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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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やっと着きました


「ほえぇぇぇっ、あれがカイロメイアなのね。でっかい塔ぉ~」


 広大な湖の端から続く巨大な石橋の先、中央に存在し遠くからでも分かる大書庫塔の圧巻さに私は感嘆の声を上げていた。


『ふ、ふ~ん、確かに大きいわね。でも私の大樹の方が大きいわよ』

「なんであなたがそこで張り合うのよ」

『ほら、私ってばいにしえの森の巨大さ界隈では一、二位を争うものだと自負しているからね。そこは譲れないのよ』

「そんな界隈あったのね……」


 私と一緒にほえぇぇぇとなっていた精霊が、急に張り合いだしたので私はとりあえずツッコんでおく。願わくば、世界はこんなに広く、知らないことだらけなんだと、心を入れ替えていただきたいものだ。


「お~い、手続きが終わったよ。中に入ろうかっ!」


 一足先に門へと向かったシェリーさんがなにかを終えて、戻ってくると私達に来い来いと手招きしてくる。

 予定を大幅に遅れ、私達はやっとのことで本来の目的であるカイロメイアに到着したのだ。

 大きな門をくぐり抜け、私達は町の中へと入っていく。


「さて、着いたのは良いけどマギルカ達はどこにいるのかしら?」

「聞いたところ、宿屋にいるそうだからまずはそこへ行こう」


 初めて見る町並みにウキウキしながらキョロキョロしていると、シェリーさんがこっちだよと先に歩き始めたので、私はそれに付いていく。

 シェリーさんがカイロメイアに何度も訪れているおかげで、地理的に私達は迷うことなく……いや、多少迷って道を聞いていたけど……と、とにかく無事に宿屋に着くと、さっそくザッハと出会うことができた。

 だが、会って早々彼がなにやら慌ただしいことに気が付き、不安になる。


「ザッハさん、お待たせ。なんとか合流できたわ」

「んっ、その声はメアリィ様? なんでフードなんか被っているんだ?」


 私に声を掛けられたザッハが首を傾げて聞いてきたので、私はシメシメと思いながら、そっとフードを外す。

 というのも、ここに来るまで精霊とおしゃべりしている中、私は今回の指針である目立たないようにコソコソするっという難題について語っていた。

 元々の性分がそういった行動をとるようにできていない私は、記憶の中にある映画やアニメでそういった人達を参照しようとした。が、観ている側も分からないからコソコソが成立するのであって、結果だけ分かって過程は分からずじまいであるということが分かっただけで、解決には至らなかった。

 とりあえず精霊から「あなたの容姿は目立つから私みたいに隠してみたら?」と助言され、正体を隠すというのがどうすれば良いのかピンとこなかった私としては「正体を隠す」=「顔を隠す」という短絡的思考に辿りつき、めでたく二人仲良くほっかぶり状態でここまで来たのが一連の流れである。

 まぁ、フードを被って正体を隠し旅をするというのも、いざ実行したらなんとなく私の中の青い部分が刺激されて、悪ノリしている節はあるのだが……。


「まぁ、思うところがあってね。どう、目立ってないでしょ?」

「……周りを含めると一人だけ異様さが……いやなんでもない」

「……ところで、なんか慌ててたみたいだけど、なにかあったの?」


 今一煮え切らない返答だったが、それでも私は満足してさっそく疑問に思ったことをザッハに聞いてみた。


「あっ、そうだった。大変だぜ、メアリィ様。マギルカがっ!」


 ザッハの言葉に私は一抹の不安が過ぎる。


「マ、マギルカがどうしたの? そういえば、レイフォース様のお姿も見えないんだけど」

「と、とにかく大書庫塔へ行こうぜ、案内するっ!」


 ザッハは自分が説明下手なのを自覚しているのか、口で説明するより自分で見てくれと言わんがごとく、私達を大書庫塔とやらへ案内するのであった。

 

 

 

「マ、マギルカァァァッ!」


 数十分後、大書庫塔の一角で私の声が木霊する。


「……その声は……あ、あら……メアリィ様。到着したのですね」

「マギルカ、ど、どどど、どうしたの?」


 私の前には椅子に座って本を読んでいるだろうマギルカがいた。

 だろうというのは、その姿は取り囲まれた本の山で見えにくく、本の隙間から彼女が覗きこんでこちらを見てきたので、そう判断したにすぎない。しかも、その目の下には隈までできている始末だった。


