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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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温泉は良いよねっ

 私の勢いは止まらず、暗い崖下へほんとにダイブしかけて、マギルカに止められてしまった。落ち着いてから浮遊魔法でゆっくりと降りた私達は今、滝の近くにいる。月夜に照らされたそこは静かでなかなかの景観だった。そこにファルガーが言っていた私の知るシンプルに岩で囲まれた露天風呂があったので、私はここで油断せず、辺りを徹底的に調べ、妙な仕掛けがないかチェックする。


「ないっ、ないわよ。変なオブジェも、スイッチも宝箱も、おまけに配管もなにもないわ、マギルカッ!」

「そ、そんな涙ぐんで力説するところですか?」

「シンプルな温泉よっ、天然の温泉なのよっ! 私達は今、秘宝を手に入れたのよっ、ばんざぁぁぁいっ!」


 私のテンションに付いて来れずマギルカが苦笑いしているのは置いておいて、私は一人感極まって万歳していた。


「さぁ、入ろう、すぐ入ろうっ!」

「ちょ、ちょっとメアリィ様っ、脱ぐのですか? こんな所で」

「ファルガーさんは崖上の遺跡の方にいるし、見た感じ周辺には誰もいなさそうだよ。それに夜だから遠くからじゃ見えないから大丈夫でしょ?」


 私が着ていた水着に指をかけるとマギルカが慌てて私を止めにきた。なので、私は一旦手を止め、見回しながら自分の考えを伝える。


「心配でしたら、覗き対策に私の眷属を見張りに立てましょうか?」

「「それは遠慮しておきます」」


 心配性のマギルカを安心させようと思ったヴィクトリカの提案に私とマギルカがハモってお断りする。面倒事が起こるか、もしくは最後の希望が破壊されかねないからだった。私達に断られたことはあまり気にしていないのか、ヴィクトリカは聞き流すようにしてそのまま温泉に入る準備をし始める。


「ささ、マギルカも変に気を張らずに、温泉入ろう入ろう」

「……そうですね」


 こうして、私達はついに『普通の』温泉に入ることと相成ったのであった。

(あぁ、普通……なんて良い響きなのだろう)


「私が一番ですわぁっ!」


 私がしみじみしながら水着を脱いでいると、ヴィクトリカが急に競争意識を燃やして温泉に向かって駆け出す。


「あ、ずるい、私が先よっ」


 そして「フッ、お子様が」と思いつつも、ついつい対抗意識を燃やしてしまう私がここにいるのであった。


「お二人とも、もう子供じゃないのですから、走って飛び込むなんてはしたないですわよ」


 マギルカの言葉に走ったポーズで固まる私とヴィクトリカ。そんな私達を通過し、マギルカは掛け湯をしてから、ゆっくりと温泉に入っていく。その優雅さに私はヴィクトリカと顔を見合わせ、自分達の子供っぽさに反省し、咳払いをして仕切り直した。


「あ~~~ぁ、生き返るわぁ~」


 もはや様式美というか、温泉に入ったら誰か一人は言わなければならないと私は思っている台詞を発しながら温泉に浸かっていく。


「メアリィ、あなたアンデッドだったんですの~?」

「ヴィクトリカ、そこは『年寄りくさいわね』って返すところよ。はい、やり直し~」

「知らないですわよ、そんな返しっ」


 肩まで温泉に浸かりつつ、ハフ~と気の抜けた顔で私はヴィクトリカにゆるりと言うと、彼女も似たような状態でゆるりと返してきた。ここまで来るのにいろいろ疲れることが多すぎたので、正直想像した温泉にやっと入れたという嬉しさと心地良さで心身共に蕩けそうだった。

 ふと、マギルカを見てみればまだ周りを気にしているのか、時折辺りを見回している。


「マ~ギルカ、せっかく温泉に来たんだから、リラックスリラックシュ、ブクブクブク……」


 もはやそのままブクブクと頭まで沈めそうなくらいだらけきって私はマギルカに言う。


「……そ、そうですわね。お二人が気を抜くとなにしでかすか分からなくて警戒してましたが、考えすぎでしたわね、すみません」

「そうそう、考えすぎ考えす、ん?」


 マギルカの緊張が解れて良かったかと思いきや、なんだか聞き捨てならない言葉を聞いて、私は微睡んだ思考を叩き起こした。


「マギルカ、それってどういうことかしら?」


 私は肩まで浸かったまままるで獲物を狙った鮫のごとくスィ~と音もなくマギルカに近づいていく。


「へ?」

「そうですわよ、マギルカさん。メアリィだけならいざ知らず、私も含めるなんて」

「え、あ~、その~」


 気が付けば、ヴィクトリカも私と同じように近づいて、二人してマギルカを取り囲んでいた。その迫力にマギルカが引きつった笑顔でジリジリと後ろへ下がっていく。


「ウフフフッ、これはお仕置きですわね~」


 そう言って、ヴィクトリカは立ち上がると両手をあげ、ワキワキと怪しく指を動かしていた。ヴィクトリカの目線を辿れば目標は明らかにマギルカのたわわなアレなのは明白だろう。それを悟ったのかマギルカも手でサッとガードする。


「はぁ、はぁ、マギルカさんは以前から見てて、とても綺麗な肌をしてらして柔らかそうで、温泉に入ったことで瑞々しくなったというか、仄かに赤みかかった肌がこう、美味しそうというか噛みつきたくなるというか、あぁ~、そこに噛みつくのもまた一興ですわね、ウフフフフフフ」


