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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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寄り道です

「精霊樹の領域ねぇ……」


 私は向かおうとしている場所の名前を口に出し、空を眺めていた。現在、私達は荷馬車に揺られていにしえの森の奥へと進んでいる。馬車がギリギリ通れるくらいの狭い道で、舗装もされておらずゴトゴト揺れるが、まぁ、これも旅行の醍醐味ということで楽しもう。


「そうだよ、メアリィちゃん。本来ならエルフが人様に案内するような場所じゃないけど、キミらは特別だからね。どうだい、貴重な体験だろ?」


 私の呟きに隣で御者をしていたシェリーさんがなんだか特別感を漂わせてくる。ちなみに、王子とザッハ、サフィナとテュッテは荷馬車に座っており、併走しているスノーの上にリリィを抱いてマギルカが座っていた。

(うん、どっからどう見ても彼女が聖女だわったら、聖女だわ。まっ、駄々こねて座らせたの私だけどね)


「いや、私達はカイロメイアに行きたいのであって、そんな所に用はないんですけど」


 視線をシェリーさんに戻し、私は半目になりながら率直な感想を彼女にぶつけてみる。


「まぁまぁ、そう堅いこと言わずに。カイロメイアに向かう途中のちょっとした寄り道だと思っておくれよ」


 私の視線に動ずることなくハハハッと笑いながら答えるシェリーさん。この人はこういう人なので、これ以上言ったところで反省しないだろう。

 そもそも私達がなぜこんなことになってしまったかというと、シェリーさんがザッハの盾を作るために貴重な鉱石を勝手に使ったというところから始まってくる。

 ロイさんも集落の人達もザッハのために盾を作ったことには文句はないらしく、むしろよくやったと称賛していた。

 ただ、問題はそのために使った鉱石を無断で持ち出し、さらには盾に使用した量と持ち出した量が合致していない点であった。明らかに、余分に持ち出しているとのこと。

 本人的には「製作には試行錯誤は付き物だ。そのために余分に持っていったのだよ」だそうだが、じゃあ、余った分は戻せと言われて、笑って誤魔化していた。


「……まさか、個人的な製作につぎ込んでいたなんて……盾に全部つぎ込んだという言い訳が通用しないレベルの量を持ち出したって本当ですか?」

「いや~ぁ、せっかくだからちょっと使わせてもらおうかなと思ってね。はははっ、まさか熱中しすぎて余った分全部使い込んでしまうとは自分でも思わなかったよ。残りを確認しにいって、私が一番驚いたね」


 はぁ~と私が嘆息しながら聞くとさすがのシェリーさんもこれには困った顔で答えてきた。


「それで、皆様に気づかれない内に新たな鉱石を調達して返そうということですか……」


 近くで聞いていたマギルカが会話に入ってくる。


「その通り。さすがマギルカちゃん、理解が早くて助かるよ。いやはや、キミ達がカイロメイアの道案内に私を指名してくれたのは渡りに船だったね。まさにファルガー君様々って感じだよ」


 そういうシェリーさんは最初、ファルガーさんのことをすっかり忘れており、紹介状を渡して「あ~、はいはい、あの男ね」と思い出していたくらいだ。おそらく、ファルガーさんもこうなると見越して、手紙の中で自分を説明していたに違いないと思うのは考え過ぎだろうか。

 ただ、手紙を読んでいたシェリーさんが「なるほど……あの問題を彼女に、ね」と呟きながら私を見たことについては少し気になるのだが……。


「とぉ~にかく、一握りくらいでも良いから返品できれば後はなんとか誤魔化すからっ! 私を助けると思ってちょっとだけ付き合っておくれよ」


 手を合わせて私にお願いしてくるシェリーさんにたじろぎつつ、私は皆の方を見た。


「俺は作ってもらった身だから力を貸すぜ。面白そうだしな」

「あのぉ、ちょっと良いですか……話を聞く限りではなんとなく採掘するように聞こえます。私はそういった技術がないのですが大丈夫でしょうか?」


 やたら張り切るザッハの横で手をちょっとだけ上げて恐縮そうにサフィナが聞いてくる。それはそうと、私はシェリーさんの方を見た。


「ああ、安心したまえ、そんなに高い採掘技術を必要とはしていないよ。鉱石というけど欲しいモノは精霊樹の一部が長い年月を経て石化したモノなんでね。そこいらの鉱石とは違って、場所も分かっておりパパッと行ってコツンと小突いてくるだけの簡単なお仕事さ」


