表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
208/282

オルトアギナとは……


 シータが目を覚ましたのはあの出来事から一時間ほど経過してからだった。

 司書長室で目を覚ました直後に近くで見ていたレイチェルの怒濤の身体チェックの嵐に驚きつつも、そこまで心配してくれた義姉の想いに不謹慎ながらも嬉しく思った。

 なにか不調はところはないかと聞かれたが、至って問題はなく、強いて言うなら書と向き合った後、自分の身になにが起こったのか、シータはよく覚えていなかったことの方が気になっていた。

 そこで、レイチェルから簡単に説明を受けて、自分が謎の現象によって倒れたことを理解する。

 と、そこでマギルカ達が意識を取り戻したと聞いて、お見舞いに来てくれた。

 レイチェルから話を聞いて、自分を助けてくれたのはメアリィらしかったので、まずはお礼が言いたく、彼女を探す。

 だが、メアリィの姿はなかった。

 どうやら、メアリィは卵の件やリグレシュの件で義父が話を聞きたいと呼ばれたようだ。

 メアリィもすぐに戻るとマギルカ達に伝え、呼びにきたシェリーと一緒に出掛けたらしい。

 彼女は常に先へ先へと休むことなく動いているのだなとシータは、メアリィの行動にはなにかしらの目論見があるのだと勝手に勘ぐる。

 まぁ、実際のところはオルトアギナの書の結界を難なく突破したことについて聞かれると答え辛いので、一旦離れて話を有耶無耶にしようと考えた浅はかさから来たものだが、そんなことシータには知る由もなかった。

 後、テュッテと精霊も彼女に付いていったようだ。


「お元気そうでなによりですわ。危険な書というのがどういったものか、体験させていただきました。皆さん、あんな危険な体験をしてでも解読に挑んでいるのですね」

「ええまぁ、知識への探求心が強くて、危険を省みない人が多いもので」


 マギルカから驚き誉められて、悪い気がしなかったシータはえへへと照れ笑いをしながら少し他人事のように答える。


「それはシータも同じことよ。とはいえ、オルトアギナの書があのような反応をするなんて予想外だったわ」


 レイチェルがシータを窘め、件の書を皆に見せる。

 シータは先に起こった出来事に臆することなく、レイチェルに貸して貸してとせがむように両手を彼女の方へ差し出した。

 そんなシータに嘆息しながら、レイチェルは自分が今まで問題なく持っていたのだから大丈夫だろうと思いつつも、シータだけにはなにか反応するのではないかという一抹の不安から、ゆっくりと彼女に渡してみる。


「……これは、我、オルトアギナが残した全てへの道しるべ……」


 書を手にした瞬間、シータはボソッとそんなことを口にして、自分でも驚いた。


「それはおそらく、この書の冒頭の文章でしょうね。仮面の男もそれを読んで確信したのだと思うわ。オルトアギナ……カイロメイアの創始者であり、その書はかの人へと至る道しるべ……というところかしら」

「では、シータさんが口にしていた封印解除というのは?」


 シータが自分に驚いていると、そうとは気付かずレイチェルとマギルカが先に起こった出来事を振り返り、シータへ質問してくる。


「ふぇっ? 私、そんなこと言ったっけ?」


 マギルカの質問にシータは、これまた身に覚えがなくて素っ頓狂な声を出した。


「シータはあの出来事を覚えてないのよ。だから、言葉の意味は分からないと思うわ」


 シータに変わってレイチェルが答える。


「それでは、あの光から浮かんだ風景も分からないということですね」

「風景ねぇ……それなら、お義姉ちゃんが分かる、とか?」

「確証はないのだけど、おそらくこの前リグレシュが集まっていた地下墓地のような気がするわ」


 レイチェルの答えにシータはなるほどと相槌を打てるほど、地下墓地への記憶がない。なにせ、今日までそこの存在すら知らなかったのだから無理はないだろう。その点、レイチェルは一度見ただけでそんなに細かく覚えているのかと驚くと共に、少しモヤッとして、シータはその気持ちをすぐに仕舞い込んだ。


「地下墓地ね。近くにあるから、確認がてらちょっと見て来ようかしらっ!」


 シータの中にある探求心がそうさせるといえばそうなのだが、それよりもなにか別の要因が自身を駆り立てているような気がしてならない。だからといって、ここで寝転がってても、疑問は解決しないままで悶々としているだけだ。