 はぁはぁと呼吸を荒くし早口になるヴィクトリカがマギルカににじり寄っていく。


「やめんか、このド変態吸血鬼っ! そこに触って良いのは私だけよぉっ!」


 変なスイッチが入ったヴィクトリカを後ろからチョークスリーパーして落としにかかる私は、マギルカにとっては理不尽だが、思わず独占欲がポロリと出てしまった。そのせいで興奮が一気に冷めたのか、ヴィクトリカが冷静になってタップしてきたので、私は彼女を解放する。


「はぁ、はぁ、あやうく落ちそうでしたわ。ちょっと、なにしてくれますの、私とマギルカさんのお楽しみタイムを邪魔しないでくれます」

「なにがお楽しみタイムよっ! マギルカには指一本触れさせないんだからね」

「ふっふっふっ、やはりあなたとは相容れない運命なのですわね。マギルカさんのお胸を賭けて勝負ですわっ!」

「望むところよっ!」

「いい加減にしてください、二人共。喧嘩はダメってわ・た・く・し・言いましたよね。後、私の意志を無視して勝手に賭けないでくださいませんか?」


 温泉の中ではしたなく身構える私達の横で、ゴゴゴッと強烈な圧を発しながらマギルカが笑顔で語りかけてきた。

(目が笑ってないのが怖いです、はい)


「「すみません」」


 もはや反射的に謝る私とヴィクトリカ。そんな私達を見て、溜め息を一つつき、マギルカの圧が消える。


「はぁ……まったくお二人ときたら仲が良いというかなんというか……」

「あっ、それでしたら二人仲良くということでっ」


 呆れるマギルカの台詞を聞いてナイスアイデアと言わんがごとく、ヴィクトリカが笑顔で両手をワキワキしながら提案してくる。


「なるほど」

「なるほどじゃありませんわよぉっ!」


 私がポンッと手を打てば、すかさずマギルカが大きな声でツッコミを入れてくるのであった。


「もぉっ、知りませんっ!」


 顔を赤くし、不貞腐れたようにプイッと顔を背けてマギルカはスススッと私達から離れていく。


「ごめんって、マギルカ~。冗談だよ~」

「そ、そんなに触りたいならお二人で触り合っててくださいまし」

「いやいや、マギルカさん。そういうのはね、ある方が良いじゃない。なにが悲しくて、ヴィクトリカのを、ね~」

「うふふふふふふっ、私は小さくても全然OKですわよ。それに温泉のせいかしら、メアリィも瑞々しくて、美味しそう……ジュル」


 恥ずかしさのあまりに発したマギルカの言葉に私は苦笑いでヴィクトリカに同意を求めてみれば、なんと彼女は先のマギルカのように私に向かってワキワキし始めてきたではないか。


「よ、寄るんじゃないわよっ、このド変態吸血鬼ぃっ! 後、小さいとか言うなぁぁぁっ!」


 こうして、しばらくの間私とヴィクトリカは温泉の中でグルグルと追いかけっこする羽目になるのであった。

(あれ~、のんびりと入るはずの温泉が、なんでこうなったの?)




 

「あ~、マギルカのせいでひどい目にあったわ」

「それは、自業自得ではないでしょうか」


 ヴィクトリカとの追いかけっこから解放され、私はマギルカの隣で夜空を見上げると、彼女は溜め息と共に痛いところを突いてくる。なぜヴィクトリカから解放されたかと言えば、答えは簡単、彼女が上せただけだった。

 今は私もマギルカと一緒に温泉の端の岩に座ってクールダウンしている。静寂な空間が辺りを支配すると、私は今までの慌ただしい出来事を思い出して申し訳なくなってきた。


「ごめんね、マギルカ。あなたの療養にって温泉に来たのに。こんなドタバタになって」

「別に気にしてませんわ。メアリィ様とは幼い頃からこんなのばかりでしたので慣れてます」

「……それって喜んで良いのやら、悲しんで良いのやら……」


 お互い夜空を見ながらフフッと笑いあう。


「ところで、私のことよりメアリィ様はこれからどうするのです?」


 話が変わり、マギルカが問いかけてきた疑問に私はなんのことか理解できなくて首を傾げてしまう。


「へ、どうするって? いやまぁ、もうちょっと温泉を堪能してから着替えに戻って、もう一日ヴィクトリカのお城に泊めてもらって今度はテュッテも連れてこようかなと」

「それもそうですが、レポートですよ、レポート」

「レポート?」


 苦笑するマギルカの言葉に私は今一ピンと来なくてオウム返しする。


「そもそもここに至るきっかけはメアリィ様のレポート提出のテーマ探しだったんですよ、忘れたのですか?」

「…………」


 静かな温泉の中で私は目を閉じ頭の中を整理してみた。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ、そうだったぁぁぁぁぁぁっ!」


 全て解決し、終わった気で温泉にのんびりと浸かっていた私は、根本的になにも解決していないことに気が付き絶叫するのであった。


「あの~、マギルカ。レポートのテーマ探し……また、手伝ってくれる?」

「もちろんですわ。見つかるまでお付き合いしますわよ」


 ツンツンと両指をつつきながら、恐縮そうに私はマギルカを見ると、彼女は優しい笑顔で頼もしくそう答えてくれた。


これにて温泉編は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 四年目魔鏡編、温泉編(魔境編?)の完了、おつかれさまでした。 外野の暴走度?が増加して、メアリィ様の影が薄くなった感が…(汗) マギルカとテュッテに安息の日が来る事を祈りつつ、次回も楽しみに…
[一言] 温泉回といえば最後はサービスサービス
[一言] そういやレポートでしたね。
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