 私の視線に気が付き、シェリーさんは前を見ながら笑顔で答えてくる。だが、その内容を鵜呑みにして「なぁ~んだ、簡単なんだぁ。じゃあ、良いか」で終わらせて良いものか甚だ疑問ではあるが……。


「採掘方法が簡単なのに貴重ということは、取れる量が少ないということなのかな?」

「それでしたら、大量に使ってしまったシェリー様はもうちょっと危機感を持つはずなのではないでしょうか?」


 王子とマギルカの疑問の声に、一同シェリーさんの方を見てみれば、彼女はひきつった笑顔のまま前方を見て、皆の視線から逃げようとしていた。

(う~ん、採掘方法も簡単で、取れる量もそれほど少量というわけではないのに貴重というイベントクエストといえば……)

 私はゲームなどで出てくるようなイベント内容を思い出してみる。そして、その答えはすぐに脳裏に浮かんだ。


「……試練的ななにかがある……とか?」

「くっ、さすがメアリィちゃん、誤魔化すことはできなさそうだね。ま、まぁ、これも聖女に与えられた神のお導きだということで」


 私がポロッと呟いた言葉にシェリーさんがウグッと唸ってガックリと肩を落としたかと思えば、妙な理論で説得し始めた。


「なんでもかんでも神のお導きだと言えば許されると思ったら大間違いですよ。後、私に向かって聖女とか言わない。今聖女っぽいのはあっちです」


 文句を言いながら私はスノーの上に乗っているマギルカを指差す。今回の旅で例の二つ名は私の所為ではないことを証明するためにも、しつこいようだが私は釘を刺しておいた。


「……メアリィ様の指摘が本当なのでしたら、誰がどのような試練を与えるというのですか?」


 私に指差された本人は「まぁだ言ってる」と言いたげに、呆れ顔になりながらも話を進めてくる。


「それは、場所が精霊樹の領域という名前なのだから、精霊に決まってるじゃないか、はっはっはっ」

「「「…………」」」


 マギルカの問いに開き直ってあっけらかんと答えるシェリーさんに押し黙る私達であった。

(精霊ねぇ~……サークレット事件といい、鏡事件といい、良い印象がないのよねぇ~。なのに、試練とかって、嫌な予感しかしないのは気のせいかしら?)


「べ、別に命の危険はないよ。今までそんなことは起きなかったし、これだけは保証するよ。ただ、ちょぉ~と面倒くさいというかなんというか……」

「「「…………」」」


 私達が沈黙するものだから、シェリーさんが慌てて補足するが、それを聞いてもなお、不安が晴れないのは私だけではないだろう。事実、皆の沈黙は続いているのだから。


「どうする? 行きたくないなら俺一人で同行するってのでも良いんだが?」


 ザッハはあまり精霊の被害を経験していないからか、懐疑的になっておらず、彼には珍しく他の人を気遣って提案してきた。

 なので――。


「ど、どうしたの、ザッハさん? 変なモノでも拾い食いしたの?」

「失敬な。そこは拾いじゃなくて普通に食べたにしてくれないか、メアリィ様」


(ツッコムとこ、そこなのかぁ~い)

 ちょっとふざけてボケてみたところ、まさかのボケで返されて、私は思わず心の中でツッコムのであった。


「ま、まぁ、行き先の途中とのことだし、とりあえず同行しても良いんじゃないかな? 不穏だと判断したらシェリーさんには申し訳ないけど即引き返させてもらうということで」

「……ま、まぁ、レイフォース様がそうおっしゃるのなら……」


 王子の提案に私が見回すと、皆が頷きで答えてきたので些か不安ではあるものの、溜息半分に承諾する。

 こうして、私達はカイロメイアへ行く途中に、精霊樹の領域という場所へと赴くこととなった。




 

 

 

「というわけで、ここからが精霊樹の領域だよ」


 永遠に続くかと思われた見慣れた森林の風景に変化が訪れる。そこは今まで以上の巨木が立ち並び、光が地面に点々と差し込むとそこがまるでキラキラと光り輝いているように見えて、幻想的な風景になっていた。

