう。

 だが、あれはテュッテのような一般人なら大怪我じゃ済まされないくらいには力が入っていたと思われる。なんといってもミスリル鉱の拳なのだから。

 それを知ってか、無効化スキルで傷一つない私を見てもテュッテの顔は不安のままだった。

 標的は明らかに自分であり、私が盾になって守っている事実に、テュッテは申し訳なさを感じているのだろうか。

 私はいい。私はどんな攻撃を受けても大丈夫だし、負けることはない。

 だが、そんな私を無視して、力のない大切な人を執拗に攻撃されると私はこんなにも無力なのかと痛感する。

 かつて、オルトアギナが語った言葉が脳裏を過った。

 

 ――――彼らは驚くほど脆弱で……愛おしかった……――――




 

『……なぜ、だと?』


 私がオルトアギナの言葉を思い出していると、突然彼が脈絡のない言葉を発してくる。

 それは私達に向けてというより、巨像に向けて語っているように思われた。


「オルトアギナ様?」


 驚いたのはシータも同じで、慌てて皆の前に本を取り出す。


『メアリィの行動がそんなに不思議か?』


 オルトアギナは巨像と会話しているような素振りを見せる。竜だから、いやオルトアギナだからこそなのか、彼はあの状態の妖精と対話できているようだった。

 その証拠に、巨像は先程から動こうとしない。あれだけ問答無用だったのに。


『……メアリィよ、答えてやれ』

「へ? なにを」


 いきなり振られても、なにがなんだがさっぱり分からないので、もうちょっと凡人にも分かるように説明いただけると助かるのだが……。


『その身命を賭して、他人を守る意味を……だ』


 説明されたらされたで、とんでもなく難しいことを聞いてくる智欲竜様に、私は状況が掴めず、ポカ~ンとする。


「ま、守りたいから?」


 なので、出てきた言葉はなんとも単純なモノで、しかも疑問形になったりする気の利かない私であった。

 そのせいか、一時、辺りが静寂に包まれる。

(あ、あれ? 解答を間違えちゃったかしら。「なに言ってんだ、お前」みたいな空気になってない?)

 とはいえ、あれ以上の解答が全く浮かばないので、補足もやり直しもできない私は、内心ハラハラしながらただただ黙って見守ることしかできなかった。

 次の瞬間、巨像が勢い良く剣を地に突き立てる。

(あぁぁぁ、オコですかっ。こんな返しじゃオコですよねっ)

 相手の勢いに気圧されて、私は思わず腰が引ける。

 巨像は突き立てた剣から手を離すと、ゆっくりと両手を上へと上げていった。

 今度はなにをしてくるのか全く見当もつかない私達は、緊張感が増し、相手の動向を注視する。


「…………」




「…………ねぇ、テュッテ。あれってどう思う?」


 やがて、動きが止まった巨像の姿に、私は理解が追いつかず、後ろにいたテュッテに聞いてみた。


「……私には降参して両手を上げているように見えますが」

「だ、だよね。そう見えるよね」


 テュッテの言う通り、巨像は剣を手放し、両手を肩より上に上げて静止しているのだ。

 私は確認のため皆の方を見回してみると、目が合う人達皆、私と同意見だという風に頷き返してくる。


『相手はもう危害を加える気はないみたいだぞ』

「ほんとに? そう言ってまたテュッテを狙うんじゃないわよね」


 オルトアギナの言葉も疑心暗鬼になって、私はテュッテを守るようにギュッと抱き締める。

 なぜ、戦うのを止めたのかよく分からないが、とにかくこれ以上テュッテが危険に晒されないなら願ったり叶ったりだ。

 とはいえ、彼の言葉を素直に鵜呑みできない私はテュッテを近くにいたサフィナとマギルカに預け、そろりそろりと降参ポーズで棒立ちになっている巨像に近づいてみる。

 そして、恐る恐る剣の先っちょでツンツンしてみると、巨像は何の抵抗もせず、ただ突っ立っているだけだった。


『ほれ、馬鹿なことをしとらんと、先へ進むぞ。彼奴の気が変わらん内にな』


 私の行動にオルトアギナは呆れ声を出し、シータに進むよう促してくる。

 私はそれでも不安な気持ちが解消されないため、そそくさと巨像から離れ、テュッテの元に戻り、彼女の手を握って一緒に歩き出した。

 ふと、なにかの視線を感じてそちらを見て見れば、巨像が私とテュッテを見ているように思えてならない。

 私は慌ててテュッテの手を引っ張り、皆より先にゲートを潜るのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けが入らなければ危うくお嬢様のぜっ鉄壁で巨像が粉砕されるところだった
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