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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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智欲竜オルトアギナ


 スノーのおかげで私は大書庫塔までそれほど時間を掛けることなく到着できた。

 大書庫塔の上には、もう一つの塔が乗っかり、その衝撃で天井部分が崩れていて、内部がどうなっているのか心配になってくる。

 上に新たに足されたその塔は、外観が似ているが大きさは下の大書庫塔より若干小さくなっており、繋がっていた感じがしない。おそらく、元々ここから二つに別れていたのではないだろうか。

 おそらく、上がオルトアギナのプライベートルーム、下が仕事場といった感じかな。

 まぁ、そんなことは今議論するところではなく、問題があるとするなら……。


「う~ん、人が使う出入り口ってのがないわね……どっから入ったら良いのかしら?」


 そう、あの塔には人が入る扉らしきモノが見あたらなかったのだ。

 もうちょっとしっかり調べればあるのかもしれないが、如何せん塔のスケールが巨大すぎて、探すのが億劫である。

 私がもう少し近づいたら見えなかったモノも見えてくるのかなと思案していたら、空を駆けていたスノーが急に足を止めてきた。


「んっ、どうしたの、スノー?」

『ハウリングブラストォォォォォォッ!』


 疑問に思って声を掛けてみれば、スノーは大きく息を吸うととんでもないことをしでかすのであった。

 私が唖然として、スノーが放った方向へ視線を向けてみれば、彼女の咆哮が着弾して塔の側面の一部が盛大に弾け飛んでいるところだった。


「もしもしもしもし、スノーさん。あなたは一体なにしてくれてるの?」

『なにって入り口を作っただけだけど? 探すの面倒だし』

「そんな理由で人様の住まいを問答無用で破壊するなぁぁぁっ!」

『相手はここまでド派手に登場してきたんだからさぁ、私らも派手に登場してアピッておかないと、ナメられるわよぉ~。おらおらぁ~、聖女様のお通りだぁぁぁいぃっ!』

「こっぱずかしいから、やめてぇぇぇえぇぇえぇ……」


 私の絶叫に合わせてスノーが再び駆け出し、声は風に乗ってドップラー効果となり空しく響いていく。

 そして、スノーは勢いよく自分が開けた穴をくぐり抜けて、中へと侵入するのであった。


『おおっ、広っ!』


 中を見たスノーが正直な感想を述べるように、そこは大書庫塔と同じくらい広大な円形が広がっていた。

 大書庫塔と違うとするなら、大量の書物や部屋などがなく、本当にだだっ広い広間になっているところだろうか。

 そして、その中央付近に巨大な黒い物体が鎮座していた。

 骨なら見たことがあるが、実物を見るのは生まれて初めてなので、ちょっと感動する私がここにいる。

 陽光に照らされ、黒々とした鱗が綺麗に反射し、腹の方は血のように赤くなっていた。

 王子から聞いた壁画の、そして私が前世から思い描いていたモノそっくりな竜がそこにいたのだ。

 向こうもこちらに気が付いたのか、スノーを追うようにその大きな首を少し動かしている。


「くっ、私とオルトアギナの有意義な話し合いに水を差すような真似をしよって」


 忌々しげにこちらを見上げる司祭の姿が確認できた。ひとっ飛びの私と違ってここまで徒歩で来たのだろうか、随分時間が掛かったろうにご苦労なことで。


「有意義な話し合い?」


 大事な話でもしていたのか邪魔したようなのでとりあえず確認してみる。内容によっては「うちの駄豹がご迷惑を」と謝罪する所存ではある。まぁ、あくまで内容によってはってだけで、司祭が行った今までの悪逆を許すつもりはない。


「フンッ、そうだっ! 我らの、いや、聖教国が目指す理想。神に愛されし我らが神の領域に至るための計画だよ。リベラルマテリアも合成獣もその理想を目指した結果だ。ここにオルトアギナの知識と技術が加われば、我らはより一層理想に近づける。神はそれを待ち望んでいらっしゃる、だから封印を解いて、私をオルトアギナに引き合わせてくださったのだっ!」


 自分の計画が頓挫し続けたせいで頭のネジが飛んでしまったのか、司祭の突拍子もない理想を語られても私の心にはなにも響いてこなかった。


「どちらかというとあの状況から考えて、封印を解いたのはオルトアギナ本人じゃないかな~って」


 ただ、一つ理解できたのはスノーと意見しあった封印の件だけで、だからか考えなしに私はその話を司祭にも投げかける始末。


「フッ、お前は馬鹿か? 自分達が神に認められなかったからと苦し紛れな理屈を述べよって。それではオルトアギナは封印を自由に操れると言うことではないか。なら、なぜ封印され続けているのだ。これだから、頭の悪い愚民は困る」