 思わず「うわぁ~」と口を開けて上を眺める私。


「ふっふっふっ、この程度で驚いてもらっちゃぁ困るよ。中心地の大樹はこれよりもっともっと大きいからね」

「ほえぇ~、これよりもっと大きいんですかぁ~」


 ほへ~とお登さんになって答える私は、なにか微笑ましいものを見ているようなシェリーさんの表情に気がついて、開けていた口を閉じ、恥ずかしさのあまり慌てて下を向く。


「フフッ、それじゃあ、ここから馬車を降りて、地下へ行くから準備しておいてね」


 私が俯いている間にシェリーさんが後ろを見て皆に呼びかけると、皆が返事をしてガサガサと動き出す。

 私も持ち物を……と思ったが、全部テュッテが準備しており、私にすることはないのでそのまま馬車から降りることにした。


「ん~、はぁぁぁ……馬車での旅もしばらく終わりかしら」


 馬車から降りると、ん~と背伸びして体をほぐす。耳をすませば、動物と自然の音しか聞こえず、ある意味静かな空間に私は浸ってみる。幸いなことに、この心地良い音にモンスターなどの不穏な音は混じってなさそうだ。


「ところで、地下へと降りられるそうですけど、洞窟といったものが見当たらないのですが?」


 辺りを見回しスノーからおもむろに降りながら聞くマギルカは、そのまま抱いていたリリィを開放すると、リリィはすぐ様蝶などに興味津々になって追いかけ始める。


「そうだね。洞窟というか大木の穴というか。とにかく、木の中にぃ……あれ、どこだっけ?」


 マギルカの問いに答えながらシェリーさんは辺りを見回し、首を傾げながら不穏なことを言ってきた。

(この人に任せて、本当に大丈夫なのだろうか……)


「あっ、リリィ様。勝手な行動はしないでくださいまし」


 先行き不安になりながらシェリーさんを眺めていたら、皆から離れそうになったリリィを慌ててマギルカが追いかけ始める。


「もぉ~、リリィったらマギルカに迷惑かけて……全く誰に似たのかしら」


 思った以上に離れていくマギルカを眺めながら、私はやれやれと嘆息しながら、大きな雪豹の方を見た。


『そうね~。あの子もメアリィと一緒で好奇心旺盛なのか、変わったモノにす~ぐ引き寄せられちゃうのよっ、困ったものだわ』

「いやいや、そこは身内のあなたでしょうっ」

『いやいや、変なことにす~ぐ首突っ込むのはあなたでしょうがっ。そして、盛大に自爆するまでがテンプレじゃ~ん』


 私の脳内に同じく嘆息しながら語りかけてくるスノーに、私は納得できないと異論を唱える。すると、これまたスノーがけしからんことを即答してきた。


「あらあら、面白いこと言うのね、この猫ちゃんは。ごめんなさいって言うまでモフりまくるの刑に処そうかしら?」

『おほほほ、図星つかれて実力行使は止めてもらえますぅ~。これまたリリィが真似し始めたらどうするのよ~』

「シェリー様っ、こちらの大木に空洞がっ! 奥の方で降りられそうですけど、もしかして入り口はこちらでしょうかっ?」


 私とスノーがおほほほうふふふと笑顔で不毛な牽制合戦を繰り広げていると、遠くからマギルカが呼びかけてきた。偶然か、必然かリリィが入り口らしきモノを見つけてくれたみたいだ。

 その言葉を聞いて王子とザッハがマギルカの方へと歩き出し、私もスノーとの不毛な戦いを御開きにして付いていこうかなとシェリーさんの方を見れば、彼女だけその場に止まっていた。


「シェリーさん、どうしたんです? 入り口見つかりましたよ」

「今思い出したけど、入り口って一つだけじゃなくて複数あったはずなんだよね。だから、迷うとかどこだっけとかになるのはおかしな話なんだよ」

「え?」


 私の問いかけにポンッと手を打ち答えるシェリーさんの言葉に、私は首を傾げる。


「それが今一カ所になっているということは……もしかしたら、早くも精霊が悪戯、もとい試練が……」


 シェリーさんの話の一部にとてつもなくツッコミたい衝動に駆られたが、私はそれを抑えてマギルカ達の方を見た。

 マギルカはスノー達と合流し、大木の空洞に足を踏み入れているところだった。サフィナとテュッテは私の近くで待っているので外である。


「マギルカッ、気をつけてっ!」


 なにをどう気をつけてなのかその時の私は分からなかったが、直感的に嫌な予感がして私は叫んだ。


「えっ?」


 私の叫びを耳にしてクルッと振り返ったマギルカと合流した王子、ザッハ、スノーの様子を遮るように開いていた空洞に大量の幹が覆い被さり、入り口がなかったかのように閉じていく。

(うそっ、分断された?)