 ならば、考えるより行動あるのみ。

 シータはどちらかというとそっち派なので、ソファーから勢いよく飛び起きると、大書庫塔の出入り口へと目指すのであった。

 

 

 

 大橋の下、隠し扉に到着した一行はそのまま中へと入っていく。

 前回もそうだったが、入り口が狭いので神獣様達は王子と一緒にお留守番となっていた。


「確かに……ここの風景と似ているような気がしますね。この地下墓地のどこか、ということでしょうか」


 マギルカが見回しながら確認してくるが、シータは覚えていないので首を傾げるしかない。


「皆は風景を見たんだから、手分けして探してみる?」

「いえ、この墓地は結構広いから地理に疎いと迷ってしまうわ」

「あ、そっか」


 なに気なくシータが提案してみれば、すぐさまレイチェルが異を唱えてきた。なるほどねと納得してはみたものの、そんなことを言うということはレイチェルはここに疎くないということかと、ふと思うシータであった。


「場所かぁ……もぉ~、不便ね。提示したんなら地図くらい用意してくれても良いじゃないかしら」


 などと、不貞腐れながらオルトアギナの書を眺めてみれば、仄かに書が光ったかと思うと、シータの脳裏に地図のようなモノが浮かび上がる。


「シータッ、シータッ!」


 遠くの方でレイチェルに呼ばれた感じがして、ハッと意識を現実へ戻すシータ。


「え? な、なに、お義姉ちゃん」

「なにじゃないわよ、大丈夫なの? 急に書を広げてボーと立ち尽くしているから、どうしたのかと驚いちゃったじゃない」

「……なんとなく、シータさんと鍵、そして書が共鳴していたように見えましたが、なにかありましたか?」


 驚くシータに、慌てた素振りのレイチェルと冷静に様子を伺うマギルカ。


「ん~、あったというかなんとなくだけど、場所が分かったような気がするの。付いてきて」


 そう言うと、シータは先頭に立って歩き出す。

 そして、数十分後。

 自分でも驚くくらい、目的の場所へと皆を導くのであった。


「ここでぇ~、合ってるぅ……のかな?」

「……こんな所にこんな場所があったなんて……」


 ここが映像とやらの場所なのか些か自信がないシータを余所に、レイチェルが一人、驚き呟く。

 その場所は、祭壇を彷彿させ、なにかを祀っているように見えたが、それがなんなのかはひどく壊れていてよく分からなかった。

 おそらくはかつての住人達が、死者のためになにかを祀って作ったものだろう。しかし、風化というよりは意図的に破壊されたという感じがして、シータは気味が悪くなってくる。


「ん~、ここに似ているけどさ。俺の記憶違いじゃなければ、確か下へ降りる階段がなかったか?」


 ほんの数分映った場所なのに、ザッハはそこまで記憶していたらしく周辺を見ながら皆に聞いてくる。

 と、なぜか自然と皆の視線がシータへと集中するのであった。


「え、え~とぉ、きっとここになにかあるはずよ。ちょっと探してみよう、かな~……」


 なにも思い浮かばないシータは空元気で笑ってみせると、とりあえず探索するよう皆に提案してみた。

 つくづく自分はマギルカやメアリィのように、堂々と、あるいは影ながら人を導くような人物ではないなと苦笑する。


「すみません。これって、大書庫塔にあった鍵穴ではないでしょうか?」


 探索を開始してまもなく、サフィナが誰に言うわけでもなく話し出したので、皆がそちらへと顔を向け、寄っていく。

 崩れた祭壇の後ろの一部がサフィナによって取り外されて、そこからよく見る鍵穴が露出していた。


「うぐぐ、ここに来てまさかの鍵穴チャレンジが待ってるなんて……どうしよう、鍵の形状が特殊だわ」


 もう何度も挑戦しているものだから、これが特殊な鍵を有する扉か一目で分かってしまう自分に歯痒さを感じつつ、ここまで来たのにと自分の無力さにシータは憤りすら感じてしまう。

