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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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悔い改めよっ


「お待ちしておりました。メアリィ様、それに殿下も」


 エネルス村に到着すると、予想外にも落ち着いた感じで村長が出迎えてくれる。


「フフッ、メアリィ様から連絡をいただいた時点で、また殿下達が同行してくることは想定内でしたので」


 私の驚いた顔を見て、察したのか村長は笑顔で答えてくれた。だが、私達の後ろにいたシータ達を見て、目を見開き驚き始める。


「な、なんとエ、エルフの方が……こ、こここ、これは想定外……」

「あっ、こちらはカイロメイアの大書庫塔で司書長を務めているシータと補佐のレイチェルさんです」

 村長の反応を見て私は二人を紹介すると彼女達は軽く会釈する。

「カ、カカカ、カイロメイアとは、あの叡智が集合した偉大なる町とか……しかも、そこの司書長……」


 紹介を受けた村長は、ワナワナと震え出すと独り言のように呟いた後、泡を吹いてそのまま倒れるのであった。

(う~ん……こんな所に思わぬ伏兵が。ごめんね、村長。でも、改めて他人の反応を見るとシータ達ってやっぱすごい人達なんだなぁと再認識するわね。あれ? 私の周り、ビッグな人ばかりで感覚が麻痺してない? 大丈夫かしら、私)

 倒れた村長を村人が慌てて運んでいく様にデジャヴを感じながら、私は心の中で平謝りする。

 とりあえず、私は前に来たときと同じようにレガリヤ家の別荘に皆を案内した。

(なんだろう、今の所前のお祭りのときとパターンが似ているんだけど、まさかこの後の展開も……いやいや、そんなこと考えると、フラグが立っちゃうじゃない。無心よ、無心……)

 

 

 

「ちなみにテュッテ。あの二人をどう見るかしら?」


 別荘に到着し、皆を部屋に案内した後、ちょっと休憩してから、さてこれからどうしようかとマギルカに相談しに行く途中で、慌てている彼女とレイチェルさんを目撃し、なにかを察した私の言葉が先の台詞である。


「お嬢様、あれはトラブ――――」

「そ、そうよね、もうすぐお祭りだから二人とも待ちきれずにソワソワしているのよね」

「お嬢様、あのお二人がそんな方だと思いますか?」


 とりあえず現実逃避したくて道づれ、もとい、自分の意見を述べてみれば、バッサリと現実を突きつけてくるテュッテに次の言葉が見つからなくなる私。

 説明されなくとも、二人が慌てるということは見れば分かる。ならば、前回を考慮して、おそらくザッハあたりがいなくなったのだろうか。

 お祭りが近く、村の皆は忙しいから迷惑にならないよう、勝手な行動はするなと注意したのに、聞かないとするなら彼奴だろう。


「どうしたの? ザッハさんあたりが、まぁ~たいなくなったのかしら?」

「いやいや、昔みたいな失敗はしないぜ、オレ」


 私がやれやれと溜息交じりに二人に問いかけてみれば、離れたところから答えてきたのは当の本人だった。


「あれ、ごめん。てっきり誰かが見当たらなくなったのかと」


 ザッハがここにいるということは、その線は消えたのかなと思いきや、そういえば一人怪しい人物がいたことを私はふと思い出す。


「あっ、もしかして、シータが……」


 私が思ったことを口に出してみれば、マギルカとレイチェルさんが申し訳なさそうに首を縦に振るのであった。

(おのれぇ、どうしても昔の再現がしたいようね)


「やはり、月見草を見に森へ入ったようだね。エルフを見たという人がいたよ」


 私がぐぬぬと唸っていると、ザッハが来た方向から王子がやって来て、想像通りの情報を提供してくれる。


「すみません、落ち着きのない子ではありますがここまで単独行動するような子ではないはずなのに……たぶん、あの子を焚きつけた人がいるはず……」


(それは人と言うより竜と言った方が正しいのでは?)