「ソニックブ――」

「待つんだっ、メアリィちゃんっ! 下手に抵抗しちゃ駄目だ、精霊が拗ねると余計ややこしくなるからねっ!」


 私は慌てて駆け出し、遮る幹を破壊しようと魔法を唱え始めたが、シェリーさんの注意で、唱えるのを止めた。精霊について詳しくはないが、面倒になるのはなんとなく理解しているつもりなので下手なことをして、事を大きくしたくはない。

 シェリーさんの注意をマギルカ達も聞いており、あちら側からもこれといってアクションはなく、さりとて様子見をするだけの余裕はあるようだった。


「う~ん、普段は向こうからちょっかいを出してくるなんてことはなかなかないのにねぇ……キミ達ってば、精霊に好かれているというか引き寄せるというか……」


 精霊に好かれているといえば、なんか聞くだけなら特別感があって嬉しいはずなのに、今までの精霊絡みを顧みると私的には「きゃっ、素敵」と素直に喜べないのが、もの悲しかったりする。


「私達はこのまま進んだ方が宜しいのでしょうか?」

「そうだね。地下は少々迷路になっているけど、そちらには神獣様もいるし、たぶん大丈夫じゃない……かな?」


 閉ざされた幹の向こうからマギルカの声が聞こえてきて、シェリーさんがとてつもなく曖昧な返答をする。


「なるほど、心配だわ。テュッテ、剣を」


 不安になって私は魔法はダメでも剣ならワンチャン見逃してくれるのではないかという謎理論を打ち出し、側にいるテュッテに手を差し出す。


「お嬢様、妙な謎理論で事を大きくしようとしないで下さい」


 そして、私の思考を読んでいるのか、テュッテがサラッと断ってきた。


「な、なにも言ってないのに謎理論ってよく分かったわね。さすがはテュッテ、私の理解者」

「そう言いながら、剣を貰おうとしないで下さい」

「じゃあ、どうやってあれを突破するのよっ! 魔法も剣も駄目っ。あっ、拳、拳でやれっていうのねっ! OK、やりましょう」


 マギルカと分断されてこれからのことを考えたら、どんどん心に余裕がなくなってきて、私は絵で描くと瞳がグルグルと渦を巻いている状態というか、おかしなテンションになってきた。


「大丈夫ですわよ、メアリィ様。こちらにはスノー様もいますし、ザッハも殿下をしっかり守ってくれますから」

「大丈夫じゃないわっ。これから精霊相手にシェリーさんと私という不安要素を誰が制御するのよっ」


 変に焦りだしたものだから、マギルカが落ち着いた声で『私達は』大丈夫だと言ってくるので、思わず本音を吐露する私がいる。シェリーさんにしたら、とんでもなく失礼な言い回しなのだが、本人はそれはそうと、相槌を打つ始末だった。


「…………それは、ご自分でなんとかして下さいとしか……」

「マギルカァァァ」

「お、お嬢様、落ち着いて下さい。下へ降りれば目的地は一緒なのですからすぐに合流できるかもしれませんよ」

「そ、そうよね、そうだったわ。待ってて、皆。すぐに合流するからっ!」


 マギルカの無情(?)な返答に私が思わず声を上げると、すぐさまテュッテがフォローしてくれる。

 私の安定にテュッテも一役買えるのだが、いかんせん精霊絡みの問題まではカバーできないだろう。そこはシェリーさんがいるだろうと思うのだが、彼女のトラブルメイカー気質なところを思い起こすと、安心できない。

 そうして、私の中でああだこうだとネガティブ会議を繰り広げている内に、気づけばマギルカ達は先に進んでいき、残されたサフィナがシェリーさんと一緒に別の入り口を探し始めていた。

(いけないいけない、私も参加しなくちゃ)

 気持ちを切り替え、とにかく皆と合流しようと私は慌てて行動を起こす。

 

 バキィッ!

 

 そして、私は下方不注意のため足下にあった太い根に躓き、お約束のごとく盛大にすっ転ぶ……ことなく、それを盛大に粉砕するのであった。

(あっ……やらかした……)


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― 新着の感想 ―
[良い点] > そして、私は下方不注意のため足下にあった太い根に躓き、お約束のごとく盛大にすっ転ぶ……ことなく、それを盛大に粉砕するのであった。 完全無敵なので仕方がないですよね。 事が落ち着いたら…
[一言] 剣でも駄目、魔法でも駄目。ならば・・・魔法剣!(竜の騎士並感)
[一言] 更新ありがとうございます。 最後にやらかしましたね。精霊は怒るのでしょうか。 続き楽しみに待ってます!
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