 こんなだから私は影で役立たずと言われるのだと過去の自分となにも変わらない自分に気持ちがどんどん自棄になっていく。

 持っていたオルトアギナの書に力が籠もると、書がそれに応えるように光り出す。

 そして、書が勝手に開くと続いてシータが持っていた鍵が反応し、形状が勝手に変形し始める。

 いや、勝手ではなく、書から流れていくイメージがシータを媒介に鍵へと送られているのだ。実際、シータも送られてくる鍵の形状を理解している。

 そして、変形し終わった鍵を穴へ差し込めば、ぴったりはまり、解錠に成功していた。

 ゴゴゴッと地鳴りが部屋一杯に響き渡り、祭壇がスライドして、下へ降りる階段が姿を見せる。


「で、できた……す、すごい、これがオルトアギナの書。も、もしかして、大書庫塔の扉、全てを網羅しているんじゃないかしら」


 驚きの事実に打ち震えながら、シータは更なる可能性に興奮を隠せないでいた。


「やったわね、シータ。もし、それが本当なら、これで司書長としての役目を果たせるじゃない。もう、誰もあなたを陰で嘲る者はいなくなるわっ!」


 レイチェルはシータの言葉を聞いて、今までで一番の笑顔を見せて本音を吐露してきたので、シータはなにも言えず苦笑する。

 表向きは仕方がないと同情してくれた周りの皆も、やはり内心では憤りを感じていたのだろう。今まで当たり前のように開けられていた扉が、突然シータの代で開けられなくなったのだから。

 そんな彼らの黒い部分は仕方がないと甘んじて受け入れていたが、レイチェルはシータと違って看過できなかったのだろう。

 もしかしたら、シータがちゃんと仕事ができるようにあらゆる可能性を模索していたのかもしれない。

 例えば、過去を求める集団とか……。


「それで、どうするんだ。このまま下りるか? いったん戻って準備を整えるか?」


 レイチェルの喜びようにシータはこれ以上彼女に落胆させてはいけないなと決意を新たにしていると、ザッハが下へ下りる階段を覗き込みながら皆の意見を求めてくる。

 シータは無意識にマギルカの方を見ると、彼女は首を横に振る。おそらく、慎重に行こうと判断しているのだろう。

 本来なら、尊敬する聖女であろう彼女の考えをくみ取り、いったん戻る選択をとるはずのシータだが、今回はなぜかこの下は安全だという気持ちが大きかった。


「このまま下りてみよう。オルトアギナが私達を導いているような気がするわ」


 シータはザッハの質問に答えると、そのまま先陣を切って下へ下りる。

 持っていた明かりに照らされ、真っ暗な空間が次第に照らされていった。

 階段を下りきった廊下の先、そこは大きな部屋だった。

 なにもなくただただ広い部屋。

 だが、その前方の壁が照らされたとき、一同は釘付けとなる。


「……なに、これ……」


 そこには大きな壁画が描かれていた。


「状況から考えると、おそらく古代カイロメイアについての壁画……かしら」


 シータの呟きに、側にいたレイチェルが答える。

 いろいろな情景が描かれている中、シータは中央に一際大きく描かれた壁画に釘付けである。

 それは耳の長い種族の者達が膝をつき、天を仰ぐように祈りを捧げ、その先には大きな塔。そして、その上には――。

 

 大きな一匹の竜の姿が描かれていたのだ。

 

 とそのとき、シータの脳裏に書を手にしたときに見たあの黒い巨影が横切る。

 なぜかは分からないが、背筋にゾワゾワと悪寒が走り、冷や汗が流れ落ちる。

 驚くことに、身に覚えのないことに恐怖する自分がそこにいた。

 それは、本人の歴史に関係するのではなく、もっと根幹にある、そうまるで遺伝子に刻まれているかのような反応だった。

 横目でレイチェルを見てみれば、彼女もまたシータ同様、冷や汗を垂らして壁画に釘付けである。


「随分と古い壁画ですね。中央に描かれているのは竜、でしょうか。構図からしてこの竜が、エルフ達に崇められている、と捉えても間違いなさそうですね」


 冷静に周りを見回しながらマギルカの声が部屋に響く。どうやら、彼女達はこの正体不明な恐怖を感じている様子はなかった。


「マギルカさん、見てください。部屋中、壁画で一杯です」


 サフィナは皆から離れると、前方以外の壁を照らす。そこには、構図の違う壁画が描かれていた。どれも、竜が中心に描かれている。

 改めてシータは壁画に描かれた竜を見た。

 その禍々しさを表すかのような真っ黒な外皮に、内側の首から腹にかけての部分は血のような真っ赤な色をしていた。背中からは全てを包み込むかのように広げられた大きな二枚の翼が描かれている。

