遺跡探検モノのラストと言えば……
「と、とにかく、こんなこともあろうかと習得なさったメアリィ様の魔法に期待しましょうっ」
私が心の中で悶絶していると、マギルカがフォローしてくれ、話を強引に進めてくれた。
「な、なんと……こうなることを予測していたというのですか……さすがは私の好敵手」
「ふっふっふっ、こんなこともあろうかと思ってね」
ヴィクトリカが良い反応を返してくれたので、私はちょっぴり調子に乗り、悶絶を止めてドヤる。
(うんまぁ、偶然の産物なんだけどね。でも、一度は言ってみたいじゃないですか、うんっうんっ)
「その先見の明、やはりエリザベス様が興味を持つだけのことはありますわね。ハッ、まさかこの件も白銀の聖女として神の啓示を……」
「受けてない、受けてない。後、白銀の聖女言うなっ」
自分の努力が評価されるのは嬉しいことなはずなのに、なぜかその評価が素直に喜べなくなる私であった。
「まぁ、そういうことにしておいて差し上げますわ。とにかく今はあの暴走を食い止めませんと」
多少含みのある言葉に納得できない私ではあるが、それよりも今はすべきことが目の前にあるので流すことにする。
「戻りなさいっ、ボーン・ドラゴン」
ヴィクトリカの言葉と共に骨竜の足下に魔法陣が広がり、沼に落ちるようにズブズブと沈んでいった。
「あれ? なんで仕舞っちゃうの」
「あなたがこれから放つ魔法に巻き込まれないためですわよ。あれだけ図体が大きいと相手との距離を空け辛いですから、うっかり……なんてごめんですわ」
「なるほど」
ヴィクトリカの意見に私は納得し手を打つが、なんだかさりげなく私をポンコツ呼ばわりしているような気がするのは考えすぎだろうか。まぁ、とにかくそのせいで目標を失った鎧達がこちらをターゲットしてきたので、深く考えるのを止めた。
「スノー、マギルカを背中に乗せて守ってあげてっ」
『はいは~いっ』
私は後ろで事の成り行きを見守っていたスノーに頼み、彼女はマギルカに近づいて背中に乗るように促す。浮いてるスノーにおっかなびっくり乗ったマギルカと目を合わせ、そしてスノーを見、最後に鎧達の方を見て身構えるヴィクトリカを見ると、私は笑顔で告げた。
「皆、鎧達のことは任せるわね。あの球体は私がなんとかするわっ!」
威勢よく立ってみるものの、膝辺りまでお湯が押し寄せていて、ついでに水着姿というのが今一締まらないと思うのは私だけだろうか。
「任されましたわっ! ダイヤモンド・ダストォッ!」
俄然やる気を出したヴィクトリカが前に出てまさかの氷魔法を放つ。が、予想通りそれは熱で瞬時に溶かされブワァッと煙を上げると、一帯を見辛くしてしまった。
「ちょっ、ヴィクトリカ様。なにをやってますの、煙で前が見えませんわっ。ウィンドッ!」
「いやぁ~、もしかしたらこの魔法でもワンチャンいけるかしらと思いまして。やはり、ダメでしたわね」
ヴィクトリカがやらかした煙幕をマギルカが風魔法で払いのける。そんなやりとりを見ながら、私はツッコミたい気持ちを抑えて自分のやるべきことに集中した。できることなら、鎧達も含めて魔法を放ちたい。皆ならそんな欲張りな私の考えを分かってくれると信じている。
鎧達もまた、私が危険だと察知したのか、あるいは単純に動かないモノから排除していこうという判断なのかは分からないが、一斉に私へと群がってきた。数は全部で四体だ。
『はい、一体お帰り願いまぁ~すっ!』
スノーがマギルカを乗せたまま接近してきた鎧の一体を横から割り込み、前足で薙ぎ飛ばす。
「エアー・ブレットッ!」
続いて、背中の上にいたマギルカが別の鎧に向かって空気弾を飛ばした。反射的に鎧は盾を出して弾を受け止めると、足を止めてしまう。
『はい、二体目お帰り願いまぁ~すっ!』
打ち合わせをしたわけでもないのにスノーが止まった鎧を振り向きざまに猫パンチで薙ぎ飛ばした。なかなかの連携プレイである。ちょっぴりジェラシってしまう私は「いけない、いけない」と首を振り、マギルカ達から視線を外すと、ヴィクトリカを見てしまった。
