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月見草祭り

ブックマーク・評価などありがとうございます。

 そこは私が想像していた縁日とは違って、どちらかというと野外市場っといった感じだった。


「いろんな屋台があるのね」


 私は人の多さに緊張しつつも、いろんな品物が並べられている屋台達に興味津々だった。


グゥゥゥ~…


 キラキラした瞳で屋台を見つめていた私に水を差すような腹の音が後ろから響いてくる。


「ザッハ…あなたって人は…」


「悪い、悪い。何か美味しそうな匂いがしてきたんでつい…」


 ザッハとマギルカの話を聞きながら、レディとしてはちょっとアレだけど私はクンクンと匂いを嗅いでみると、確かに何やら美味しそうな匂いがするではないか。


(…お肉の焼ける良い匂い。やばっ、私もお腹すいてきちゃった)


「確かに…お肉かしら?」


 私は匂いの発生源をキョロキョロと探し始める。


「あそこみたいだね」


 王子がお目当ての屋台を見つけて、指を差した。そこでは串に刺さった数個の分厚い肉を火で炙っているようだ。何とも美味しそうな匂いにつられて私はフラフラとそちらに引き寄せられてしまう。


「いらっしゃい、食べていくかい?」


 火を前にしている所為か、店のおじちゃんは汗びっしょりになりながらもニカッと笑って迎えてくれた。


「先日の件もありますし、ここは私が払いますから皆さん、好きなだけ食べてください」


「マジで!じゃあ、おじちゃん!俺に3本ちょうだっ」


 言った側から調子に乗って私の横に出て大量注文しようとするザッハの足を澄ました顔で踏みつける。


「店主さん、5本くださいな」


「はい、まいど」


 その光景を見ていたおじちゃんは苦笑いをこぼしつつ、5本の串を用意する。それを受け取ると、私は皆に配っていった。


「レイフォース様はこのような庶民の食べ物で…よろしかったでしょうか?」


 王子に渡す際、今更ながらに気がついて聞いてみた。


「ああ、問題ないよ。むしろ、美味しそうな匂いだからぜひ食べてみたいと思っていたくらいだ」


 屈託のない笑顔で彼は串を受け取ってくれた。ホッとした中、私は支払いを済ませたテュッテにも串を渡すと、彼女はポカーンとした顔で私と串を交互に見ている。


「え?私の分ですか?」


「そうよ、当たり前じゃない?」


 なにをそんなに驚くのかと、私は首を傾げて串をさしだしたままでいる。


「おや?テュッテは食べないのか?だったら俺に」


「あなたは黙ってなさい」


 それを見ていた目ざといハイエナが餌を求めて近寄ろうとしてマギルカに抑えられる。


「でも、私は…従者で…」


 何やらモゾモゾと戸惑っているテュッテの言葉に私は彼女の立場をやっと思い出した。だからといって、私は串をさしだすことをやめたりしない。


「従者であると共に、あなたは私の大事な親友でしょ?」


「お嬢様」


 私のとびっきりの笑顔に吸い寄せられるようにテュッテは顔をあげて、串を受け取ってくれた。それを見て、咎める人間なんてここにはいない。だって、ここ数年、私達は5人で行動していたのだから。


「ところで、これはどうやって食べるのかな?」


「ナイフとフォークがありませんので、別荘に戻らなくてはいけませんね」


 などと、王子とマギルカが不思議そうに持っていた串を眺めながら言う。


「これは、こうしてそのまま食べるのよ」


 そう言うと私は前世の記憶にあった焼き鳥を食べるように、何の迷いもなく串にあるお肉の一角に少しだけかぶりついた。


「メッ、メアリィ様!」


 その所業に驚いて声をあげたのはマギルカだった。


(確かに、令嬢としては、あるまじき行いだったわね…)


「あっ、美味しい…」


 お肉は意外と柔らかく、すぐに噛み切れて、モグモグと小さな口を動かして呑み込む。私の行動を見ていたザッハが思いっきり肉にかぶりついた。


「あっ、ほんとだ、これは旨い」


「ザ、ザッハまで」


 信じられないと言った顔でマギルカがザッハを見ると、王子はハハハッと困った笑顔を浮かべつつ、意を決して自分もかぶりついてみせた。


「でっ、殿下!」


「…うん…食べ方はアレかもしれないけど、なかなか美味しいよ、これは」


 満足そうに食べる王子を見て、マギルカも決心したのか空いた手で口元を隠しつつ、パクッと食べてみる。


「あら、ほんと…ほどよい油でおいしいですわね、これはなんのお肉なのかしら?」


 私は知らないのでテュッテの方を見てみる。彼女は庶民出なのでこういった事は知っているのではないだろうかと思ったからだ。そのテュッテはというとさっきから串をじっと見ているだけで食べる気配がない。


「テュッテ、これが何のお肉か知ってる?」


 そう何気なく質問すると、彼女はちょっと青い顔を見せつつ微笑んで言った。


「これは…ジャイアント・スネークの肉です」


 その時、4人の時間が凍り付いた。



―――――――――


 気持ちを切り替えて私達は残りの屋台を練り歩いた。

いろいろ買い物をして、気がつけば日が暮れ、辺りが薄暗くなっていく。


「気付けばすごい人ね…いつの間に集まったのかしら?」


 私は改めて村の中心にある広場を見下ろせる場所に移動し、その数に驚愕していた。昼間訪れた時の倍以上はいるだろう。カップルっぽい人たちも多く見られる。そんな人たちがまだかまだかとその時を待っていた。


