久々の長期旅行です
「久々の長旅になりそうで、楽しみね」
期待に胸を膨らませ、私は乗っている馬車の窓から外を眺めていた。
現在、私は馬車に揺られてカルシャナ領へと向かっている。
馬車の中は私とテュッテ、マギルカと王子が乗っており、サフィナとザッハは、すでにいにしえの森にいるそうだ。
サフィナが実戦経験を積むために、実家の手伝いをしているのは最近聞いていたのだが、まさかザッハまで同行していたとは……。いや、彼の場合、話を聞けば嬉々として付いていくだろう。別に驚くことではないのかもしれない。
「楽しみですね。去年はレリレックス王国へ行きましたが色々あって、メアリィ様はゆっくり観光もできなかったですからね」
「……そうね、もうゴタゴタは勘弁してほしいものだわ」
私の呟きにマギルカが答え、私は白銀の聖女とかいう物騒な名前が広まった悲しい事件を思い起こして、ちょっぴり憂鬱になる。が、気持ちを切り替えて、今回の目的を振り返ることにした。
「それにしても、まさかあのファルガーさんが結構な有名人だったとは驚きだったわ」
私は数日前に温泉しせっ、もとい、古代遺跡で出会った変しっ、もとい、マッチョな考古学者様を思い出す。
「彼は世界中を旅して、多くの遺跡や遺物、さらには貴重なアイテムなどを発見し続けている、考古学や冒険者界隈では有名な方だったのですね。私、そちら方面は勉強不足でしたわ」
私とマギルカがファルガーさんの名声を知ったのは、後日王子に教えてもらってからだった。ある意味、只者ではないと思っていたのだが、まさかそこまで凄い人とは露知らず、失礼なことをしてしまったのではとそのときは考えた。が、こちらもいろいろ破廉恥なモノを見せられそうになったことを思い出して、どっこいどっこいだということにしておいた。
さて、ここでファルガーさんの話題を出したのは、今回の旅行と関係しているからだ。
私達はファルガーさんと別れ際、とある場所へ行くことを勧められたのが事の発端である。
その場所の名は「カイロメイア」
古来より世界中に存在する様々な文章、書物、石碑などなどを収集、管理し、解読、研究をしている大変学識高い場所なのだそうだ。
一説によるとあの八階級魔法の存在を世に伝えたのはここだともいわれている。
まぁ、そんなレベルの高い場所へ行くことを勧められた理由が、私のレポートのテーマ探しだったりするのが、不相応過ぎて泣けてくるのだが……。
(ファルガーさんに参考がてら聞いてみた私も悪いんだけど……今思えば、世界的な考古学者様なら勧めるレベルも高くなるのかしらね~)
では、そんな恥ずかしい思いをしながら、なぜカイロメイアに行こうとしているのか。それはテーマ探しもそうなのだが、それよりももしかしたら私が本当に求めている例のモノがそこにあるのではないかという多大なる期待からだったりするのだ。まぁ、それ以上にマギルカがめっちゃ行きたがっていたというのもある。
(でもファルガーさん、勧める前に『なるほど、これも運命か……』とかなんとか呟いて一人で納得していたのはなんだったのかしら?)
「勧められたカイロメイアは、いにしえの森の奥深くにあって、エルフが統治しているらしく、彼らとの交流が盛んではなかった僕らの国では情報が少なかったんだよね。良い機会だから僕も見聞を広めようと思うよ」
「でも、ファルガーさんが手紙を渡せば道案内をしてくれるだろうと勧めたコネのあるエルフさんがあの『シェリー』さんだったりするのが、これまた意外というか、世間様は狭いというか、なんというか……」
王子の話に私は考えるのを止めて、空笑いしながら追従する。シェリーさんは先の『王子TS事件』の原因というかなんというか、その事件で縁ができた魔工技師のお騒がせなエルフである。
「問題は放浪癖のあるシェリー様が今もなお、集落にいるのかどうかですね」
「そこら辺はサフィナ達が先に集落にいるから、引き止めていてくれるのを願うしかないわね。まぁ、最悪不在だったとしても、今なら他の人に頼めたりするんじゃないかしら?」
「確かに、昔と違って今なら可能かもしれませんわね。ふふっ、なんと言ってもあの白銀の聖女様のお願いですから」
「あ~、そういうこと言う~。ぶぅ~、意地悪なこと言わないでよね」
私の返しにマギルカがふふっと悪戯っぽく言うものだから、冗談半分にからかっているだけと分かっていても、ついついプクゥと頬を膨らませ不貞腐れる私。そんな私達を困ったような笑顔で眺める王子と微笑ましそうにテュッテが眺めていた。
リアルでいろいろあって更新が滞ってしまいました。短いですが新たな物語の始まりです。まったりペースですがよろしくお願いいたします。