「ぐぎぎぎぎぎっ、なんでこの私が肉体労働うぉ~……」
残り二体の大剣を片手ずつで受け止め、押し潰されそうになっているヴィクトリカ。いくら身体能力が人より高いと言えど、限度というものがあるというものだ。加えて、彼女は戦士タイプというよりどちらかというと魔術師タイプで、おまけに城で引きこもってよく寝る子だ。
「運動不足なんじゃないの?」
「だぁぁぁれのことを言っておりますのっ、失礼ですわねぇぇぇっ!」
思わずポロッと零してしまった私の言葉を目敏く聞いていたヴィクトリカが激昂しながら、大剣を押し上げていき、そのまま振り解いた。まさか自分達より小さな体の相手に押し戻されるとは予想外だったのか、体勢を崩す鎧達。
「エアー・ブレット」
「ソニックブレード」
無防備な一体をマギルカが空気弾で弾き飛ばし、残った一体をヴィクトリカが斬撃魔法で薙ぎ飛ばす。
鎧達が全て押し退けられて一カ所に固まると、その後ろには熱量を増した球体が一つ。
「今ですわっ」
「メアリィ様っ!」
二人が私に声を掛け、私の後ろへ駆け抜けていく。私はバッと右手を鎧達と球体に向かって伸ばした後、スッと目を閉じた。
「今ここに静寂を与えようっ」
私の叫びに呼応して、私を中心に魔法陣が展開する。そして、球体を中心に氷風が吹き広がっていった。
「この目を見よ、魅して尚震え凍えっ」
ゆっくりと閉じた目を開いていくと、相手の頭上に氷風が舞い上がり氷で作られた巨大な目が私に合わせて開いていく。
「我は汝の始まりに祝福の涙を、汝の終わりに哀悼の涙を」
現れた氷目から氷の粒がまるで涙のように落ちていき、地面に落ちると砕け散り、波紋のように氷が広がっていく。続いてもう片方の瞳からも同様に氷の涙が落ちると、氷の厚みが増していった。
熱を帯びた球体からはブシューッと煙が立ちこめ、鎧達には霜が降りて動きが鈍くなる。続いて、私は片手で自分の目を隠す。
「汝の善に賛美の涙を、汝の悪に怨嗟の涙を零さんっ」
氷の目の裏側に新たに現れた氷の目がさらに氷涙を零していく。その一粒が落ちる度に下に広がる氷の波紋の高さと広さが増していった。鎧達は軋むような音を立て身動き一つ取れなくなり、球体にも霜が降り始める。
「さぁ、汝は清められた。躯も魂もそのことごとくを委ね、永遠に眠れっ」
そして、私は目を隠していた手をゆっくりと相手側へと向けて彼らを凝視する。
「ティアーズ・オブ・アイス・フロム・エターナル・フォーアイズ」
差し出した右手をグッと握りしめ、私が力ある言葉を発すると、4つの氷の瞳がゆっくりと閉じながら降下した。球体と鎧達を包み込んで大きな氷の円柱となった場所に接触した瞬間パキィンッと音が鳴り響き、そこにあった全ての音がまるで奪われたように静寂が支配する。
「終わりよ……」
握りしめた手をゆっくり下ろして私は踵を返すと、マギルカ達の方を見た。
「さ、さすがメアリィ様……と、言いたいところなのですがぁ……」
私の後ろを見ながら恐縮そうにマギルカがなにやら言ってくる。
「……ちょっとやりすぎではないかしら?」
続いてヴィクトリカの言葉に私は「はて?」と思いながら後ろを見た。
すると、そこは氷の世界だった。
しかも、現在進行形でそれは進んでおり、流れるお湯が水になると、それが氷となって広がっていく。
つまりどういうことかというと、水浸しになった部屋がどんどん凍り付き、配管などを通って遺跡に広がり始めていたのだ。
「あ、あらぁ~?」
氷結晶の固まりがボコボコと壁から突き出て、私の足下も凍っていくので慌てて飛び退る。部屋中がゴゴゴッと音を立てて軋みひび割れ、崩れ始めた。どうやら、今までの暴走によるダメージが私の魔法で一気に崩壊へと導いたらしい。
『逃げるんだよぉ~!』
そして、どっかで聞いた台詞を放ち、スノーがマギルカを乗せたまま慌てて部屋の出入り口に向かって走り出したので、私も釣られて走り出す。
「ちょっとあなたぁっ、加減というものを知らないのですのっ! これだから火力バカどもはっ!」