 司祭は呆れたように私を鼻で笑ってきた。だが、確かにその点を言われると私としては返す言葉もないので、私としては「どうなのよ?」と本人である竜を見る。

 竜はというと、なにも答えずただただ興味深そうに瞳を薄めて私だけをずっと見ているように思えた。

(いや、気のせい気のせい、それは私の考え過ぎよ。うん、だからこっちをガン見しないでください、お願いします)

 竜の凝視に堪えかねて、私は逃げるように視線を泳がせる。それが司祭には私が彼の話にキョドっているように見えたのか、ご満悦そうに態度を大きくしていった。


「やれやれ、我らの崇高なる計画も理解できず邪魔をする愚民などお帰り願おうかな。オルトアギナとの話はまだ……いや、帰す価値もないか。このままここで消し去ってしまうというのもありだな」


 そして、なんだか物騒なことを言い始める始末である。

(私にワンパンされたのに、なにを言っているのだこの人は?)


「さぁ、オルトアギナよ。我らの崇高なる計画に参加できる喜びを神に感謝し、我らの邪魔をするこの魔女を滅ぼせっ! 我らに再び封印されたくはないだろうっ」


(あ、なるほど、そう来たか)

 声高らかに司祭が言うと、今まで動かなかったオルトアギナが動き出した。

 どんな思惑あってのことか知らないが、オルトアギナは司祭が言うような彼らの計画とやらに荷担する気なのだろうか。空中に浮かぶ、私とスノーに緊張が走る。


「フハハハハハハッ、我らに逆らったことを後悔しっ」


 グチャッ


 嬉しそうに笑い、私達を侮蔑した目で見る司祭の姿がオルトアギナの大きな足に隠され、嫌な音と共に見えなくなった。

 オルトアギナが進路上にいた司祭をなんの躊躇もなく、踏み潰したのだ。

 あまりのあっけない司祭の最期に、私の理解が追いつかずポカ~ンと口を開けて眺めたままになる。


『ん、なにか踏み潰したかな?』


 足を止め、口が動いているようには見えないが、オルトアギナの言葉が私にも理解できる言語で流暢に聞こえてきたことで、やっと私の思考が再起動できた。


『静かになったし、まぁ、良いか』


 その声質は男性に近いように聞こえて、私は勝手にオルトアギナを男の人なんだぁと決めて驚く。

(まぁ、竜の雌雄の区別なんて私には分からないから気にしないでいこう。それよりも、なんとも助かる才能の持ち主で良かったわ。もしかして、竜語でさっきからずっと語りかけていたのに私が分からず無視してて、オコだったとかだったらどうしようと、一瞬考えちゃってたのよね)

 ホッと肩の力を抜き、先程までの緊張を解す私。だが、それは早計だったと彼の次の言葉で思い知る。


『さて、観察再開のための準備を始めるとしよう』

「観察?」

『そうだとも。封印が我の自作自演だと看破したそなただからこそ、あえてここへ来たのだろう』


(だろうと言われても困ります。というか、あの封印は自作自演だったのぉぉぉっ!)

 オルトアギナの自白に内心驚きを隠しきれない私を置いて、彼はさらに話を進めていく。


『今、かの者達の心の支えはそなただ。それを我に滅ぼされ、封印が解けた我を見て、かの者達はどう反応し行動するのか。とても興味深い。今までは我に依存していたかの者達が反旗を翻し、我を失ってどう行動していくかを長い年月観察してきたが変化が乏しく、つまらなかったので今回の件はとても興味深かったのだ』


 ペラペラととんでもないことを暴露していくオルトアギナに、私は聞いて頭の中で整理するのがやっとだったので、ひたすら聞き専になっていた。


『本来なら、町のど真ん中に行って皆に見せつけようと思っていたが、そなた自らあんな派手に登場されては、ここで迎え撃つしかなくなってしまったぞ。カカカッ、町の被害を考えた末の強行だろう』


(いいえ、それはスノーの暴走です)

 未だ整理が追いつかない私は、そんなことすら口にする余裕もない。

 つまり、カイロメイアの過去に起こったことの大半はこの竜の考えというか実験であって、彼らはそれに踊らされていたということだろうか。

 身に余るほどの高度な技術と知識を提供され生活する中で、突如、非人道的な行為に及ばされた住人は、反旗を起こし、竜を封印した。

 それは全て彼がそう仕向けたに過ぎず、封印システムだって彼が作ったモノであり、シータの一族は彼に最初から掌握されていたということだろう。

 その後、彼らの技術や知識が受け継がれていかなかったのも、技術を上手く使えなくなったのも、もしかしたら彼が密かに没収していったのかもしれない。そうなっていってどうなるか、そんな興味本位から……。

