平和ですわ
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翌日…
エネルス村は大騒ぎだった。
モンスターの脅威が去ったこともさることながら、私とテュッテの証言で白銀の騎士らしきモノが現れたという噂が村中に広まったからだ。ついでに、月見草祭りの準備も相まって、村は大賑わいである。
白銀の騎士の出現の信憑性を高めたのは、クラウス卿がモンスターの屍を発見し、その惨状を確認したところ、倒した者は英雄級の魔法攻撃を行使した可能性があると証言したからだ。
「はぁ~…平和が一番ね」
「そうですね、お嬢様」
噂の張本人である私は、シレッとした顔で別荘の庭の椅子に座って優雅にお茶をしていた。
「あんな事があったのに、余裕ですわね」
別荘の方から疲れた顔をしたマギルカがこちらにやってきた。
「後処理、ご苦労様…マギルカもどう?」
「いただきますわ」
私は自分の持っていたカップを動かし、紅茶を勧めると、彼女は笑みをこぼしながら椅子に座った。
すぐさまテュッテがマギルカの分のカップを用意し、鮮やかな手さばきで紅茶を注いでいく。
「それで、他の人はどうなの?」
「ザッハはモンスターの攻撃を受けた時、肋骨にヒビが入っていたらしく今は治療中ですわ。まぁ、神官に頼めば回復魔法ですぐ治る程度のものらしいから、クラウス卿が今回の罰として、自力で治せっておっしゃってましたわよ」
(スパルタね、御愁傷様…でも、私を庇って怪我をしたのだからお見舞いにいかないとね)
「後で、お見舞いに行かないといけないわね」
「必要ないですわよ…あのバカ、さっき見てきたら、腕立て伏せしていましたから…」
(え?なにそれ!まさかもう治ったっていうの?お前はアレか、宿屋に泊まったら全回復する某RPGのキャラクターなのか?)
などと、心の中でツッコミをいれつつ、表向きは優雅に紅茶をいただく。
「そう…それで、レイフォース様は?」
「殿下は今、クラウス卿と共にモンスターの後始末や村の警備体制を見に出ておられますわ。珍しいこともありますわね、あまり公共の仕事に首を突っ込まない方だったのに」
「そう…どういった心境なのかしらね…」
マギルカから顔を逸らし、ズズッと紅茶をいただく私。
何となくだが、あの時、王子に言った私の台詞に原因があるのではと思ったが、それはいくらなんでも自信過剰すぎるだろうと、考えるのをやめた。
「月見草祭りは今日、行われるのかしら?」
「ええ、問題なく催されるらしいですわよ。モンスター騒動があったというのに逞しいことですわね…まぁ、今回はさらに訪問客が増えるんじゃないかしら」
「へ~…なんで?」
「なんでって、白銀の騎士様よ!」
瞳をキラキラさせて、マギルカが空を見上げている。
(あれ?もしかしてあなた…夢見る乙女側なの?)
「伝承は本当だったのですわね…この地をもっと調べるべきかしら」
「どういうこと?」
「白銀の騎士様は、月見草が開花した時、この地に訪れていますのよ。諸説いろいろありますけど、私的に一番は花が咲く頃にここで必ず再会しようと約束した人を待っている…とか、想い人がこの花につつまれて逝ったのを5年に一度偲びに来る…とか、あぁぁ…素敵ですわ」
(そんな乙女チックにうっとりした顔されても…いつもの知的好奇心による研究対象的な残念発言はどこいったのよ)
私は半目になって空笑いをあげつつ、紅茶を飲んでこの場をごまかした。
「でも、今回の白銀の騎士様は、きっと伝説のお方とは違うと思いますの」
「ブフッ」
マギルカが素に戻り、思案顔で核心をいきなりついてきたので、私はふくんでいた紅茶をこぼしそうになる。
「へ、へ~…なんで、そう、おも、思うのかしらぁ?」
冷や汗をかき、カチャカチャと持っているカップを震わせる私を見かねて、テュッテが無言で私のカップを持ち、テーブルに戻してくれた。
(ありがとう、テュッテ…あいかわらず私ってば意表を突かれるとダメになるわね…)
はぁ~っと、肩を落としていると、マギルカは不思議そうにこちらを見てくる。