 二本足で立つその姿はその下に描かれた大きな塔に負けないくらい大きかった。

 シータは無意識の内に、フラフラと壁画へ吸い寄せられるように近寄っていく。

 なぜ触れたのか、後でシータは問われても分からないと答えるしかないくらい、まるで誘われるかのようにシータが壁画に触れた。

 次の瞬間、指先と壁からバチッと魔力の光がスパークし、書がバサッと勢いよく開く。


「シータ?」


 シータの様子がおかしいと感じたレイチェルが彼女に声を掛けて、近寄ると、この光景を見て硬直する。

 彼女は開いた本を持ち、光る鍵を首に下げ、またしてもフルフルと体を震わせ、なにかを見て驚くように目を見開いていた。


「シータッ!」


 異変に気がつきレイチェルが叫ぶと同時に、シータの瞳からフッと光が消え失せる。


「……フウイン……ダイニダンカイ……カイジョ……カクニン」


 感情のないシータの言葉に続いて、鍵から放たれる光が壁画の中心に当たり、編み目のように光の線が壁一杯に広がっていく。

 すると、ゴゴゴッと地鳴りが響き渡り、壁画の横に石碑が迫り上がってきた。


「シータッ!」


 先の事件に酷似した展開に、レイチェルは再び彼女に駆け寄るとその体に触れようとする。

 先と同じなら、ここで障壁のようなモノが生じて、弾かれ近寄れないはずだったが、今回はレイチェルを阻む壁は生じなかった。

 なぜそうなったかなど、今のレイチェルにはどうでもよく、そのままシータの肩を掴んで揺さぶってみる。

 本来の結界はすでにメアリィによって機能不全に陥っているなどここにいた者達で気がついたのはマギルカだけだろう。


「シータッ、止めなさいっ! 正気に戻ってっ!」


 揺さぶる力が強くなり、ガクガクと体を揺さぶられると、シータの瞳から徐々に光が戻っていく。


「……お、ねぇ……ちゃん」

「素晴らしいっ! これこそ、キミ達が求めていた古代カイロメイアの真実ですよっ」


 シータの声を聞いてホッとするのもつかの間、一同の後ろから男の興奮した声が響き渡り、皆がそちらへ振り返る。すると、そこには司祭の服を着た男が立っていた。


「トーマス司祭?」


 最初の頃に会った彼はとても物静かなイメージだったので、大声を上げる彼を見てマギルカは違和感を覚える。


「おお、おおぉ、竜、竜だ。やはり、古代カイロメイアは竜に支配されていたのですね」


 マギルカの問いに気がつかないほど司祭は興奮し、壁に描かれた絵を食い入るように見回していた。

 そして、皆に読み聞かせるかのように石碑に書かれた文字を読み上げ始める。

 

 

 

 太古の時代。

 一匹の竜がこの地に舞い降りてきた。

 辺りの森を吹き飛ばし、大地を抉り、中央に佇むその竜の名は――。

 オルトアギナ。

 全てを知りたいと欲する、知識欲の塊。

 目覚めた彼は世界について、様々なことを探求し、知見を広めていった。

 それからどれほどの時間が過ぎたのだろう。

 ある日、オルトアギナが気がつけば、自身の周囲に一つの種族が集まっていた。

 この森に誕生したダークエルフである。

 彼らは、オルトアギナのその知識と力に惹かれ、崇拝してきたのだ。

 オルトアギナにとって、彼らは得体の知れない存在であると同時に知りたいと思う存在となり、共にこの地で生活するようになった。

 後にこの場所を、カイロメイアと呼ぶようになる。

 

 

 

「……それが、カイロメイア誕生の事実。私達の知識と技術は元々、竜から得たものだったのね……」

「もしかして、大書庫塔の中央が無駄に広かったのは……」


 壁画に描かれた絵と文字を参照し、たどり着く結果に驚愕するシータとレイチェル。

 そんな彼女達を一瞥し、司祭は別の壁画と石碑を読み進めていった。

 

 

 