「あ~、ごめんねっ! でも、魔法に加減が効くなら、階級なんていらないのよっ! 文句があるなら魔法に言ってっ」
走る私に飛んで併走するヴィクトリカが抗議してきたので、私も理不尽な言い回しで責任転嫁など試みてみる。
間一髪扉付近が崩れる前にそこを通過すると、ホッとして立ち止まるのは後回しにしてそのまま離れていった。最後に見た感じ、部屋の崩壊具合はあの氷世界を破壊してアイテムを破壊できるようには見えなかった。なのでそのまま生き埋め確定だろう。水の方も大本が凍り付いてしまって勢いを失い、水没は避けられたみたいだ。
(と、とりあえずなんとかなったことにしておこうかしら。後はここから脱出あるのみね)
全て解決したというのなら、なにも慌てる必要がないはずなのに、心の中は焦りと心配でいっぱいだった。それはスノーも同じなのだろうか、足を止めることなく未だに先頭をトコトコと歩いているので私も後ろを付いていく。
「スノー、あなた先頭を歩いてるけどどこへ向かってるのか分かってるの?」
『ふっふっふっ、私を誰だと思っているの? 神獣である私にかかればこの程度の導き、造作もないことよ~。なんてったって、神獣ですからぁ~、メアリィは私をもっと崇め敬いなさいっ』
ふふんっと得意げに頭を上げて優雅に歩くスノーに私は素直に「さすが神獣」と感心する。
「メアリィ様、逃げた管理人さんが慌てて荷物を持ち出したのでしょう。落としてしまった物が転々と転がっておりますからそれを辿っているのですわ」
「へ~、そうなんだ~」
『…………』
スノーとの会話で私しか聞こえなかったマギルカがなにも知らずに私の疑問に答えてくれる。その返答に私はスノーの隣に来てジト~と見つめてやると、彼女はそっぽ向くのであった。
「管理人ですか。あの男、不正を働いたこととこの私を愚弄した罪は重いですわ。必ず見つけだして――」
ギリギリと親指の爪を噛みながら口惜しそうに語るヴィクトリカが、ふと開いていた部屋の中を見て立ち止まった。
「「あっ」」
ヴィクトリカとどこかで聞いたような男の声がハモって聞こえてきたので、私も立ち止まって彼女の後ろから中を覗く。すると、部屋の中には噂の管理人さんがいて、大きなリュックサックを地面の氷から引き離そうとしていた。おそらく、ここで休んでいたか、なにかを探すために一旦降ろしていた荷物が私の魔法で地面に凍り付いてしまったのだろう。
「こ、これは当主様、ご機嫌麗しゅうございまっ」
「天誅ぅぅぅぅぅぅっ!」
「おぶぅぅぅぅぅぅっ!」
愛想笑いで取り繕おうとする管理人さんにヴィクトリカの容赦ない飛び膝蹴りが炸裂し、彼は荷物を残して壁に吹っ飛んでいく。
「……ちょっと待ってください。ここにも氷が浸食しているということは……」
ヴィクトリカと管理人さんの一部始終を後ろでスノーの背中から眺めていたマギルカがハッと気が付き不穏なことを言ってきた。と同時に、管理人さんがフラフラと立ち上がるとその背後にあった壁の亀裂が広がっていき、ピシッと氷が見え隠れし始める。
『逃げるんだよぉ~!』
スノーの掛け声と共に、再び私達の全力ダッシュが開催されるのであった。ついでに私とヴィクトリカの詰り合いが行われていたことは伝えるまでもないだろう。
「あぁ~、疲れた……結局私達、なにしにここへ来たのかしら」
重い足取りで私は古代遺跡の最初の扉を潜る。ここは水の被害も氷の被害も受けておらず安全地帯のようだった。久しぶりに見る外の風景はすっかり日が沈んで夜になっており、私は感慨深げに眺めてしまう。
「汗でベタベタですわ、お風呂に入りたいですわよ」
「あ~、それ言っちゃいますかキミ」
もう疲れたので、ヴィクトリカには覇気のないツッコミをする私。ちなみにここまで案内させた管理人さんは、ヴィクトリカに往復ビンタ十回の刑に処され、頬を腫らして伸びている。その程度で許されるのなら随分と魔族社会は温いのかなと思いきや、これは単にヴィクトリカの気が収まるための行為であって、ちゃんとした処罰はオルバスに一任するのだそうだ。