「単純ですわ、今の時代に白銀の騎士様が生きているわけがないですわよ。もう何百年以上も前の話ですわよ」
「そ、そうよね…」
(考えが浅かったかしら…そうよね、伝説になるくらいだからもう生きてる訳ないものね)
「ですから、私は思いますの!きっと今回の騎士様はその子孫、もしくは縁のある者ですわ!」
きゃ~~っと、何だか喜声をあげて悶えるマギルカを見て私は若干引く。
(まぁ、とりあえず誤魔化せているみたいだからよしとしよう…)
私は横に控え、事の真相を知るテュッテを見上げると、彼女も気がついてこちらを見たので、自分の唇に人差し指を添えて、し~~っというジェスチャーをしてみせた。テュッテも私が何を伝えたいのか分かったようで、勢いよくコクコクッと首を縦に振り続ける。
(しかし、月見草が見れるのは夜だし、これからどうしようかな…あっ、お祭りなんだから何か屋台とか出てたりして…)
私はテレビで観た縁日の風景を思い出して、胸をときめかす。
「せっかくだし、お祭りを見に行きましょう」
私はそのまま立ち上がると、ウキウキした顔で外に出ようとした。
「あなたも元気ですわね…まるでザッハみたいですわ」
私が席を外すのを横目に、ため息混じりでしゃべったマギルカの言葉に、私はその場で両手、両膝を地面につくように崩れ落ちた。
「わ、私が…ザッハさんと…同じ…」
「あっ、ごめんなさい…言い過ぎましたわ」
私のその驚愕な表情を見て、マギルカが心底悪いといった顔で謝ってくれる。
「あれ?どうしたんだ、メアリィ様?そんな所で蟻の観察か?」
私が打ちひしがれている所に、その原因がアホなことをのたまってこちらにやってきた。
「そんなわけないでしょ、ちょっとショックを受けてた所よ…」
私は何事もなかったかのようにスクッと立ち上がると、口元に手をやりオホホっと笑う仕草を見せる。
「それよりも、ザッハさんはもう動いても大丈夫なのですか?骨にヒビが入っていたんでしょ?」
「ヒビ?ああ、そう言えばそうだったっけ?」
(忘れるなよ、自分の怪我だろ)
私は呆れた顔をザッハに向けると、冗談だよっと笑ってきた。その顔は結構イケてると思うのだが、なんて残念な子なんだろう。
「っで、何してたんだ、二人とも」
「私はお茶をしていたけど、村の様子が気になったので、ちょっとお祭りを見学してこようかと思っていた所よ」
「おっ、いいね。俺、腹減っちゃってて、ちょうどよかった」
(こいつは私に奢らせる気なのか?まぁ、でも怪我させたのは私だし、そのお詫びに一つくらい何か恵んであげましょうかね)
「ついてくるなら勝手にどうぞ」
私は澄ました顔でザッハを横切り、外を目指す。
「あっ、待ってください。私も行きますわ」
座って一部始終を見ていたマギルカも慌てて席を立つと、私の後をザッハと一緒に追ってくる。
移動すると、玄関先でクラウス卿と別れる王子の姿が見えた。王子の方も私達が出てきたことに気がつくと、こちらに近づいてくるので、私達は礼をする。
「ごきげんよう、レイフォース様」
「やぁ、メアリィ嬢、体調はどうだい?」
「はい、問題ありません…」
「そうか、それは良かった…あっ、それで、皆そろってどうしたんだい?」
「これから村へ行って、お祭りを見学しようかと思いまして」
「へ~、それはいいね。僕もそういった所は全然見てなかったから、同行してもいいかな?」
「レイフォース様がお疲れでなければ…」
会話の途中の方からどうせこうなるんじゃないかと、半分諦めていたら、やっぱりその流れになってしまった。王子は問題ないよと言うと、私の横について歩き出すので、私もそれについていく。
(何か…このメンバーで動くとろくな事が起こらない気がしてきっ…ハッ!ダメダメッ!そんな変なフラグたてちゃダメよ、メアリィ!そう、これは初めてのお友達とお祭りイベントなのよ、ええ、そうなのよ!た~のしみだわ)
私は心の中で一人悶絶しながら、ゾロゾロと5人で村の中心へ向かうのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。