 時が過ぎ、知識欲の牙は次第に住人へと向けられていった。

 知識への探求と称した人体実験が行われ始めるのに、それほど時間はかからなかったのだ。

 その存在を竜に知られなかったら平穏に暮らせていたものを、彼らは竜の貪欲さを甘く見ていたのだ。

 かの竜に、住人が持つ倫理などない。

 その結果、カイロメイアの住人は、オルトアギナの実験対象となった。

 

 

 

「……わ、私達が……実験対象……」

「……もしかして、この古代地下墓地の広さと遺体が多かったのは……」


 司祭から耳を疑うような話を聞いて、シータは真実が呑み込めずにただただ復唱し、レイチェルはなにかに気が付き辺りを見回している。

 どんなに理解できない、いや、したくない事実だろうと、目の前にある絵と文字がシータに過去の事実を突きつけてくる。

 そして、自分達が外のエルフ、もしくは同族であろうダークエルフ達と資質が違うことに納得させられた。

 自分達は竜によって作り替えられたのだと……。


「ククッ、フハハハッ、これです、これですよっ! あの装置はこの実験で使われた装置の一つだったのですねっ! 素晴らしい、実に素晴らしいっ!」


 愕然とするシータ達を尻目に司祭が興奮して叫ぶ。が、その内容の一部に疑問を感じるマギルカだった。


「あの装置?」

「おっと、興奮のあまりつい口が……。クククッ、細かいところによく気付く。やはり、お前達がいるのならもっと気を配るべきだったかもしれないな」


 マギルカの指摘に興奮気味だった司祭がスッと冷静に戻ると、そのまま彼女を見て反省する。司祭はマギルカ達を、いや、マギルカを警戒しているようにシータは感じた。


「まぁ、いいか、本国からも増援が到着して計画も早めた。ここまで来たらもう頃合いだろう」


 そして、司祭はシータが今まで見たことがないくらいの薄笑いを彼女に見せてきて、ゾワッと背筋に悪寒が走る。


「なにを……言ってるの?」

「クククッ、シータさん、私から一つアドバイスをあげよう。今後に役立ててくださいね。ああ、もっとも……今後があればの話ですがね」


 いきなりの司祭の言動に戸惑うシータに彼は懐に手を入れ、なにやら取り出しながら忠告してきた。


「あなたと親しく、協力的だからといって……それが味方だとは限らないということを」


 そう言って、司祭が取り出したモノを顔へと持っていく。

 その姿に、シータはヒュッと息を飲んだ。

 司祭が顔につけたのは仮面であり、それはとてもよく知っている仮面だった。

 今回の騒ぎの元凶である、あの仮面の男がそこに立っていたのだ。


「そ、そんな……」

「あっ、そうそう。さっき言ったことはなにも私だけとは限らないぞ、クククッ」


 過去の事実を知って頭の整理が上手く行かない状態で、さらに困惑する事実が起きて、シータの思考回路はもう滅茶苦茶だった。

 そんな中、含み笑いをしながら仮面の男、トーマスが意味深なことを言ってくる。

 と、次の瞬間、動いたのはレイチェルだった。

 持っていた剣を抜き、トーマスに向かって飛び出していく。

 だが、暗闇からレイチェルめがけて、数本のダガーが襲ってきて、それを躱すことで足が止まってしまう。

 さらに、いつの間に現れたのか、黒ずくめの男達が二人がかりでレイチェルを組み伏せていた。

 それは一瞬の出来事であり、かなりの手練れ達がそこに存在していた。

 その黒ずくめ達は、一見してリグレシュにいた黒ずくめを彷彿させたが、よく見ると、服装が違っており、より統率されていることにシータは気がつく。そして、マギルカが驚きながら呟くのをシータは耳にし、その答えが判明した。


「……栄滅機関……」


 エインホルス聖教国の暗部。

 それが、今回の事件と関わっていたことを……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >もう、誰もあなたを影で卑下する者はいなくなるわっ!」 「卑下する」は、自分を下げてへりくだるときの表現で、他者を見下すなどの場合では使わないというのが、一般的なようです。
[良い点] これはマギルカさんの大ピンチに白馬の王子であるメアリィさんが色々破壊しながら助けに来るパターンですね。 もうひとりの王子様はどうするのかはわかりませんが大丈夫なんですよね?
[一言] そしてその装置はメアリィ様がうっかり壊(や)っちゃうと
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