 そう思うと、カイロメイアはこの竜の思いつきに振り回されているだけの存在なのではないだろうか。どこまで行っても、竜にとってここは自分の知識欲を満たすための実験場ということだ。

 その時、自分の不甲斐なさを押し隠し、元気に前を走るシータ、ボロボロになりながらもそれでもシータを思い行動するレイチェルさん、町の混乱をなんとしても解決しようと奮闘する氏族長や町の人。そんな人達の顔が私の脳裏に過ぎっていき、煮え切らない思いが沸々と沸き起こってくる。

 こいつの思い通りになど絶対になってはいけないと、私の心が訴えてくる。

 だからっ。


「あなたの思い通りにはならないわ。あなたの愚行も今日ここまでよっ!」

『よく言った、メアリィ! こんなクズドラゴン、懲らしめてやれぇぇぇっ!』


 心のままに私は目の前の巨大な存在に啖呵を切り、それを称賛するようにスノーは声を上げ、竜に向かって走り出す。


『カカカカカカッ、良いぞっ良いぞっ! ならば見せてみよ、我が知識の外側をっ!』


 私の啖呵に、心底嬉しそうに声を上げるオルトアギナは、その口を大きく開ける。

 すると、そこに光の粒子が集まっていくのが見えた。


『メギド・フレイムッ!』


 オルトアギナの言葉と共に、カッと開いた口が光りそこから収束された熱線がレーザー光線のように掃射された。

 突っ込んでいたスノーがそれを間一髪のところで躱す。

 すると、その光線は私の後ろ、塔の壁に当たり、大爆発した。

 その威力はとてつもなく、一発で塔の半分が剥き出しになる。

 そこから町の風景が見えたとき、私はゾワッと粟立った。

(あれを町に向かって放たれたら、皆がっ)


「スノー、上空へっ!」


 私の言葉に従って、スノーが剥き出しになった壁を越え、外に出るとさらに上へと駆けていった。


『どうした、逃げるのか? それではつまらないぞ』


 私達を追って、オルトアギナが塔から姿を見せると、上空を見上げ、その後なにを思ったか町の方を見る。


『カカカッ、来ないのなら、そなたの望むようにしてやろうっ』


 私の危惧していることを察知して、オルトアギナは小馬鹿にするように町に向かって口を開け、私を誘ってきた。


「誰も望んでいないわよっ! スノー、私をあいつに向かって、全力で投げてぇぇぇっ!」

『やっぱ、このパターンなのねっ!』


(思惑に乗ってやる。でも、あなたの思い通りになるとは思わないことねぇぇぇぇぇぇっ!)


『いけぇぇぇっ、メアリィィィィッ!』


 私とスノー、二人の力で私は跳び、竜に向かって突貫する。


『カカカッ、愚か、愚かっ! メギド・フレイムッ!』


 待ってましたと、竜は開けた口を私に向け、熱光線を掃射した。

 私は勢いを殺すことなく、そのまま熱光線に向かって蹴りの体勢で突っ込んでいく。

 以前、魔法少女の偽メアリィを見ていた者がここにいたのなら、こう呟いただろう。

 

――あれは、魔法少女プラチナハートSR 必殺の『アトミック・サンダーボルト・キックだっ』と。

 

 目の前が真っ白になって眩しく、自分がどこに向かっているのか分からないが、それでも私の蹴りは、熱光線を二つに裂き、竜との距離を縮めていく。


『そんなバカなぁっ! たかが人族風情にそんなことがぁぁぁっ!』


 予想外の光景にオルトアギナが叫ぶと、その熱光線が途切れ、目の前が開かれる。


「完全無敵をナメるなぁぁぁぁぁぁっ!」


 そして、私はそのままオルトアギナへと向かってその蹴りをお見舞いするのであった。


『ゴボアァァァァァァッ!』


 オルトアギナのくぐもった声が町に響き渡る。

 相手は竜なので、手加減なしに繰り出した私の蹴りは、オルトアギナの胸にヒットして、そのまま勢いは衰えることなく下へと突き進んでいく。

 結果、なまじ固い体のオルトアギナは私の蹴りを受けたまま、足下の大書庫塔を突き破り、物凄い勢いで地面に叩きつけられるのであった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] おそらくこの世界のカースト最上位に近い竜相手に蹴り一蹴とビンタ一発で瞬殺・・・ コミック版の盛り上げがマジに大変な気がする・・・
[一言] やはりレベルが高い物理は強い
[一言] ここで魔法少女プラチナハートSRか!熱いぜ! メアリィ様、結構気に入ってるんじゃ
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