「最初は良かったんだけどね。次第に本を読む量が増えていって、最後にはこの塔から離れなくなってしまったんだよ」


 私の疑問の声にマギルカの近くにいた王子が彼女に代わって状況を説明してくれた。

(うん、知ってた、知ってた、そういうオチ。でもまぁ、ここまでひどくなるとは思わなかったけど……)


「メアリィ様が到着するまでにある程度、薦められる本をと思っておりましたが、気が付けば自分の興味に負けてしまって、読み耽ってしまいましたわ」


 本をどけ、フラフラとマギルカが中から出てくると、弱々しくもはにかむ。そんな可愛らしい仕草と最終的にはアレだったが、私のために調べてくれていたことを知って、私は小言の一つも言おうとしたが、言う気が失せる。

 とりあえずマギルカはテュッテに任せ、一旦彼女を宿へと強制的に帰らせることにした。ついでに、側で丸くなって見守っていたスノーにお礼を言うと彼女は――。


『ま、まぁ、見守ると約束したからね。ただまぁ、ここまで読書魔だったとは、正直驚きだったわよっ。でも、リリィが興味ある本を読んでもらって嬉しそうだったから止めるに止められなかったわね』


 などと照れながら言うので、茶化しついでにモフろうとしたがそれでは却って悪目立ちしてしまうのでグッと堪える私。

 とにかく、スノーとリリィにはマギルカを聖女に見せるのだ計画を続けるため、側にいて貰うことにした。

 もちろんこの会話も周りに分からないようにコソコソ話にしている、うん、完璧完璧。

 と思いきや、さっきから誰かがこちらを見ているような気がして、私はその視線が王子の隣でこちらを見ている見覚えのないエルフの女の子であることにやっと気が付いた。

 それを察したのか、王子が各々の紹介をしてくれる。

 シータと呼ばれるその女の子は精霊樹の領域であの連中に襲われていたのを王子達に助けられ、カイロメイアへ向かっていることを知り、案内してくれたのだという。

 しかも、この大書庫塔の司書長を勤める大変偉い方だと知って、私は慌ててフードを外し敬語でしゃべると、彼女は滅相もないみたいな反応で、フレンドリーを求めてきた。

 その時、息を飲んで驚いた彼女の顔は印象的だった。フードの下が私みたいな女の子だったのがそんなに驚きだったのだろうかと疑問に思えてくるほどである。

 後、自己紹介の時「あ、あなたがあのメアリィさんですか、お会いできて嬉しいです」と言ってきて、「あの」とやらがとても気になったが初対面であまりあれこれ聞くのもあれだろうと、笑顔で流したのは正解だったのだろうか。

 とりあえす、そのままの勢いで、私達は皆席に着き、今まであったことを報告、整理する流れとなった。

 余談ではあるが、シェリーさんとシータは知人のようで、シェリーさんが言っていた伝手というのはどうやら彼女のようだった。世界というのは広いようで意外と狭いようだ。


「なるほど、ギランさんがそんな卵を持っていたとは……。書を持ち出したのが彼だというのは分かっていたけど、どうやって持ち出したのかなんとなく分かったような気がするわ」


 話を一通り聞き終わってシータがなにやら一人納得していた。


「オルトアギナの書だっけ? あれは今リグレシュの手にあるのだろ。どうやって開かないはずの書庫から?」


 この中でシータと一番親しいシェリーさんが私達の気持ちを代弁するように聞く。


「保証はないけど、おそらく普段から持ち歩いている卵をあの時、咄嗟に置いておいたのね。時間差で孵化したモンスターが内側から出てきたところへ書庫へ侵入し、書を持ち出した……と。それだと、あの日塔内に進入していた一匹の説明が付く。まぁ、蓋を開けるとなんだそんなことかと思うけど、ギランさんの計画性の無さから尻尾が見え隠れしてしまったのはリグレシュとしては計算外だったろうね」

「ちょっと待って、内側から開ける?」

「あっ、内側からは簡単に開けられるの。これ、内緒ね」


 シータの説明にシェリーさんは疑問を投げかけ、それに彼女はやってしまったとバツが悪そうに小さな声で答え、シ~ッと人差し指を唇に当てた。

 大書庫塔の現状をよく知る者ならここで納得するのだが、よく分かっていない私には未だはてなマークが浮かび上がる。とはいえ、いろいろ聞いて詮索するのも野暮そうなので、そうなんだと頷いておくことにした。