 困った顔のレイチェルさんの遠回しな言い方に私は心の中でツッコんでみる。


「そんじゃあ、皆揃ったことだし、確証も得たし、学者様を迎えに行きますか。今のオレ達ならジャイアントスネークだってなんとかなるだろう」


 昔と似たパターンだと思っているのはどうやら私だけではないらしく、ザッハはあの時苦戦を強いられたモンスターの名前を口に出すと、我先に別荘の外を目指すのであった。ちょっとウキウキしているのは気のせいだろうか……。

 ついでに、そんなザッハの姿を頼もしそうな顔で見ているレイチェルさんに、あなたが思っていることとは、たぶん違うよと余計なことを言いそうになって、ぐっと堪える私なのであった。

 

 

 

 一度行ったことがあるので迷うこともなく、私達が月見草の場所へ辿り着くと、案の定、本を片手に周囲をウロウロするダークエルフの姿が確認できた。


『なるほど……これは興味深い』

「オルトアギナ様、チラ見するだけって約束でしょ、もう戻ろうよ。勝手な行動はするなって言われてたし、これはメアリィ様が調べることであって、私達が抜け駆けして良いモノじゃないんだからっ」

『待て待て、これからが本番だろう。ここになぜこれがあるのか、其方も興味あろうが』

「そ、そりゃぁ、まぁ、そうですけど」


 二人の会話がなんかコソコソしている小悪党感が半端なくて、これがあの偉大なるカイロメイアの当主と司書長なのかと思うと、なんだか泣けてくる。


「そこまでよ、二人とも。レガリヤ領での狼藉は領主の娘であるこの私が許しませんっ!」

「メ、メアリィ様っ」

『おっ、そろそろ来ると思っておったぞ。さっそくだが、ちと相談したいことがある』


 悪党を成敗するべく、私が決め台詞を言って登場してみれば、シータは良い反応をしてくれたのに、諸悪の根源はどこ吹く風やら、話を進めていく始末。


「なによ、謝罪なら聞いてあげるけど」

『いやなに、簡単なことだよ。ちょっと、ここの群生地、掘り起こしてくれまいか?』

「……二度とその口聞けないように、本をビリビリに引き裂いてあげようか?」


 さも簡単そうにとんでもないことを要求してきたこの不届き者に、私は笑顔で答えてやる。

 とはいえ、オルトアギナの書は禁書の魔導書で、そんじょそこらの力では傷つかない。

 それを知っている皆は、私が冗談半分で言っていると思い苦笑いしているが、当事者と、マギルカ、テュッテだけは私がそれを可能にしてしまうことを知っているので、本気で困っている様子。

 そんな中、私はダメ押しに両手を前に出してワキワキしながら、シータというより彼女が持っている本の所へにじり寄っていく。


『ま、まぁ、話を聞け。新たなる発見、自身の探求に犠牲はつきものだろう。なにかを惜しんでいては探求は進まぬぞ』

「なんか良いことのように言ってるけど、探求のためならなにしても良いわけじゃないのよ。その考えからまず改めてもらおうかしら」

『チッ、意外と理性的だな。もうちょっとお馬鹿でいてくれたら扱いやすかったのに……』

「よし、決まったわ。真っ二つの刑に処す」

『待て待て待て、我が急いておった。説明するから、話を聞けい』

「……聞くだけ聞こうかしら」

『そ、其方らの話では、この月見草と白銀の騎士にはなにか関係があるのではないか、ということであったな。だが、そもそもなぜここに月見草が咲いているのか疑問に思わないのか?』


 予想外の質問に、私は首を傾げながら皆を見回す。こんな所にこんな花が咲いてると驚きはするが、どうしてここに咲いているのかなんて、指摘されるまで考えもしなかった。


「環境に適していたからじゃないの?」

『ふむ、その通りだな。では、月見草に適した環境とはなにか?』


 なんだか先生と問答しているみたいな気持ちになりながらも、私は自分より知識があるマギルカを見て、彼女の見解を求めてみる。


「魔草類のモノは、天候や気温、肥えた土壌に豊富な魔力、その他の草花の干渉がないようにするなど、様々な条件が噛み合って初めて栽培に成功します。高位なモノほどデリケートで難しいですわ」

『ふむふむ、なかなか勉強しておるな。さて、件の月見草なのだが、これはかなりデリケートな部類に入るぞ。なんといってもあのクソガ、じゃなくて、精霊樹が作ったモノだからな』