「殿下、こちらにいましたか」


 私達がボ~ッと辺りを眺めていると、後ろからクラウス卿が近づいてくる。シレッと今見つけましたみたいな感じで言っているが、私達が村を訪れてからずっと、至る所で騎士達が待機していたので、私達の行動は常に把握されていただろう。

 ちなみに、村に騎士達がうろついていても、誰も変に思わなかったのは、その前にモンスター騒動があったおかげで、「ああ、警護していてくれているんだな」と思われていたからだ。王子がこの村に来ていることを知っているのは私達と、村長夫妻だけである。


「クラウス卿、何かあったのかい?」


「いえ、問題なんてありませんよ。それより、村長がぜひ殿下に月見草の開花を見る最初の人になっていただきたいとのことですが、どうしますか?」


「僕だけかい?」


 その質問にクラウス卿は察したのか、ニカッと強面の笑顔を見せる。


「もちろん、皆さんでっとの事です」


「そう…じゃあ、行こうか」


 そう言って王子は、自然と私の前に手を差しだした。まるで社交界でダンスを誘うような感じで…


「え…あの…」


 あまりの自然すぎる素振りに私は戸惑ってしまい、手をさし出したり、引っ込めたりを繰り返してしまう。おっかなびっくり王子の手に自分の手を乗せると、彼はその手を優しく包み込んできた。

そして、私はそのまま王子にエスコートされるような形で月見草の群生まで歩いていくこととなった。


――――――――――


 辺りは完全に日が沈み、月明かりだけが地表を照らす森の中を私達は歩いていく。

私はというと、そんなの気にしている場合ではないくらい、心臓がバクバクいって、顔を真っ赤に俯いて歩き続けていた。

途中、村の人や騎士の人、従者の人たちを横切っていくが、彼らは皆、なんか素敵なモノを眺めているような顔をしている。だが、私にはそんなの気にしている余裕はない。


(荒ぶる鼓動よ、鎮まりたまえぇぇぇ…鎮まりたまえぇぇぇ…)


 数分後、下を向いていた私ですら、前方が光っていることに気がつくほど、何かが光り輝いていることに気がつき、そのまま頭を上げた。

 そして、息をのむ。


 森が開けたそこは、真っ白だった。花が白いのもさることながら、開いた花びらが光を発していたのだ。


「…きれい…」


 誰が言った台詞なのか分からないくらい、私達は同時に言葉を発し、そして見とれている。

王子が添えていた手を離してくれて、私はそのまま花畑に近づいていくと、それを迎え入れるかのように、一輪、また一輪と開花していった。


「光り輝く真っ白な花畑と、純白のキミはとても似合ってるね…まるで妖精のようだ…」


 王子の台詞に私は振り返る。例のアレが発動したのかと思ったがそんな感じがしない、王様の真似ではなく彼自身の言葉なのだからだろうか。それとも、初めて会った時とは雰囲気が違っていた彼だからだろうか。


「マギルカ、ザッハ」


「「はい」」


 自分の後ろに控えていた二人を頭だけ動かして見ると、二人は近づき返事をする。


「メアリィ嬢」


「は、はい…」


 再び頭を戻して、私を見てくる王子は何となく、いつもの優しい感じとは違って何か威厳が籠もっている感じがする。


「僕はキミ達に約束するよ。このアルディア王国の皆が笑顔で居続けられる国の王になってみせるって」


 突然の告白に私は固まってしまう。いや、見とれてしまったのか。

それほどに王子は格好良かったのだ。


「だから、キミ達の力を僕に貸してほしい、これからも側について僕を支えて欲しい」


 ザッハはそのまま片膝をつき、マギルカはスカートの裾を握って最上級の礼をとった。


「もちろんです、殿下」


「ああ、もちろんだぜ」


 三人とも様になっているのに、私はというと、ただただ呆然と立ち尽くしてしまっていた。


(何か言わなきゃ、私も礼をしたほうがいいよね)


 アワアワしている私を、微笑みながら見守る王子と目があって、私の思考がショート寸前になる。


「でもさ、王子。俺は将来宮廷騎士になるからいいし、マギルカは宮廷魔術師になるからいいけど、メアリィ様はどうやって王子の側にいるんだ?あっ、そうか、后か!それなら納得だぜ」


 私達の微妙な甘い空間に、ザッハの無粋な質問が飛んできて、辺りが一気に凍り付いた。

 いち早く反応したのはマギルカで何を想像しているのか分からないが顔を赤くして「え?えぇ?」と後ずさると、周りも動き出す。


「え、あ…いや…」


 王子も深く考えていなかったのか、ザッハの言葉に顔が赤くなっていくが、それを越えるように私の顔も紅潮していた。


「ち、ちがっ!そんな意味で、言ったんじゃなくてっ」


「ニャあぁぁぁぁッ!」


「えぇ!あっ、お、お嬢様、お待ちをぉぉぉ」


 近づく王子を見て、私はマックス紅潮した顔を両手で隠し、変な奇声を上げて失礼極まりないことに脱兎のごとく逃げ出してしまった。

まさか逃げ出すとは思わなかったのか、テュッテが慌てて私の後を追いかけると、後には微妙な空気が漂うだけになってしまう。

 一部始終をみていたクラウス卿はヤレヤレといった感じで頭をかきながらこの空気を作ったKYやろうの頭をどついた。


 こうして、波乱の月見草祭りは今度こそ幕を閉じるのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。メアリィ様幼少編はこれにて終了、続いて学園編へ突入予定…です…たぶんですけど

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[一言] まさかの、猫娘!
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