「それよりもシェリー、その卵なんだけど町を襲っているモンスターを調べている人に渡して良いかしら、もしかしたら同一かもしれないわ」

「OK、こちらも専門の人に任せようと思っていたところだから助かるよ」

「それにしても、このタイミングでよくそんなモノを手に入れることができたわね」

「それはメア、じゃなくて精霊樹様のおかげだよ。まぁ、狙ってたわけじゃなくてほんと偶然、偶然。まさか、キミらが求めているものだったなんてこっちも驚きだよ」

「ふ~ん……」


 シータとシェリーさんが話している中で私の名前が出そうになり、彼女は慌てて言い直していた。ふっふっふっ、こんなこともあろうかと私の名前はお口チャックにしてあるのだ。シータがチラッとこちらを見たような気がしたのは気のせい、気のせい。


「と、ところで、レイチェルはどうしたんだい? 見かけないけど」

「リグレシュに関して調べているわ。昔からこの町に潜伏していたらしいから、見つけだすのにそう時間は掛からないだろうって」


 話を変えようとさらに続ける二人の会話に知らない人の名前が出てきて、私が首を傾げていると隣に座っていた王子がレイチェルのことを簡単に説明してくれた。私が知らない間に随分とカイロメイアは騒がしくなっているみたいだ。そんなときに訪れ、しかも、関わっていきそうな予感に私は一層、コソコソとどう動くか模索するのであった。


『よく分かんないけどドキドキワクワクな展開になってきたわねっ♪ ねぇねぇ、メアリィ、私達はどうする、どうするの?』


 なにがそんなに嬉しいのか、サフィナの膝の上ではしゃぐ精霊が私に声を掛けてきた。精霊がサフィナの膝の上で抱き抱えられているのは、別にサフィナが抱えたいからではない。単に精霊が塔内をはしゃぎ回って騒ぎを起こさないように取り押さえて貰っているだけに過ぎなかった。

(え? なんで自分でやらないかって。フッ、私がそんなことしたら無意識に放り投げて、威嚇し続けるオチしか見えないからよ)

 未だマンドレイク亜種にアレルギー反応を拗らせている私は心の中でドヤッてみる。


「はいそこ、はしゃがない。この町に疎い私達がでしゃばったら、皆さんの迷惑になるでしょ。私達は大人しく宿屋に戻って力になれるときに力を貸す、それで良いんじゃないかしら」

『えぇ~、せっかくここまできて、つまんなぁ~い』

「つまんなくて結構よ」


 今回の事件に思いっきり首を突っ込む気満々な精霊を窘め、私は話は終わりかなと皆を見回す。

 すると、こちらを驚いた顔で見ているシータと目が合った。


「シータ、どうかしたかしら?」

「え、あ、いや、あの精霊樹様と随分仲良しなんだなぁって改めて驚いてただけ。もしかしたら……あっ、ううん、なんでもない、なんでもないわ」

「そ、そう?」


 私の問いかけにポロッとなにかを言いかけて、シータは慌てたように誤魔化す。

 話が一段落着いたところで、皆が動き出したので私は一旦宿に戻ることにすると席を立ち、フードを被る。


「私は専門家に渡すモノを渡してくるから、キミらはキミらで行動しておくれ」


 仕事熱心なのか、到着して早々に行動を開始するシェリーさんはそう言って、塔の外へと歩いていく。


「ボクはもうちょっとここに残ろうかな。読み物の途中だったし」

「レイフォース様が残るのであれば、私達も」


 話し合いが終わってホッと一息つくと、マギルカほどではないがこれだけの大量の本が並んでいるのを見て、どんな本があるのかとか私が求めているモノがあるかもしれないという期待感が膨らんできて、はやく見て回りたいという気持ちがあった。


「いや、大丈夫だよ。メアリィ嬢達は到着したばかりだし、早く宿に戻って休んでて」

「そうだぞ、王子の護衛は俺がするから、メアリィ様達は宿へ戻ってな」


 私の思いとは裏腹に男子二人に言われて、私は後ろ髪を引かれながらも、一旦この塔を後にするのであった。

 だが、私は気が付いていなかった。

 今、私の側にテュッテもマギルカもいないことに……。

 もっと分かり易く言うと、私のやらかし体質のストッパーが不在だということに……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「それはメア、じゃなくて精霊樹様のおかげだよ。まぁ、狙ってたわけじゃなくてほんと偶然、偶然。まさか、キミらが求めているものだったなんてこっちも驚きだよ」 メアでもう誰かわかる上に黙らせてる感…
[良い点] > もっと分かり易く言うと、私のやらかし体質のストッパーが不在だということに……。 多分ここぞというところでテュッテさんが駆けつけるんでしょうがそのタイミングいつなのか気になります。
[良い点] ストッパー不在…あ、これやらかすやつやんwww さて今回はなにをやらかすかなあwktk
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