テーマ、見つけたりっ
「白銀の騎士が……え、もうちょっと詳しく」
『我が異空間に引き篭もっておった頃、彼奴がこの大書庫塔に訪れてきた。なにかを調べに来たのだろう。しばらく本を読んでおったのだが、如何せん、あの全身鎧のまま本を読むという光景は異質でな。おもろ過ぎて興味が出たのだよ』
「確かに、鎧姿で読書は……」
オルトアギナに言われ、私は本棚の前で格好良く立ち読みする全身鎧を思い浮かべて、その異質さになんと言って良いのか困って、苦笑する。なんてったって、彼はアルディア王国の英雄なのですから……。
『気になったら調べたくなるのが我の性分。だから我は司書長に話しかけるように命じ、オルトアギナの書越しに彼奴に語りかけたのだ。なにをお望みか、とな。向こうも、書越しに我の存在を感じ取ったのだろう、しばらく考えた後、その内に秘めた思いを吐露しよった』
「それが、私と同じ言葉……」
『左様。その声色からかなりの悩み事のようにも聞こえたが、大いなる力とは何なのか、彼奴は最後まで語らなかったし、我の認識の範囲では彼奴の英雄譚はそれ以降聞くことがなかった。ちなみにそなたは語る気は?』
「ないです」
『気になったら調べたくなるのが我の性分と言ったであろう。ここは一つ、観念して吐露するが良い』
「なにがここは一つよっ。乙女の秘密を探ろうとしないでくれるっ」
『ほうほう、大いなる力と乙女の秘密とやらは繋がっておるのか。ふむふむ、シータよ、乙女の秘密とはなんぞや?』
オルトアギナによって上手いこと誘導された感じになっているが、果たして、それとこれを繋げて良いモノかどうか。
そして、流れ弾に当たったシータが「ふえ?」と変な声を出して、彼を見上げた。
「お、乙女の秘密は……乙女の秘密ですとしか……というか、オルトアギナ様、乙女の秘密には不躾に踏み込んでこないのが、紳士の嗜みですよ」
『むむ、そういうものなのか』
「そういうものです」
オルトアギナとシータがまるで年頃の娘にどう接して良いのか分からない父親と、それを窘める娘のような会話をしていて、なんだかホッコリする私であった。
シータの先祖はオルトアギナに話しかけた最初の人であり、最初の被験者だった。
そして、塔の管理者としてオルトアギナの書を通して彼と繋がっているらしい。
シータが言うには、オルトアギナの封印を解いていたとき、彼女の意識はオルトアギナと繋がり、彼の記憶、思いを垣間見ていたのだという。
だからなのか、オルトアギナが倒れたとき、彼女は一人、彼を庇ったのだった。
オルトアギナもそれを知ってか、他の者には威厳があるのに、シータには先程のように聞き分けが良かったりする。
一体なにをシータは見たのか気になるところなのだが、彼女は「内緒」と言って、それ以上語らないので私は聞かないことにした。
「それにしても、白銀の騎士、か……」
よくよく考えてみれば、私は白銀の騎士を知っているようで実は余り知らないのだ。
彼はアルディア王国の英雄として、いろいろと物語に登場する。だが、その素性は不明のままであった。しかも、彼の力は私に似て強大で、極論、彼は私と同じ存在、つまりは転生者ではないのかとも思える。
もしかしたら、私と同じ悩みを持っていて、彼はその力を封じることに成功し、普通の人として生活できたのではないだろうか。
(これは、調べる価値がありそうね。レポートのテーマとして、彼の生涯を追うのも良いんじゃないかしら。私が知る限りでは、彼の活躍は物語として語られているけど、彼の晩年は語られてないものね)
テーマの題材として、白銀の騎士は申し分ないだろう。しかも、私の読みがもし正しければ、力の封印方法を知り、私も普通人になれるかもしれない。これこそ正に一石二鳥というモノだ。
「フフフッ、良いわ良いわね。私の道が見えてきたわ、ウフフフフフ」
『どうしたメアリィ、ニヤけ顔がキモいぞ』
「キ、キモくないわよっ! 失礼なこと言わないでくれる!?」
私が未来のことを想像して希望に満ちた笑顔を零していれば、それを見たオルトアギナが失礼なことを言ってきた。
でもまぁ、今の私は気分が良く、寛大な心で許してあげるのであった。
「とにかく……ありがとう、オルトアギナ。あなたのおかげで私の目指すところが見えてきたわ」
『ん? そうなのか。なにもしておらんように思うが、まぁなにか必要なら言うが良い。できる限り協力しよう』
こうして、私とオルトアギナの話は終了した。
「良かったですね、お嬢様。いろいろありましたがレポートの完成への道が一歩進みましたね」
テュッテは私達の会話を聞いていただけで、私の決心が分かったらしく喜んでくれる。私の秘密を知っており、言わなくても私と気持ちを共有してくれる、それが彼女であり大切な存在である。
「ありがとう、テュッテ。やっと私も卒業に向けて動き出せるわ。さぁて、そうと決まれば、マギルカに会いましょう。彼女に相談しなきゃ」
そしてもう一人、私の悩みを共有し、導いてくれる大切な存在に相談に行こうとする。まぁ、そう言えば聞こえは良いが、つまるところ私は意気揚々と初手、他力本願をぶちかますのであった。
「お嬢様……」
テュッテもそれを感じ取ったのか、いつまでも自立できない私に少し困った顔をした。
「だぁって、だぁぁぁって、調べるっていってもなにをどうして良いのか、わっかんないんだもんっ!」
「フッフッフッ、お困りのようですね、メアリィ様。調べ物ならこの大書庫塔の司書長を務めるシータにお任せあれっ」
私が駄々っ子になると、いつのまにやら近づいていたシータが、自分をアピールしてきた。
確かに、この大きな塔の中で調べ物をするなら、専門家の手を借りた方が早いだろう。
「シータは私なんかに付き添ってて大丈夫なの? あなたも忙しいんじゃない?」
「なにものよりもメアリィ様の力になることが優先なのよ。それは塔の皆も分かってくれるわ」
「そんなものなの?」
「そんなものなのっ! それで、なにから始めるの?」
「と、とりあえずマギルカに相談はしたいから、彼女に会うことからかしら?」
自分のことなのに、やっぱりマギルカに相談しようとする私。彼女がダメって言ったらすぐさま止めるほど、彼女に依存、もとい、頼りきって……くっ、どう考えても上手い言い訳が見つからないが、とにかく彼女の了承を得なくては、本当にこれで良いのか心配でモヤるのが正直な気持ちだった。
「マギルカさんは確か殿下と一緒にお義父さんと話し合いをしているわね。私も後で加わるから、司書長室を使ってもらってるの。ちょうど良いわ、行きましょ、行きましょ」
先頭に立ち、元気よく歩き出すシータに釣られて、私とテュッテはオルトアギナがいる中央広間を後にするのであった。