「皆さん、そんな格好でお城に帰るのですか? 着替えに戻りましょう」
よいしょとスノーから降りるマギルカの言葉に私とヴィクトリカがお互いの姿を見合って「それはそう」と頷きあう。とはいえ、ベタベタで汚れたままの状態で服に着替えるのはなんかイヤだった。
「でもさぁ、こんな状態で着替えられないよぉ~、マギルカ~。お風呂入りたいぃ~、シャワー浴びたいぃ~」
「そう言われましても、温泉部分はほとんど崩れて危険ですし、仮に入れる所があったとしてもお湯は水に変わっておりますわよ、我慢してくださいまし」
私がへたり込んでぶつくさ言ってるとマギルカがやれやれといった顔で窘め、そのまま私達が着替えた場所へと戻っていく。
いっそプールとして入るのも手なのだが、疲れた体にはやはりプールではなく温泉が一番である。そう思うと、温泉欲が沸々と沸き上がって、もう駄々っ子になりそうだった。
「温泉ね……こんな綺麗な月夜を眺めながらのお風呂も良いですわね~」
私の隣でへたれ込むヴィクトリカが感慨深げに夜空を見上げて言うものだから、私も釣られて夜空を見上げてしまう。
とそのとき、月を背になにかが崖の下からジャンプしてきた。
「えっ、なに?」
私は慌てて立ち上がると、それを凝視する。
「やっと戻れた。んっ、そこにいるのはメアリィ君達かいっ。キミ達も無事だったんだね」
そこに立っていたのは筋骨隆々の男、自称考古学者のファルガーだった。やはりあの程度の逆境はものともしなかったみたいだ。というか、今し方すごい崖から素手で登場してこなかったか。
「あっ、ファルガーさんも無事でしたぁ~、か?」
月明かりで逆光だったファルガーが、月が隠れて見えるようになりしっかり彼だと確認しようとして私は固まる。
ファルガーの最終防衛ラインが失われているのに気が付いた瞬間、私の悲鳴が夜空に木霊するのであった。
「うぅぅ、マギルカ~、変態が、露出狂の変態がいたのよ~」
半泣き状態の私はマギルカをギュッとして、彼女に頭を撫で撫でして慰めてもらっている。ヴィクトリカはといえば、さっきから牙を剥き出しにしてファルガーが近づくものならフシャーと威嚇していた。ちなみに今のファルガーは着替えた場所に戻って軽く身なりを整えている。私達は未だに水着のままだ。というか、現在意気消沈中の私にそんな気力はなかった。
「はははっ、失敬失敬。床から落とされて、そのまま外の谷底まで流され落とされてね。やっと這い上がって来たところでキミ達に会ったんだよ。自分の格好なんて気にしている暇は無くてね」
「……そこは気にしてくださいませ」
唯一被害を受けなかったマギルカが溜め息混じりにファルガーを注意すると、再び私を撫で撫でしてくれる。
「ところで、あの祭壇の間での一件はどうなったんだい?」
「祭壇? ああ、あそこのことですか。あれなら崩壊しましたわ。危険ですので近づかない方が良いですよ」
話題を変えてきたファルガーにマギルカは詳細を省いて答える。
「ほ、崩壊? 一体なにがあったんだい」
「そこのメアリィが魔法でなにもかも氷漬けにしましたのよ。こんなこともあろうかと用意しておられたんですってね~」
「あ、あれは仕方なかったじゃないのよっ。でないと、大変なことになってたじゃないっ」
ファルガーが驚き質問すると、ヴィクトリカが皮肉たっぷりに余計なことを言ってきたので、私はすかさず弁明した。
「なるほど、メアリィ君が魔法で……つまり、あそこにいた吸血鬼の野望は阻止されたということか。あの遺跡になにが隠されていたのか、いや、封印されていたのかな……それをこんなこともあろうかと前もって知っていた……」
私達の会話から一人、ぶつぶつと呟き思考するファルガー。吸血鬼の野望とは、もしかして今現在別の所で頬を腫らしピクピクと痙攣しながら気絶している管理人さんのことだろうか。なんだか彼の中ではあの湯沸かし器事件がこう謎と陰謀に包まれたスペクタクルな事件となって繰り広げられているみたいで心配になってくる。
「あ、あのですね、ファルガーさん。あそこで起こったことは」