 本来ならここで「おぉ~」とその壮大さに感嘆するところだが、オルトアギナが言う通り、あのクソガ樹、もとい、精霊樹を知っているとなんか神格さがグンッと下がるのは私だけだろうか。


「この月見草は精霊樹様がお作りになったのですか?」

「うん、そうだよ。とんでもなく魔力を欲して、そのくせ五年に一度しか開花しないなんて、そんな意味不明なモノ作るの、あの人くらいよ」


 驚くマギルカに、さも当然のような顔で答えるシータ。

 幼少の頃から抱いていた月見草への幻想的というか、ロマンチックさがなんだかどんどん薄くなっていくような気がする。これ以上は聞かないでおくのが身のためではないのかと、私の第六感が知らせてきた。


『ちなみにだが、なぜ五年に一度かというと、本人曰く、その方がおもし――――』

「あぁぁぁぁぁ、聞きたくない、聞きたくないわぁぁぁっ!」


 月見草祭りを控え、その神秘に胸躍らせている我が領の村人のため、同様の気持ちで訪れてきたお客様のため、私はこれ以上知ってはいけないと思い、両耳を塞いで強引に話を遮断する。


「つ、月見草を辿るとそ、そんな原点が……」


 少なからず月見草に興味があったマギルカもまた私同様、自分の中のロマンを破壊されそうでその現実を受け入れられず戦慄いていた。


「えっと、あの、しょ、諸説あるから……私達のいうことは可能性の一つとして」

『諸説もなにも本人が――――』

「オルトアギナ様、話を進めようね」


 あまりの打ちひしがれようだったのか心配になってシータがフォローを入れれば、それを即座に否定しようとする空気の読めない竜がいる。


「それで、オルトアギナ殿はそこまで知っているのに、月見草を掘り起こしてまで何を調べようというのかな?」


 私とマギルカが機能不全になっているので代わりに王子が参戦する。


『ふむ、我が調べたいのは月見草本体ではなく、なぜここにこれがあるかということだ』

「元々はいにしえの森に生息していた花がなぜここに生息しているのかというなら、誰かが持ち出したのでは?」

『問題はそこではない。問題は違う場所に植えたからといってポンポン咲く花ではないということだ。我らが調べた感じではこの土地に月見草を群生できるほどの潤沢な魔力があるとは思えん。おそらく、この下に月見草を咲かせるほどの潤沢な魔力の源が埋まっている……という可能性を考えているのだよ』

「だから、その下を掘らせろと……」


 思うところは多々あれど、なんとなく納得したのか王子が「だそうだよ」というように私の方を見てきた。


「無理無理、もうすぐ月見草祭りだってあるのにそんなことできるわけないでしょ」


 復活した私はシータが持っている本に向かって両手をクロスさせて異を唱える。


『犠牲なくして新たな道は作れぬぞ。変化を恐れず突き進むことこそ探求者の勤めではなかろうかっ!』

「だぁ~かぁらぁっ、探求の為ならなにしても良いってその考えを今すぐ改めぇぇぇいっ!」


 どんなに言われたってやっぱり私と彼は平行線だ。

 そうでなくても前回の月見草祭りだって騒ぎを起こして迷惑かけてるのに、今回も変な騒ぎを起こして祭りをダメにしてしまったら、村の人達に、そして領主の娘として両親に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。


「最初は少なかった月見草を移動させ、試行錯誤してここまでにした村の人達のためにも……」

『ちょっと待て。これは元々からここにあったのではないのか?』


 私の決意を独り言のように呟いてみれば、それを耳聡く聞き取ったオルトアギナが私に質問してきた。


「え、あっ、うん。村長からそう聞いてるけど?」


 白銀の騎士の後日談を調べるべく、なにか繋がりがあるのではと訪れたこの村で、なんだか妙な展開になってきてはいまいかと、今までの経験からふと思う私なのであった。

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[気になる点] 月見草の誕生秘話を村人達が聞いたら祭りはどうなるだろう? 村のメイン行事だし死んだ目で祭り開いてそう [一言] これはメアリィ様の大技のせいですね
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