「あ、大丈夫だよ。分かってる、分かってるからみなまで言わなくても大丈夫さ。あ~、最初に気づくべきだったよ、ヴィクトリカ君が吸血鬼と名乗ったところでね。いや~、失敗失敗」
私が事実を告げようとしたらファルガーに止められて、彼はなにやら一人で納得し、やはりあさっての方へと話を突き進め始めた。
「いや、あの、ですから……」
「まぁ、ヴィクトリカ君もそうだけど……そういえば、メアリィ君。キミに一つ聞きたかったことがあったんだ」
「ふぇ? な、なんでしょう」
ファルガーの妄想を軌道修正しようと試みたら、まさかの私に質問が飛んできて思わず身構えてしまう。
「キミ、たま~に誰もいないところで一人会話していたよね。あれはもしかしてこの遺跡となにか関係が……それとも単に疲れて……」
「関係ありませんし、私はノイローゼでもないですよっ! あれはスノーとしゃべっていただけですっ!」
すごい今更感のある指摘を受けて、私は慌てて否定した。最近皆が指摘してこなかったのですっかり忘れていたが、初見さんが見たら私は頭のおかしい娘だと誤解されても仕方のないことをしているのだと再認識させられる。
「スノー?」
「そこにいる神獣です」
私はキョトンと首を傾げるスノーを指差しファルガーに教えてあげた。そういえば、ヴィクトリカのせいでスノーの紹介をし忘れていたことを今更ながらに思い出す薄情な私。
「し、神獣だって……てっきり誰かのペットか使い魔かと……そういえば、最近風の噂で神獣を従える白銀の髪の少女の物語が……」
なぜそうなってしまうのかというくらい、私にとって最悪な事態が巻き起ころうとしていた。私がスノーの紹介を無意識に避けるのはその人がこの後にある結論に至るのがイヤだからなのかもしれない。
「は、白銀の聖女とか、そういうのじゃありませんからっ!」
そして、慌てるあまり私は自ら地雷を踏み抜くのであった。
「……ヴァンパイアの遺跡、神獣、聖女……あ~、はいはい、うん、そうね、そういうことか。なるほどなるほど……」
私の話を聞いてファルガーは全てのピースが嵌まったかのようにスッキリした顔をしてきた。その表情を見ると私の焦りはさらに増大していき、頭真っ白になってなんと言って良いのか分からなくなる。
「いえ、あの、だからっ」
「大丈夫です、分かっておりますから。なにもおっしゃらなくても貴方様の邪魔や詮索はしませんよ。名声を望まず、人知れず危機を救う。それが聖女さっ……おっと、いけないいけない」
(全然大丈夫じゃない、大丈夫じゃないわよ。なんで急に敬語になってるの、おかしいでしょっ!)
私がアワアワしていると、もうこの話はなしだと言わんがごとく、優しい笑顔でファルガーはお辞儀をし、そのまま外へと向かって歩き出す。残念なことに私はそれをアワアワしながら見送ることしかできなかった。だって、今までの彼の言動を省みたら、彼の思い込みを変えるのがどれほど困難なことか……。願わくば、この件を一生黙っててもらえると助かります。
「……メアリィ様、着替えますか?」
「……うぅぅ、せめて温泉に入れたら今回の件、ちょっとは報われそうな気がするのにぃ~」
マギルカがポンッと私の肩に手を添えて優しく声を掛けてくると、私は拳を握りしめ、無念の言葉を絞り出す。
「ん? 温泉ですか。それなら、僕が落ちた先に温泉が一つありましたよ」
私の声が聞こえたのかファルガーは足を止め、とても素敵なことを教えてくれた。
「そ、それは天然ですかっ、変なトラップとかありませんよねっ、広さはどれくらいですっ、人は入れますよねっ! 後、敬語はやめてくださいっ」
「え、えっとぉ~、そこそこ広かったし、人が浸かれる感じはあったかな。周辺を岩で補強はされてたけどそれ以外で人の手が加わってる感じはなかったね。シンプルな感じだったよ」
私の勢いに気圧されてファルガーは敬語を止めると引き気味に答えてくる。
「よし行こう、すぐ行こう。崖からダイブしてでも私は行くわよぉっ!」
私は最後の希望へと縋るように遺跡から駆け出すのであった。




